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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第七章 軍部と闇
69/200

7-10☆

男は、荷物を置くような自然な所作で、静かにコボル警備長を地面に置くと、続いてこちらを見た。

コボル警備長が、なすすべなくやられたということは、おそらく今のは・・・アーツだ。それはつまり、目撃者を許さないということでもある。

そんな僕の推論通りか、男はこちらに向かってくる。王城に持ちこめないので、ナイフは家に置いてきた。コボル警備長も、長剣を持っていなかった。

だが、笛はある。ありったけの空気を肺に入れ、笛を吹こうとした瞬間、またしても男の姿が消えた。


「・・・!?」


次の瞬間、僕の手首が勢いよく顎にぶつかる。まるで、透明な腕で押さえつけられたようだ。ここで、ようやく僕は敵の技を理解する。

これは、紐・・・いや、糸だ。細く強力な糸が、僕の首の周りを囲んでいる。そこに、笛を吹こうと思ってあげた腕が、運よく挟まったのだ。

息をする間もなく、強力な力で背後に引っ張られる。コボル警備長にやったように、僕の体を引っ張ろうというのだろう・・・そう思った瞬間、僕の体は中空に浮き始めた。

背中合わせになったまま、僕の首を糸でとらえた敵は、その腕をそのまま上にあげて僕を持ち上げているのだ。腕と肩にマナを使っているのだろうが、相当な力技だ。


「ぐ・・・う・・・」


巻きついた糸は恐るべき強度で、僕の腕と首に食い込む。

だが、首と糸の間に、腕が一本入った分だけ、わずかだが僕には余裕があった。右手に持っていた笛を左手に持ち替えると、今度こそ勢いよく笛を吹いた。

短く、一回。緊急の合図が響き渡る。


僕の首が完全にしまっていないと判断したのだろう。敵の行動は早かった。糸を引く力を弱めると、素早く僕を蹴り飛ばして体勢を整えた。

地面に転がった僕は、そのままの勢いで転がって距離をとる。前回の賊の時もそうだったが、この笛を吹いた瞬間から、状況は一気にこちらに有利になる。

敵にすればタイムリミットが設定されて、引くかとどまるかの判断も難しくなる。地の利は明確だ。

だが、当然だが僕に自分が有利という気持ちはない。一刻も早く、コボル警備長を治療しなければならない。タイムリミットは、僕にも迫っている。

そんな中で、僕にできる選択肢は少なかった。

逃げれば、コボル警備長の身が一層危険になる。戦えば、素手で相手に挑むことになる。つまり、つかず離れず距離をとって、コボル警備長の身を守るしかない。敵も当然それには気づいていて、ためらうことなく駆け寄ってくる。


数歩、間がある。その間に、僕はもう一度相手を観察する。刃物は持っていないようだ。革の手袋は、糸で手を傷つけないためのものだろう。走る速度がやけに早いのは、脚部にマナが集まっているためか。はやる気持ちを抑えながら、呼吸を整える。

落ち着け。僕は、剣精に守備を習っている。落ち着いて防御に徹すれば、かわせる。

守備と言っても、基礎にも至っていない目を慣らす程度の訓練だったが、剣精に教わったという自信は大きい。

姿勢を低くして、脚にマナを溜める。


正面にいたはずの敵の姿が消える。だが、今度は目が逃さなかった。上だ。僕の頭上を、飛び越えようとしているのだ。

刹那の間に、僕は思い出す。さっきの攻撃では、この後に糸につかまった。つまり、この瞬間に敵は糸を投げている。そして、この後に宙づりになるということは・・・。

脳内に閃光が走り、僕は咄嗟に伏せた。重力に遊ぶ前髪に、糸が振れる感触がする。


「解けた・・・」


喜びはないが、思わず声が出た。敵のアーツを破ったということに、自分でも驚いている。

果たして、糸使いがアーツ以外に決め手を持っているのだろうか。素手の僕で勝てるとは思えないが、負けの可能性も低くなった。

【名称】?

【発案者】?

【分類】技

【マナ使用部位】脚部(相手をとらえてからは、肩と腕)

【難易度】中

【使用条件】地面が安定していること

【解説】

脚部にマナを溜め、前方宙返りで相手の頭上を超える。この際に、糸を放つ。

相手の胸元から首へ、上るように糸が締り、相手の背後に着地すると同時に地蔵背負いの体勢になる。

(地蔵背負いとは、背中合わせに相手の首をひも状のもので絞め、そのまま担ぎ上げて絞め殺す技である)

さらに、腕と肩にマナを使い、相手を宙づりにすることで首の骨折を試みる。

糸が見えづらい夜間に、特に有効なアーツ。

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