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第11章 魔族の王女






「―――以上が、結果報告です」


「そうか、まあ仕方が無い部分だな」


「では、次は私からです」


 そう言って大柄の男が立ち上がる。


 ここは、学園都市の東側にある大きな建物の中。

 レナードが用意した工作部隊の拠点となっている所だ。


 元は酒場だったようで1階には、大きなスペースがある。


 今、この場所ではレナード軍による定期報告会が行われている。


 レナード自身が各部隊の隊長クラスから報告を受けていた。

 こうして定期的に全兵士の意見などを聞くことで不満を解消するという

 こともあるが、こうして直接レナードに意見を言えるという

 機会を与えることで、表面化しにくい問題も見つけることが出来る。


「―――以上が、私の意見です」


「なるほどな」


 目の前に居る部下の意見は

 この拠点の有効利用と目的の隠蔽工作だ。


 複数の人間が出入りしているにも関わらず

 店として使用していないというのは

 不審に思われるということで、現に『店をやるのか』と

 付近の住人から訊ねられたそうだ。


 なのでいっそ、店をやることで

 誰が出入りしても問題ない場所にしてしまった方が

 安全ではないかということ。


「この意見に、何かある者は他に居るか?」


「・・・確かに、前に私も聞かれたことがあります」


「そういや、遠くから眺めてる人とか居るよね」


 意見を求めてみると、まあ出ること出ること。

 不審に見られている情報が、次々と出てきた。


「・・・これだけ出てくる時点で、既に問題だろうが」


「申し訳ありません」


 スグに隣に居たミーアが謝罪する。


「ここの商工会は、どうなってる?」


「・・・あまり良い話は聞きませんね」


 そう言いながら資料を手渡してくるミーア。


 基本的には、街ごとに存在する商工会。

 そこに入らないかぎり、街で商売は出来ない。


 だからこそ、商工会は権力を持ちやすく

 裏で山賊などと繋がっている悪質なものもある。


「・・・ロクでもないな」


 資料をほんの少し開いただけで

 見るのを辞めたくなるほど、酷いものだった。


「そう言えば、学園長が言ってたな」


「そうなのですか?」


「ああ、一筋縄ではいかないってな。


 ・・・まったく、取り締まれる時にやっておかないから

 後になってこういう面倒な状態にまで発展するんだよ」


「どうされますか?」


「とりあえず、こいつの改装からだな」


 店の柱を叩きながら、レナードは立ち上がる。


「とりあえず、どういう店にするかを各自意見を出せ。

 それによって方向性を決める」


「はいっ!」


 力強い返事と共にその日が終わる。


 だが次の日。

 休日で学校も休みという日。


 私は、店の中でため息を吐いていた。


「―――以上が、昨夜の出来事です」


 ミーアの報告を受けてまた、ため息が出る。


 昨日、店を改装する準備を始めた直後に

 店に火を付けようとした3人組を捕まえたということだ。


 尋問した所、商工会の会長をやっている

 酒場の店主から頼まれたと口を割ったとのこと。


 つまり、店はやらせないというあからさまな妨害。


「おい、誰か居るか!」


 店の外から大きな声がする。


 その声に、部下の1人が外を見に出る。

 そしてすぐに帰ってきた。


「商工会の会長と名乗る方々が

 ぜひ『お嬢様』にお会いしたいと」


「・・・いいでしょう、通して下さい」






第11章 魔族の王女






 少しして、いかにも成金だと思わせる

 下品な装飾品を大量につけた男が

 これもまた、いかにも野盗だと思われるような

 顔つきの連中を数人引きつれて現れた。


「これは美しいお嬢さん。

 突然押しかけて申し訳ない。


 私は、この街の商工会の会長をしているものだ」


 そう言ってこちらに手を差し出す。


「本題からで結構ですよ」


 差し出された手を無視し

 後ろにあった椅子に座り話を促す。


「・・・まあ、簡単な話ですよ。

 街で商売をやるなら、商工会に所属しなければならない。


 これはご存知でしょう?

 ならまず挨拶に来るべきではないのですかな?」


 握手を拒否されても、男は気にすること無く話を進める。


「・・・挨拶をしようにも何処の誰にすればいいのか

 解らなかったものですから。


 単純に挨拶が遅れたことについては、謝罪致します」


「まあ、解って頂ければ結構ですよ。

 何事にも決まり事というものは、存在するのです」


 男は、少し強めな言葉になる。


「・・・で、何が言いたいので?」


「要するに、決まり事ですよ。

 ここは放置されて既に一定の期間が経っている。


 その場合、我々商工会のものになるということが

 決まりとして存在するのです」


「つまり、立ち退けと?」


「端的に言えば、そうなりますなぁ」


 ニヤニヤとした表情で話す男の姿に

 ついため息が出る。


「・・・バカらしい。

 その決まりで定められた期間を

 まだ経過していないのは、既にこちらで調べています。

 そもそも正式な手続きで店を購入したことは

 そちら側もご存じですよね?


 変な言いがかりは止めて頂けませんか?」


「・・・あくまで立ち退く気がない、と?」


「理由がありませんもの」


「あまり利口とは思えませんなぁ。

 我々としても、こういう手は使いたくはなかったのですが」


 そういうと、周囲に引き連れていた男達が

 武器をチラつかせる。


「・・・今度は、脅迫ですか」


「脅迫とは人聞きの悪い。

 お嬢さんの立場というものを教えて差し上げているだけですよ。


 この状況で、あまり舐めたことは言わないことだ。

 それに既に調べはついている」


「何の話でしょう?」


「ナリアス家と言えば、つい最近までは没落していた伯爵家。

 今はまあ持ち直したらしいが、伯爵家とはいえそこまでの権限も無い。


 そんな家、何の脅威でもない。

 ここに居る者の大半が、西側に領土を持つ貴族の方々の縁者。

 そして私は、この国の宰相であるロドル閣下から重用されている

 西軍司令の1人であるフォルクス伯爵と、旧知の仲なのだ」


 宰相派の人間ばかりか・・・と、ため息を吐く。

 それにフォルクスと言えば、ランリッヒ卿か。

 嘘か本当かは知らんが、もし本当なら

 こんな連中が身内に居る時点で

 やはり近衛司令には、不適格な男だということか。


「名ばかりの伯爵家など、どうとでも出来る」


「・・・こちらも既に調べは付いていますよ?」


 男の話を無視するかのように紙の束を男に向けて投げる。


 それを拾って読み始めた男の表情は

 自信満々な笑みから、一気に険しい顔になる。


 そこには、今までやってきたことの悪行の数々と

 その一部に関しての証拠などが記載されていた。


 学園長達は

 証拠を見つけられなかったらしいが、我々は違う。


 ミーアを中心とした諜報工作の専門家達による

 徹底した調査によって、これらを調べ上げたのだ。


「これが表に出れば、どうなるでしょうね?

 1つの店を脅迫している場合ではないと思うのですが」


「・・・ふふふっ。

 あははははっ!」


 しばらく無言だった男が、突然笑い出す。


「いや~、よくここまで調べ上げましたな。

 ・・・まあしかし、甘いですなぁ」


「・・・甘いとは?」


「実は既にこの店の周囲は、50人の部下達で囲んであるのですよ。

 そしてそちらは、人数は居てもメイドがほとんど。


 こんなものを持っている、そして事実を知っているアナタ方を

 私がこのまま見逃すわけがないでしょう?」


 男が合図をすると、1人の部下が外の連中に向かって合図を出す。


「さて・・・とりあえず全員、しばらく地下で暮らして貰いましょうか。


 ああ、そうだ。

 なかなか見た目の良いお嬢さん方も多いみたいだし

 我々の相手をしてもらうのもいいですなぁ~」


「・・・はぁ。

 茶番に付き合った結果が、これとはな」


「ん?

 何か言ったかね?」


「どうやら宰相派は、どこまでいっても私に喧嘩が売りたいらしい」


 その言葉の瞬間、店の外が騒がしくなる。


「ん? 何の騒ぎだ?

 おい、ちょっと外見てこい」


「へい」


 そう言って男の部下が外に出ようとした瞬間


「ぐへっ!」


 大きく吹き飛ばされながら店内に戻ってくる。


 大の字になって倒れる男の顔は、血まみれになり大きく腫れていた。


「表の連中は、全て片づけたぜ」


 リシアの部下である大柄の男が、そう言いながら店内に入ってくる。


「裏手に居た連中も、全て制圧しました」


 メイド服の部下の1人が、そう言いながら裏口から入ってきた。


「な、なんだとっ!?」


 今まで自信満々だった会長は

 驚きの声をあげる。


「ば、馬鹿なっ!?

 ただの貴族と、その護衛程度が

 そんなこと・・・っ!?」


 周囲に引き連れていた者たちも

 焦りと不安の表情になっている。


「相手が悪かった、ということでしょうか」


 いつの間にかリシアは、ミーアが入れた紅茶を飲んでいた。

 完全に形勢が逆転している。


「お、おいっ! お前らっ!!

 何してるっ!!


 さっさとこいつらを何とかしろっ!!」


 その言葉に押されるも、どうしようか迷っていた連中だったが

 その内の1人が、武器を片手に前に出てくる。


 だがその瞬間―――


「―――ッ!!?」


 店内に居たリシアの部下達が全員武器を手にしたのだ。

 その全てが想力武装。


 武器を手にした部下達の気迫に押されて

 前に出た男は、その場で尻もちをつく。


「興味が無くなりました。

 あとはアナタ達の好きにしなさい」


 優雅に紅茶を飲みながら、リシアがそう言うと

 彼女の部下達が一斉に会長の集団に襲い掛かる。


「た、たすけ・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~!!!!」


 こうしてこの日を最後に会長を含めた主要メンバーは

 全員『行方不明』となり、商工会は事実上の崩壊となった。



 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。



 そしていつの間にか陽が沈み、月が顔を出していた。



「もう、こんな時間じゃない」


 すっかり夜となった空を眺めながら

 フランは、ため息を吐く。


 故郷から友人がわざわざ訪ねてきたので

 その相手をしていたら、すっかり夜となってしまった。


「・・・まあ、物珍しいのは解らなくもないけどね」


 愉しそうにしていた顔を思い出すと

 振り回されたとはいえ、良い日になったとは思う。


「・・・あら?」


 寮へと急いで帰る途中、人気の無い路地に

 フォレスの学生服を着た少女が入っていくのが見える。


「こんな時間に誰かしら?」


 お嬢様学校の人間が、こんな場所をウロウロしているのは

 非常に危ないと言える。


 声だけでもかけようとフランは、後を追いかける。


「・・・?」


 路地に入るが、そこに少女の姿は無かった。

 見間違いかと思った瞬間、路地の奥から反対側の通路へと

 横切る人影が1つ。


 気になって追いかけてみると、また誰の姿もない。


 だが、少しすると今度は街の外へと出る通用口に

 また人影が見える。

 フォレスの制服が、ちらりと見えるため

 そのままにも出来ず、街の外へと出る。


 通用口の外は、スグに森となっていた。


 その森の奥に、スカートの端が動くのが見える。


 ここまでくると少し不審に思えてきたフランだったが

 万が一を考えて、森の中へと入ることにした。


 それなりに奥に入ると、少し開けた場所に出る。

 そこには、ようやく探していたフォレスの制服を着た少女の姿。


「・・・アナタ、そんな所で何をしているのかしら?」


 声をかけると、少女の姿が崩れていく。


「・・・ああ、なるほど。

 そういうことだったのね」


 フランは軽くため息を吐く。


 少女の姿をしていた何かは、人型をした化け物の姿へと変わっていた。

 そして周囲からも、ゾロゾロと様々な姿をした化け物が出てくる。


「人を誘き寄せて捕食していた・・・という訳か。

 化け物の癖に、それなりの知能は持っているようね」


 普通の少女なら悲鳴の1つでも上げる状況だが

 彼女は、特に焦っている様子もない。


「武器を持ってきていないのが面倒だけど

 ・・・ここなら人目も無さそうだから、相手をしてあげるわ」


 そう言うと彼女の姿が変化する。


 頭には2本の角

 背中には大きな翼

 後ろには尻尾


 どう見てもそれは人の姿では無かった。

 その姿に化け物達は、警戒して慎重な動きをする。


「アナタ達のおかげでこっちは迷惑してるのよ。

 悪いけど、逃がす気は無いわ」


 そう言うと、人間とは思えないほどの速度で

 周囲の化け物達に突っ込んでいく。


 彼女の拳で、人型の化け物の上半身が綺麗に吹き飛ぶ。

 彼女の蹴りで、植物のような化け物は

 体液のような何かを吐いて倒れる。


 化け物達も襲い掛かるが、圧倒的な力の差に次々と狩られていく。


「あら、言わなかったかしら?

 逃がさないって」


 逃げ出した最後の1匹に追い付くと

 そのまま相手の急所に一撃を入れる。


 叫び声のような何かを発しながら、最後の化け物が倒れる。


「・・・まあ、こんなものかしらね」


「・・・さすがはフランさん、といった所でしょうか。

 その姿もお似合いですよ?」


 突然声をかけられ、驚きながらも

 声がした方へと振り向く。


「ごきげんよう、フランさん。

 今日は、雲が無いおかげで月が綺麗に見えますね」


「・・・リシア、さん」


 こんな時間にこんな場所で

 出会うはずがないと思っていた相手にフランは、驚く。


「遠くから、色々な音と・・・血の臭いまでしてきたものですから

 つい様子を見にきてしまいました」


 周囲に転がる化け物達の無残な亡骸に

 人とは思えない姿をしている自分を見ても

 彼女は、決して笑顔を崩していない。


 その時点で彼女が

 『普通のお嬢様』ではないということを意味する。


「よろしければ、どういう状況なのか説明して頂けます?

 ・・・それとフランさん自身のことも、ね」


「・・・それには及ばないわ」


 その瞬間、フランが一瞬でリシアの前まで駆け寄る。

 走りながらの拳による一撃。


 しかしリシアの前に展開された想力壁によって阻まれる。


「いきなり攻撃とは、穏やかではありませんね」


「リシアさん。

 先に謝っておくわ。


 これからアナタを殺さなきゃいけないの」


 拳を引いた瞬間、後ろ回し蹴りを放つフラン。

 その一撃で想力壁が砕ける。


 それを理解していたのか、リシアは既に後ろに下がっており

 また少しの距離が開く。


「・・・もし『その姿を見られた』ということでというのなら

 別に秘密にしておきますよ?


 そもそも誰に話した所で、信じて貰えないでしょうから」


「残念だけれど、アナタでは私に勝てないわ。


 そして理解して頂けて嬉しいのだけれど、そういう訳にもいかないの。

 アナタが完全に秘密にしてくれるという保証が、何処にも無いでしょう?」


 話し合いをすると見せかけて、またも高速でリシアに迫るフラン。

 だが、目の前から想力で出来たと思われる剣が数本飛んできて

 思わず大きく横に跳躍して回避する。


「それは悲しいですね。

 これでも一応『友人』だと思っていたのですが・・・」


「ええ、私もよ。

 ・・・そしてその友人が、今のようなことが出来るなんて知らなかった。

 つまり、所詮その程度の関係でしかなかったということでしょう?」


 後ろに気配を察して更に横に飛ぶと

 自分の居た場所に想力剣が数本刺さる。


「それを言うなら、こちらこそですよ。

 そんな姿になれるなんて知りもしませんでしたからね。


 打ち明けて頂ける関係になれず、少し落ち込んでいる所です」


 何を白々しいと思いながらもリシアに向かって駆ける。


 左右から3本づつ迫る想力剣を走りながら回避する。

 次に斜め前から迫ってくる2本の想力槍をスライディングで避けると

 スグに地面を叩くようにして起き上がり、また駆ける。


 もうすぐ彼女に拳が届くという所まで来た時だった。


 想力で出来た壁が既に正面に展開されていた。


 だが、ここで足を止めると

 こちらが不利になるだろう。


 フェイントを入れてその壁の横を一気に抜き去る。


 それを予想していたのか、更にもう1つの想力壁が目の前に出現する。


「はぁっ!!」


 走りながら勢い良く殴ると、想力壁は音をたてて崩れる。


 『なんだ、いけるじゃない』


 そう思って気が一瞬だけ緩んだのがダメだった。

 気づけば先ほどの避けた壁が、スグ横まで来ていた。


 いつの間に迫ってきたのかと思うよりも早く

 壁が突然、大きな網になって覆いかぶさってくる。


「―――しまっ」


 これはダメだと気づいた時には

 既に想力で出来たであろう大網によって

 完全に動きを封じられた後だった。


「でも、これもここまでですよね。

 今夜はフランさんについて、たっぷりと質問させて頂きます。


 アナタのことをたくさん知ることが出来れば

 きっと今以上に『仲良く』出来ますよね?」


 先ほどから余裕そうな態度を決して崩さないリシア。

 それを見てフランは、ため息を吐く。


 予想以上にリシアが強いのだ。

 だからこそ、余計にため息が出る。


「・・・アナタが男だったら、良かったのにね」


「・・・それは、どういう意味でしょう?」


「そのままの意味よ。

 おかげで、殺したくもない相手を殺さなきゃならないし

 使いたくもないものを使わなきゃならないわ」


 そう言うと彼女の首に、ネックレスが出現する。

 そしてそのネックレスが輝き出す。


「―――『神龍の涙』よ、我に始祖の力と加護を」


 光が彼女を包んだかと思えば、巨大な音を立てながら

 その光の強さが増していく。


 しばらくして、ようやく発光が収まる。


「―――ッ!?」


 今まで決して崩さなかったリシアの笑顔が、ついに崩れる。


 信じられないという表情をしているリシアに

 フランは、笑みを浮かべる。


「これが私の想力武装『神龍の涙』」


「・・・能力、という訳ではないのですね?」


 何とか驚きを抑えて質問するリシア。


「ええ、これはあくまで儀式兵装としての力。

 能力とは、また違うわ」


「それにしても・・・まさか」


 リシアが驚くのも無理はなかった。


 何故なら今、目の前に居るのは少女ではない。


 小さな城に匹敵するほど巨大な1匹の龍。

 神話やおとぎ話でしか登場しないはずの生物。


 それが目の前に居るのだ。


「『神龍の涙』は、私の中に眠る竜の力を最大限に引き出す。

 だからこうして始祖と同じく完全な竜となれるの。


 言ったでしょう?

 アナタでは勝てないと」


 巨大な竜がその大きな尻尾を振るう。

 咄嗟に想力壁を展開するが、数秒ほどの衝突の後に砕けた。


 砕ける前に、回避行動を取っていたリシアは

 ギリギリの所で何とか回避する。


 お返しにと放った想力剣は、全て竜の鱗に弾かれる。


「無駄よ。

 例え想力であっても竜の鱗に傷1つつけることも出来はしないわ」


 フランが手や尻尾を振り回すたびに

 周囲の木々が薙ぎ倒され、圧倒的な威力の一撃で地面に穴があく。


「・・・まさか、おとぎ話の再現を迫られるとは思っていませんでした」


「おとぎ話?」


「聞いたことがありませんか?


 お姫様が竜に連れ去られてしまうのですが

 それを『聖騎士』が過酷な冒険の果てに竜を倒して

 お姫様を助け出す・・・という子供に聞かせる話ですよ。


 この場に居たのが私ではなくアリスさんなら

 より『再現』になっていたのですが。


 ・・・まあもし彼女がこの場に居たら

 きっと泣きながらアナタを説得していたでしょうけど、ね」


「・・・ええ、そうね。

 あの子ならきっと、そうなるでしょうね」


「・・・どうでしょう?

 そろそろ終わり・・・ということにしませんか?」


「申し訳ないのだけど、それは出来ないわ。

 秘密を完全に護るためには、こうするしかないの」


「・・・そうですか」


 そう言うとリシアが手に宝石を持つ。


「―――白銀の守護者『アガルハイド』よ、真の姿にて我が手に」


 今更、想力武装の剣1つで何を・・・と思っていたフラン。


 しかし想力武装を出したリシアの手には、いつもの剣は無かった。

 代わりに左手に白い腕輪のようなものがついていた。


「残念ですが、こちらもまだ死ぬつもりはありませんので

 全力を出させて頂きます。


 ・・・覚悟して下さいね」


 リシアは、またも笑みを浮かべる。

 だがそれは先ほどまでとは違う笑み。


 殺気を含んだ鋭いものだった。


 咄嗟に尻尾をリシアに向かって薙ぐフラン。


 だが―――


「くぅっ!!」


 思わず悲鳴を上げそうになるのを堪える。


 気づけば尻尾には、人間が持てるサイズではない

 5mほどの巨大な大剣が何本も刺さっていた。


 思わずリシアの方を向くと

 既に彼女の周りどころか、自分の周囲にも

 無数の剣や槍の形をした想力が浮いていた。


 それが数本、まるで意思を持つかのように

 こちらに飛んでくる。


 それを大きな爪で打ち払う。

 だが、巨体ゆえにその全てを払えずに数本、身体に命中する。


「ぐっ・・・くぅ!!」


 剣で斬られようが槍で突かれようが

 傷1つ付かない竜の強靭な鱗が貫かれる。


「申し訳ありませんが、これでお終いです」


 その言葉を切っ掛けとして、残り全ての想力剣や槍が降り注ぐ。


「きゃああぁぁぁっ!!!」


 悲鳴と共に後ろに下がるフラン。


「これが最後の警告です。

 ・・・これで終わりにしませんか?」


「ふふっ・・・ふふふっ」


 不気味な笑いに、思わず身構えるリシア。


「本当に残念だわ。

 アナタが男性でないことが」


「どうしてそこまで『男』にこだわるのですか?」


「私はね、私より強い男性を探しているの。

 その一環として学園に通っているとも言えるかしら。


 そしてもう1つ残念なのはアナタの方よ、リシアさん」


「・・・私の方、ですか?」


「ええ、そう。

 優しいアナタに最後ぐらい私も向き合ってあげる。


 私は、今から『能力』を使うわ。

 それでアナタは死ぬことになる。


 この私に『能力』を使わせたことだけでも

 アナタは誇っていいわ」


「能力を使えば、私が勝てないと?」


「ええ。

 私の力は『同性殺し』


 同じ性別の相手からのあらゆる攻撃を全て無効化する。

 もちろん、想力も含めて全てが霧散するの。


 だからアナタがどれだけ壁を作っても、剣や槍を放っても

 私には効果が無くなるわ」


「・・・なるほど。

 だから『女である』私では勝てないと」


「ええ、そうよ。

 運が悪かったわね。


 同性である以上、私には勝てない。


 だから抵抗せず大人しくしていて。

 出来る限り苦しまないようにするから」


 フランは、痛みを我慢しながら

 翼を羽ばたくと空へと飛びあがる。


 そして空中に留まると大きく息を吸い込む。

 口に炎が見えるため、恐らく炎を吐くのだろう。


「さようなら、リシアさん。

 こんな形になってしまって残念だったわ。

 アナタとは、良いお友達になれると思っていたから」


 そして彼女は、巨大な炎の塊を吐き出した。

 とてもでは無いが、大きさ・速さ共に避けられるものではない。


 その塊は、リシアが居た場所に命中して

 周囲の樹ごと燃やし尽くす。


 いや、燃やすというよりは溶かすといった感じに近い熱量だ。


 炎が全てを燃やして消え去った瞬間だった。


「―――ッ!?」


 空中に居たフランは、驚きの表情を浮かべる。


「・・・本当に運が悪いのは、キミの方だったようだな」


 全てが燃え尽き、灰と化した場所に

 想力壁を展開しているリシアの姿があった。


「なっ・・・どうしてっ!?

 私の能力は、相手の想力すら無効化するはずなのにっ!!」


「・・・本当に残念だよ。

 私もキミとは、良い友人になれると思っていたのだがね」


 リシアが左手を上にあげる。


 それを見てフランが見上げると空には、城1つを丸ごと貫けるほど

 巨大な槍が1本生成されていた。


「さようなら、フラン=ディーリット」


 リシアが腕を振り下ろすと、まさに一瞬の出来事だった。

 光を超えるような速度というべきか。


 一瞬にして、空に浮かんでいた巨大な竜を串刺しにして

 地面に突き刺さる巨大な槍。


 ゆっくりと身体の力が抜け、倒れる竜。

 リシアは、後ろを向いて歩き出す。



 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。



 次の日の朝。


 女子寮では、いつも通りの朝を迎える。

 カレルが朝食を準備して、食堂には人が集まる。


 そんな中、アリスが何気なく聞いてくる。


「あれ? そういえばフランがまだ起きてきてないよね?」


「・・・そう言えば、珍しいですね。

 いつもは早起きなのに」


 アリスの言葉にルナも気になっていたのか

 そんな話をする。


「(・・・さて、どうしたものか)」


 彼女の部屋に彼女が居るということはない。

 恐らく『行方不明』として扱われるだろう。


 寮のメンバーから、そんなものが出るとは誰も思っていない。

 もしそうなれば、しばらく寮の雰囲気も悪くなるかもしれないが

 彼女が死んだ以上、避けようが無いことだ。


「・・・あら?

 私の話をしていたみたいだけど、何かしら?」


「―――ッ!?」


「ああ、おはようフラン。

 いつもより遅いからどうしたんだろうってね」


「そういうことね。

 今日はちょっと髪が上手くまとまらなくて

 困っていたのよ」


「それは大変ね。

 私もそれで苦労するから解るわ」


 セレナも加わって、朝から髪の手入れという

 女性らしい会話が行われている。


 だが私だけは、驚きを表情に出さぬよう

 心を落ち着かせるのに必死だった。


 確かにあの時、確実に殺したはずたった。

 なのに平然と現れたフラン。


「ああ、そうだ・・リシアさん」


「・・・何かしら?」


「以前に興味があるって言っていた本のことだけど

 私は昨日に読み終わったから、アナタに貸してあげるわ。


 早い方がいいだろうし、学校に行く前に渡そうと思うのだけど

 今から少しだけ部屋に来ないかしら?」


「・・・ええ、解りました」


 何を考えているのか解らないが

 とりあえずフランの部屋に入る。


「そちらにどうぞ」


 出された椅子に座るとフランを見る。

 偽物かとも思ったが、やはり本物のようだ。


「それにしても、昨日は色々と散々だったわ」


 そう言って目の前に壊れた指輪を出してくる。


「・・・これは?」


「学園で使ってる『奇跡のネックレス』の元になった古代秘宝よ。

 アレと違って場所を選ばないし、回復力もケタ違い。

 だけど1度発動すると壊れてしまうのよ」


「・・・なるほど、それで助かったと」


 学園で使用されているネックレスは

 あくまで学園内でしか効果が発揮されない。


 というか学園内にある装置とセットでないと

 効果が発動できないのだ。


 奇跡のネックレスだけでも相当の価値があるものだが

 それのオリジナルともなれば、まさに秘宝と言えるだろう。


「言葉通り、死ぬほどの痛みを味わったわ

 貴重品は潰れるわ、正体はバレるわで、本当に散々だったわ」


「・・・半分は、自業自得だと思いますけど。

 あれだけ終わりにしようと呼びかけましたのに」


「それについては、もういいの。

 おかげでもっと貴重なものを見つけられたのだから」


「もっと貴重なもの?」


「ええ、そう」


 そう言って、何故か腕を組んでくるフラン。


「・・・えっと、どういうことでしょう?」


「あれ?

 昨日、言ったでしょう?


『私より強い男性を探してる』と」


「それと、この腕を組んでいることに何か関係が?」


「だって、アナタ『男』なんでしょう?」


 ・・・やはりバレたか。

 そう思うが、もう後の祭りだ。


「だって私の能力が効かなかったことや

 後半に一瞬だけ見せた雰囲気を考えると

 アナタが『男性』だってスグに解ったわ」


「・・・それで?」


「私にも、そしてアナタにも

 人に言えない秘密がある。


 ならお互いにそれを秘密にするってことでどうかしら?」


「・・・私がバラすとは思わないのか?」


「だって、それなら私もバラすことになるから

 アナタも困るでしょう?


 なら互いに秘密を共有する関係になれば

 問題ないじゃない?」


 まあ、そういうだろうなということまでは

 予想がついていたことだ。


 ここらが妥協点だろう。


「・・・わかった。

 それで手を打とう」


「理解して貰えて助かるわ」


「・・・それで、このくっついているのに何の意味が?」


「あれ? さっきも言ったじゃない。

 『私より強い男性を探してる』と」


 その言葉を聞いて、少し嫌な予感がしてくる。


「それは、確かに聞いたが・・・」


「私達『魔の種族』の女性は

 自分より強い男性でないと結婚相手に選べないの」


「魔の種族?」


「アナタ達が『魔族』と呼ぶ種族よ。

 元は『魔の種族』と言って、様々な種族の集合体なの。


 だけど年月が経って人との交流をほとんどしなくなると

 いつの間にか『魔族』なんて呼ばれるようになったのよ。


 そんな種族、居ないのにね」


 確かに歴史書の何処にもそんな記載はない。

 だが、恐らくそれが真実なのだろう。


 竜なんてものを見せられた以上、否定出来る要素がない。


「それで話を戻すけど、私は魔の種族の中でも王族になる

 『魔竜』とか『竜人』と呼ばれる種族の生まれなの。


 アナタ達に解りやすく言うなら『魔族の姫』になるのかしら。


 だから求婚してくる相手も多いのだけど

 全て倒してしまったの」


 その話を聞いて、頭の中では巨大な竜が2匹

 頑張って相手を投げ飛ばそうとしているイメージが浮かぶ。


「だからもう国内では、私が結婚出来る相手が居ない。

 でも結婚もせずに死ぬなんて私には耐えられないわ。


 素敵な男性との結婚を夢見るのは、女なら当然だもの」


 まあ、結婚に憧れる女性というのは解らなくも無い。

 学園に通っていると、そういう話もよく聞くからだ。


「で、思ったのよ。

 世界は広いのだから、きっと外に出れば

 私より強くて素敵な殿方がきっと居るはずだ・・・とね」


「それで、この学園に?」


「ええ。

 昔から魔の種族に理解のあるディーリット家にお願いして

 色々と手を貸して頂いたわ」


 もうとっくに関係など無くなっていると思っていたが

 そういうことだったのか。


「なら、キミの正式な名は?」


「フランのままよ。

 私達には『苗字』ってのが無いから名前だけなの。

 だからディーリットをそのまま借りたという訳。


 ちなみにアナタは違うのでしょう?

 流石にリシアではないと思うのだけど」


「残念ながら答えられない。


 私は、国王陛下の王命を受けている立場である以上

 その役割に支障が出る、または陛下のご迷惑となることは

 避けなければならない。


 そのため現時点では、答える気はない」


「・・・そう、なら今はそれで我慢しておいてあげるわ」


「それで、そろそろ質問に答えて欲しいのだが」


「あら? 何かまだあったかしら?」


「結婚相手探しをしていることも、魔の種族とやらの

 王女であるということも理解した。


 だが、何故腕を組む必要がある?」


「まあ、それを女に言わせる気?」


「解らんから解らんと言っているのだが?」


「もう仕方が無い人」


 そう言いながらフランは、腕から離れて正面に立つ。


「私は、アナタのことが気に入ったの。

 私より強くて、見た目も綺麗で

 そして優しさと気高さを持ち合わせている。


 まさかこんなに早く、アナタのような人に出会えるとは

 思ってもみなかったわ」


 悪い予感というものは、的中してしまうものだなと

 リシアは、ため息を吐く。


「・・・私にそんな気がない、と言ったら?」


「別に構わないわ。

 頑張って、アナタを振り向かせるだけだもの。


 ・・・だから、覚悟してね♪」


 そういって笑う彼女の笑顔が、あまりにも可愛くて

 つい顔を逸らしてしまうリシアだった。






第11章 魔族の王女 ~完~






まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。


本来、5章ぐらいでやりたかったフランの話が

ようやく出来ました。

話を書いていると『あれ?こっちの方が良くないか?』と

つい土壇場で話の展開を変更することがあり

そのたびに、余計な苦労をしている気がします。


その分、皆様に面白いと思って頂けているのなら

苦労も報われるというものではありますが。


とりあえず登場人物の多さと、物語の壮大さなどもあり

全員に話を割り振りながらメインの話も進めることになるため

なかなか『この娘の物語回が来ない』というのがあるかもしれませんが

気長にお待ち頂けると幸いです。


どうしても早く見たいというのであれば

言って貰えれば、前向きに検討はします。

現に3章のルナの話が、そうでしたからね。


仕事の関係上、少し更新ペースが危ないかもしれませんが

何とか頑張っていきたいと考えています。

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