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ロスコフのお見合い その4

ロスコフのお見合いも今回で完結になります。 

どうなるのかは読んで確かめて下さい。 

   その12



ここはハルマッタン伯爵邸の晩餐会中の大広間だ。



「これは一体、何事だ?」


大広間の扉の前まで来ると、扉の前で立っているはずの侍女がいない。中からは騒めく人の声が聞こえてくる。ロスコフも扉を開き、中へと入った。


周囲を見渡すと、慌ただしく人が動き、解毒魔法という言葉が飛び交っている。見ると、南側のテーブル付近で誰かが倒れていて、苦しそうにもがいている。


「まさか!」


ロスコフは、父母が倒れているのではと焦り、近づいていく。


「これは何て事だ!」


驚きの声をあげ、ロスコフはさらに近づく。


近づいていくと、倒れてたのが騎士の一人、モルゲールだと分かった。


ロスコフがモルゲールに近づこうとすると、別の場所からも悲鳴があがる!反射的にそちらに意識を向け見てしまう。


「きゃ~、助けてぇ~、夫が、夫が。」


一階からの大騒ぎする悲鳴は、アンナの部屋にも届いていた。


「先ほどの虫ね。何をしに来たのかと察知はしてましたが、このわたくしが住むハルマッタン家で、このような不埒な行為を……。」


先ほどからの怒りがこもっていたためか、アンナは自ら大広間へと降りていく。


また別の者が倒れたようだ。顔を向けそちらの方を見るロスコフは、先の者と同じ症状だと確認すると、


「ちょっとどいてください。」


そう言うと周囲の人達が割れ、道を作った。


「おおロスコフ来てくれたか」


「父上、お任せを。」


「ロスコフ様だ。」


「ロスコフ様」


「ロスコフさん」


父母も心配そうに見ている。


空いた所を通り最初に倒れていたワーレン家の騎士モルゲールの傍へとやってくると、パットン王子と、メッシ子爵がロスコフを視認する。


「治せるのか?」


そう聞いてきた。ロスコフは、首に下げているペンダントを取り出すと、手に握りしめる。パットンたちはそのペンダントを見る。するとそのペンダントには魔晶石が組み込まれていることが分かった。


部屋から大広間へとやってきた【アンナ】は、周囲の状況を見渡す。そして見覚えのある者を視認、一瞬だけ意識を向け他へ回した。そして【悪魔の目】を使用し【インビジブルクローク】を羽織り隠れていた者をもサーチしたのだ。


周囲の者達が見守る中、ロスコフはペンダントを握りしめ解毒の魔法を唱えた。


【デトキシカーティオ】


すると、魔法が発動、苦しむ者に黄緑色の輝きが宿ると、先ほどまでの苦しみが嘘のように、スヤスヤと眠り始めた。


「おお、治ったぞ。」


「さすが、ロスコフ様だ。」


「おお、ロスコフ様。」


それを確認したロスコフは、


「もう大丈夫だと思いますが、念のためそのまま寝かせて置いてあげてください。」


周囲の者達にそう告げて、立ち上がった。


するとパットン王子からも声がかけられた。


「素晴らしいぞ、ロスコフ卿。」


ここはハルマッタン伯爵邸で晩餐会中の大広間。パットンはロスコフに手をあげ声をかけた。


「いえ、この首飾りのお陰ですよ。」


そう言い、もう一人倒れた者の方へと足早に向かったのだ。



ロスコフが、後から倒れた者の傍に駆け付け、治療し始めた頃、アンナは、ケープを纏った二人組の動きを暫く観察していた。


「目的はあちらの様ね。」


アンナは相手の目的が分かったようだ。


「ですがハルマッタン伯爵家での狼藉は許しません。」


秘密(ホタム)印章(ソーディ)


小声で囁くように術が使われた。


【インビジブル・クローク】で姿を隠していた二人組は、じっとしていれば見つかりっこ無いと思い込んでいた。その為、油断していたのだ。そこへアンナの小さな秘術紋(チョテムスディー)が使われ、気付かない間に、見えていないはずの姿が普通に見えるように、クロークの能力が掻き消されていたのだ。


それを知らずに、標的であるパットン王子の方へと接近してしまうと、当然、パットンとメッシ子爵は、その者達を視認する。


無防備に近づいてくるその者達にパットンは言った。


「おいメッシ、あいつらはなんだ?」


「さぁ、ですが武器を携帯して、此方に寄って来てますね。」


「毒を仕込んだのはあいつらだと思うか?」


「はい、この状況だとほぼ間違いありません。」


「じゃあ、口を割らせよう。」


パットンの言葉に頷くと、メッシ子爵はす~~~~~~と、二人の侵入者に急接近した。二人の侵入者も、回り込み迫ってきたメッシ子爵にようやく感知されている事に気付くと…


「どうしてばれた!」


回り込み迫ってくるメッシの方に気を取られた一瞬、今度は正面から凄まじい勢いでダッシュしてきたパットン王子の一撃を受け、左肩からバッサリと腕が切り落とされた!


ブシャア~、周囲に鮮血が飛び散る。


「キャァ~~~」


何も知らない客達は、パットン王子が人を切り殺したと思い、また大騒ぎし始める…


獲物を捕らえたメッシ子爵は、そんな事で集中力は乱れない。もう一人の侵入者の方も、メッシ子爵が抜剣、一気に片付けた。


ブッシャ~~~。鮮血が飛び散り、内臓の一部が外へと飛び出してきた。胴を切り裂かれた侵入者は、倒れて、虫の息となったのだ。


「くっ」


胴を斬られ、内臓が飛び出した侵入者の一人は、諦めたのか、直後、自害した。口に仕込まれた毒を飲み込んだらしく、すぐに白目になり口から泡を出し、息絶えてしまった。かなりキツイ毒の様だ。


それに気付いたパットンは、腕を切り落とした相手の口に、近くに居た中年女性のスカーフを貰い受け、「ちと借りる。」そう言い、丸めるとそいつの口に捻じり込んだ。


ゴボ ゴボ ゴボ。


パットン王子とメッシ子爵が賊を切り伏せた様子を見ていた者がいた。そしてその者は、先程、起こった事の流れを気配を消して見ていたのだ。その者の名はミカエル、今回アンナに求婚しにここにやって来たロスコフのライバルの一人だ。彼は【悪魔(デモンズ)(オーラ)】を感知すると、武装して大広間に駆けやって来たのだ。ただ誰が悪魔なのか分からない為、自分の存在感を消し、周囲を観察していたのだ。


そのミカエルは、アンナが何かした事に気付いたようだ。非常に微弱な魔法力しか使っていない秘術紋(チョテムスディー)だったにも関わらず用心し注意深く観察していたミカエルは、その僅かな異変に気付き、今、【アンナ】に接近していた…


周囲の者達と同レベルの存在力にまで落とし、何気なく振る舞い同化する、そうしながら徐々に接近していたのだ。


「あと、10m…」


絶対に気付かれてはならない、全神経を使い、違和感を出さない様、万全を喫し…


「あと、5m…」


3…


もう飛び掛かれば、剣で斬ることができる。


その時、ミカエル卿は全ての意識を剣に開放、大広間の【アンナ】に向かい、剣を振るおうと動いた!


「まぁ、素晴らしいですわロスコフ様♫」


「いゃ、そんな、凄い事ではありませんよアンナさん。」


全身の力を注ぎこみ、ミカエルは剣を振るう、振る振る振るった。「なんだと~?」


意識の全てをアンナに向けていた為、他の人達の事を感知していなかったミカエルは、目の前にロスコフ卿がいる事に気付き、その振り降ろす剣の軌道を慌てて修正、必死に回避させる、「うおぉぉぉ」


ズゴァ~~~~ン


剣はロスコフ卿の側をかすめて、地面に叩き込まれると、大広間の床が大破、かなりの被害が出てしまった!


「うわっ、何するんですかミカエル卿!」



ビックリしたロスコフは、ミカエル卿が狂ったのかと、アンナを後ろに隠し前に出た。


「ちょっ、ミカエル卿、一体どうしたと言うのですか?」


ロスコフの問いに、ミカエルは言った。


「そこをどいてくれたまえロスコフ卿。」


「それは何故ですか?」


「目的は後ろの女だ。その女は人間の姿をしているが、悪魔だと分かった。だからほおって置く事は出来ん。」


「なんて事を。」


この言葉に周囲にいたハルマッタン伯爵家の者達が怒りを露わに、ミカエル卿を非難し始める。そして、前面にハルマッタン伯爵も出て来た。


「その言い掛かりは何のつもりなのじゃ、チェイサー子爵家のミカエル卿。」


「私はその女が発した【悪魔(デモンズ)(オーラ)】を感知しました。それは一瞬の事だったので、確かめる為、この大広間に降りて来たのです。そして、先程、騒ぎを起こした者達とのやり取りを見ていると、やはり、その女が何か得体の知れない力を使ったのを確認したのです。」


「得体のしれない力じゃと、戯言を。私の娘にそんな力があるはずないではないか!」


ハルマッタン伯爵は、そんなバカげた話は信じられないと、突っぱねる。だが、ミカエル卿の方は、まだ剣をしまってもいなければ戦闘モードを切ってもいない。


その事は、後ろからやって来たパットン王子とメッシ子爵が気付いている。


「おや、ここでも争いが始まっていたのだね。一体、これは何事なのでしょう?」


取り合えず捕虜を気絶させたパットンは、騒ぎが起きているこちらにやって来て、話に加わったのだ。


{流石王族、話の中心にいないと落ち着かないのだろう}ロスコフはこの様に納得している。


「パットン王子も聞いて下さい。こちらのチェイサー子爵家からお越しのミカエル卿が申すには、私の娘【アンナ】が悪魔だと言うのです。そして突然、剣をお振るいなさいました。そこの床が大きく破壊されてるのが証拠になります。」


「ふむ、確かに私達も先程、おかしな気を感じ、預けていた剣を慌てて取りに動いた。」


「パットン王子、それならあなたにも分かるかもしれません、あの者が悪魔だと言う事が。」


「いや、それは分からん。私が感じたのは嫌な気を感じた事だけ、それにその後、侵入者が現れたので、奴らの気だったのかもしれない。」


「馬鹿な、悪魔が放つ気と、曲者の気を同一視するとは、パットン王子、所詮あなた方も経験不足だ。」


経験不足とまで言って来たのだ。これにはパットンも少し立腹したが、確かに、悪魔と戦うどころか、遭遇すらしたことは無かった。


「ほ~、それではミカエル卿は、悪魔との経験があると?」


「勿論、過去に【ルビナ迷宮】下層にPTを組み入りました。

そこに出現した上位悪魔の強さは凄まじく、私が組んだPTでも無事ではすみませんでした。

何とか追い払いましたが、PTから2人の戦死者を出してしまったのです。

その時の経験で【悪魔(デモンズ)(オーラ)】を体が覚えていました。」


「それはたいへんな経験をしてきたんだな、ミカエル卿。」


ミカエル卿の話を聞いて、パットン王子は関心したのか、素直に、その経験を称えた。


「分かってくれたようですね、パットン王子。」


調子づくミカエル卿は言った。


「では、後ろに匿っている女をこちらに引き渡して貰えますかロスコフ卿。」


睨みを効かし、そう言って来るミカエルに対し、ロスコフは一歩も引かずに。


「そんな事は出来ませんよ。話を聞いてましたが、話の中で、一度足りともアンナさんが誰かを襲ったとか、誰かを殺したとか、そう言う事は何も話されていませんでしたね。」


ロスコフはそう反論してきた。するとミカエルは言った。


アンナは、前に立って庇うロスコフを黙って見ていた。その反論する姿に、心地よさを感じうっとりとしていたのだ。


「何を言うんです、ロスコフ卿。その女は間違いなく悪魔だと確信しているのですよ。」


「だから?」


ロスコフのこの反応を一番最初に察知したのは、後ろに匿われていたアンナだ。アンナは、予想もしないロスコフの反応に内心、衝撃を受けていた。そして、真顔でそんな事を聞き返して来たロスコフに対しミカエルは言った。


「だからとは?どういう意味なのですかロスコフ卿?」


ミカエルは信じられない様な顔をしてロスコフを睨んだ。


「だから、悪魔だったら何だと言うのですか?悪魔だから何もしてなくても殺すんですか?」


ロスコフはそう問うてきた。ミカエルは何を言い出すんだこの男は?信じられないといった感じでロスコフ卿を凝視してきた。


「馬鹿な、悪魔なんだぞ。直ぐにでもここに居る皆でその悪魔は殺さないと、とても危険な存在なんだ。」


必死に、ロスコフを懐柔しようと、悪魔の危険性を話してきた。だが。ロスコフは、こう言ったのだ。


「だから具体的にアンナさんが誰かを殺した所を見たんですか?それかどこかで悪さをしてたと言う証拠が出せるんですか?」


ロスコフは証拠を求めて来たのだ。するとミカエルは言った。


「馬鹿な、悪魔に証拠など、無用だ!悪魔なのだぞ。見つけたら当然、無条件に殺さなくてはならないはずだ!」



「それはミカエル卿の思い込みですね。こちらには当てはまりません。」


「わたしの思い込みだと言うのか。」


「そうですね。人は生まれた環境や、育った場所で得た知識を元に、形成されていますからね。ミカエル卿が悪魔に対し抱いている思い込みは、理解できますが、それをこちらに押し付けて来るのは勘弁してほしいですね。ただし、証拠があれば話は違ってきますが。」


「証拠など無い。しかし悪魔をほおって置く事等出来ん。」


「なるほど、では証拠は無いんですね。だったら引き渡す事は出来ません。」


このやり取りを聞いていた者達も、呆気に取られている。特に、前で話のやり取りを黙って聞いていた、パットン王子とメッシ子爵は、これはどうしたものかと何方にも肩入れ出来ない状況となったのだ。


「パットン王子、それにメッシ子爵は、私の考えに賛同してくれますよね。」


ミカエルは、先程、自分の話を聞いて、凄いと言ってくれたパットンに応援して貰いたく、話を振ったのだ。しかしパットンは、「すまんなミカエル卿、私にはこの問題を判断する事は出来ん。」と突き放した。


「何をおっしゃる、悪魔を感知したとおっしゃったじゃないですか、目の前に居るのですよ、その悪魔が。」


「いい加減にして下さいミカエル卿、うちの娘を欲して、ここに来た筈が、娘に断られたからと言って今度は悪魔呼ばわり、一体どう言うつもりなのかね、事に寄っちゃあ、チェイサー子爵家からのいわれもない中傷を受けた事を、しかるべき機関に訴える事も出来るんですぞ。」


ハルマッタン伯爵の怒声が響く。ミカエル卿は伯爵を完全に怒らせてしまった様だ。それでもミカエルは引かなかった。


「それではもし何か起これば、一体誰が責任を取ると言うのだ、ハルマッタン伯爵夫妻は親なので除外します。」


ミカエルは宝刀を抜いて来た。他人の責任を背負う勇気のある奴はいないだろう、ミカエルはそう確信していた。


「私が取ります。」


声を出したのはロスコフだ。一歩前に出て、そう口に出したのだ。ロスコフは自分でもこの行為にビックリしていた、まだ良く知らないアンナの為に、責任を取ると皆の前で断言したのだ、それでは何故そう発言したのか、それは無意識にそうしたのだ、多分良く分らない力が働いたのだろう、そう思う事にして、この状況を乗り切る事にした。」


その行為をただ黙って見ていたアンナも、自分を庇うロスコフの凛々しい姿に。



「ロスコフ様。」  ロスコフの名を呟く。



ミカエルは次に出す言葉を見つけられなかった。何か言おうとするが、もう何の言葉も浮かび上がらずに。


「こんな、馬鹿な・・・」


ミカエルは大勢が居る中でロスコフに敗北した事を悟ったのだ、片膝を付き、うなだれる。


うなだれるミカエルにパットンは。


「お前だけじゃない、私もロスコフ卿に負けたよ。」そう声を掛け、ミカエル卿の肩をポンとかるく触り、パットン王子は去って行く。その後に続きメッシ子爵もこの場を後にした。



最後まで読んでくれありがとうございます、また続きを見かけたら宜しくです。  

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