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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第四章 SSL
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32/200

SSL -4

解呪の聖堂を見るのは初めてだった。そこかしこに軍人がいるほか、ガラの悪そうな輩や、呪いに蝕まれて苦しそうな病人など、色々な人が解呪に肖ろうとしていた。


「・・・」

「・・・」


SSL本部とは打って変わって、僕とディランさんの間には会話がなくなった。先を行くディランさんは、特に何をするわけでもなく、決まったコースを歩いているようだ。

ちょっと間が持たないので、僕の方から話しかけることにした。


「解呪の聖堂は随分古い建物ですね」

「ああ、入口を見てみろ。天井が低いだろう。立て替える案もあるんだが、あまり進まないな」

「天井ですか。そういわれてみれば・・・」


父より多少は世俗に詳しい母親から、「古い時代の建物は背が低い」と聞いたことがある。街にあまり出たことのない子供の時に聞いたので、その時は実感を伴わなかったが、この聖堂がそうなのだろう。剣精のいる神殿などは規格外に古いので、例外ということだろうか。


「ディランさんは、武器番を目指さないんですか?」

「ん? ああ、俺はSSLをやめたら、やりたいことがあるからな。給料は上がらなくても、笛番でコツコツやっていきたいのさ」

「なるほど・・・そういう人もいるんですね」

「いざっていう時は、こいつを使うが・・・そんな機会がないことを祈ってるよ」


そう言って、腰に下げたナイフを指さした。僕の持っている多目的なナイフと違い、対人戦闘用の細く長い刃のようだ。


「俺の意見としては、生き延びるのが一番大事だよ。だから、あまり無茶するなよ」

「・・・」


理屈としては、十分にわかる言葉だったが、大黒猿に殺されそうになった後では、その言葉が胸の中を素通りしていく。僕は、今、安全なところにいる。だから、安全なうちに危険に備える。今は、次の戦いの準備期間・・・いつの間にか、そんな考え方になっている自分に気が付いた。山に戻るつもりはないが、いつか再び、僕には死闘が待っている気がする。

今は、その準備期間だという観念が、頭から離れない。

そこへ、男が飛び出してきた。


「ああ、よかった! SSLの人!」


身なりからして、裕福な商人のようだ。十分に肥えた体格で、息も絶え絶え僕たちに話しかけてきた。手には、高そうな皿をかかえている。いかにも、とばっちりを避けて避難してきたという恰好だ。


「大変なんだ。向こうで喧嘩が始まったんだよ」


そういうと、ぺたんと座り込む。体力の限界のようで、肩で息をしている。

僕とディランさんは、目を合わせて頷く。


「よし行くぞ、レイル」

「はい」


ごったがえす野次馬の山を描き分けながら、僕はディランさんに肝心なことを聞くのを思い出した。


「こういう場合って、笛を鳴らすんですか?」

「それを確かめるために、駆けつけてるんだ! くそ! ちょっとどいてくれ! SSLだ!」


人垣の向こうでは、やっちまえだの、だの、雪山に埋めちまえだの、血気にあふれた声が聞こえる。興奮した群衆は僕たちに気づかず、なかなか前に進めない。


「まず、人が死にそうなら、必ず笛を吹く。強盗や一方的にやられているような状況でも、吹いていい。ただ、お互い合意のもと殴り合っているようなら、微妙なところだ。可能ならその場で止めてもいいし、笛を吹いてもいい」


説明をしながら道を作るディランさんは、すでに白い笛を手に持っている。

やっとのことで現場に到着すると、二人の男が地面を転がっていた。二人とも、背には溶けかけの雪がついて茶色くなっている。


「どうしましょう」

「うーん・・・ただのケンカだな。正解は、どちらでもいい、だ。だが、いい機会だから笛を吹いてみろ」

「はい。通常の応援要請ですから、この場合は三回吹くんですね」

「そうだ。長いと緊急事態の合図になってしまうから、リズムよく吹いてみろ。ピッピッピだ」

「わかりました」

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