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それから、場は一気に沈静化した。スクル王子がスタンスをとった以上、その流れを覆そうとする人はいない。
発言はなくなり、沈黙だけが続く場を閉じようとしたのは、カール少佐だった。白髭の男に、それとなく話を振る。
「それでは、今回は・・・」
「うむ・・・コボル警備長、レイル、下がりたまえ」
一礼をして、部屋からようとする。戸を開ける前に振り替えると、スクル王子と目が合った。にっこりと笑って手を振る王子に、もう一度頭を下げる。
議会の面々は明らかに居心地が悪そうなのだが、王子が起立していないので先に立つわけにはいかないようだ。固く握った手に、本当は、目的が瓦解した集団に数秒でもいたくないという意思が垣間見える。
僕は、見たくないものに蓋をするように、戸を閉める。
コボル警備長は、首に手を当てている。僕と同じで、肩が凝ったらしい。一緒に王城の廊下を歩く間、僕は色々と聞きたいことがあったのを、思い出していた。だが、王城内ではそれもやめておいた方が無難だろう。
「やあ、お疲れ様」
さっきまで部屋にいたはずの王子が、廊下の角から飛び出してきた。
「うわ!」
「お、王子、どうやって・・・」
「はっはっは。ここは、僕の家だよ。抜け道くらい知っているさ」
ひょうひょうとした態度だが、護衛もつけずに急いで走ってきたようだ。
コボル警備長が、頭を下げる。
「・・・今日は、ありがとうございました」
「何、道楽王子の酔狂にのっとっただけさ。才能ある人間がくだらないことで潰されるのは、好きじゃない」
王子は大したことがないと言いたげな顔で、手を振った。
笑顔の風味が消えると、王子は神妙な面持ちで、コボル警備長の方を向く。
「それに、君への詫びも兼ねている」
「・・・もし、私が考えている話なら・・・古い話です」
「王族には、貸しの概念がないと思ったか?」
「いえ・・・」
「くだらない場だったが、出たことで少し肩が軽くなった・・・。レイル、君も頑張れ。名をあげたら、また会うこともあるだろう」
「はい」
「その時は、手合わせも願おうか」
「手合わせ・・・ですか!?」
「おや、聞いていないのか。私はそこそこ強いんだぞ」
そう言って、剣をふるう真似をする。風を切る所作は、素手とはいえ迫力があった。確かに洗練されている。
「・・・それじゃ、気を付けて帰りたまえ。レイル、王宮の件は、剣精の機嫌を損ねないように、お願いしてくれよ」
「はい」
王子と別れた後は、『軍人に呼び止められたくない』というコボル警備長の言葉に従い、急いで城を後にした。僕の最初の登城は、あまり後味のいいものではなかった。
城からSSLに戻る道は、すっかり暗くなっていた。
周りに人がいないことを確認して、コボル警備長は口を開く。
「私が親衛隊に勧誘を受けたことは、話したな」
「はい」
「その勧誘をした人物というのが、スクル王子だ。当時は、まだほんの子供だったがな」
「・・・」
僕は、言葉の続きを待つ。
「一介の兵士が、王族の勧誘を断るとは何事か、ということで、一時問題になったことがある。それから、色々あって、私はSSLに入ったんだが、それからも色々と些末な嫌がらせがあったりしてな・・・。王子が言っていた詫びとは、それのことだろう」
「そんなことが・・・」
「あの方も、大変なんだ。武術全般が好きなようだが・・・家の話もあるから、そればかりやっているわけにも、いかないのだろう。ただ、強いってのは本当だぞ。並みの武器番じゃ、まず後れを取らないはずだ」




