ーーサーシャ外伝――
『私は、あの人が試験に落ちるのを、毎年祈っていた』
――「ノミの心臓のおっさん」サーシャ外伝――
【あらすじ】
私の名はサーシャ。王都の場末の酒場の、看板娘。
うちの店には、十年以上も昇級試験に落ち続けている、情けない雑兵がいる。
私は彼のことを「ノミの心臓のおじさん」と呼んで、笑っている。
――笑っていれば、気づかれないから。
これは、待っていた女の話。
そして、待つのをやめた女の話です。
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第一話 ノミの心臓のおじさん
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白状します。
私は毎年、あの人が試験に落ちますようにと祈っていました。
―――
「おーい、ノミの心臓のおじさーん!」
城の門に立つ背中に、私は思いきり声を張り上げる。
「誰がおじさんだサーシャ。俺はまだ二十九だっつーの」
振り返った顔が、情けなく歪む。
私は笑う。腹の底から、本当に楽しくて笑う。
「聞いたわよ、おじさん。また試験に落ちたんだって?」
「うっ」
効果てきめん。
この人は、嘘がつけない。
嘘がつけないから、十年も落ち続けて、それを隠すこともできずに、王都じゅうに知られている。
「うちの店で残念会開催するそうだからおいでよ。みんな奢ってくれるって」
「ほ、本当か」
「出世払いだそうよ」
「助かる。雑兵は給金が安くてな」
あっさり奢られる。
三十手前の男が、16の小娘に憐れまれて、しっぽを振る。
――かっこ悪い。
本当に、どうしようもなく、かっこ悪い人。
―――
私の名前はサーシャ。
王都の場末の酒場の娘です。
父はもと雑兵で、だからうちの店は雑兵に甘い。
安く飲ませて、ツケも溜めさせて、失敗すれば残念会をやってやる。
リーザス・モートンは、その常連の中でも飛び抜けて、だめな客だった。
安酒しか頼まない。
ツケを溜める。
酔うと「俺は本当は実力があるんだ」と言い出す。
そして、その日も。
「見てろよ!」
テーブルに置かれた酒瓶に向かって、剣も抜かずに手刀を振り下ろす。
スパン、と。
――瓶が、真っ二つになった。
断面は、鏡みたいだった。
中の酒は、一滴もこぼれていなかった。
「おおおおおおお!」
店じゅうが沸く。
私は、その断面を見つめていた。
(……本当に、実力はあるんだ、この人)
「ちょっと! 瓶を無駄にしないでよ!」
私は怒鳴った。
怒鳴らないと、たぶん、顔に出るから。
―――
常連たちが囃し立てる。
「なーんで、手でもできる事が、剣を持っても出来ないんでしょうね?」
私は皿を片付けながら、わざと呆れた声を出す。
できないのは、私が知っている理由からだ。
この人は、緊張する。
人に見られると、緊張する。
誰かの期待を背負うと、指が固まる。
――だから私は、この人に期待しない女でいることにした。
「おじさん」
「万年見習い」
「ノミの心臓」
そう呼んで、笑って、からかって、
だから、この人はうちの店では緊張しない。
この店の中でだけ、この人は、瓶を真っ二つにできる。
―――
「じゃあ、万年見習い騎士の二人の来年の正騎士昇格を祈願して……」
「乾杯!」
私はジョッキを配りながら、祈る。
――どうか、来年も落ちますように。
だって。
あの人が正騎士になったら、戦場に行ってしまう。
あの人が正騎士になったら、この店に来なくなる。
あの人が正騎士になったら、私みたいな酒場の娘なんか、見なくなる。
だから私は、笑いながら祈っていた。
最低な女だと思う。
だけど、あの人が「今年こそは」と言うたびに、
私の胸は、嬉しさじゃなくて、恐怖でいっぱいになっていた。
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第二話 一年、猶予をください
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あの人が、村に帰ってしまった年がある。
試験で剣をすっぽ抜けさせて、笑い者になって、それで――消えた。
置き手紙もなかった。
私は一年間、扉が開くたびに顔を上げる癖がついた。
開くたびに、違う男が入ってくる。
その一年で、私は少しだけ大人になった。
―――
そして、あの人は帰ってきた。
旅の埃をかぶって、少しだけ痩せて、少しだけ目つきが良くなって。
「また騎士を目指すことにしたんだ」
カウンターでそう言った時、私は皿を落としそうになった。
(帰ってきた)
それだけで、その日の酒場は、私にとって世界一の場所になった。
―――
その年から、試験に「魔力耐性」というのが加わったらしい。
あの人とマルコは、毎日ボロボロになるまで訓練場にいた。
私は水を持っていった。
「お二人とも休憩しなよ。無理しすぎだよ!」
「ありがとう、サーシャ。でも時間がないんだ」
汗だくの横顔。
剣だこだらけの手。
三十三歳の、雑兵。
――私は、この人が好きだ。
その頃には、もう自分でも誤魔化せなくなっていた。
―――
その年も、二人は落ちた。
残念会の夜、店の隅で父があの人に話しかけているのを見た。
私は、皿を運ぶふりをして、近くを通った。
聞くつもりはなかった。……嘘。聞くつもりだった。
「リーザス、お前にちょっと提案があるんだ」
「提案?」
「騎士を諦めて、うちのサーシャと結婚して、この店を継がないか?」
――私は、足を止めた。
トレイの上でグラスが鳴った。
(お父さん、何言ってるの)
(勝手なこと言わないで)
(……でも)
心臓が、うるさかった。
「サーシャもお前のことを嫌いじゃないみたいだ。俺が話をつけてやる」
――やめて。
――やめてよ、恥ずかしい。
でも私は、その場を動けなかった。
動けずに、あの人の返事を待った。
―――
「俺なんかにもったいないお話です。でも……」
あの人は、言った。
「……俺に、一年間猶予をくれませんか。もう一度試験を受けたいんです」
―――
私は、笑った。
その場に立ったまま、顔だけで笑った。
そうしないと、トレイを落としてしまいそうだったから。
(一年、猶予)
つまり。
私は、「一年後まで待たせておくもの」なんだ。
私は、「試験がだめだったら考える選択肢」なんだ。
私は、あの人の人生の、第二希望なんだ。
―――
それでも私は、待った。
馬鹿でしょう。
でも待った。
だって、一年後に受かったら、その時は――
正騎士になったあの人が、胸を張ってこの店に来て、
「サーシャ」って、私の名前を、おじさん扱いされない声で呼んでくれるかもしれない。
私はそれを、一年間、毎晩、カウンターを拭きながら想像した。
―――
そして一年後。
あの人は、試験の三日前に、雨の夜に酔って転んで――
ぎっくり腰になった。
―――
試験に、落ちた。
その日、あの人は店に来なかった。
私はカウンターの端を、何度も何度も拭いた。
閉店時間を過ぎても、看板を下ろさなかった。
父が言った。
「もう寝ろ、サーシャ」
「……うん」
―――
そして、次の日も。
その次の日も。
あの人は、あの「一年間の猶予」について、私に何ひとつ言わなかった。
落ちたのに。
落ちたなら、約束の一年が終わったなら、
あの人はここに来て、父に頭を下げるはずだった。
来なかった。
……ああ、そういうことか。
私はカウンターで、ひとりで理解した。
断られたんじゃない。
あの人にとって、私は――
断るほどの選択肢ですら、なかったんだ。
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第三話 待たせない男
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マルコは、待たせない男だった。
「今度、いい酒を持ってくる」と言えば、翌日に持ってきた。
「重いだろ」と言って、樽を担いだ。
「疲れてるだろ」と言って、私を座らせた。
あの人は、私が笑うのを見てから笑った。
マルコは、私が笑う前に笑わせた。
―――
「ねえマルコ。リーザス、大丈夫かな」
私は、何度もその話をした。
我ながらどうかしていると思う。好きになってくれている男に、別の男の心配をする女。
マルコは、そのたびに黙って、ちょっと笑って、話を変えた。
――今なら分かる。
あの人はあの時、たぶん全部知っていた。
知っていて、黙っていた。
知っていて、それでも私の隣にいた。
―――
「サーシャは、待つのが上手いな」
ある夜、マルコがぽつりと言った。
「何それ。褒めてる?」
「褒めてない」
マルコはグラスを磨きながら言った。
「俺は、女を待たせるのは向いてないんだ」
――ずるい。
その言葉に、私の何かが折れた。
―――
誤解しないでほしいのは。
私は、あの人に振られたからマルコを選んだんじゃない。
私は、「待ち続ける女」という自分に、疲れたんです。
毎年、試験の季節が来るたびに祈って。
毎年、落ちたと聞くたびに、安心して、そして自分に吐き気がして。
「今年こそ」と言うあの人の目に、私が一度も映らないことを確認して。
――そういう自分に、飽きた。
三年待った。
「一年、猶予をくれ」の一年を含めれば、もっとだ。
私は、二十歳になっていた。
―――
子供ができたと分かった夜、私は泣きました。
嬉しくて泣いたのか、悲しくて泣いたのか。
たぶん、両方だった。
これで、もう戻れない。
これで、私はもう、あの人が正騎士になって迎えに来る夢を、見なくていい。
――解放された、と思った。
解放されたと思った瞬間に、こんなに泣いてしまうということが、私の答えのすべてだった。
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第四話 「ずっと家族で仲良くしたいの」
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あの日のことを、私は一生忘れない。
マルコと結婚することが決まって、二人であの人に会いに行った日。
テーブル席で、あの人はこちらに背を向けて飲んでいた。
背中で聞いているのが、分かった。
私は、わざと父に大きな声で話しかけた。
「ねえ、パパ。マルコが仕入れに協力してくれてから、今までうちでは出せなかったものが出せるわね」
――聞こえてる?
「お父さんに少しでも楽させたいってのが、俺たちの結婚の目的でもあるんですから」
――聞こえてるでしょ?
カウンターの向こうで、ジョッキがガタン、と鳴った。
「マスターお勘定!」
――ほら、逃げるんだ。
―――
私は、追いかけた。
マルコが「何帰ろうとしてるんだよ!?」と笑って引き止めて、
「俺たちはまずお前に最初に祝福して欲しいんだ」と言って、
「わかるだろ? 戦友!」と肩を叩いた。
私は、その隣で笑いながら、こう言った。
「マルコはいっつも、リーザスこそが一番の親友だって言ってるのよ」
あの人の目を見た。
「私もリーザスが大好きだし、ずっと家族で仲良くしたいの」
―――
――私は、その一文を、何日もかけて用意していた。
「大好き」という言葉を、一番安全な意味で使う。
「家族」という言葉で、可能性を、自分の手で永久に殺す。
私は、あの人の目の前で、私たちの未来を殺してみせたんです。
なぜか。
試したかったから。
―――
止めてほしかった。
「待ってくれ」でもいい。
「サーシャ」でもいい。
情けない顔でもいい。ノミの心臓でもいい。
一言でも。
一言でも、あの人が何か言ってくれたら。
私は、腹の子ごと、この人生を捨てる覚悟すらあった。
―――
「マルコ、サーシャ、オーナー、本当におめでとう!」
あの人は、歯を食いしばって、笑った。
「今日はみんな飲もう! 俺の奢りだ!」
――ああ。
わあっと店が沸く。
マルコが「そこまでしなくてもいいよ!」と笑う。
「いいんだ! 奢らせてくれ!」
――ツケも払えない人が。
――安酒しか頼まない人が。
「二人の未来に乾杯!」
―――
私は、笑って乾杯した。
この時、私の中で、何かが完全に終わりました。
あの人は、私を止めなかった。
止めない理由が「私を好きじゃないから」だったなら、まだ良かった。
でも私は、知っている。
あの人は、私が好きだった。
たぶん、それなりに。
――それでも、止めなかった。
なぜなら、あの人にとって一番大事なのは、
私でも、幸せでも、居場所でもなく、
「正騎士でない自分では、誰も幸せにできない」という、
あの人だけのくだらないプライドだったから。
―――
ねえ、リーザス。
私は、正騎士のあなたが好きだったわけじゃない。
瓶を素手で斬って、店じゅうにばか受けして、
私に怒鳴られてビクッと肩をすくめる、
あの、どうしようもない三十歳のおじさんが、好きだったんですよ。
最後まで、一度も、言わなかったけど。
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第五話 あの子の匂い
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娘が生まれました。
小さくて、赤くて、猿みたいで、それなのに世界一かわいかった。
私はもう、酒場の看板娘じゃない。
母親で、店のおかみで、酒屋の女房です。
マルコは、よく働いた。よく笑った。
よく――疲れた顔をするようになった。
私は、時々ヒステリーを起こす。
帰りが遅い。浮気してるんじゃないか。私ばっかり。
自分でも分かっている。
私が本当に怖いのは、浮気じゃない。
私が怖いのは、
この人の心の一番いい席に、いつまでも、私じゃない誰かが座っていることだ。
――リーザスという名前の、椅子。
―――
あの人は、三十五になっていた。
若い雑兵たちを連れて、うちの店に来る。
ガストン。ミルド。それから――女の子が一人。
ビアンカ、と呼ばれていた。
可愛かった。
まっすぐで、若くて、目に力があって、
そして、あの人を見る目が――
私は、グラスを拭く手を止めた。
(ああ、この子、この人のことが好きなんだ)
私は、他人の恋にだけは、鼻が利く。
自分のときには、あんなに何も分からなかったのに。
―――
その子は、しばらくして店に来なくなった。
あの人だけが来た。
ある夜、酔いつぶれたあの人の襟元に、
黒い石のペンダントが、覗いていた。
「……何それ。おじさん、そんな趣味あったっけ」
あの人は、慌ててそれを、シャツの中に押し込んだ。
押し込む手が、あまりに大事そうだったから、
私は、それ以上、何も聞かなかった。
―――
それから、あの人は変わった。
鬼みたいに剣を振るようになった。
酒の量が減った。
目の奥が、静かになった。
マルコは「あいつ、ついに吹っ切れたのかもな」と笑っていた。
――違う。
私は、女だから、分かった。
あの人は、吹っ切れたんじゃない。
あの人は、誰かのために、生き直そうとしているんだ。
―――
その「誰か」が誰なのか、あの人は、誰にも言わなかった。
マルコにも。
父にも。
私にも。
――ねえ、リーザス。
私は、あなたが誰かを想っていることが、悔しいんじゃない。
あなたが、それを一人で抱えて、誰にも言わずに、
「俺なんかが」って顔で笑っているのが、
――昔から、ずっと、腹が立って仕方ないんです。
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第六話 体に気をつけて頑張ってね
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「それでは我らがリーザスの、正騎士昇格を祝って」
父がジョッキを掲げた夜。
「かんぱーい!」
店が割れんばかりの歓声に包まれた。
――受かった。
十八回落ちて。三十五歳で。
あの、ノミの心臓のおじさんが。
―――
私は、カウンターの中で泣きそうになって、慌ててしゃがみ込んだ。
誰にも見られたくなかった。
だってこの涙は、祝福じゃない。
嬉しいのは本当。でも、それだけじゃない。
(間に合わなかった)
もし、あと三年早かったら。
もしあなたが、三十二歳で正騎士になっていたら。
私は今、あなたの隣にいたかもしれない。
――でも、それは違う。
しゃがみ込んだまま、私は自分に言い聞かせた。
三十二歳で受かるあなたは、あなたじゃない。
十八回落ちて、笑われて、村に逃げて、腰をやって、
それでも十九回目を受けにいく、みっともなくて、しつこくて、目の離せない、
あの人だから、私は好きになったんだ。
―――
立ち上がると、あの人が泣いていた。
胴上げされる前、マルコと話しながら、目頭を押さえて。
「お前に、認められたのが嬉しくてさ」
マルコは、「は?」と笑っていた。
――違うよ、マルコ。
私は、カウンターの中から、それを見ていた。
あの涙は、嬉しい涙じゃない。
あの人は今、この店で一番幸せなはずの瞬間に、
この世でいちばん会いたい人が、ここにいないことを、思い知っているんだ。
私には、分かる。
だって私も、この店で何年も、同じ顔をしていたから。
―――
出立の朝。
あの人は、荷物を背負って、犬の頭を撫でていた。
「マルコ、ジョンを頼む」
「ああ」
マルコが、娘を抱いたまま頷いた。
私は――
私は、その時、たくさんのことを言おうとした。
「行かないで」も。
「あの時、待ってた」も。
「ずっと好きだった」も。
全部、喉まで来ていた。
―――
「体に気をつけて頑張ってね」
私が言えたのは、それだけだった。
―――
あの人は、「みんな、ありがとう。お幸せに」と笑って、手を振って、歩き出した。
振り返って、もう一度手を振って。
そして、前を向いた。
――もう、こっちを見なかった。
―――
店に戻ると、マルコがカウンターの端を拭いていた。
あの人がいつも座っていた、安い酒しか頼まない席。
マルコは、一番いい酒の栓を抜いて、
誰もいないその席の前に、なみなみと注いだ。
「……よお、リーザス」
私は、扉のところで立ち止まった。
「ツケ、まだ残ってるからな」
夫の背中が、少しだけ震えていた。
「必ず、生きて払いに来い」
―――
私は、そっと店を出て、扉を閉めました。
――ああ、そうか。
この人も、同じなんだ。
あの、どうしようもない、みっともない、
十八回落ちて三十五で騎士になった、ノミの心臓のおっさんを、
私たちは二人とも、それぞれのやり方で、愛してしまったんだ。
―――
娘を抱いて、私は空を見上げました。
南のほうの空が、少しだけ、赤い。
戦が、あるらしい。
私は祈ります。
毎年、あなたが落ちますようにと祈っていた私が、
今度は、こう祈ります。
――どうか、生きて。
どうか、あなたが探しているその人に、会えますように。
どうか、あなたが、あなたを幸せにできる誰かと、幸せになりますように。
―――
ねえ、リーザス。
私、酒場の娘なんですよ。
こういう祈りを、笑いながらできるくらいには、
私だって、大人になったんです。
――だから、ツケは、耳を揃えて払いに来なさいよ。
利子つきで、待ってるから。
(『ノミの心臓のおっさん』サーシャ外伝 完)




