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番外編 冒険者タンガ誕生 その2

今回は、初めての冒険者ギルドでの話です。 

              その14





ここは冒険者たちの巣窟、ギルド指定の酒場だ。埃と汗と酒の匂いが混ざり合った、活気と喧騒に満ちた場所。タンガは、年上の鉱夫仲間たちに連れられ、ワーレン侯爵領内にある酒場へ入ったことはあるらしいが、ロスコフにとっては生まれて初めての酒場だった。


重い木の扉を開けて中へ足を踏み入れると、そこは別世界だった。長いテーブルや丸いテーブル、カウンターまであり、屈強な冒険者たちが、何かを話しながら朝っぱらから酒を酌み交わしている。彼らの喉を鳴らす音、笑い声、そしてグラスがぶつかり合う音が、ロスコフの耳に飛び込んできた。ロスコフにとっては、すべてが不思議な光景に映った。


もちろん、酒を飲んでいる者たちだけではない。ギルドの掲示板に張り付けてある依頼を見て、真剣な表情で話し合っている者たちもいる。先ほど発表された『公』からの依頼の話を、声高らかに話している者たちも大勢いた。彼らの熱気に満ちた声が、ロスコフの耳に飛び込んでくる。


そんな中、物珍しそうに、ギルドからの依頼書を見ていたタンガに、目つきの悪いガラの悪そうな男が話しかけてきた。


「おいっ……お前だ」


真面目に依頼書を読もうとしていたタンガは、依頼書に夢中だったため、知らない男が話しかけていることに気づかなかった。すると、男は苛立ちを隠さずに語気を強めて。


「おいっ、この俺が話しかけてるってのに無視すんな!」


タンガが依頼書に集中していると、後ろから怒鳴られ肩を小突かれたのだ。

その瞬間、タンガの全身から、怒りとも戸惑いともつかない、熱いエネルギーが放射されたかのように、エイゼンの触れた指先がぴりりと痺れた。


タンガは「なんだ?」と、後ろを振り返った。彼の瞳が、一瞬だけ、獣のような鋭い光を宿したように見えた。


「お前、見たことない奴だな。ここは初めてか?」


突然知らない男に声をかけられたのだが、タンガは正直に答えた。


「ああそうだ、ホエッチャに来たのは初めてだ」


「そうか良し、だったらまだ誰とも組んでないだろ、

ここで依頼書見てないで俺たちと一緒に悪魔討伐しねぇか?」


突然、見ず知らずの、しかも強さも分からない者相手に、一緒に悪魔を討伐しようと言ってきたのだ。タンガは突然のことに戸惑ったが、とても興味が沸いてたので、とりあえず話だけは聞いてみることにした。


「さっき皆が騒いてた目的の悪魔を討伐するのか?」


「そうだ。手が足りねぇから集めてるんだ」


「それで今、何人集まってんだ?」


「今始めたばかりなので、俺と仲間の3名だけだ」


「それじゃあ全部で、何名集めたいんだよ」


「最低10名は欲しいと思ってる」


「それで、集まった者たちの分け前はどうすんの?」


「俺の仲間たち3名の取り分が50パーだ。残りは他の者たちで分けるって感じになる」


「う~ん。俺は構わねぇんだけど、俺の連れがそんなんじゃ来てくれそうにないな」


「なんだ、お前にも連れがいんのか」


タンガは、ロスコフたちがどこにいるのか探すと、いつの間にか空いたテーブルに着き、エールを飲み始めているロウ爺さんや、何か飲んでいるロスコフたちを見つけた。


「あそこのテーブルで飲んでる。」 タンガが丸テーブルで飲み物を飲んでる

者たちの方を向いて、話した。 すると、そちらの方を見たガラの悪い男は。


「なんだ、爺に弱っちぃそうなガキと、まぁまぁ俺好みの女が一人か」


男は、ロスコフたちを値踏みするように見た。


「ばっか、ロウ爺さんは無茶苦茶強ぇんだぞ。ロスコフ様は、確かに弱っちぃけど、

レザリアさんのことは俺もよく知らねぇけど、エクレア叔母さんの弟子だからきっとおっかねぇと思う。」


タンガは、ロウ爺さんたちの実力を誇らしげに語った。


「ほ~、無茶苦茶強い爺さんねぇ。んじゃあ、ちょいと話し合ってみろよ」


男は、タンガにそう言い残すと、仲間たちの元へと戻っていった。タンガはどうしようかと思案したが、初めての誘いだったので、とりあえず皆に相談してみようと、ロスコフたちの元へとやってきた。


「どうしたのじゃ、タンガ。何か良い依頼を見つけたのか?」


ロウ爺さんが、いつもの穏やかな口調で尋ねる。しかし、その瞳の奥には、

わずかながらも心配の色が浮かんでいた。


「うん、そのなんだ。実はさっき騒いでた悪魔を一緒に討伐しようぜっていう奴が現れてさ……」


タンガがそう言いかけた時、ロウ爺さんはわずかに眉をひそめ、タンガの言葉を遮るように言った。


「なんじゃ、悪魔じゃと?タンガ、お前さんが初めて冒険者組合に来て張り切っとるのは分かる。しかしじゃな、悪魔討伐なんて初めての者が受けるような依頼ではないじゃろう。」


ロウ爺さんの声には、いつもの穏やかさに加え、僅かながらも諭すような響きが込められていた。タンガの安全を心から案じていることが伝わってくる。


酒場の喧騒が、二人の会話を包み込む。遠くのテーブルからは、冒険者たちの豪快な笑い声や、酒瓶がぶつかり合う音が聞こえてくる。しかし、ロウ爺さんの言葉は、それらの音をかき消すかのように、タンガの耳に深く響く。


「悪魔じゃぞ、タンガ。生半可な気持ちで挑める相手ではない。お前さんのその勇気は買うが、今はまだ時期尚早じゃろう。」


ロウ爺さんは、そう言いながら、タンガの肩にそっと手を置いた。その手からは、長年の経験に裏打ちされた、確かな温かさが伝わってくる。


タンガがロウ爺さんに諭されていると、いつの間にか近くまで来てた

タンガを誘った目つきの悪い男が、すっとタンガの前に躍り出て来た。


「んっ!」


この動きに反応したのは、ロウ爺さんとレザリアだ。二人は一瞬の間に反撃体制に入りながら、様子を見る。


その二人の反応速度を感知した男は、


「うほっ、こいつぁすげぇや。俺の突然の動きに即座に反応してくるとは」


「なんじゃ、お主。まだ新人のタンガを悪魔討伐なんぞに誘いおって、タンガを殺す気か!」


ロウ爺さんが男を威嚇、睨みつけた。


「おっと、爺さん。そりゃあないぜ。こいつは新人じゃねぇだろ。

場数を踏んでる奴と同じ匂いを出してるじゃねぇか。それに、体から発せられているエネルギーが他の奴らとは違い、無駄にバカでかいことは俺にも感じるぞ。」


その問いに、ロウ爺さんは。


「いや、確かにタンガの奴は無駄な気を多く出しておるが、

それは今まで誰からの教えも受けず、自己流でやってたからじゃろう」


男は、タンガがまとう雰囲気を嗅ぎ取るように、鼻をひくつかせながら話を続ける。


「ふむ自己流なのか、それでこれだけの目を持ってやがるとは大した奴じゃないか。

死線を潜り抜けた者だけが持つ危険な目をしてやがる、 

爺さん嘘をつくな、ただの新人なら、こんな凄みは宿らねぇ。」


「わっははは。そうかお主にはタンガはそう見えたか。儂も同じように感じておったのだ。

タンガの内に秘めたる闘志、それはまるで磨けば光る原石のようじゃ。

それが分かるとは、お主もなかなかやりおるのう。」


ロウ爺さんは、嬉しそうに笑いそういったのだ。


そんな話の中、自分の話をする二人の間でもぞもぞしていたタンガが。


それで、悪魔討伐の依頼に参加する事は、やっぱりだめなのかと皆に尋ねる。


「やっぱりダメかな? 俺は参加してみたいんだが。」


「初っ端から死ぬかもしけんぞ、それでも良いのかタンガ?」


ロウ爺さんはそう尋ねた。


「うん。俺はせっかくの機会だし、逃したくないと思ってる」


タンガは、真剣な眼差しでそう答えた。


「まだ諦めきれぬか、相手は悪魔なんじゃぞ。

それも30万ゴールドもの懸賞金がかけられた相手じゃ。今の主では死ぬぞ」


ロウ爺さんは最後にもう一度タンガの覚悟を見ようと、

厳しい目でおどしを掛けた。


それに答えるタンガは。


「分かってるよ、ロウ爺さん。でも、どうしても強くなりたいんだ。せっかく目の前にチャンスが来たのに、このまま逃すのは嫌なんだ。俺はこのチャンスを絶対につかみ取りたいんだ。


「ふむ、そうじゃのう。これはお主の初陣なんじゃからのう。

初めから避けてしまうと、今後に影響してくるかもしれんな。

そこまでの覚悟があるのなら分かった。それで、どんな条件で一緒にやるつもりなんじゃ?」


ロウ爺さんは、タンガの覚悟を認め、条件を尋ねた。


「うん。この目つきの悪い奴のところのメンバーが3名で、懸賞金の50%を受け取り、

残りを他の者たちで分けるという案を提示されてるんだけど」


「ダメじゃ。懸賞金はすべて皆で均等に分配。それから、発起人であるリーダーに全員から取り分の10%を支払う。これでどうじゃ」


ロウ爺さんが、修正案を提示すると。


修正案が出されたため、男は計算を始めた。


「ちょっと待ってくれ。300000÷10=30000。そこから10%だから3000だ。それから3000×9=27000+30000=57000ゴールド。27000+27000+57000=111000。150000-111000=39000」


「39000ゴールドのマイナスになるのか。

う~む。ちょっと待ってくれ。仲間と相談してくる」


エイゼンが頭を抱えている間に、ロスコフがミルクを飲みながら、冷静な声で口を開いた。


「エイゼンさん、待ってください。均等分配案の方が、人数が増えることであなた方が得る名声は高まります。また、全体の安全性が向上し、長期的な冒険者としての信頼に繋がります。リーダーへの10%は、発起人としての正当な対価であり、この額は妥当でしょう。目先の損得だけでなく、チーム全体としての利益を考えれば、ロウ爺さんの案の方が賢明かと。」


ロスコフの言葉に、エイゼンははっとした表情で彼を見た。貴族の坊ちゃんだと侮っていた少年が、的確にメリットを指摘したことに驚きを隠せない。


男は、そう言い残すと、酒場の端にいた仲間たちの元へと行った。

それを見ていたタンガたちは、


「あいつらが仲間か……」呟いた。


「ほう。これは珍しい組み合わせじゃのう。あのナイトは【ナイトブレイド】じゃな。

ナイトブレイドは、装備を見れば分かるが、ロングソードやショートソードを二刀使う者が多い。ナイトのように盾を使うことを嫌うから、前衛職でも盾ではなく攻撃者アタッカーとして使ってやらんと上手く機能せん。それからもう一人の方は誰でも分かる僧侶じゃな」


ロウ爺さんの見立てはそうだった。レザリアはその言葉にコクっと小さな相槌を打つ。


しばらく待っている間、ロスコフは酒場でミルクを飲んでいた。そんなロスコフに、近くにいた冒険者風の女性が、


「あらあら。可愛らしい男の子が隣にいると思ったら、どぉ坊や。私のおっぱい吸ってみない」


突然横から寄って来た女性に、おっぱい吸ってみないと言われたロスコフは、

顔を赤くして、その女性の顔を見た。


「えっ、とお姉さん。何言ってるんですか?」


いまの話が耳に入った、もう片方の隣に座っていたレザリアがすーと立ち上がり、

ロスコフに対しての失礼な物言いに反応して。強烈な覇気を放ちながら。

「あなた、それ以上ロスコフ様に何か喋ったら殺すわよあっちへ行きなさい」


無口なレザリアさんが、突然口を開いたかと思えば、【殺す】と宣言。ロスコフは慌てて、


「ちょっとレザリアさん、落ち着いてください!」


立ち上がり、レザリアの行動を止めようとした。


レザリアが覇気を放ち、その前方にシギルが閃いた瞬間、酒場全体の喧騒が一瞬で止まり、完全な沈黙が訪れた。グラスのぶつかる音も、談笑の声も、全てが吸い込まれたかのように消え失せる。


「ひぃぃ」


おっぱい吸わないと持ち掛けてきた冒険者のお姉さんは、レザリアが放った覇気に気圧され、腰を抜かしてしまった。


誰もがその光景に息をのんだ。

「おい、見ろよ、シギルだ」

「今の見たか、あの女、秘術師だぜ」

「マジか、秘術師なんてノース大陸中探しても指で数えるほどの者しかいないんだぞ」


沈黙が破られると同時に、彼女を誘う声が群がったが、レザリアは一瞥もせず、ロスコフの腕を組んで座り直した。


「せっかくのお誘いですが、お断りします。私はロスコフ様の護衛であり、個人的な冒険には興味がありません。加えて、私は冒険者ではありませんので、そのようなお誘いには応じかねます。」


その言葉に、冒険者たちは残念そうに肩を落とした。


「なんだよ、冒険者じゃないってよ」

「残念、秘術師と組めたらかなり楽になると思ったのに」

「もったいねぇ。あんなクソガキのお守りやってんのかよ」


そんな言葉が飛び交っていたが、後ろから声がした。


「ひゅ~♩やるねぇ、兄ちゃん」


そう言葉をかけてきたのは、先ほどの目つきが悪く柄も悪い男とその仲間2人だ。


「ああ、目つきの悪い兄ちゃん、待ってたぜ」


タンガのその言葉に、エイゼンは表情を引き締めた。


「俺の名はエイゼンだ。目つきの悪い兄ちゃんはもうやめてくれ。そっちの爺さんの条件を飲むことにした。その条件で、今回の悪魔討伐の仲間になってくれるんだよな?」


エイゼンは、真剣な眼差しでタンガに確認した。タンガはチラッとロウ爺さんの方を見ると、ロウ爺さんは小さく頷く。するとタンガは、


「そうだ、よろしく頼む。俺の名はタンガだ。そしてそっちはロスコフ様、そしてレザリアさん。こっちはもう知ってると思うが、ロウ爺さんだ。言っておくが、ロスコフ様は船の中で待機だぞ。悪魔とは戦わん」


「分かった、それで良い。弱い奴は足手まといになるからな」


エイゼンはそう言ったが、後ろにいたガイアが、


「おい、戦わない奴に分けてやる金はねぇ」


等と、不満をあらわにした。それにすかさず反応したのは、ロウ爺さんだ。


「お前さん、ランクはいくつじゃ?」


眼光鋭くロウ爺さんは、ナイトブレイドのランクを聞いたのだ。


するとガイアは、「俺のランクはBBだ。文句あんのか、爺ぃ」


「ふむ。悪魔を倒すにはちとランクが足らんのう。それで他の二人のランクはどうじゃ?」


そう言われたエイゼンとパトリックは、


「私は冒険者ランクAの僧侶です。エイゼンも同じくAランクのマスターシーフですよ」


と答えた。


「ほ~、その若さでAランクとは大したもんじゃな。しかしじゃ、ワシの冒険者ランクはAAなんじゃが、そっちのロスコフ様が遊んどる分の働きくらいは、軽く熟すことができると思うんじゃが、それでもダメなのかのう?」


ロウ爺さんはそう言ったのだ、するとガイアとエイゼンの二人が同時に。


「馬鹿な、そんなこと信じられるか」


「AAだってぇ?そんな嘘ついてもすぐにバレるぞ、爺さん」


と、疑いの目を向けた。しかし、そんなやり取りをじっと見ていた者がいた。


この酒場で長年にわたりマスターをしているギルドの幹部だ。


そのマスターがトコトコ近づいてくると、ガイアとエイゼンの二人に向かって、


「お前たち、この御方はかつて【守護者ガーディアン・ロウ】と称えられ、リバンティン公国中にその名を轟かせた、ワーレン伯爵家のかつての筆頭魔術師であられるぞ。」


「ワーレン伯爵家の【防御者ガーディアン・ロウ】?」


すると、その話が耳に入った周囲の冒険者たちは、今度はロスコフたちのテーブルにいるロウ爺さんに注目が集まってしまった。


「えっ、嘘だろ?【防御者ガーディアン・ロウ】だってよぉ」

「ほら、見てみろよ。あの爺さんが【防御者ガーディアン・ロウ】なんだってよ」


もう酒場の中は、【防御者ガーディアン・ロウ】の名で一色になっている。


タンガもロスコフも、ロウ爺さんが凄いことは知っていた。けれど、それはあくまで『凄い爺さん』という漠然とした認識で、まさか自分たちが歴史的な英雄と肩を並べていたなんて、二人とも思ってもみなかった。親しみを感じていた分、その事実に二人は衝撃を受けたのだ。


「ロウ爺さんって有名だったんだな」


タンガのその一言で、


「悪かった、爺さん。あんたがあの【防御者ガーディアン・ロウ】

だとは知らなかったんだ。許してほしい」


ガイアも素直に詫びてきた。


「では、契約はそのまま成立で良いな?」


「はい、こちらからお願いします、ロウさん」


目つきが悪く柄も悪い男だったが、丁寧な喋り方に切り替わり、頭を下げてきた。


(ほ~、面白そうな奴じゃのう。こういう奴がタンガの仲間になると、色々と学ぶこともできよう)


そのような考えにまとまると、ようやく今回の悪魔討伐を組むことに納得し、話し合いが始まった。




最後まで読まれありがとうまた続きを見かけたら宜しく。

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