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ノミの心臓のおっさん、竜の心臓を手に入れる  作者: Zoo
第二章 軍事大学校編
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リーザス班、出動

「ギョエエエ、ギョエエエエ!」

奇声が砂地の空気を引き裂いた。

メルナが乗るグランスが、尋常ではない速度で走り出していた。制御など利かない。前足が砂を抉り、後脚が地面を蹴るたびに砂埃が爆発するように舞い上がる。まるで何かに追い立てられるように——いや、逆だ。何かを追い求めるように、獣は狂ったように前へ前へと突き進んでいた。

「やめて! 止まって!」

鞍にしがみつきながらメルナが叫ぶ。手綱を引いても意味がない。グランスの首は頑として前を向いたまま、メルナの必死の制御をものともしない。

その時、グランスの体がびくりと震えた。

メルナから放たれる何かに反応するように、獣の目がカッと見開かれた。「!」と言わんばかりに。

「ギェエエエエエ!」

さらに大きな雄叫び。そして異変は起こった。グランスの顔面のあたりから、ビキビキと音を立てて何かが変わっていく。皮膚が盛り上がり、骨格が軋み、シルエットそのものが膨張を始めた。

遠方でその様子を眺めていたリーザスとクレオが、思わず足を止めた。

「な、あんだありゃあ!?」

グランスのシルエットが、みるみる変容していく。見慣れた馬に似た体躯が消え、代わりに現れたのは分厚い装甲のような鱗、逞しい四肢、恐竜を思わせる陸竜の姿だった。

「……メルナが放つ魔力に反応しているんだ」

リーザスが静かに言った。

「はあ!? グランスは魔力耐性が強い生き物なんだろ!?」

「……騎士団長クラスには、ああやって形態変化したグランスに乗るやつもいる。それだけの魔力を持った騎士だけが引き出せる、グランスのもう一つの姿だ」

リーザスは目を細めた。

「同じようにメルナの魔力は——やはり特別なんだ」

その時、リーザス自身のグランスが、突然立ち止まろうとした。

「キュエエエ」

「な、なんだっ! お前まで……」

戸惑うリーザスの横に、遅れて駆けてきたルーカとゼファルドが追いついた。

「まずいですよリーザスさん。この先には旧王朝の遺跡群があって——」

ルーカが声を上げながら、次の言葉を続けた。

「その手前にある砂地の谷は……」

その瞬間、メルナの足元から「ズズ……」と、地面の奥から響いてくるような嫌な音がした。

地面が盛り上がった。

割れた。

巨大な影が飛び出す。砂を弾き飛ばしながら、信じがたいほどの巨体が背後から空へと躍り出た。一行の目が、一斉に見開かれた。

「サンドワームの巣なんです」

ルーカの声が、震えていた。



「きゃああああ!」

メルナの悲鳴が砂地に響く。間一髪でグランスが横へ跳んだ。サンドワームの巨体が砂を抉りながら着地し、メルナを乗せたグランスは脇目も振らず走り去っていく。

「あっぶな!」

ルーカが息を呑む。

「どうすんだよ。このままじゃヤバイぞ」

「助けに行くっきゃないだろ!」

リーザスが即答した。

「かと言って無策でここに突っ込むつもりか?」

クレオの言葉が刺さる。リーザスは口を噤んだ。

「そ、それは……」

その時、砂埃の向こうから荒い息遣いが聞こえてきた。

「ひぃひぃ。どうなってるんだべか?」

アブラナだ。大柄な体を揺らしながら、ようやく追いついてきた。

「アブラナッ!」

「今のサンドワームだべ」

「ああ、この先が巣らしくて」

「このままじゃメルナが食われちまう」

一瞬の沈黙。それを破ったのはアブラナだった。

「だったらオラに任せてけろ!」

全員の視線が集まる。アブラナは迷いなく続けた。

「オラがサンドワームを引きつける。頭を出したところを全員で叩く!」

「どうするつもりなんだよ」とクレオが聞く。

「村じゃよく狩ってたから、勝手は分かってる」

リーザスは一拍だけ考えた。アブラナの力は、俺が誰よりもよく知っている。

「分かった。アブラナ、頼む」

アブラナが無言でうなずいた。

「だったら、俺が単騎でメルナを追おう。俺は音を立てずにグランスを走らせられる」

ゼファルドが静かに言った。次の瞬間には、すでに動き出している。砂の上をほとんど音もなく滑るように、ゼファルドのグランスが走り去っていく。

その背を見送りながら、アブラナがグランスから降りた。

「よく分かってんな。そう、サンドワームは振動に集まるんだべ。音を立てなきゃ追われない」

「じゃあ行くぞ!」

アブラナが片足を高々と上げた。

「どすこい!」

四股が砂地を踏み抜いた。



大地が鳴った。

アブラナの一踏みが生んだ振動は、砂の中を同心円状に広がっていく。俯瞰で見れば分かるだろう——波紋が砂地を伝わり、どこまでも、どこまでも。

あたりが静まり返った。

リーザスたちは息を潜めた。遠くではメルナとゼファルドの姿が小さく見える。この場に残る者たちの緊張が、空気を圧迫している。

そして——地面が動いた。

無数の盛り上がりが、砂の下を通ってこちらへ向かってくる。一本、二本、三本……数えていても意味がない。地中を走る影は、止まる気配がなかった。

「来るぞ」

アブラナが低く言った。

ドーン。

ドドドドドン。

砂の壁が弾け飛んだ。八匹のサンドワームが地面を割って一斉に頭をもたげる。筒状の巨大な口が開き、内側にびっしりと並んだ歯が剥き出しになった。

「ひぃぃ……」クレオが引き攣った声を出す。ルーカも言葉を失っている。

アブラナが背中の剣に手をかけた。

「行けっぺな、リーザスさん」

リーザスも剣を抜いた。

「あ、ああ」

二人は並んだ。左右対称に。

「「飛竜剣!」」

斬撃が交差した。

バッテン型に、サンドワームの壁が切り裂かれた。リーザスが左から右へ、アブラナが右から左へ——二つの軌跡が空中で重なり、あたり一面にサンドワームの切れ端が飛散した。

「す、すげえ……」

クレオが呆然と呟く。アブラナは豪快に笑った。

「ははは! オラの村じゃこの肉は御馳走だ!」

晴れやかな顔で振り返り、アブラナは声を上げた。

「じゃあ、オラたちもメルナ追っかけるか!」

一同がうなずく。

「行くぞリーザス班!」

「おう!」

駆け出しながら、リーザスはふと思った。

(リーザス班か……)

砂を蹴る足が、一瞬だけ間抜けなリズムになった。

(でも、だったら、その号令は俺に譲るべきじゃ——)

大事な時に、どうでもいいことを考えてしまうのがリーザスである

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