表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
193/201

―黒炎が啜る絶望の饗宴―

静寂を切り裂き、ロスコフ一行はついに陥落した国境砦へと踏み込む。

だが、そこに待ち受けていたのは、敵の軍勢ではなく――人間を「魔力資源」へと変貌させる、あまりにも冒涜的な**【感情醸造場】**であった。


煮え滾る釜に投げ込まれる肉片、砕かれる骨、そして奪い去られる生前の記憶。

精神を蝕む【記憶摘出官】と、圧倒的な絶望を纏う【咎将】の前に、一行は未曾有の窮地に追い詰められる。


戦場を「極上の食事」と称して愉悦と共に眺める宿敵カリスト・エルグレイン。

剣に滴る黒き炎が、英雄たちの誇りと怒りを喰らい尽くそうとする時――絶望の淵で、ロスコフは新たなる一手――個を超えた**“共鳴”**を導き出す。


地獄の幕開けは、まだ始まったばかりだ。

                    その193




平原の静寂が戻った時、そこに立っているのはロスコフの陣営だけだった。だが勝利の余韻に浸る者は誰もいない。全員の視線は目の前に聳え立つ陥落させられた国境砦へと注がれていた。あの忌まわしい“源泉”へと。


「……行くぞ」

ゲーリックの低い声が響く。三体の魔導アーマーが大地を踏みしめ砦へと歩を進めたその時だった。


ヒュンッ! ヒュンッ!

砦の城壁の上、“狭間”と呼ばれる無数の窓から一斉に矢とボウガンの鏃が驟雨のように降り注ぐ。そのほとんどは魔導アーマーの分厚い装甲に弾かれるが、生身の仲間たちにとっては致命的な脅威だ。


「……鬱陶しい!」

次の瞬間、シャナの背中から焦げ茶色の翼が広がり、彼女の身体がふわりと宙に舞い上がった。彼女は矢の雨を戯れるように躱しながら一直線に城壁の上へと飛翔していく。

数秒後、城壁の上から数人の兵士の短い悲鳴が響き渡り、射撃が止んだ。防御ラインの一角が崩れたのだ。


「……俺も続く!」

ゲーリックはそう呟くと、魔導アーマーの脚部に全出力を集中させ、凄まじい推進力で跳躍した。鋼鉄の巨人は城壁の僅かな突起を足場に、信じられないほどの身軽さで垂直に駆け上がっていく。それはもはや機械ではなく、獲物に襲いかかる巨大な**“鋼鉄の獣”**だった。


その光景に目を輝かせたクーガーが同じように跳躍を試みたが、彼の魂力はまだゲーリックの域には達していない。

ガシャァァァンッ!

三度目の跳躍で彼が足をかけた城壁の一部が、制御しきれない重量に耐えきれず轟音と共に崩落してしまった。


(ずっど~~~ん) 

バランスを崩し、クーガーは崩れた石垣と共に地面へと落っこちてしまった。


「うおっ!? ……いててて……。まずったなこりゃ……」

土煙の中から聞こえてくるクーガーの照れくさそうな声に構っている者は誰もいなかった。


シャナとゲーリックが城壁の上を完全に沈黙させたその隙を突き、リバックが巨大なスパイクシールドを構え砦の大門へと突進した。

「――ウォォォォォッ!」


ドッゴォォォォォンッ!!

《城壁のグラディウス》の渾身の一撃は、鉄で補強された分厚い木製の扉を蝶番ごと吹き飛ばし、砦の内部への突入口をこじ開ける。


だがその内部に広がっていたのは戦場ではなかった。**“屠殺場”でありグロテスクな“工場”**となっていた。


鼻を突くのは血の匂いではない。魂が腐り落ち液状化したかのような、むせ返るほどの甘い腐臭。

中庭の至る所に巨大な釜が設置され、その中では病的な紫色の液体がグツグツと煮詰まっている。そして釜の周囲には、燃料として放り込まれた無数の人間の**“骨”が薪のように無造作に積み上げられていた。**


「……助け……て……」

「……熱い……痛い……」

釜の中から聞こえてくる無数の魂の悲鳴。それは幻聴ではない。煮詰められている液体そのものが上げている声だ。


そしてその釜に“材料”を投じている者たちがいた。

感情醸造師エモーション・ブリューワー】だ。

彼らは捕らえたリバンティンの兵士たちを、巨大な**“歯車仕掛けの圧搾機”**のような機械に次々と放り込んでいく。

**ゴリゴリゴリ……と骨が砕ける鈍い音。機械の下からは人間の尊厳だったものがどろりとした“赤い液体”となって絞り出され、釜へと注がれていく。これが彼らにとっての「魔力生成プロセス」であり、人間はただの「資源」**として生成されていた。


そのあまりにも冒涜的な光景に、クーガーは思わず「うっ……!」と呻き、胃液がせり上がってくるのを必死に堪えた。幌馬車からこの惨状を見ていたアンナは声もなく唇を戦慄かせ、ロスコフは設計者としての冷静さを保とうと奥歯を強く噛み締めていた。


「――貴様らあああああっ!!」

ゲーリックの怒りが爆発した。彼のセントリスが雄叫びと共に一体の醸造師へと襲いかかる。


だがその前に音もなく数体の黒い騎士が立ちはだかった。

【E級成り果て:堕騎】。

そしてその堕騎を操るように**【記憶摘出官(メモリア・ハーベスター)】**たちが、醸造師たちの背後から不気味な笑みを浮かべていた。


「……来たか、新たな素材たちよ」

摘出官の一人が指を鳴らす。

再びゲーリックたちの脳内に“雑音”が響き渡り、今殺そうとしている堕騎たちの**“生前の記憶”**が断片的に流れ込んできた。

――家族の顔。主君への誓い。仲間と笑い合った酒場の風景。


「ぐっ……! こいつら……!」

クーガーの動きが鈍る。**先ほどの吐き気を催すような光景と、今流れ込んでくる温かい記憶の断片。そのあまりの乖離が、彼の精神をさらに混乱させた。相手がかつては“誇り高き騎士”であったことを知覚させ、その一瞬の“躊躇”**を誘う。それこそが奴らの戦術だった。


だがその精神攻撃が全く通用しない者たちがいた。

「――下衆が」

ゲオリクの冷たい声。

「――無駄だ」

ジルの低い声。

「――……くだらん」

リバックの静かな声。


彼ら百戦錬磨のプロにとって敵の過去なぞどうでもいい。目の前にいるのが**“殺すべき敵である”という事実が全てだった。**


タンガが堕騎の一体を指差すと、その体表に黒紫色の歪んだ魔力の循環路が幾筋も浮かび上がり、その中心で一つの“核”が禍々しく脈打つのが見えた。

「ジルさん、そこだ!」

その指示に合わせ、ジルが隆起させた大地の槍が、タンガが示した“核”を寸分の狂いなく貫く。

リバックが壁となり、そしてゲオリク、ロゼッタ、シャナ、ゲーリックたちがその隙を突き、一体また一体と確実に堕騎を**“解放”**していく。


やがて中庭の全ての敵が沈黙した時、砦の奥に聳える主要な建物の重い両扉が、内側からゆっくりと開け放たれた。


その先に広がる薄暗い大ホール。その中央に、純白の鎧に身を包んだカリスト・エルグレインが静かに立っていた。

そして彼の背後には、さらにおぞましい光景が広がっていた。数十人もの、かつてこの砦を守っていたであろうリバンティンの兵士たちが、鎖で磔にされ、生かされたまま虚空を見つめている。彼らの体には無数の黒い管が突き立てられ、その瞳から光が失われるのと反比例するように、管の中をどす黒い液体が脈動しながら流れていく。彼らの絶望と怨念が、今この瞬間も《黒き血》として**“収穫”**されているのだ。


「……てめえら……!!」

その光景が目に入ると、タンガの全身から怒りのオーラが立ち上った。

「ジルさん、そこをどいてくれ! 俺が奴らを蹴散らしてやっから!」

彼が我を忘れて突撃しようとしたその両肩を、ジルの太い両の腕がガシリと掴んで制した。

「待て、タンガ。……落ち着け」


開け放たれた扉は、まるで**「地獄の舞台へようこそ」**と言いたげに見えた。


「――見事だ」

カリストは背後の地獄のような光景を前に、ただ静かに拍手をしていた。

「前菜は楽しめたかな? ……さあ、いよいよメインディッシュの時間にしよう」


カリストのその言葉が引き金だった。

ジルが掴んでいた腕を振り払い、ジルの横を駆け抜けたタンガが、野獣のような咆哮と共に大ホールへと突進した。

「てめえらだけは……絶対に、許さねえ!」

彼の全身から地脈と共鳴した激しい怒りのオーラが立ち上る。


「……ほんに、。血の気の多い奴じゃのう」

ジルはそう呟くとその巨大な《記憶の柱杖》を握り直し、弟分の様に思い始めている者の背中を追うようにその巨体を躍らせた。


「ゲーリック殿! クーガー殿! 援護を!」

ノベルの鋭い声が飛ぶ。


「言われるまでもありません!」

「おうさ!」

二機の魔導アーマーもまた大地を揺るがす重い足音を響かせながら、その地獄の入り口へと突入していく。


残されたルーカスは悔しげに唇を噛み締めながら、動かぬ自機と共に幌馬車へと後退していった。前回の戦闘での魔力枯渇と脚部の損傷により、彼の機体は限界を迎えていたのだ。彼の戦いはまだ終わっていない。だが今はただ仲間たちの背中を見送ることしかできなかった。


大ホールの内部はさらに悪夢の光景が広がっていた。

壁一面に磔にされた兵士たちの呻き声と黒い管を脈動する不気味な音が反響し、中央では三人の黒い祭服を着た男たちが静かに一行を待ち構えている。


彼らこそメル=ザヴァを信仰する部隊の中でも高位に位置する**【祝福偽装官】**だ。その佇まいはこれまでの下級兵とは比較にならないほどの威圧感と、黒き祝福のような異質な聖性を纏っていた。


「一番乗りだ!」

タンガが叫び大地を滑るようにして一体の偽装官へと肉薄する。

だが偽装官は動じない。ただその前に控えていた一体の巨大な黒騎士が巨大な戦斧を振りかざした。


ガァァァァァンッ!!

凄まじい衝撃音と共にタンガの突進が真正面から止められた。

その黒騎士はこれまでの堕騎とは明らかに格が違っていた。その巨躯、その威圧感、そして何よりもその瞳に宿る濁った**“意志”**の光。

【D級成り果て:咎将】。かつては誇り高き将軍だった男の成れの果て。


「……こいつ、硬え……!」

タンガが歯噛みする。


その咎将を援護するように祝福偽装官が静かに手をかざした。

「――忘れなさい。その怒りも、その誇りも」

その囁きはタンガの脳に直接響き、かつてオクターブを蝕んだのと同質の呪いが、彼の魂に深く根差そうとする**“ロスコフ様を守る”という幼き日の誓い**そのものを内側から溶かそうとしてきたのだ。


「させるか!」

その精神攻撃を叩き割ったのはジルの《記憶の柱杖》から放たれた大地の衝撃波だった。

ジルが一体の咎将を、ゲーリックとクーガーの魔導アーマーが残りの咎将と磔にされた兵士たちを解放すべく突進する。

大ホールは瞬く間に鋼鉄と呪詛がぶつかり合う混沌の戦場と化した。


だがその戦況をまるでチェスの盤面でも眺めるかのように静かに見下ろしている男がいた。

カリスト・エルグレイン。


彼は戦いには加わらずただその黒炎剣の切っ先を大ホールの床石に深く突き立て、戦場で砕け散る成り果てたちや傷つくロスコフの仲間たちから立ち上る**“負の感情のオーラ”**をまるで根のように刀身へと吸い上げていた。


ゴオオオオオオ……。

それは音のない音。魂の悲鳴が凝縮された瘴気が剣の刀身へと渦を巻きながら流れ込んでいく。

そしてその絶望を吸い上げる度に刀身を纏っていた**“黒い炎”**がその様相を変えていく。


最初は陽炎のように静かに揺らめいていただけの炎がゲーリックの焦りを吸い、クーガーの屈辱を喰らい、タンガの怒りを啜る度に次第にその勢いを増していく。

やがてその炎はまるで**“液体の闇”のように刀身にまとわりつき、そして切っ先から“血のように滴り落ち始めた”。**

滴り落ちた黒い炎は床石をジュッと音を立てて溶かしていく。


「……良い。もっとだ。もっと叫べ。もっと苦しめ」


彼の力が、そして彼の剣の**“殺意の純度”がリアルタイムで研ぎ澄まされていくのが分かるようだった。

まだ第一段階。

この戦場は彼の愛剣に“極上の食事”を与えるための、“饗宴”**の場に過ぎなかった。


そして彼は一体の咎将に苦戦するゲーリックの魔導アーマーの僅かな隙を見つけた。

「――そこだ」

カリストの姿が陽炎のように揺らめき、次の瞬間にはゲーリックの背後に回り込んでいた。

その黒炎剣がセントリスの背部装甲を切り裂く。


キィィィィン!


黒い炎がその光の障壁に触れた瞬間ジュッと音を立てて霧散し、純粋な物理的斬撃だけが甲高い金属音を響かせ背部装甲に浅い一筋の傷を刻みつけた。

物理的なダメージは浅かった。だが剣が触れた瞬間、ゲーリックの脳裏に焼き付いているはずの**“魔導アーマーを動かす感覚”**が僅かに薄れた。


「なっ……!?」

物理的な衝撃とは違う。魂の芯を直接撫でられたかのような不快な冷気。一瞬だけ脳裏を過ぎった**“死の記憶”**の断片。


だがそれは深くは届かない。術環光の障壁が彼の魂を汚染から守りきったのだ。


カリストはそれ以上の追撃はせず舌打ちを一つして再び元の場所へと戻っていく。

彼の目的はゲーリックを倒すことではない。

彼らを嬲り弄びその心に**“混乱”と“焦り”**という種を植え付けること。


「くそっ……! なんだ今の……!」

初めて体験する未知の攻撃にゲーリックが動揺する。

だがその魂が完全に汚染されなかったという事実こそ、以前ロスコフとレザリアが施した**“改良の成果”**――【レプルシオ・マジカ】の実装による防御効果だった。


しかしその一瞬の隙を咎将が見逃すはずもなかった。

巨大な戦斧が今度こそセントリスの頭部を叩き割ろうと振り下ろされる。

地獄の饗宴はまだ始まったばかりだった。


「――させん!」


ゲーリックは咄嗟に左腕の巨大な円盾を頭上に掲げた。

グォォォォンッ!

地響きと共鳴するような凄まじい衝撃音。


大戦斧と、魔導アーマー用巨大円盾がぶつかり大きな音をたてた。


ガシッーーン


その瞬間、斧の隙間から陽炎にも似た「黒い戦斧」が音もなく飛び出した。

それは物理的な刃ではなく、影の斧と化していた。影戦斧は盾という障壁を嘲笑うかのように、円盾を素通りし、そのまま左腕の装甲へと叩き込まれたのだ。


バヂィッ、バチバチッ!!


激しい放電と共に、最新の術環光じゅつかんこう――【レプリシオ・マジカ】が、衝突した影を拒絶するように明滅する。光と闇が衝突し、凄まじい爆発が戦場を白く染め、ゲーリックを後なる方へと吹き飛ばした。


衝撃の余韻が収まる中、ゲーリックは砂塵の中から機敏に態勢を立て直す。

セントリスの外殻には、目視できる損傷も、傷一つ存在しない。盾も、装甲も、物理的な破壊は免れたのだ。


だが……。


ゲーリックの脳裏に、奇妙な違和感が走る。

激しい衝撃を受けたはずなのに、痛みすら感じない。ただ、重い鉛でも詰め込まれたかのように、左腕の感覚が遠のき、ぼんやりとした麻痺だけが広がっていた。 何が起きたのか、自分には分からない。だが、先ほどの攻撃で、何かが起きた事は理解していた。 


「ぬぅ……! 左腕の、感覚が無い……!」


なおも追撃せんと戦斧を振りかぶる咎将。


「来る!」


だがその瞬間、バチィッ!という破裂音と共に、咎将の全身を紫電の鎖が駆け巡った。

筋肉が痙攣し、振り下ろされるはずだった刃が空中で強制的に硬直する。


そのレザリアが作り出した僅かな時間。

それがゲーリックの騎士としての誇りを呼び覚ました。

彼は残された右腕一本で巨大な両手剣を握り締め、動きの止まった咎将の巨体をこじ開けるようにして弾き飛ばす。


更に追い打ち! ゲーリックは残っていた片手で剣を振り抜き、咎将を袈裟懸けに叩き斬る。

ズバァァッと斬り裂かれた咎将は、悲鳴を上げることもなく地面に崩れ落ち、タールのようにドロドロと液状化し始めた。


「ふ~、危ない所だった。助かりました、レザリア殿!」


ゲーリックが安堵の息を吐き、後方へと視線を送る。

そこには、幌馬車を守るように杖を構えるレザリアの姿があった。


そして、その背後には――腕を組み、厳しい眼差しで戦況を見つめる師、エクレアの姿もある。

彼女は手こそ出していないが、その周囲には冷気が漂っており、敵がうかつに本陣へ近づけないよう無言の圧力を放っていた。


「……フン。タイミングがズレとる。まだまだじゃな」

エクレアの厳しい、しかしどこか安堵したような呟きが、レザリアの耳に届いた。


「……はい、師匠! 次はもっと上手くやります!」


レザリアは師の言葉を励みに、再び杖に雷気を滾らせた。


その光景を見ていたカリストの背後で控えていた祝福偽装官の一人が、静かに詠唱を始めた。その口元に黒き印章が浮かび、言葉が逆位相で不気味に響く。

「《影の再構築(レフォルマティオ・ウンブラエ)》」


魔法が完成した瞬間、先ほど地面に落ちてタールのように広がっていた液体が、まるで生き物のように蠢き、再び立体的な形を作り始めた。

みるみるうちに元の姿を取り戻し――いや、それだけではない。


あろうことか、切り落とされたはずの左腕が、より長大で禍々しい「黒き爪」へと変貌していたのだ。

先程より一回り巨大化した咎将が、ギギ、と不快な音を立てて再び動き出す……。


「なっ……! 再生だと!?」

クーガーの驚愕の声が響いた。


同時に別の偽装官が苦戦するタンガに呪詛を放つ。

「《祝福の(スピナ・グラティアエ)》」

黒き祝福の棘がタンガの神経に突き刺さりその動きを僅かに阻害した。


「うおっ……! 体が……!」

咎将の一撃をすんでのところで躱すがその動きは明らかに鈍っていた。


「これでは切りがない!」

後方で戦況を見つめていたノベルが叫ぶ。

「ロスコフ様! このままではジリ貧です!奴らの再生能力は我々の想像を上回っている!」


「ええ、分かっています!」

幌馬車の影から観察していたロスコフの脳は、この悪夢のような光景を前に爆発的な速度で回転していた。

(再生能力、精神攻撃、そして格の違う戦闘技術……!駄目だ、個々の性能で上回ろうとしても消耗するだけだ……!ならば……!)


彼は一つの結論に達した。

個で勝てぬなら、**“共鳴”で勝つ。

それは、かつて仮邸宅の書斎で仲間たちと誓い合った、「一つの答えを錬成していく“共鳴の儀式”」**の実践だった。


「ノベルさん! ジル殿とタンガに伝令を!」 

「御意」。


ロスコフの声が戦場に響き渡る。


直ぐ様ノベルが、伝令を送る。 伝令は素早く内容を伝えた。


「タンガ! 敵の“核”を探せ! その《穿界者の残響》で、奴らの最も脆い一点を聴き取るんだ!」

「ジル殿! タンガの指示に従い、その一点に全ての力を集中させてください!」

「ゲーリック隊長! クーガー! 二人はジル殿が道を開くまで何としても咎将を抑え込むのです! 一点に!」


それは個々の英雄たちを一つの生き物として機能させるための**“神経”**の命令だった。


「……へっ、流石はロスコフ様だ。……やってやるぜ!」

タンガがニヤリと笑う。彼は偽装官の呪詛に抵抗しながらその意識を《地穿の残響核》へと沈めていった。

「ジルさん、聞こえたかい! でっけえ一発、頼んだぜ!」


「おうさ! お主の合図を待つ!」

ジルがその巨体を大地に深く根付かせ、《記憶の柱杖》に琥珀色の魔力を溜め込み始めた。


「「御意!」」

ゲーリックとクーガーは残された力で二体の咎将を一点へと誘い込み、挟み撃ちにする形でその動きを無理やり封じ込める。


その新たな戦術の萌芽を城壁の上から見下ろすカリストが、興味深そうに目を細めた。


「……ほう。何かやるようだな。……良い、足掻け。その希望を私が打ち砕く時、貴様らは最高のこえを奏でるだろう。

良い絶望の籠もった声を。……その最後の希望が砕け散る瞬間こそ、最高の供物となる」


彼はその黒炎剣の柄を再びゆっくりと撫でた。

“饗宴”はまだ終わらせない。

彼らの魂が最も熟し、最も甘美な悲鳴を上げる、その瞬間までは。



  

今回はちょっと西洋ダークファンタジーのグロい面を出しています、それでも読んで下さりありがとうございます、引き続き、続きを見かけたらまた読んでみてください。 



グラティア教の神々の一座。

**五芒星第三座:黒き血の源泉《メル=ザヴァ・ノクティス》**

**意味:夜哭の記憶を喰らう者**

**直属部隊:忘却醸造官フォーゲッターズ**


階層構造


```

記憶摘出官(最下層)

 ↓

感情醸造師(黒き血の精製)

 ↓

祝福偽装官(偽祝福の流布)


   

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ