SSL -6
「うおおお」
雄たけびのような声と、ドタドタとした足音が聞こえてくる。
「あ、ジャヴもきたし、私は戻るね。レイル君、気を付けてね」
そういうと、ララベルさんは壁を三角飛びで蹴り上げて屋根まで上り、そのまま屋根の上を持ち場までかけていった。
「気に入られている、みたいだな・・・」
事実ではあるものの、僕は返答に困る。
「とりあえず、実際の動きはわかったと思う。今回は迅速に駆けつけてくれたが、何らかのトラブルで到着が遅れることは、よくある。その場をしのぐのが、笛番の難しいところだな」
「はい」
「ゼェ、ハァ。レイル、ディランのおっさん、笛、笛吹いたか?」
「あぁ、済だ。そういえば、ララベルは解決の笛を吹いてなかったな。ジャヴ、頼む」
「え、ちょっと、まって・・・息が・・・」
「いくぞ」
ディランさんと、顔を真っ赤にしたジャヴさんが同時に長い笛を吹いて、この件は終了となる。これが、解決の合図だ。
同時に笛が吹かれてわかったのだが、武器組と笛組では若干音色が異なる。よく聞き分ければ、どっちが笛を吹いたかがわかるだろう。
「・・・ハァ、ハァ、で、なんだったんだ?」
「あぁ、酔っ払いの喧嘩だよ。ララベルが脅しを入れて、すぐに解決さ」
「えー。なんなのさ、もう・・・」
ジャヴさんはぶつぶつ言いながら、帰っていった。
結局、その日はこの一件以外、平和なものだった。主な活動はパトロールと雑用で、飛んで行った洗濯物を追いかけたり、お年寄りの代わりに荷車を引いたりと、笛を吹くようなことのない穏やかな内容のものだった。僕はディランさんから昼飯をおごってもらったり、首都についての色々な情報を教わったりした。
やがて、日が傾き始めたころ、例の大きな葉っぱを持った男が現れた。
「お疲れ様です」
「おう。どうだ?」
連絡係がくると、ディランさんと話はじめた。もう間もなく、交代の時間だ。
「どこも異常はないそうだ。夜勤がきたら、交代だな」
「はい」
「夜勤は人数が減るから、交代しないで直帰のところもある。この辺りは、比較的警備が固いから、夜勤を待とう」
夕刻の鐘が鳴る。そこかしこから、仕事が終った歓声があがる。
「何かをたくらむやつがいるとすれば、勤務が交代するこの時間が一番危険だからな。気を抜くな」
「なるほど・・・」
ディランさんは露店で買ったレモネードを僕に差し出した。ほんのりと甘いはちみつと果汁の酸味が疲れた体に染み渡る。
「後は、何か気づいたところがあれば、夜勤に報告して終わりだ。何か、あるか?」
「うーん・・・特には、思いつかないです」
まず、都会に慣れていないのに、その中から違和感を見つけるというのは、難しい。
無理に何かを言って、見当違いのことを指摘してもしょうがない。
「今日は初日だからな。慣れてくれば、細かい変化や怪しい人間に気づくようになる。他の人の報告を聞いて、どこが怪しかったか、聞くといい」
「はい」
大きなトラブルはなかったとはいえ、、最初の任務は緊張続きで、業務が終わりSSLの事務局に戻るときには、肉体的な疲れとは別にへとへとになっていた。やがて、交代の夜勤が眠たそうな顔をして出勤してきた。
「お疲れーっす」
「おう」
朝の時も見た気がする。背はそれほど低くなく、ディランさんが隣に立っているせいか、線が細く見える。かなり若い男だが、腰につけたサーベルは使い込んだものだ。武器組の人間だろうか。
「君が噂のレイル君ね、よろしくー」
「どうも、はじめまして」
噂のというところが引っ掛かったが、見え透いた釣り針のようにも思えて、触れないでいた。
「俺はラストっていうんだ。アーツ・ホルダー」
「えっ」
そういえば、SSLにアーツ・ホルダーが一人いると聞いた。このラストさんが、そうなのだろうか。
「・・・に、一番近いといわれてる男だよ」
「初耳だな」
へっへっへと、ラストさんは軽い感じで笑う。
「レイル君は、強いのかい? よかったら、今度手合わせしようよ」
「いえ、この間ボロボロになりまして、しばらく修行を積もうと思ってます」
「・・・ふーん」
頭の後ろで手を組んだまま、ラストさんは僕を値踏みするように見る。剣精に稽古をつけてもらうとはいえ、まだまだ今の僕は素人同然だ。今朝のララベルさんの動きを見ても、かなりの練度だった。
ラストさんがあのレベルだとしたら、相手になるとは思えない。




