表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/17

第六話 暴かれた真実(4)

      3 思わぬ味方


 船内の奥底へと向かう、3つの影があった。

 加えてそれらの中に、鉄柵で囲まれた狭い階段を無抵抗な状態で引きられている者もいた。手足を縛られたうえに、屈強な男たちによって両脇を支えられながら進むその姿は……あずまだ! どうやら彼は、どこかへ運ばれている様子だ。

 それにしても、東がこれほど酷い有様になるとは、今まで誰も想像しなかったであろう。背中は血で染まり、目を伏せた顔には生気がなく、一見しただけでかなりの深手を負っていると感じられた。然しもの東も、これでは到底反撃などできはしない……いいや、それどころか早急な手当てさえ必要な状況だ。このまま放って置くと命に関わる。今度という今度は、本当に彼の終焉かもしれない!

「おおっと、着いたようだな」するとここで、1人の子分が口を開いた。奴らはちょうど船底の潜水艦ドックまで来ていた。タンカーの最下階に造られた、外の海と繋がっていて往来できる小さなプールだ。側には、小型潜水艦も船内に引き上げられ鎮座している。

 続いて子分たちは、そのプールの縁に東を無造作に置いてから、

「さあ、この場からこいつの足に錘をつけて投げ込めば、海の底でくたばるという寸法だ。名うてのタフガイもこれまでよ」と言って笑った。

……何ということだ。つまり奴らは、東が重症にも拘らず、さらに追い打ちをかけて溺死させようというのだ。今の彼では、どう考えてもあらがえはしない、海の中へなど放り込まれたなら、まさに死あるのみ、助かる見込みはゼロに等しい!

 どうするのだ? 東よ!……と、ある男が思い迷っていた。――当初から具に東の様子を窺っていたのは、この男である――子分どもの悪行を好ましくないと思い、鉄柱に身を潜めてひたすら待機していたのだ。とはいえ、次に為すべきことは決まっている、気持ちが揺らぐはずもなかった。そのため、男は再び子分たちの動きに注意を払う。

 早速、子分たちが務めを果たそうとする態を目にした。東の顔に容赦なく布袋を被せたみたいだ。――遂にその時が来たか! 東は微動だにもせず運命を受容するかのよう――。そして、2人がかりで彼を大きく持ち上げ……真っ直にプールへ落とした?

〈うっ!〉だが、突如2度の打撃音が辺りに響く。それと同時に転倒する音も聞こえた。

 奴らの、思いがけない影を捉えた瞳だけが、真実を物語っていたに相違ない!


 タンカーの中段部に位置する弾道ミサイルの制御装置の前には、多くの作業員が群がっていた。彼らはカウントダウンの準備を黙々と進め、すぐにでもミサイルの発射ができるように整えていたのだ。

 次いで、その最上階の甲板では、

「東の奴にプログラムシステムを破壊されたが、どうにか修復完了だ。わしらの技術者を甘く見よって。さーて、これでやっとお前ともお別れだ。良かったじゃないか、最愛の両親の元へ行けるんだからな」と話す、金光の姿が見えた。3人の部下によって身柄を拘束された桃夏を相手に、息巻いている。あれから彼女の方も、有無を言わせずタンカー前部の甲板へ連れて来られていた。

 そしてちょうど足元には、直径3メートルの発射口も存在していた。深さ15メートルもあるミサイルのサイロだ。それが既に大口を開け、発射体勢に移っていた。しかも桃夏は、その穴の縁に沿って設置された鉄柵――高さ1メートルの落下防止用とされる囲い――の手摺へ、両手首を縄抜けできないほど厳重に縛られたうえで繋がれていた。もうどこにも逃げられはしない。……となれば、このポジションにいる限り、彼女の命は風前の灯火か? ミサイルが掠め飛んだ時に、ロケット噴射の炎を諸に受けて、忽ち焼け死ぬという訳だ。それを金光は考慮して、まるでショーを開催すかのごとく仕組んだのだろう。何とも残忍極まりない奴め!

 桃夏は、そんな中年を終始黙って睨みつけていた。だが、もう時間がないことも認識している。

 ミサイルの発射が、刻々と迫っていたのだ!


「……ううっ、ここは、どこだ? 全く見当もつかない、何が起こったというのだ?」と突然、意識を取り戻した。とはいえ、目も頭も霞んで周りの状況をはっきりと把握できないでいた。何故だと彼は戸惑ったが、次にそれ以上の不可解なこと、自分がまだ生存しているという事実に驚かされる……まさしく、東九吾は生きていたのだ! 船底の奥まった小さな船室内と思われる場所の、枕元に医療器具が並べられたベッドの上で、うつ伏せに寝かされていた。

「すまなかった……」そこに、見知らぬ声までも聞こえてきた。

 これには、東も――うっ? 誰かいるのか? どうやらこの人物によって救われた? ただそうは言っても、敵の巣窟にいるはず、いったいどうなっている?――と理解に苦しんだ。とはいえ、何となく見覚えがある顔で熱心に介抱してくれる男を間近にしていたため、一旦ここは無条件に感謝した。

 続いてその男は、「麻酔でもうろうとするだろうが、答えてくれ。あの女の名が知りたいんだ……」と訊いてきた。

 東は、勿論事情を知り得ない、それでも女と尋ねられたので、「桃夏さんのことか? 彼女は、花崎桃夏」と返答した。

 するとそれを聞いた途端、男はうな垂れて、本当に悔いるような顔つきになったかと思えば、

「気づかなかった! お前のおかげで……助かったよ」と神妙な面持ちで語った。

 はて? この男は、いったい誰なんだ?

――そう思った途端、また闇の中へ――


「……むっ!」東は、咄嗟に飛び起きた。それと同時に、急いで周りを隈なく見渡す。何とか今回の目覚めは、意識も体もしっかりしているようだ。

 そして……案の定、紛れもなく船底の小部屋にいると認識した。室内のベッドに、たった1人で横たわっていたのだ。だが、先ほどと異なることもあった。

「今の男、どこだ?」あの人物がいない。どこを見渡しても、誰の気配もなかった。あれは、夢だったのだろうか?……

 否、そうではない、確りと傷の手当がされていた。弾を取り出し縫合され、痛み止めが打たれたうえに肩と胸を覆うプロテクターも装着されていた。これならほぼ4割、並みの兵士ぐらいの戦闘能力はある。しかも驚くなかれ、ふっとベッドの脇のテーブルを垣間見ると、彼の七つ道具や着替えの黒いスーツとともに、まさか……拳銃さえも置かれているではないか。 

 どういうことだ? 東は目を見張る。されど、この機会を見逃す手はない。考えるまでもなく、すぐさま道具を身に付けた。それから、時計に装備されている無線測位発信スイッチを入れ直す。――今まで奴らの探知を警戒して、発信機を切っていたのだ――。

 そうして後は、拳銃を手にするだけ……。だがこの時、東は銃の下にメモらしき物が挟まれていることに気づく。そこで、何だろうかと視線を向けたところ、何やら殴り書きされた文字が見えた。

『桃夏、甲板へ』

「……ふむっ?」全くもって用意周到なお膳立てだ。ここまでされると東も首を捻るしかない。もしや、全て仕掛けられた罠ではないのか? と一瞬疑ってはみたものの、東に対する扱いを鑑みたなら、桃夏を救えと語っていることは明らかに思えた。

 やはり誰かが意図して、自分に託したのではないのか?

 ならば……怖気おじける必要などないのだ!

 彼は、そう確信した後、気概も新たに決戦の地へと赴くのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ