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婚約者を義母妹に奪われた地味令嬢ですが、雷の精霊様の溺愛が止まりません〜不屈の心で反撃いたします!〜  作者: ぶるどっく


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第十二話



 舞踏会、当日。

 

「ミリアンナ、起きてください」


 普段の起床時間よりも早い時間。

 ミリアンナが眠る部屋の扉を叩く音と紫苑の声が聞こえた。


「……ぅん……紫苑、くん……?

 まだ……いつもの時間より、早いよ……」


 眠い目を擦りながら扉を開けたミリアンナは、ボンヤリと紫苑へと視線を向ける。


「すみません、ミリアンナ。

 僕もまだ早いと思っているのですが……」


「あらぁん!

 乙女が本気でお洒落するなら、何日もかけてお肌から磨きあげるものよん!」


 珍しく困惑した声音の紫苑の言葉に被せるように、何処からともなく女にしては低い声が聞こえた。


「し・か・も!

 本気で女の子が戦うなら、敵の戦意をねじ伏せるくらいに綺麗に決めなきゃね!」


「っ……?!」


「……重いので伸し掛かるのはやめてもらえますかっ?」


 紫苑の言葉に被せるだけでなく、背後からおぶさるように伸し掛かってきた人物。


 艷やかな蒼い髪に銀色のメッシュが一筋。

 白い肌にはシミ一つなく、珊瑚のように赤い唇。


「(……きれい……人魚姫みたい……)」


 こんなに綺麗な人、見たことない……とミリアンナは見惚れてしまう。


「いい加減にしろと言っているでしょう、牡丹っ……!」


 この二ヶ月間でミリアンナが見たこともないほどに、嫌そうに歪んだ紫苑の顔。


「んもうっ!

 久しぶりに、妾達を頼ってきたと思ったら……こんなにも可愛い娘を隠してたんだものぉ!

 ちょっとくらい嫌がらせを受けてもバチは当たらないわよん!」


「隠していません。

 独り占めしていただけですよ」


 ツンとそっぽを向く紫苑に、牡丹と呼ばれた麗人は心底嬉しそうに涼やかな目元を弓形にする。


「あらあらあら……!

 いやぁん!紫苑ちゃんたら本気なのねっ?!」


「……牡丹、そのくらいにするべきですわ。

 紫苑が困るだけならば構いませんが、そちらの人の子が驚いてしまいますよ」


「っ……う、わぁ…………お花の、お姫様みたい……!」


「ふふ……ありがとうございます」

 

 戯れるように言い合う牡丹と紫苑の背後から現れたもう一人の人物。

 嫋たおやかなやかな仕草が似合う若草色の髪を結い上げ、柔らかく微笑む美女。


「うふふ!

 妾の桜ちゃんは、綺麗でしょう!

 紫苑が隠したくなるのもわかる素直な魂の良い子ねぇ」


「……当然です」


 牡丹の言葉にそっぽを向いて返す紫苑の姿に、ミリアンナは少しだけ笑ってしまう。


「(紫苑くん、楽しそう。

 んー……この綺麗な人たちは紫苑くんの兄弟、家族なのかな……?)」


「ミリアンナ、僕は牡丹とのやり取りを楽しいとは思っていません。」


 苦虫を噛み潰したような表情で紫苑がミリアンナの思考を遮った。


「んまぁっ!

 紫苑のいけず!

 頼まれていたドレス一式は持って帰っちゃうわよぉ?」


「…………すみませんでした、牡丹。

 この度は、ありがとうございました。

 僕が着付けを頼んだ桜と、麗しい貴方が作ったドレスだけ置いて、さっさとお帰り下さい。」


「ちょっと桜ちゃん!

 紫苑の妾への扱いが酷すぎると思わなぁい?!」


 牡丹泣いちゃう!と桜にどさくさに紛れて抱き着こうとしたが、その腕は空を切る。


「紫苑をからかうからですよ。

 そして、どさくさに紛れて人前で抱き着こうとしないで下さいませ。」


 気を取り直したように若草色の髪の美女、桜はミリアンナへと向き直り微笑む。


「初めまして。

 紫苑の大切な人の子、ミリアンナさん。

 私は最高位……紫苑の家族のような存在で、桜と申します。

 紫苑の妻となる人の子ならば、私の名前を呼ぶことを許しましょう。」


「んふふ!

 初めまして、可愛い人の子。

 妾は牡丹よん!

 特別に、牡丹の名前を呼ぶことを許してあげるわぁん!」


 人外の麗しい微笑みと、圧倒的な存在感に気圧されるミリアンナは呆けたように桜と牡丹を見詰める。


「っ……あ、初めまして!

 自己紹介が遅くなり、申し訳ありません……!

 私は、フランソワ侯爵家のミリアンナと申します!」


 呆けてしまっていたミリアンナだったが、ハッと弾かれたようにカーテシーで二人に応えた。


「んふふふふ……よろしくねぇん、ミリアンナちゃん」


「素直な良い魂の人の子ですね。

 流石は、偏屈な紫苑を射止めただけのことは有りますね」


 紫苑に意味ありげな視線を向け、クスクスと微笑む桜と牡丹。


「えっと……妻とかは、勘違いかも……です。

 一応、この国の王太子様と私は婚約していて…………でも、破棄される、かもですが……」


「ちょとぉ……しおーん?」


 ミリアンナの困惑した表情に、ジトッとした目を紫苑へと牡丹は向ける。


「嫌ですねぇ。

 今夜、全部ぶち壊せばおしまいの人間と婚約も何もありませんよ。」


「アンタねぇ……」


 ミリアンナに聞こえないように呟かれた言葉に、牡丹は呆れたような表情を浮かべた。


「紫苑。

 あまり人の子を振り回しては可哀想ですよ。

 何事も、想いを伝えてからが始まりかと思いますが?」


「……僕のことは良いですから、ミリアンナのドレスアップをお願いします」


 諭すような桜の声音に、拗ねた子供のような紫苑の反応。


「ふふ……分かりましたわ。

 他ならぬ紫苑の珍しい頼みごと、お受け致しましょう。

 ですが……大切ならばこそ、人の子の心と向き合うことも忘れてはなりませんよ」


 分かっていますよ、とばかりに視線を逸らす紫苑に、桜は微笑む。


「うっふふふ!

 さあ、ミリアンナちゃん!

 楽しい楽しいお着替えのお時間よ!」


「え、あの……?」


「綺麗な藍色の髪ですね。

 折角ですから生花を使用して結い上げましょう。」


「え……え?」


「あらぁん!

 桜ちゃん、とっても素敵な考えだわ!

 藍色の髪だから……白系統の花も良いわねぇ……?

 ドレスも、薄めの色合いで纏めて……折角だから、大きめの紫の宝石……紫色の花にしましょうか……?」


 桜と牡丹に囲まれて戸惑うミリアンナは、流されるようにドレスアップされていくのだった。




ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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