プロローグ
「ミリアンナ・フランソワ!
王太子である私の婚約者でありながら!
異母妹を虐め、可憐な乙女の心を踏みにじるような薄汚い貴様との婚約を破棄するっ!」
豪奢な王宮のホール。
王太子の成人を祝う舞踏会。
「……殿下、私はそのような真似は断じてしておりません。
そして、私と殿下の婚約は恐れながら陛下のご意思と伺って……」
「黙れっ!
貴様如きが恐れ多くも陛下のご意思を語るなっ!」
名指しで罪を問われた藍色の髪の乙女が、静かに答える。
だが、その口上すら途中で遮られてしまった。
「ミリアンナよ。
我が友であり、忠臣であった貴殿の父の血を継ぐお前の咎。
余は、誠に残念極まりない。」
絶望が心を支配する。
いや、ミリアンナはこうなることなど分かっていて此処に来たのだ。
「(…………私の味方なんて……誰もいないもの)」
唇を噛みしめる。
泣いて溜まるか。
こんな奴らの前で、傷ついた顔なんて見せたりしない……!
「どうか、お聞きくださいっ!
私は無実でっ…………………え゛っ……?」
言葉が途切れる。
頬が引き攣る。
「…………なんだ?」
周囲の貴族たちも顔を背けて、身体を震わせる。
フレドリックの横で泣き真似をしていたリリアーナも、頬を引き攣らせる。
「フレドリックよ……お、お前は何を……」
「陛下……?」
「何故にっズボンが消えておるのだっっ?!」
「はっ?!
ひっ?!きゃぁぁぁぁぁっっ!!」
キョトンとした間抜け面からの、絹を裂くような乙女の如き悲鳴。
さっきまで婚約破棄だと格好つけていた男とは思えない醜態。
「ぶふっ……!」
ミリアンナは、口元を押さえて笑ってしまう。
「みみみみっ?!
私をみるなっっ!!」
桃色の薔薇柄。
必死でマントで隠そうとしている姿が、滑稽過ぎて腹が捩れる。
喉の奥で低く笑う貴族たちの嗤い声。
「キッサマァァァ!!」
裏返った叫び声。
怒りを込めているのだろうが、それすらも可笑しくてたまらない。
「貴様の仕業かぁぁぁぁっっ!!」
剣を振りかざして、桃色薔薇柄パンツのフレドリックが迫る。
「…………」
しっかり嗤った。
爆笑した。
もう……いいや。
「あ゛ぁぁぁっっ」
迫る白刃。
ミリアンナは、死を受け入れて微笑んだのだった。
『いやいやいや。
ダメですよ、ミリアンナさん。』
白刃が粉々に砕け散る。
紫電が走る。
『貴女は……僕のお嫁さんになる約束でしたよね?』
紫色の衣が。
優しくミリアンナを抱き寄せたのだった。




