SSL -5
言われたとおりに三度笛を吹くと、思っていたよりずっと大きな音が町中に鳴り響いた。群衆も、僕たちに気が付いたようだ。まず変化があったのが、喧嘩をしている当人たちだった。
「今のは・・・」
「SSLか?」
強面の二人がそろって手を止めて僕を見る。すかさず、ディランさんが一歩前に出る。
「ほらほら、喧嘩はそこまでだ。これ以上手間がかかるなら、連行することになるぞ」
「ぐ・・」
「仕方ねぇか・・・」
「ほら、立ち上がって握手しろ」
「チッ」
渋々ながらも、二人の男が握手を取り交わそうとした、その時。
「レイル君んんん」
ザクッ
黒い直線が地面に突き刺さり、和解に差し出した双方の手を、一本の槍が隔てる。
「大丈夫だった!?」
頭上から声が聞こえたと思ったら、ララベルさんだった。片手で槍につかまったまま、足は宙に浮いたような状態で体勢を保持している。驚いた周辺の様子を意に介することなく、僕の方を見ている。
僕は空を見上げた。ララベルさんは、屋根の上を走ってここまできて、屋根から飛び降りて槍を地面に突き立てたのか。ものすごい行動力だ。
「任務が始まって時間も大して経ってないのに、レイル君の担当するところから笛が聞こえたから、びっくりしたよ!」
明らかに周囲の人間の方が度肝を抜かれているのだが、言わないでおいた。
「ララベル、気合い入りすぎだろ・・・」
ディランさんが、半ば呆れたようにつぶやく。
「今回のは、ちょっとした練習みたいなもんだ。通常の三回笛だったし、こんなに急いで来なくても・・・」
「何言ってるの。何かあってからじゃ遅いでしょ!」
「そのために、俺がペアで組んでいるんだろ」
ディランさんと言い合っている間も、ララベルさんは片手で槍につかまったまま微動だにしない。自然な様子で、地面に刺さった槍につかまったまま足を浮かせている。取っ組み合いの喧嘩をしていた二人は、握手の対象が突如として槍になったのを見て、何か超常のものを見た気分になったのだろうか、こそこそと退散しようとした。
「そこの二人」
ララベルさんは視線を合わせないで、男二人を呼び止める。
「あっ、はい!」
「レイル君の勤務中に何か問題を起こしたら・・・」
そういって、ララベルさんは、槍を短く持った。
「こうなるわよ」
高速で槍を操ると、やじうまの持っているバスケットから葡萄の粒を二つ、空中に浮かせた。皆の視線が、頭上の葡萄に集まる。
腰を低く落とし、頭上の目測を取ると、一度だけ槍を走らせる。すると・・・葡萄の粒が、切っ先に並んで貫かれていた。酔っ払い二人は、それが何を意味するのかを即座に悟ったようで、もつれた足で逃げ出していった。
「ふん」
つまらなそうな顔で槍から葡萄を払うと、地面に落ちた葡萄を柄の部分でつぶす。群衆から、ひっという声が上がる。
「過保護すぎだろ・・・」
ディランさんが、つぶやく。僕も、そう思う。




