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第六話 暴かれた真実(7)

 あずまは、サイロ内の桃夏を助けるべく、ワイヤーを必死に掴んでいた。

 しかし如何いかんせん、金光に銃で狙われている。これでは、絶好の標的だ! 何とか反撃しなければ……

 とはいえ、今の彼は、ワイヤーを引き上げるのに両手が塞がり、そのうえ酷い傷を負った体では、桃夏を支えるだけで既に限界が来ていた。それでも、仮の話として、銃を抜くために片手を放そうとしたなら……やはり、無理か! 支えきれず、桃夏が炎に覆われる可能性が高い。明らかに、この場で拳銃を使うのは不可能に思えた。……ならば、どうやってこの危機を乗り切れというのだ? 東は、心底迷った!

 そうしたところ、唐突に金光の声が、聞こえてきた。

「お前ら2人とも、あの世に送ってくれるわ」と。その顔に、容赦など微塵も見せることなく言い放った。かくして、万策尽きたよう! まさに今、彼らは死の淵に立たされた訳だ。

 そして奴は、東を睨んだ後、遂に引き金を……引いた?

――壮絶な銃声が鳴った!――

 ただちに東は、目を伏せ衝撃に耐える。死んでもワイヤーは放すまいと思いながら!

 ところが……むむっ? 何の感触も得なかった。全く、弾丸を受けていないようだ。……何が起こったというのだ?

 彼は疑問に思い、すかさず奴を覗き見た。

 すると、金光は驚いた様子で立ち尽くし、あらぬ方向を一心に見つめていた。それなら、その視線の先には何が……

 むっ! よもや、その場にいたのは――仮面男、厳鬼だ!――

 しかも、あろうことか、仮面男は金光に銃口を向けていた。とすると、今の銃声は、厳鬼が金光の銃を弾き飛ばした音だったのか?

「父さん、止めろ」加えて、その男の口から真実までも語られようとしていた。「姉さんは殺させない!」と予想だにしない言葉さえも口にして。

 一方、その間に、桃夏の方は東によって甲板まで引き上げられたのだが、何故か今度は、彼女の方が異常なほどの焦慮しょうりょを示し始めた。たぶん男の言葉を聞いたせいだろう。「姉さん?……」という言葉をオウム返ししてから、男を直視して「も、もう一度、姉さん……てっ?」と取り乱したように詰め寄っていた。

 よってこうなったうえは、仮面男も腹をくくるしかないと考えたに違いない。彼女の要望に応えるかのごとく、ゆっくりと仮面を取っていた。

 そうして、現れ出でたその顔は……紛れもなく桃夏似の青年だった!

 途端に、桃夏の切迫した声が聞こえてきた。

「お、お前は……もしかして冬雄?」と震える手で男を指差しつつ、尋ねたのだ。

 対する男は、ただ頷くばかり。

――いかにも、厳鬼の正体は、桃夏の実弟、冬雄だった!――

 とうとうその素性が知れた……

 けれど、桃夏にとっては、全く納得いかない話だったのであろう、彼女の泣き叫ぶ声が辺りに響き渡った。

「何で? 冬雄! 私はずっと、あなたを探していたのよ。そんな、仮面男だなんて……。それも、どうして……どうして金光なんかの手先になっているのよー!」と。

 その悲痛な訴えには、冬雄も顔を曇らせる。とはいえ、彼にもそれなりの理由があったことは明白だ。これまでの経緯いきさつを淡々と説明し始めた。

「姉さん、俺は3歳の時、姉さんと同じ児童施設にいたのを覚えているだろ。あれからすぐ、俺はもらわれていったんだよ、この金光権郎の所へ。そうさ、金光の養子になったんだ。その時から俺は、金光冬雄として何不自由なく生きてこれたのさ。欲しい物は何でも与えられて育った訳だよ、父さんのお陰でね。……俺は、父さんには恩があるんだよ!」

「何を、言っている……。お前は全然分かっていない、私たちの両親はこいつに殺されたのよ。こいつは仇じゃないのッ!」

「そうかもしれない。しかし、それは俺が3歳の時のこと、実の両親の記憶なんかほとんどないのさ。あるのは、この金光との記憶だけだ。意外かもしれないが、子供の頃の父さんは本当に優しくて、俺には良い親だったんだ。だから……父さんは姉さんが死んだと言っていたが、それは最初から嘘だと思っていたけど……俺は姉さんのことを忘れて、金光に従おうと決めたんだ。敵対する悪党どもをあやめようとも、その指令に服従したのさ!」

「冬雄……ううっ、うううっ」

「だけど、もう終わりだ。姉さんだけは死なせない! いいか、金光権郎」そう言った後、冬雄は金光へ迫っていった。結局、彼も人の子であろう、これ以上の殺戮、特に肉親の死を見過ごせなかったようだ。

 片や金光は、彼の剣幕を前にして、慌てた仕草で後ろへジリジリと下がり、

「止めろ、冬雄、落ち着け! わしは上から命令を果たしただけだ」と必死に言い分けを語った。が、冬雄の方は承知しないと見える。今にも飛びかろうとしていた。流石にその迫力を目の当たりにしては、奴も説得は無理だと感じたのか、今度は東に向かって「おい、東! 助けろ。お前は警官だろうが」と助けを求めてきた。

 だが、「…………」東は無言で返すのみ。全く相手にしなかった。

 その等閑なおざりな態度で、さらに奴は切羽詰まったみたいだ。我を忘れたかのように、

「いいだろう、わしを見殺しにしろ。しかしなあ、わしが死んでも何も変わらんぞ。お前ら日本人はもう助からんのだ。例え二度にわたるミサイル攻撃が失敗しようとも、我が帝国のミッションは着々と進んでいるわ。日本中にいる同胞のスリーパーが、経済、電力、資産、全てのポストを押さえ、じわじわとお前たちの社会環境を支配し占領していく予定だ。馬鹿な日本人は、知らぬ間に帝国のしもべとなっている運命よ。くわっはははは……わははははは」と言い切っていた。


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