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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第二章 軍事大学校編
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大元帥リオン・ベイレン

 静まり返った荒野。

 その沈黙を最初に破ったのは、クレオの叫びだった。


「……いや、今、確実に抱きついてたよな!」

 彼が指差した先で、リーザスとメルナがほぼ密着していた。

 おっさんと美少女という、どう見ても説明不能な構図。


「え、あの、これは――」

 リーザスが慌てて手を離そうとする前に、メルナがきっぱりと口を開く。


「オーガフライの毒にやられて錯乱していました」

「錯乱って……いや、完全に抱きついてたぞ」

 クレオが食い下がるが、メルナの表情は一分の隙もない。

 その完璧な切り返しに、誰も反論できなかった。


 ゼファルドは腕を組み、わずかに目を細める。

「……そうか」

 彼だけが、何かを察したように沈黙した。


 その傍らで、ルーカはメルナのグランスの首に手を当て、神聖術を行使していた。

「応急処置はしておきますが、早く学園に戻って治療した方がいいですね」

「おう!」

 アブラナが大きな声でうなずいた。

「だったら早ぐ帰るべ! オラ腹減った!」


「……お前ら、気になんねえのかよ!」

 クレオのツッコミが空を虚しく切る。


 ゼファルドが淡々と口を開いた。

「メルナの“竜の魔力炉”の件は、おそらく軍の最高機密だ」

「は?」

 クレオの顔が強ばる。


 ゼファルドは言葉を選ぶように続けた。

「そして、それを俺たちが知ってしまったことを、上層部は快く思わないだろう」


「なんでだよ! 俺たちが悪いわけじゃねぇだろ!」


「国ってのは、そういうものだ」

 ゼファルドは静かに言った。

「余計なことを知った人間が“消えた”例なんて、いくらでもある」


 その言葉に、ルーカもアブラナも表情を引き締めた。

 彼らも察している。これは、口外してはならない類の出来事だ。


(……そうか)

 リーザスは思い出す。

 ゼファルドの一族は、国の“暗部”で働く刺客の血を引いていると本人が言っていた。

 だからこそ、その重みを理解しているのだ。


「……よし」

 リーザスは息を吸い込み、仲間を見渡した。

「今日見たことは、俺がリーダーとして上に報告する。

 それ以外は誰にも話すな。いいな?」


「……!」

 一同が驚いたように目を見開く。


「お互い、無事に騎士になりたいならな」

 その一言に、クレオが苦笑した。

「……分かったよ。リーダー」


「ま、今回の件を納めたのはあんたの手腕だしな」

 アブラナ、ルーカ、ゼファルドも、無言でうなずいた。


 その空気の中で、メルナが静かに一歩、前に出た。

「では、帰りましょう。……乗せていただけますか?」


「えっ」

 リーザスが硬直する。

 メルナは微笑みながら手を差し出していた。

「リーザスさん」


「あ、ああ……」


 リーザスはその手を取る。

 こうして、リーザス班はそれぞれのグランスに跨がり、砂煙を上げて帰路についた。


          ◇


 ――その後、学園に戻った俺たちだったが、意外なことにダミアン教官は怒らなかった。

 むしろ、俺たちに“1日の休息”を命じたのだった。


 「ま、死にかけたんだ。骨くらいは休ませてやるよ」

 そう言って背を向けるダミアンの姿に、リーザスは驚きを隠せなかった。


          ◇


 厩舎。

 リーザスは自分のグランスの体をタオルで拭いていた。

「今日は助かったよ。……お前、ほんとすごい奴だったな」


 老騎獣は「ギュイイイン」と鼻を鳴らした。

 雷の中、彼が冷静にリーザスを守った光景が脳裏に蘇る。


(……こいつがいなけりゃ、俺は死んでた)


 リーザスは小さく笑う。

「お前に名前をつけなきゃな。何がいい?」

 少し考えて、ポンと手を打った。

「そうだ、“マルコ”にしよう」


 グランスが首を傾げる。

「俺の昔の相棒の名前だ。どうだ?」

「ギュイイイン」


「お、気に入ったか!」

 リーザスは頬を緩め、優しく首を撫でた。


          ◇


 同じころ、王都。

 マルコと名付けられた本人が、家でくしゃみをした。

「へっくしょん!」

 子供と遊んでいたサーシャが心配そうに覗き込む。

「あら? 風邪?」

「いや、なんか急に……背中がゾクッとしただけだ」


          ◇


 夜、女子寮。

 メルナは机の前で水晶玉を前に座っていた。

 透明な球の中から、静かな声が響く。


「……今日、グランス騎乗の訓練でトラブルがあったと報告があったが?」


「はい、少し。竜核にグランスが反応してしまって」

「そうか」


「でも、大事には至りませんでした。

 竜核の制御も、今は完全に安定しています。

 ――すべて、お母様のおかげですわ」


「……そうか。他に問題は?」

「一切ございません」


「少々疲れているので、このまま休ませていただいても?」

「ああ、構わない。おやすみ」


「では……おやすみなさい。お母様」


 水晶玉の向こう――沈黙。

 そして、低く落ち着いた声が返る。

「……おやすみ、メルナ」


          ◇


 王国軍本部。

 水晶通信を終え、顎に手を当てて考え込む女性の姿があった。

 その顔はまだ見えない。


「何か気になる点でもありますか?」

 侍女が尋ねる。


 女性はゆっくりと立ち上がり、振り返った。

 鋭い金の瞳。

 燃えるような赤髪を後ろで束ねた軍服姿。


【セイラム王国軍 最高司令官

 大元帥 リオン・ベイレン】


「いや……大したことではない」


「は?」

「ただ、いつもはあの子――メルナは、私に“ママ”と呼びかけるのだがな」


 侍女が首を傾げる。

「そんな些細な違い、気にすることですか?」


「小さな違和感。そういうものこそ、危険の兆しだ」


 リオンはマントを翻した。

 その背は威厳と静けさを併せ持ち、彼女が“竜王国の母”と呼ばれる理由がよくわかる。


「……私の竜を出してくれ」


 その言葉と共に、執務室の奥で巨大な魔法陣が光を放った。

 雷鳴のような竜の咆哮が、王都の夜を震わせた。


 ――“母竜”が、動き出した。


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