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魔力無し異端令嬢は学園生活を楽しみたかった・・・  作者: 酒杯樽
学園とアルラウネ
10/10

8話 令嬢?知りませんね。

「・・・あれ?おかしいな。誰も持ってきていないと思って全員分のテントを用意していたはずなんだが・・・」


赤く染まった空を後ろに、日は地平線に落ちてゆく。テントを張り終え、簡易的なかまどを作り、それを私と学友会の引率の先生の二人で囲んでいた。張られたテントの裏では他6人が私に渡された説明書を見ながらあーだこーだ言いながら簡易浴槽を組み立て、お湯を張っていた。


「まあ、寝袋と食料はなかったので支給させてもらいましたがね。・・・はあ、にしても配給遅いですね。」

「誰のせいだと思っている?」

「なんでちゃんと準備してて言われなくちゃいけないんですか?先生方だって生徒がこういう状況に対応できないって分かっていたでしょう?むしろ褒めてほしいですよ。」

「あのなあ・・・」


食料の配給が遅くなりそうなのは、先生方が手が離せない状態だから。そしてその理由は・・・


「お前が対応しきったせいで、説教が長引いているんだ。本当は『次からは気をつけるように』で終わるはずだったんだよ。お前のせいで彼奴等は『なんで対応できないんだ?一人できているやつは居るのに』から説教されないといけなくなったんだぞ?」

「ソーデスネ」


そう、私が対応してしまったせいでこんな事になったのだ。で、現在騎士科組と魔法科組双方が教頭からお怒りの言葉を頂いているため、配給ができていないのだ。


「っと、おい、教頭がお前のこと呼んでるぞ。」

「ん?ああ、はい。先生、少し火の守り頼みます」

「ああ、行って来い。」


ハンドサインで教頭に「来い」と言われた私はそのとおりに行くことに。教頭の真横まで来て「どうかしましたか?」と聞くと(タキシードやドレスを持った)一部の生徒から殺気の籠もった視線を送られた。


「アルラウネ、貴方がテントを持ってきていた理由はどんなものかという声が聞こえたので実際確かめようと呼んだ次第よ。」

「理由ですか?うーん。ただ単に嫌な予感がしたので念の為ですね。今回の長距離移動の割に方面は未開拓地なので、もしかしたら野営することになるかもしれないと思っていたので」

「そう。説明ありがとう。あ、食料はあそこにあるから、自由に取っていってもらって構わないわ。」

「はい。ありがとうございます。」


私は殺気を背にして指さされた方向に歩いていく。後ろからさっきよりも大きくなった怒声が聞こえるが聞こえないふり。だって私は至って普通のことをしただけだもの。適当に美味しそうな食材を選別し、両手いっぱいに抱えて持ってかまどのところまで戻る。


「肉がないな・・・」

「保存効かないのでしょうがないでしょう。・・・いや、そういえば肉、ありましたね。」

「え?」


スカートの下から仕舞っていた弓を取り出す。折りたたまれていた複合弓を組み立て、弦を張る。


「なんか木の棒ありません?」

「まあ、あるにはあるが。」

「下さい。」


若干しなりはあるもののまっすぐな木の棒を矢と同じ長さに切り、弓に引っ掛ける。狙うのは上空を飛んでいる鳥だった。


パシュン・・・・ストン。

「キィィィ!!!」


「・・・はい、肉です。」

「お、おう。」


落ちてくる鳥をキャッチし、先生に見せる。困惑した表情でこちらをみる先生。流れた静寂を破ったのは簡易浴槽を設置し終わったウィリアム王子達だった。


「お湯、張り終わったぞ。」

「お疲れさまです。では、今から食事を作るので手伝ってくださいな。」

「お、おう。」


撃ち落とした鳥を素早く血抜きして、水洗いをしながら捌いていく。ウイリアム王子たちには野菜を切ってもらったり、お湯を沸かしてもらったり。最後は私が煮込んで味付けして完成になる


「ちなみにアルラウネ。何を作っているんだ?」

「スープチキンカレーですね。配給のパンが思った以上に硬かったので。」

「・・・知らない料理だな。」

「まあ、ベネーデ領でしかカレーは食べられませんからね。・・・と、出来ましたよ」


キャンプ用の食器に、カレーを盛り付け、学友会メンバーと引率の先生に渡す。初めて見るものなので警戒心はあるみたいだが、入れた食材とスパイスのおかげで、色は普通の料理と遜色ない。・・・うん。味もいい感じだ。


「では、頂きましょうか。」

「あ、ああ。」


先生が恐る恐るスプーンですくい、口に運ぶ。数秒して一言。


「あ・・・上手い。」

「私はゲテモノ出しませんて。」


他のメンバーもカレーに手を付け始める。辺りは既に暗くなっている。やっと説教を終えた他の生徒達が、せっせとテントを張り、配給される食材だけを使って料理(ゲテモノづくり)をしている。怒り疲れたのか教師陣は疲れの表情を見せていた。


「アルラウネ、それは?」

「私の担任に差し入れですよ。あの調子じゃ、ゲテモノばっかりできそうな感じがしますからね。」

「・・・ああ、そういえば俺の妹もクッキー以外作れなかったな。」

「ネリア嬢に失礼ですよ。・・・では、私はこれを持っていきますので。」

「ああ、行ってらっしゃい。」


そうして、先生のところに持っていく。「先生」と呼んだ私に向けた顔は、かなりげっそりしていた。


「お疲れさまです。こちらで料理が余ったので、よければどうぞ。」

「ええ。いただくわ。ありがとう。」


薪の火が明々と燃える。生徒側の方からは燃え移っただの何だのと、悲鳴やオブラートに包まれた罵声が聞こえてくる。軽くあくびを漏らした私は、自分のテントに戻り、深夜に備えて軽く仮眠を取るのだった。

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