7-9
「夜勤が始まっている時間だが・・・レイル、今日は早めに出勤したから、剣精に例の件を伝えたら、あがっていいぞ」
「わかりました」
「夜道には気を付けて帰れよ」
「はい」
まるで子供扱いだ。神殿への方向と、SSLへの道は途中まで同じだったので、会話をしながら一緒に歩く。
「そういえば、あの人たちは剣精のことを変わった呼び方で読んでいましたね」
「ん? ん、うむ・・・そうだな・・・」
「血塗られた宝石とか・・・あんなあだ名があったんですね」
「異名ってやつだな。・・・まぁ、ああいうのは、本人が好む、好まないに関係なくつけられるからな・・・」
「コボル警備長も、そういうのあったんですか?」
「・・・」
「・・・」
コボル警備長は、鼻の頭をかいたまま、返事をしない。
「警備長・・・?」
「まぁ、ジャヴとかに言われるよりマシか・・・」
コボル警備長は、ふぅ、と、ため息をつく。なにやら、覚悟を決めたようだ。
「俺の異名は、『剣鬼』だ。シンプルなところだけは、気に入っている」
「剣鬼・・・」
「まぁ、その、自分でつけたんじゃないことだけは、わかってくれ」
「はい。でも、どうして鬼ってついたんですか?」
「まぁ、昔は少し血気盛んだったから・・・うん・・・」
鼻の頭を掻く速度が、心なしか上がっている。
「そうだったんですか。想像つかないです」
「う、うむ。ちなみに、剣精の異名は一つじゃないぞ。リヴァーメイカーとか、スコップブレイカーとか、色々ある」
「へぇ・・・」
話題をそらしたな、と思いながら、僕は相槌を打つ。
「特に決まりはないからな。みんな、上手いこと言いたがってるんだ」
「そんなものですか」
「剣精は、気に入っているのかどうかわからんが、俺は少し恥ずかしいな・・・」
それが、本心だろう。僕は、コボル警備長の、警備長の仮面の内側を見ることができた気がして、うれしくなった。
「ははは・・・」
「おい、何を笑っているんだ。というか、お前が笑うのは珍しいな」
僕とコボル警備長が歩きながら話をしていて、まばらだった人影が、ふと途絶えたころ。
男が一人、反対方向からこちら側へ歩いていた。特に目立つことのない、よれたコートを着て、鞄を持って、手袋をしていた。それくらいの記憶しかない。
無意識に手元を見ていたはずだが、確かに無手だったと思う。コボル警備長が警戒をしなかったのが、僕の確証を強くする。・・・あるいは、警戒をしていても、間に合わなかったのかもしれない。
僕がコボル警備長から目線を前に戻すと、いつの間にかその男を見失った。鞄だけが、地面に置かれている。反射的に、周囲を確認するが、見当たらない。
強い警戒心は、まだ起きていない。
「レイル」
コボル警備長に呼ばれて、振り返る。
コボル警備長が、宙に浮いている。いや、男が、コボル警備長を背負っている。
いつの間に、どんな方法で、後ろに回ったのか。
「に・・・げ」
コボル警備長の手は、必死に自身の首を掻「ベキッと音がした」く。・・・が、すぐに力なく落ちた。




