SSL -3
「まず最初に、私の隊に新人が入った。レイル君だ」
コボル警備長が片手をあげて起立を促す。僕は立ち上がって礼をする。
「レイルです。山の民の者でしたが、訳あってお世話になります」
まばらな拍手が起こり、もう一度礼をして着席する。特に注目されている様子はない。おそらく、コボル隊以外は僕のことを知らされていないのだろう。
「しばらくは、ディランと組ませる。首都にはまだ不慣れだが、真面目な性格なのですぐに慣れるだろう。困っているようなら、助けてやってくれ。さて、夜勤からは何かあるか」
コボル警備長は、隣に立っている男に声をかけた。男は、手持ちの大きな葉っぱを見る。硬質な葉の裏側に、いくつかの文字が引っ掻いたように描いてある。連絡事項をあれに書いてあるのだろう。
「特筆することはありません。門番からも異常や怪しい人の流れは報告されていません」
「この間報告されていた、異臭の続報は?」
「担当地区の人間から続報はありません。不明です」
「相談は続いているんだ。市民に説明できないようだと困る。引き続き警戒を続け、気が付いたところがあれば報告してくれ」
「・・・わかりました。各位、8-2の宿場近辺の異臭については、必ず引継ぎに入れてください」
慌てて、地図で該当箇所を確認する。僕が今日担当する場所ではなさそうだ。
「ほかになければ、準備ができ次第、出発すること。以上だ」
場が開けて、皆がめいめいに準備を始める。緊張が解け、雑談が飛び交うと、SSLの本部内は酒場のような喧噪になった。
「後は、夜勤が待っている場所へ行って交代だ。わからないところはあったか?」
ディランさんが、カバンの中を入念にチェックしながら僕に声をかける
「あの人は、夜勤者じゃないんですか?」
僕は、こっそりとコボル警備長の隣に立っていた人を指す。
「ん? なぜだ?」
「夜勤と場所を交代するのに、あの人がここにいるのは、何故だろうと思いました」
「ああ、夜勤だが、昼勤の人間に引き継ぐため、夜勤の人間の情報を集めて報告をする、連絡係だな。一足先に夜勤から情報を集めて、昼勤に伝えるんだ」
「なるほど」
葉っぱは、やはり連絡事項を書くもののようだ。
「連絡係には、字が読み書きできないと、なれないぞ。SSLには、戦闘が大得意ってやつは少ない。だが、こうして連絡を取り合うことで、死者や怪我人の数を減らしているんだ。ちょっとしたことでも、他のだれかの役に立つ情報かもしれないから、積極的に報告をするんだぞ」
「はい」
「やってるやってる。ディランのおっさんは真面目だねー」
ジャヴさんが、手斧を担いで出勤する。ララベルさんも、その後を追う。同じ隊の人間は、行き先も同じ方向のようだ。
「お前と違って、素直で伸びしろがありそうだから教え甲斐があるな。俺たちも、すぐ後を追うから、先に行っててくれ」
「へーい」
とは言ったものの、ディランさんの話は終わらず、担当地区の見方、緊急時の駆け込み先、怪我が出た時の対処法などを次から次へと教えてくれた。
「よし、次に、腹を壊したときにどうするかだが・・・」
「あの・・・ディランさん、」
「ん? どうした」
「僕たち以外、全員出発したみたいですけど・・・」
「おお! しまったな。夜勤の連中に怒られるぞ。それじゃ、続きは勤務中にしよう」
「はい」
ディランさんと僕は、赤い腕章をつけると、荷物を手にする。SSL本部の門扉をくぐると、駆け足で担当地区へ向かった。
「気を付けていってこいよ」
後ろから、コボル警備長の声がかかった。僕は振り返って、頭を下げた。
「この近辺が、俺たちの担当だ。一日に数回、勤務地区をパトロールする。途中で休憩をしてもいいし、飯も自由に食っていいが、住民に何か頼まれたら、緊急時以外は対応すること」
僕たちが担当する場所は、解呪士が勤務する聖堂のそばだった。多くの貨物や食品がひっきりなしに運び込まれ、世界中へ流通していく場所だけに、SSL以外にも警備の軍人の姿がよく目立つ。




