第3話 虐げられし者たち
村中に転がる焼死体。
鼻を突く焦げ臭さ。
地面を染める血。
「......。」
言葉が出なかった。
胃の奥から何かが登ってくるのを必死に抑える。
「一体ここで何があったんだ。」
木の上に建てられた家屋は焼け落ち、
地面には焼け焦げた死体と何かで切り付けられた死体があった。
「この切り傷...剣か何かでやられたものか?」
「ってことは動物やモンスターじゃなく、『人間』の仕業...。」
その時、また脳裏に映像が流れてきた。
笑みを浮かべる兵士たち。
悲鳴を上げ逃げ惑う人々。
目の前で奪われる命。
"やめろ..."
声は届かない。
"やめろ..."
手を伸ばしても届かない。
"やめろぉぉおおお!!!"
怒りだけが膨れ上がる。
その瞬間、現実に戻された。
現状とは別の状況。
別の場所。
見たことのない光景が見えていた。
「また...記憶...か。」
形容し難い怒りが込み上げてくる。
息は荒く、身体中の血が煮え繰り返っているのがわかる。
「でも、一体誰の...。」
そう呟く中、一つの死体が目に入った。
焼け焦げているため原形はわかならかったが
まだ年端もいかぬであろう子供だった。
「こんな小さな子まで。」
視線を逸らした。
だが。
その姿が脳裏から離れない。
なんとも言葉にし難い現状に拳を強く握りしめるほかなかった。
「とりあえず、見える範囲で埋葬してあげよう。」
残った家屋からシャベルを借り、
中央の広場に穴を掘り始めた。
なぜこんなことをしているのか。
自分でも分からない。
見ず知らずの人々だ。
それでも。
このまま放置することだけはできなかった。
何かの償いなのだろうか。
頭の中は色んな感情でグチャグチャになっていた。
そして、残る死体は一人。
先ほどの子供だった。
「......。」
「もう痛くない。」
「だから、ゆっくり休め。」
最後の埋葬を終え、
皆が健やかに眠れるようにそっと手を合わせた。
そして、魂が抜けたような脱力感でその場に座り込んだ。
自分にもわからないこの怒りと悲しみは
何に対してなのか。
記憶と何か関係あるのか。
「このままここに居続けるわけにもいかないな。」
埋葬する時にいくつか気づいたことがあった。
家屋の焼け具合と血の乾き方を見るに
まだそこまで時間はたっていなかったと思う。
となると、この惨劇を起こした奴らもまだそう遠くに入っていないはず。
それにもう一つ。
襲われた原因。
よく異世界小説なんかである種族。
「あの特徴的な耳は多分...。」
バァァアアン!!!
少し離れたところで大きな爆発音が響いた。
ーーまさか!?
無意識だった。
足が動き始めた。
音が聞こえた方へなりふり構わず走り出した。
徐々に音が近づいてくる。
爆発音。
悲鳴。
あらゆる音が混じり合い混沌としていた。
現場に着き木陰から様子を伺う。
そこには数十人の武装した男たち。
そして、長耳の者たちが追い立てられていた。
「エルフを1匹残らず逃すんじゃないぞ!」
「女だけは捕えろよ!」
「"あの人"がご所望だからな。」
そう言い放つ大男は身の丈ほどもある大剣を肩に担ぎ、
惨状を眺めながら愉快そうに笑った。
「あいつら相変わらず趣味が悪いっすねぇ。カニス隊長」
副官の男が肩を竦める。
「知るか。」
「俺たちは命令通りやるだけだ。」
「ま、報酬はいいですしね。」
副官はそう言いながら視線を村の中央へ向けた。
そこには淡い光を放つ水晶が設置されている。
「しかし便利なもんっすね。」
「魔封じの魔道具なんて。」
「あれのおかげで魔族共は牙を抜かれた獣だ。」
カニスは鼻で笑う。
「エルフなんざ本来は厄介な連中だからな。」
「確かに。」
「魔法さえ使えりゃ俺らなんか近づく前に蜂の巣っす。」
「だが今は違う。」
カニスは逃げ惑うエルフたちを見下していた。
「見ろ。」
「怯えて逃げるだけだ。」
人間たちはエルフを襲い。
家を燃やし。
村中を荒らしまわっていた。
「...っ!」
ーーこいつらか、さっきの村も襲ったのは!
人間たちから逃げ惑うエルフたちの表情は、
恐怖と憎悪と悲嘆に染まっていた。
抵抗するものは無惨に切り刻まれ、
助けを求めるものは玩具のように扱われた。
ーーなんで...こんなことをするんだ。
人間はいつだって誰かを傷つける。
弱いものから全てを奪いさる。
生活も幸せも、命さえも。
世界が変わっても。
結局、人間は変わらないのか。
人間たちは狩りをするかのように
楽しそうに笑みを浮かべていた。
そんな中、一人のエルフの子供が
地面に躓き逃げ遅れてしまった。
そして、その背後に一人の人間が
血がついた剣を片手に現れた。
「やめろ...。」
エルフの子供は恐怖のあまり、
声もも上げられずその場で震えている。
「やめろ...。」
そんな怯える子供がおかしいのか
人間の男は笑みを浮かべながら剣を振り翳した。
「やめろぉぉぉおおおお!!」
その瞬間。
胸の奥で何かが弾けた。
怒り。
憎しみ。
殺意。
様々な感情が濁流のように押し寄せてくる。
「ぁ......。」
呼吸が止まる。
世界が赤く染まっていく。
目の前の人間が許せない。
許せない。
許せない。
許せない。
そして――
意識は深い闇へと沈んだ。
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