表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第三章 竜騎士試験編
PR
70/84

共鳴する魂


 ハッと、メルナが目を覚ました。


 薄暗い洞窟——カモの隠れ家だった。

 ガラクタが山と積まれた、奇妙な空間。


 メルナは、隣に倒れているリーザスに気づく。

 顔色は、死人のように白く、呼吸も弱々しい。


「ママ!」


 メルナは、慌てて駆け寄った。


「……無駄だ。もう助からねえよ」


 カモが、冷たく言い放つ。


「背骨も逝ってる。内臓もズタボロだ。まだ息があるのが、不思議なぐらいだぜ」


 淡々とした、容赦のない宣告だった。


「くっそ、命懸けで助けたのに、最悪だ。とんだ骨折り損だぜ」


「・・・・・・!?」


 メルナの表情が、凍りつく。


 カモは、半竜化したままのメルナを、訝しげに見た。


「しっかし、あんたも不思議な存在だな。竜なのか? 人間なのか?」


「……」


「まあいい。どっちにしろ、あんたも俺とは契約できねえ。あーついてねえ。今年もお預けかよ」


 メルナは、ギリッと奥歯を噛んだ。


「ねえ……あなたも、竜なんでしょ?」


 ドオォォォォ……!

 メルナから、赤黒い魔力が噴き出した。


「ママを……助けて!」


「ひぃっ!?」


 カモが、腰を抜かす。


(なんだ、このプレッシャーは!?)


「お、おい! おっかない魔力出すな! 他の竜に見つかるだろ!」


「助けてよぉぉぉ!!」


 魔力が暴走し、周囲のガラクタが、ガタガタと震え始める。


「わ、分かった! 分かったから静まれ!」


 カモが、必死に手を振る。


「出来るだけのことはする! だからそのバカでかい魔力を、引っ込めろ!」


「……本当?」


 メルナの瞳に、少しだけ正気が戻った。


「チッ……全くなんて災難だ。とんでもねえ災難を、背負い込んじまった」


 カモは、渋々、ガラクタの山へと向かった。



   ◇


「なんか使えそうなもの、ねえかな……ゴミしかねえぞ……」


 カモは、ガラクタの山を漁りながら、ぶつぶつと独り言を呟く。


 やがて、古い木箱の中から、ドロドロに溶けた瓶を見つけた。


「うげ、腐ってる……いや待てよ?」


 カモは、その瓶の臭いを嗅いだ。


「こいつは『竜命苔』の煮こごりか?」


 振り返ると、メルナはリーザスの手を握って、祈っていた。


「ママ……起きて……置いていかないで……」


 その姿を、カモは一瞬だけ見つめ——ぽいと、瓶を投げた。


「おい、そいつを受け取れ!」


「え?」


 メルナが、とっさに受け取る。

 強烈な異臭が、鼻をついた。


「なに……これ……?」


「とっととそいつの背中に塗りな。出血くらいは、止まるはずだ」


 メルナは、迷わずヘドロをすくい、リーザスのバックリと割れた背中に、塗りたくった。


「お願いします……! 効いて……!」


 ジュワァァァ……!

 傷口から、白い煙が上がり、肉が焼けるような音がする。


「う……ぐぅ……ッ!」


 気絶していたリーザスが、苦悶の声を漏らした。


「ママ!?」


 傷口の出血が、見る見るうちに止まっていく。


「よし、血は止まったな」


 カモが、冷静に観察する。


「ママは……助かるのですか!?」


 メルナが、期待に満ちた目で、カモを見た。


 カモは、リーザスの顔色と呼吸を確認し——首を、横に振った。


「……いや、やっぱ無理だ」



   ◇


「失った血が多すぎる。……魂の火が、消えかけてる」


「そんな……」


 リーザスの呼吸は浅く、今にも止まりそうだった。


「嘘つき! 助けてくれるって言ったじゃない!」


 メルナが、リーザスの胸に顔を埋める。


「言ってねえ。出来るだけのことをするって、言っただけだ」


 カモは、ばつが悪そうに後ずさりする。


「私が……私が代わりに死んでもいいから……ママを助けて……!」


「な、なんであんた、こんなショボいオッサンのために、そこまで……」


 カモには、理解できなかった。

 乗れもしない、選ばれもしない、ただの中年男。そのために、命を投げ出そうとする少女の心が。


 数百年、カモは見てきた。人間は、強い竜を求める。価値のあるものに群がり、価値のないものを捨てる。それが、この世界の摂理だと思っていた。

 なのに、この娘は——誰からも選ばれなかった、瀕死の中年に、自分の命すら差し出そうとしている。


(……なんなんだ、こいつらは)


 メルナの感情が、限界を超えた。


「うあぁぁぁぁぁぁ!!」


 ドゴォォォォ!!

 洞窟内の空気が、ビリビリと震える。

 メルナの体から、赤い稲妻のような魔力が、溢れ出した。


「ひぃぃ! またかよ! マジでヤベえぞこの女!」


 カモが、慌てて岩陰に隠れる。


 メルナの魔力が、暴走する。

 額からツノが生え、肌に鱗が浮き上がっていく。

 完全に、「竜」になりかけていた。


 その時。


 カッ……!

 リーザスの胸元——メルナの顔の下で、弱い光が灯った。


「え?」


 メルナが、顔を上げる。


 光の源は、リーザスの「赤い石のペンダント」だった。

 ビアンカの形見である、その石。

 ドクン、ドクンと、それが脈動を始めていた。


 シュゴオォォォ!!

 ペンダントが、メルナから溢れ出る魔力を、吸い込み始める。


「あ? なんだその石っころは……魔力を吸ってやがる!?」


 カモが、目を見開いた。

 暴走するメルナの魔力。死にかけたリーザス。そして、脈打つ赤い石。

 三つが、今、一つに——共鳴しようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ