【外伝】たとえばこんな男子会
ぼちぼち活動再開します。
女子会。女子が集まって、おしゃべりを楽しむ集まりのことだ(あくまで俺のイメージ)。ほとんどの女子会は、宿泊を伴うもので夜の寝るまでの時間に恋バナや今流行りのファッションなどなど話題は尽きず、何をそんなに話すことがあるの?と疑問に思うこともある、アレだ。しかし、女子会はよく聞くワードだが、男子会なるものはあまり耳にしない。これは、俺と順と家康の3人で集まって、ただしゃべるだけの話だ。
◇
「男子会をやろう」
事の発端は家康のこの発言だった。お互い社会人となり、なかなか休みを取ることが難しくなっている状況下で、都合がつけば、夕飯を一緒に食べるくらいのことはしてはいた。だが、
「男子会なんて聞いたことないけど………?」(順)
順が戸惑うのも無理はない。俺も正直、家康が言っていることの意味が良くわからない。
「女子会はあるのに男子会がないのはおかしいといつも思ってたんだ」(家康)
「……それで?」(俺)
「だから、男子会やろうと思って」(家康)
「………つまり、どういうことだ?」(俺)
女子会はあるのに男子会はない。これはおかしい。まあ、納得できなくもない。しかし、わざわざ『じゃあ男子会やろう!』とはならないと思うのだが。
「男子会っていうのは、つまり、男子同士で集まって議論をするということだよね?」(順)
「そうだ。やろうぜ」(家康)
「………じゃ、家康に聞くが、今の時間は男子会か?」(俺)
俺たちがいるのは居酒屋。お互いの家から遠からず近からずの距離にあり、こうして集まって夕飯を食べるときに利用する。俺たちの周りにも似たように仕事帰りで来ましたという雰囲気の人が多くいる。酒を飲みながら上司の愚痴をこぼしている人もいる。
順はワイシャツの袖をまくりながら、
「確かに家康の話だと、今こうして集まってしゃべってる時間が男子会ということになるね」
「………なんか、思ってたのと違うんだよな………」
「………こんな空気になるから男子会なんて言葉が浸透しないんだろう」
普段、ふざけ合っている人たちが『男子会やるからこの日のどこどこに集まってくれ!』と言えば集まりはするが、男子会と普段のやり取りの違いはないのではないだろうか。俺たちの今の空気も普段と変わらない。
「なんかもっとこう………普段と違うことがしたい」(家康)
「そんなふわっとした言い方じゃわからないんだけどな……。まずはテーマでも決めるか」(俺)
「……テーマ?」(家康)
「テーマを決めてそれをもとにして話せばそれなりに議論はできるんじゃないか」(俺)
「た、確かに……。やっぱ、当麻は頭いいな」(家康)
「これでも弁護士だぞ」(俺)
「普段そんなふうには見えないけどね」(順)
「マジで‼俺以上に弁護士らしい弁護士はいないだろ」(俺)
「ネットで炎上しそうだから、発言には気を付けようよ、当麻」(順)
そんな弁護士っぽくないのか俺は。響子がこの場にいれば『そんなことないよ、当麻くんは立派な弁護士さんだよ』みたいなことを言ってくれるはずだ。間違いない。
「まあ、そんなことは置いといて。それならこれはどうだ。やっぱ誰しもが通る‶恋バナ〟は」(家康)
「「却下で」」(俺)(順)
「なんでだよ‼」
いや、なんでも何もいい大人が恋バナって。それも結婚だってお互いしているのに何を話せというんだ。
「議論するような内容ではないだろ」
「当麻に賛成だね。他のテーマを考えてみよう」
「いや、恋バナで行くべきだ。これ以上に深いテーマはない」
「ほう……。その根拠は?」
「恋愛というのは‶バトル〟なんだ。週刊漫画にも必ずラブコメがあるのはなんでかわかるか?需要があるからだ。ではなぜ需要があるのか。それは読者自身がラブコメ漫画を読むことで癒されるからだ。推し活って知ってるだろ?ラブコメ漫画に登場するヒロインをみて、このようなヒロインと自分は結ばれたいと夢想し、日々の生活が灰色からバラ色に変化を遂げていくんだ。恋愛にはそれだけの力がある‼」
「………」
色々と突っ込みたいところではあるが、家康が言いたいことが言えたからか満足した顔をしているから、なんか言いづらい。しかし、恋愛はバトルなのか?心理戦と言われることがあるのは知っているが。
「まあ、わからなくはないね。恋愛は戦い。そんな側面があることは否定しないよ。ただ一言『好きだ』と言えばそれで済むのに人はそれができない。恥ずかしいという気持ちと断られたときのことを想像して、心理的ハードルが高くなるんだ」
俺は順の話を聞きながら、自分の告白したときの状況を思い出した。平坦ではなかった。響子に複雑な事情があり、ただ好きという言葉を言うのが恥ずかしいとか、断られたらどうしようとか、そんなことなど当時の俺は考えていなかった。響子のために何ができるか。それだけが頭の中にあった。
「だから、人はその相手に対して‶アプローチ〟をする。アプローチをしていく中で相手に自分の気持ちが伝わってほしいと願う。楽な方向に逃げようとするんだ。好きと伝えることなく、あわよくば付き合いたいという下心で相手を翻弄するんだ」
「………俺は響子にアプローチをした記憶がないが」
「それは例外だよ。何事にも例外はつきものだよ。異端児はこの世の中にはいるんだよ」
「おい、その言い方だと俺が異端児みたいになるじゃねぇか」
「僕的にはそれに近い位置にいると思うけど」
「それは俺も思うな。なにせ、日下部さんとチョメチョメしてないんだろ?」
「………ノーコメントで」
「まあ、当麻は下心がないのかもしれないね。でも、僕も家康も付き合うようになるまでには打算があったと思うんだ」
「そ、そうなのか」
「そうだな。俺も静香と付き合うために筋トレ頑張ったし、水泳の練習だってやってた。静香がいなかったらそんなんやってない」
「僕は明子に好かれるために好きなものが何かを把握して、高校生の頃はそれを渡してたよ」
「……打算にしては弱いような……」
自分にとって何かいいことがある。だから、人は努力することをやめない。恋愛もなんやかんやで努力した人が勝つものなのかもしれない。
「意外と恋愛をテーマにすると盛り上がるんだな」
「そうだね。まあ、最初の恋バナからは離れちゃってるけど」
「なんか次会う時もこんな感じで議論できるようにしないか」
「いいね。次は何をテーマにしようか」
価値観が違うはずの人であっても、コミュニケーションを通して理解しようとすることでその壁を乗り越えてきた。俺たちは今日を通してお互いの価値観の一部を共有したのかもしれない。
「当麻はどんな話がしたい?」
「そうだな………」
俺たちは社会人となった。学生のころと違い、休みが簡単には取ることは出来ない。でも、たまにこうして議論を重ねるのは良いのかもしれない。俺はそう思った。
「最近のマイブームとかどうだ」
「お、いいね。それにしよう」
「俺の中で何が流行ってるかな………」
人と議論を重ねることでその人の価値観に触れる。喧嘩になることもあるかもしれないが、この3人なら大丈夫な気がした。それぞれが自分の立ち位置を把握しているこの3人なら。
さて、俺は今、何にハマっているだろうか。
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