第10章 交錯する思惑
ある日の朝。
いつものように用意された朝食を食べながら
アタシは、ふと思ったことを口にする。
「そう言えば、昨日からリシアさんを見てない気がする」
「・・・アナタ、ついに頭が残念なことになったのね」
アリスの一言に、フランがまるで
可哀想なものを見る目をしながらそう答える。
「何でいきなりそうなるのよ!」
「だってそうじゃない?
どうして今更になってそんなことを言い出したのか
疑問でしかないわ。
100歩譲ってみても、寝ぼけてるとしか思えないわね」
「・・・お忘れですか?
リシアさんは、ご家庭の都合で少しの間帰られると
そう言われていたじゃないですか」
ルナが見かねて助け舟を出す。
「・・・あ~、そうだったね」
そう言えば、そんなこと言ってたっけか。
「聖騎士なんて呼ばれるようになっても、アリスはアリスね」
「そう簡単に人間、変われるものではないわ。
特に、この娘はね」
「わ、悪かったわね!」
セレナ・フラン・アリスのやりとりに
みんなが笑い出す。
女学園の寮は、こうしていつも通りの一日が始まる。
第10章 交錯する思惑
「―――では、この件に関してはそのように進めます」
そう言ってロドル宰相は、先ほどまで出していた資料を下げる。
「では次は、私の方からの提案です」
そう言ってジェイス元帥が話を始める。
まだ30歳ぐらいに見える若い見た目。
頬にかかるぐらいの長めの髪で、やや細身と
騎士としては少し頼りなくも見えるが
実際は、武官としても通じるほどの槍の使い手らしい。
身にまとっている雰囲気も
普通の騎士とは比較にならないほど鋭い雰囲気だ。
我々が集まっている場所は
国政室と名付けられた部屋。
国王の部屋の隣に作られた大きな部屋で
ここには王宮内でも特に身分の高い者か
出入りを特別に許された者しか入れない場所である。
今行っている会議は『国政会議』と呼ばれ、年に数回行われるもので
国王に元帥・宰相が全て集まって国の大きな事業や
国の将来の話をする大事な会議だ。
「―――以上が現在の状況です。
これは防衛のためにも、何より国のためにも重要なものですので
早期実現のため予算を頂ければと考えています」
話の最中、サポート役の近衛騎士が全員に資料を配ってくる。
それには具体的な予算や計画が書かれていた。
「・・・うむ」
陛下も悩むように資料を見ている。
ジェイス元帥が提案しているのは、中央と北西の間にある大きな山に
整備された道を作りたいというものだ。
これが完成すれば人の行き来が楽になるだけでなく
大量の物資輸送も、兵員移動も格段に速くなる。
北西の防衛のためにも必要だということだ。
「―――私は、反対ですな」
誰もが資料を見ながら考えている時に
突然、宰相がそんなことを言った。
既に髪は抜け落ち、長い髭は白くなり
身体には、年齢を感じさせるシワも多い。
だが目つきの鋭さや威圧感など
食えない老人である雰囲気は、誰でも解るほど強烈だ。
先代の王の時代から国政に関わっている筋金入りの文官である。
「・・・何故ですかな?」
当然、ジェイス元帥がそれに噛みつく。
「街道整備に関しては、何か特別な事情でもない限り
その土地の領主が行うと決まっていたはず。
戦争時ならともかく、今は休戦中。
急ぎでもない街道整備に予算を付けたとなれば
他の貴族達に示しがつきませぬ」
我が国では、領主が行うものと国が行う2つの政治がある。
領主達は限られた財政の中で、土地を豊かにするために
様々なことを行う。
国が行うのは、国として重要なものだったり
複数の領主が関係するものや領主だけではどうしようもないものなど
個別に行うのが不可能な問題を中心に行う。
何故、そうしているかと言えば
国が全ての内政を取り仕切ってしまうなら
土地によっての不平等が必ず発生するからだ。
地方との格差もより酷くなる。
それに誰もが『自分の領地を』と言うだろう。
国とて無尽蔵に金がある訳ではない。
だからこそ明確な線引きを行うことで
地方などからの不満が国に向かわないようにしているのだ。
「休戦中とはいえ万が一ということもある。
土地が取られてからでは遅いというのは
宰相閣下も理解されていると思ったのですが?」
「それは私への嫌味かね?
大体、リッツダール帝国から休戦を申し出たのだぞ?
それを自ら破っては、立場など無かろう」
宰相を中心とした貴族の中でもプライドの高い連中は西側に多い。
その西側は、神聖国セントクレスによってかなり領地を奪われている。
要するに反対してきた宰相への当てつけだ。
そんな話をすれば、ますます宰相は反対するだろうに・・・。
「戦争で勝てば立場など何とでもなりましょう」
「相手を刺激することになる。
それにこんな大金をどこから出せというのだ」
「昨年は、かなりの税収だったと聞いておりますが?」
「国庫を空にするおつもりか?
多少の備蓄も必要だ」
・・・聞いているのが、馬鹿らしくなるほどの平行線だ。
「2人とも、止めぬか」
ひと際豪華な服に身を包み、頭には立派な王冠。
少し年齢を感じさせる40代ほどの見た目だが
まだまだ覇気は衰えておらず、自信に満ち溢れた表情で話す姿は
まさに理想の国王という印象を受ける。
そんな陛下の一言で、半ば言い合いとなっていた2人が黙る。
「・・・そうだな。
ダムルよ、この件そちはどう思う?」
話を振られた男は、少し悩むような仕草をする。
短く硬そうなツンツンとした髪と、こちらも短くも立派な髭。
身長や体格は見るからに大きく、まさに大男という姿。
一軍を束ねる者としての雰囲気を十分すぎるほど持っており
無言であっても、その存在感は無視できないほど強い。
これほど武官らしい武官も、なかなか居ないだろう。
「・・・そうですな。
不覚にも帝国との戦いにおいての負け戦の大半が
こちらの準備不足という点が大きかったと考えれば
街道整備も悪い選択ではないとは思いますな」
「だから、それこそ戦時中でもない今にするべきことではないのだ。
それに金を使うのなら、まだ終わらない西か北に建設している
砦の強化費用に回した方がマシだ」
ダムル元帥の言葉に、またも宰相が反発する。
「私は何も街道整備に全面的に賛成している訳ではない。
ただ陛下に聞かれたから答えたまでのこと。
やるかやらんかのどちらかと問われれば、やった方がいいというだけの話。
だが、その費用のあても無いのに無理にやる計画ではない」
ダムル元帥の意見を聞いて陛下が頷いている。
「なるほどな。
では・・・レナード。
そちは、どう思う?」
わかってはいたが、やはりこちらにも聞いてくるか。
そう思いながら、どうしようかなと考えながら話す。
せっかくなので色々とやっておきたいからだ。
「・・・基本的には、ダムル元帥閣下と同じ意見です。
資金が用意出来ない以上、無理にやるだけの理由が無い。
となれば資金が用意出来てから改めて議題とすべきかと」
それを聞いてロドル宰相は、満足そうな笑みを浮かべ
ジェイス元帥は対照的に渋い顔になる。
「・・・ただ、このままでは反対ですが
治水工事と合わせた拡張工事となれば話は別です」
「治水工事とな?」
「地図を」
そう言うと近衛騎士達が中央に大きな地図を出す。
「議題になっている道の半分ほど先に進んだ場所に大きな川があります。
地元の人間しか知り得ぬことですが、ここは氾濫することがあり
被害が大きい場合は、この辺りまで水に沈むとのことです」
そう言って示した場所は、まさにその道を含んだ一帯だ。
「これでは整備しても意味が無い。
ならばいっそ、川の氾濫防止のための作業を行えばいい。
その際、物資や人の輸送路として不向きな道を
この場所まで整備してしまえばいいということです」
それは、ジェイスが整備しようとしていた道の約半分ほど。
しかし、一番厳しい山道を含んでいるため実質的には
かなりの街道整備となるだろう。
「ちょっと待て。
余計な川の治水工事を付けてどうするのだ。
更に金がかかっておるではないか」
こちらが話し終えた瞬間に、宰相が横やりを入れてくる。
「戦時中は、たまたま川が氾濫しなかっただけのこと。
この道が『使えない』となった場合の損失は
言うまでもないと思いますが?
これは国防上、重要な話になりませんか?」
この道は、北西への重要な道だ。
これ以外を使うとなれば、更に険しい山道しかない。
とてもではないが、道と呼べる代物ではない。
「ならば、川の治水だけ行えばよい。
道の整備までは必要なかろう」
「・・・これは不思議なことを。
治水のための物資輸送などで整備された道が必要なのは
宰相閣下が、一番理解されていると思ったのですが?」
「・・・それは、どういう意味だ?」
「確か2年ほど前に、西側の大規模な治水を行った際に
かなり大幅な街道整備をされていたはずですが?」
「・・・それは、一部どうしても山道を切り開く必要があったまでのこと」
「おや、王都に近いこの辺り一帯の何処にそのような山道が?」
示したのは、西側の平地。
それを見て宰相が驚きの顔をしている。
「このような場所の整備など覚えが無い」
それでも何とかいつもの顔に戻ると
平然と恍けてくる。
「・・・5番目の資料を」
レナードの言葉に近衛騎士達が全員に資料を渡す。
「こ、これは・・・!」
それは、その辺りが治水に関する予算の一部を使用して
街道整備を行っていたという事実を示した資料だ。
「てっきり物資輸送のために街道整備をされたのだと思っていたのですが
違うと否定されてしまうと、困りましたな。
では、何故まったく治水に関係の無い場所で街道整備がされたのか」
「・・・どういうことだ、ロドルよ?」
資料を確認した陛下からも言葉が出る。
「わ・・・私としたことが勘違いをしていたようですな」
「勘違い?」
「そうです。
確か治水に必要な物資輸送のため
この一帯の街道を整備しておったはずです。
大きな物資を大量に運ぶには不向きだったため
整備したと報告があったのを思い出しました。
いや、歳は取りたくないものですな」
「では、この川とは関係の無い場所への街道整備は何だ?」
資料を見ていたダムル元帥からも声があがる。
彼が言っているのは、河川と関係の無い方向への街道整備に関してだ。
「・・・それは、周辺から物資や人を集めたからだろう。
かなり大規模だった故、色々と現地調達や人の出入りが多かったため
色々と現場の判断で行ったと聞いている。
詳しい資料を後日、提出しよう」
その言葉を聞いて思わず聞こえない程度の舌打ちをする。
流石、王国に長年住み着いている化物だ。
とっさの言い訳にも隙が無い。
詳しい資料という名の捏造された資料など
提出されても、恐らくそのまま即ゴミ箱に投げ捨てるだろう。
何故なら、文官のほとんどが宰相派だからだ。
「・・・では、どちらにしろ北西の治水に関してという話になるなら
大規模かつ緊急性があると私は判断しますが、どうでしょう?」
とりあえず差し込んだ話だけでも通すとしよう。
気持ちを切り替えて話を進める。
「重要性はともかく、緊急ではなかろう。
それに金はどうするつもりだ?
国庫は、先ほど言ったように備蓄のために
金を出すことは出来ん。
資金を用意出来ねば何も出来んぞ?」
宰相は、さっきの仕返しがしたいのだろうか
すかさず金は出せないとけん制してくる。
「・・・それに関しては問題ありません。
前から商人達が『道が使えなくなると困る』と陳情があがっておりましたので
商人達と交渉して出させる予定です。
流石に全ては無理ですが、3割程度は集められるかと。
次に『東商工団』から北西河川に関して、同じような陳情があったので
こちらの商人達からも資金を出させます。
以前資金提供の話をした際は、ジェイス元帥閣下が示した予算の半分ほどの額を
出すということで話がついておりましたので、問題ないでしょう。
残りの2割に関しては、ジェイス元帥閣下でしたら
ご用意出来る額だと思いますが、どうでしょうか?」
東商工団とは、東側に拠点を置く商人達で
新たな枠組みとして作った巨大組織だ。
街ごとに商工会を作るやり方では、街ごとに細かな取り決めなどがあり
複数の街が関わるような取引では余計に複雑になってしまう。
それに弱小商人達が、商工会の大商人達相手にまともにやりあえる訳が無い。
だからこそ私が主導して東側全てを一括管理する商工会を立ち上げた。
そうすることで何の後ろ盾のない旅の商人だとしても
大商人達の顔色を窺うなんてことをしなくて済むようになるからだ。
「あ、ああ。
2割なら、何とかなるだろう」
「では、これで国庫からは一切の資金を出すこと無く作業が行えます。
・・・以上ですが、他に何か質問などはございますか?」
「国庫から出さずとも何とかなるのなら、問題ないではないか。
ジェイスよ、任せて大丈夫だな?」
「はっ! もちろんでございます」
「それでは、この件はジェイス元帥閣下主導ということで。
あとで詳細を詰めるためにお時間を頂けますか?」
「ああ、構わんよ」
「では、この件はこれで終了ということにしましょう」
片手で合図をすると騎士達が資料を全て片づけていく。
「・・・これで本日の議題は終了でしたかな?」
「おお、そう言えばそち達に聞きたいことがあったのだ」
不機嫌槍な顔で会議を終了しようとした宰相の言葉で
陛下が何かを思い出したかのように言葉を挟んできた。
「どうされました?」
「うむ、そろそろ近衛軍司令を決めようかと思っておるのだが
そち達の意見が聞きたくてな」
近衛軍司令は、帝国との戦いで勝手に突っ込んで勝手に戦死した
宰相派の将軍が務めていた。
アレが死んで以来、空位のままとなっている。
「ダムルよ、そちはどう思う?」
「・・・そうですな。
ライナス卿は、いかがですかな?」
「ふむ、ライナスか」
「ライナス将軍は、ずっと地方の最前線におられた方。
中央の、しかも近衛の司令というのは勝手が解らず苦労されるかと」
誰も聞いていないにも関わらず勝手に話に入ってくる宰相。
「ライナスは、かつて近衛騎士だったこともある男だ。
それに数々の戦を経験しているというのも大きい。
それの何が不満だと言われるのだ?」
「地方には地方の、中央には中央のやり方があると言っているのだ。
その者にとって不向きな役職を与えてしまっては
力を完全に発揮出来ないだろうと言っておるのだ」
「では、ロドルよ。
そちなら、誰が適任だと言うのだ?」
「近衛司令ということでしたら、ランリッヒ卿などいかがでしょうか?」
「うむ、ランリッヒ卿か」
「もしくは、まだ若輩ですが我が息子レバンも元近衛騎士にして
今では立派に西側で地方司令を務めておりますれば
中央においても、また司令官としての実績もございます」
その言葉に思わず吹き出しそうになるのを何とか堪える。
まさか宰相からそんな冗談が聞けるとは思っていなかったからだ。
まあ、この国には不幸な点が2つある。
1つは陛下に子供が居ないこと。
病気で亡くなった王妃が未だに忘れられないらしく
周囲の声を完全に突っぱねて独身を貫いている。
そしてもう1つは、そんな陛下は
『次代を担う若者に後を継がせたい』と仰られたのだが
その次代を担う若者で、国王候補が残念な連中ばかりだということだ。
運が悪いことに
宰相の息子 レバン=ハベルト
ジェイス元帥の息子 ディラン=ヴァルフォード
ダムル元帥の息子 アレックス=バルズウェルト
という歳も同じで、騎士学校を卒業した大侯爵が3人も存在する。
これがまた困ったことに、その内2人が本気で自分が次期国王だと
思い込んでいる可哀想な男だというのだからどうしようもない。
レバンに関しては
こいつがまたプライドの塊と言える男であり
元々は、文官系だった癖に変な色気を出して武官にも首を突っ込んできた間抜けだ。
正直こいつが近衛司令になるのなら
後ろに立っている適当な近衛騎士を司令にした方が、はるかにマシだと言える。
同じくディランも、自分の能力を過大評価している哀れな男だ。
しかもその過大評価した能力でも手が届かないような欲望を抱えるという
自滅する未来しか見えない困った奴だ。
その点、アレックスに関しては
まだ権力的なものに興味を示さないだけマシだろう。
だが、武術以外にあまり興味を持たないという点が問題だと言えるが。
まあ、子供の頃から立場上色々あって女性の醜い部分を見て育ってしまったせいか
女性に一般的な興味はあるものの、どうしても使用人のような扱いをして
深入りしようとしない傾向があるという一面も持っていたりする。
「流石にそちの息子というのは、若すぎるのではないか?」
「何を仰います。
優秀な者は、年齢などに左右されないということは
既に目の前のレナード元帥が証明されているではありませんか」
そして更に不幸なことに、彼らと私は騎士学校の同期だということだ。
・・・ああ、思い出しただけでやる気が削がれる。
「・・・うむ、ジェイスよ。
そちはどう思う?」
「・・・どうしても1人選ぶというのならドリミス卿は、どうでしょう?」
ドリミス=ファーンド侯爵といえば
中央に屋敷がある、かなり昔からの家柄なのだが
結構前から名ばかりの家になってしまっている。
かつての栄光を取り戻すことを一族の悲願らしい。
確かジェイス元帥の支援者の1人だったはずだ。
・・・どいつもこいつも自分の権力を拡大することしか考えておらんのか。
「ドリミスか。
しかしドリミスは今、怪我をしておったのではないか?」
「帝国との戦いで負傷した傷は、もう問題ないと聞いております」
「ふむ、そうか。
では、レナードよ。
そちは誰が適任だと思う?」
「今すぐ選べと言われるのでしたら
ライナス卿が一番でしょうな」
その言葉にダムル・ジェイス両元帥は意外そうな顔をし
ロドル宰相は、驚きの表情を浮かべる。
「そちも、ライナスと言うか」
「ダムル元帥閣下の元で数多くの戦いに参加し
数々の伝説を持つ将軍が近衛軍の司令となるなら
近衛軍全体の指揮も高まるでしょう。
それに近衛司令に必要なのは
『司令のためなら喜んで死ねる』という騎士達の想いです。
それが強力な剣となり盾となって陛下をお守りすることになる。
ライナス将軍は、元近衛ということもあり
近衛騎士の中でも知り合いが非常に多い。
何より将軍を司令にすることで陛下が近衛軍をどれだけ
重要視しているのかということも伝わります。
それは近衛騎士達のやる気や忠誠心のとなるでしょう」
「それならば、ランリッヒ卿も十分な経験を持っておる」
「・・・宰相閣下は、先ほどの話を聞いておられなかったようだ。
近衛司令に必要なのは『騎士達の信頼』だ。
部下に無理な突撃命令を出して多くの犠牲を出したランリッヒ卿では
騎士達が安心して命令など聞けないでしょう」
「あれは確かに多くの被害だったが、相手にもそれ以上の打撃を与えておる。
勝ち戦に文句をつけるのは、感心せぬな」
「何度同じことを言えば、ご理解頂けるのか。
勝ち負けなど関係ない。
問題は『騎士達の忠誠心』だ。
例え玉砕命令であっても、それを疑わずに遂行できるだけの
人望を誰が持っているかという話をしている。
ライナス卿を超えるほどの人望と実績を
ランリッヒ卿がお持ちだというのなら、それを示して頂きたい」
「・・・ぐっ!」
悔しそうな顔をしながらこちらを睨んでくる宰相。
開戦当初ならともかく、後半負け続けたランリッヒ卿では
正直説得力がないことを彼も知っているからだ。
本来、中立で居なければならないサポート役の近衛騎士達も
注意されない程度で、僅かに頷いたりしている。
「ロドルよ、ライナスでは不満か?」
「不満という訳ではございませぬ。
向き不向きの話でございます」
「ダムル元帥の配下では気に入らぬか?」
「好き嫌いの問題ではございませぬ。
国益・国防の問題でございます」
「うむ・・・ジェイスよ。
そちも、ライナスは反対か?」
「・・・いえ、ライナス卿でも問題ございませぬ」
「お主はさっきドリミスの名を口にしていたではないかっ!」
宰相が興奮気味に立ち上がりながら、そう叫ぶ。
「別に絶対ドリミス卿でないと困る訳ではない。
ライナス将軍の実力を知っている以上
特に反対する理由がないだけだ」
ジェイス元帥の話を聞いて
何度か考える仕草をしたのち、陛下が決断する。
「よし、わかった。
ライナスを呼べ」
「陛下!」
「三元帥全員が納得しておるのだ。
問題など無かろう」
「・・・」
これ以上は無理だと判断したのか
興奮して立っていた状態から
ゆっくりと黙って席に座り直す宰相。
それから少しして
「失礼します」
国政室に本来入れないライナス将軍が
特別に入室を許可され、入ってくる。
ジェイス元帥と同じぐらいの年齢に見える若い容姿。
平均的な身長ではあるが、筋肉がかなりついており
見るからに力があるのが解るほど。
短く切りそろえられた髪に、顔に残るのは大きな傷跡。
そして武官らしく、威圧感のある雰囲気を持っている。
だが初めて入る部屋だからか、それとも陛下を含め元帥や宰相が
全てが揃っているからか、いつもとは少し違って緊張しているようだ。
「ライナスよ。
そちに頼みたいことがある」
「何でございましょう?」
「近衛軍司令官を、そちに引き受けて貰いたい」
「こ、近衛軍司令を・・・ですか」
「そうだ。
これはダムル・レナード両元帥からの推薦であり
ジェイス元帥も、これを了承しておる。
どうだ?
引き受けては貰えぬか?」
陛下の言葉に一瞬こちらを見るライナス将軍。
私が推薦したことが気になったのだろう。
「つ、謹んで・・・お受け致します」
「そうか、引き受けてくれるか。
では、頼んだぞ」
「ははっ!」
ライナス将軍は、深々と一礼すると部屋を退出する。
ほんの少しの間しか部屋に居なかったにも関わらず
彼の額には汗がびっしりと出ていた。
現在軍関係は、三元帥が揃っているため
将軍以上の役職となると、近衛軍司令しか残っていない。
長年、地方で戦ってきた将軍にとって王都防衛を任される
近衛軍司令という役職は、これ以上無い栄誉だっただろう。
その後、会議が終わり部屋を出ると
ダムル元帥は、廊下で待つライナス将軍を見つけて近づく。
「よかったな、ライナス」
「まだ手が震えております」
「はははっ、そうか。
お主にとって待ち望んだものだからな。
さあ今夜は、盛大に飲み明かすぞ」
「朝までお相手致します。
・・・ところでお聞きしたいことがあるのですが」
「うむ・・・あの若造が推薦したという件か?」
「はい。
まさか私を推薦するとは思ってなかったもので」
自分はダムル元帥とは親友であり戦友だ。
当然、敵視されていると思っていた。
「ああ、あれには驚いたが
あの若造も見ている所はしっかり見ているのだろうな。
ロドルの奴がランリッヒ卿を出してきた時に、こう言いおった。
『近衛司令に必要なのは『騎士達の信頼』だ。
例え玉砕命令であっても、それを疑わずに遂行できるだけの
人望を誰が持っているかという話をしている。
ライナス卿を超えるほどの人望と実績を
ランリッヒ卿がお持ちだというのなら、それを示して頂きたい』
とな。
反論出来ずに悔しがるロドルの顔を思い出すだけで
気分が晴れるというものだ」
それを聞いて私は更に驚いた。
そんなに自分は評価されていたのかと。
「閣下。
申し訳ありませんが、少しだけお時間を頂けますか?
少し確認したいことが出来ました」
「そうか。
では、美味い料理と酒を用意して屋敷で待っておるぞ」
「わかりました」
元帥に一礼して見送ると、目当ての相手を探して城の中を歩く。
同じ頃、ジェイスを見つけたレナードが話しかける。
「先ほどの件、スグに話を終わらせたいのですが
お時間を頂けますか?」
「・・・うむ、まあいいだろう」
「では、せっかくですので現物を確認しながらにしましょう」
「現物だと?」
「既に城の一角に集めてあります。
さあ、こちらです」
レナードに促され、城の中庭まで歩くジェイス。
「・・・こ、これは」
中庭に着いた瞬間、目の前の光景にジェイス元帥は驚いた。
そこには既に大量の物資や人が居た。
「閣下が治水工事のための人材募集をしている間に
こちらで川までの整備を全て終了させる予定です。
治水に必要な物資や資金に関しては
全て閣下の城まで運ぶよう手配しておきました。
ですので閣下は、残り2割の資金で残りの道を整備して下さい」
「ちょ、ちょっと待て。
私の方の2割も、治水工事に使うのではないのか?」
「これを」
そういって差し出された紙を受け取り
中を確認するジェイス元帥。
「な、なんだとっ!?」
思わず声をあげてしまう。
それは3割出させると言っていた商人達からの誓約書。
そこには計画の半分ほどの資金を出すと書いてあったからだ。
「思ったより多く出させることが出来ましてね。
なので余剰分で残りの街道整備をされては・・・と」
「なら何故あの場でそれを言わなかったのだ?」
「あの場で『全ての段取りが整っている』などと言ってしまえば
宰相は、意地でも反対したでしょう。
場合によっては妨害工作もありえるというもの。
余計な足の引っ張り合いにしないための方便ですよ」
「・・・何故、私にここまで手を貸す?」
「国防上必要な場所と国益上必要な場所が重なっているのに
それを無視する訳にはいかないでしょう?
それにこの際ハッキリと言いますが
私は、リッツダールと宰相。
そのどちらも髪の毛1本たりとも信用しておりません。
私は陛下のため、国民のための政を行っているに過ぎない。
私利私欲で国政を動かすような小者と同じと考えられては困る」
その言葉にジェイス元帥は、またも驚きの表情を浮かべる。
「では、これから作業を開始させますので
作業管理は、お願い致します」
ジェイスに一礼するとレナードは
さっさと城内へと戻って行った。
その後ろ姿を見送ったジェイスは思った。
これが東側を発展させ、まとめ上げた力なのかと。
恐らく治水工事に関しては、こうなると予想していた
・・・いや、こうなるように仕向けたのだろう。
となると、私が街道整備の話をすることも解っていたということ。
つまり、全てレナードの思惑通りだったことを意味する。
それは、陛下や宰相・ダムル元帥までもが自分と同じく
あの男の思い通りに動かされたということ。
その才能が恐ろしいと思うと同時に
もし自分の息子に、これほどの才能があればと
考えずにはいられない。
「・・・これは、試されているとみていいな」
恐らく、私の実力などを見極めるために
あえて手を貸して大きな事業を一任してきた可能性が高い。
つまり私を試しているのだ。
若造の癖に生意気だと思うが、それと同時にせっかくのチャンスなのだ。
徹底的に利用して、最大限北西の発展のために使わせてもらおう。
それこそ、あの男が『しまった』と思うほどに。
同じ元帥としての立場からか、やる気を出したジェイスは
その場に居た者達を集めて、さっそく作業準備を始めるのだった。
城内に戻ったレナードは、近衛騎士達の部屋へと向かっていた。
「・・・レナード元帥閣下!」
後ろから呼び止められ、振り返ると
そこにはライナス将軍が立っていた。
「これは将軍。
何か用かな?」
「閣下が、私を近衛軍司令に推薦頂いた件で
ぜひともお聞きしたいことがありましてな」
「・・・ほう、何が聞きたいと?」
「何故、閣下は私をご推薦下さったのですか?」
「陛下が『誰が良いか』と聞かれたから答えたまでのこと」
「それが私だと?」
「・・・何やら納得いかないという顔だな。
面倒だから直接的に言って貰えぬか?」
「・・・では、直接的な言葉でお聞きします。
自身の派閥からではなく、私を選んだ理由を知りたいのです」
「・・・だから言ったではないか。
陛下からの質問に答えただけだ。
それとも私にも、ロドル宰相のように
権力拡大のための人事を行えと?」
「いえ、そういう訳では・・・」
「まったく、どいつもこいつも・・・」
大きくため息をつくと、ライナス将軍に向き直る。
「私は、陛下の剣であり盾である。
それ以外の何ものでもない。
陛下のため、国民のために政を行うのであって
自身の利益や権力のために行うのではない。
そのような小者と一緒にされては、正直いい迷惑だ。
近衛軍司令の話は、今この瞬間に誰を選ぶと考えた時に
将軍が一番適任だったからそう答えたまで。
別にダムル元帥や将軍の顔色を窺った訳ではない」
「・・・そうでしたか」
正直、ここまではっきりと言い切られるとは思っていなかった。
何度か戦場で一緒になったことはあったが
こうして話す機会などなかったからだ。
「私はな、ダムル・ジェイス両元帥のことは
これでも武人として尊敬している。
リッツダールとの戦いでは、敗戦続きだったために
悪く言う者も多いが、あれだけ兵も物資も揃っていない状態で
帝国の猛攻を防ぎ、王都を防衛しきったお2人の戦いには
敬意の念を抱いている。
お2人の戦いが無ければ今の勝利はありえなかったし
私が反撃をすることも出来なかっただろう。
また私が勝てたのも、中央で大規模な戦いを続けてくれていた
ダムル元帥の軍が居たからこその勝利だ。
それを私は、忘れたことはないのだがな」
その言葉を聞いてライナスは自分を恥じた。
てっきり英雄扱いされてプライドが高くなっている若者だと
思い込んでいたからだ。
兜のせいで表情が解らないが、言っていることが
こちらに気を使っての言葉か本心かぐらいは解る。
レナードの言う通り、2人の元帥が粘っていなければ
王都が陥落していた可能性が高いのだ。
レナードが奇襲をかけて領地を奪い取ったのも
自分達が帝国の主力部隊と戦っていたために
手薄になった場所から攻め込んだから成功しただけの話。
なのに戦場を知らぬ者達は、ただ敗戦というだけで
2人の元帥を責め、勝利したというだけでレナードを英雄扱いした。
それが何より悔しかったのだが、まさかレナード本人が
そのことについてちゃんと評価していたとは思ってもみなかった。
「・・・まあ構わんよ。
信頼というものは、そう簡単に出来るものではない。
私はただ、信じるに足ると思われるよう努力するしかないのだから」
そう言ってレナードは反転すると、そのまま去っていった。
何故自分は、もっと早くこの男と話しをしなかったのだろうかと
ライナス将軍は後悔しながら、レナードが見えなくなるまで
その場で深々と一礼して見送った。
ライナス将軍と別れたレナードは、ようやく目的地の近くまで来る。
だが通路を曲がった瞬間、一瞬だけ足が止まる。
そこには何やら言い合いのように話し込む2人の姿。
「(・・・ちっ、面倒な)」
そう思いながら、その横を素通りしようとした時だった。
「これはこれは、元帥閣下ではありませんか」
「・・・」
何も気にせず、何事も無くそのまま通り過ぎる。
「ちょ、ちょっと待てよ!
何を無視なんてしてくれてるんだ、成り上がり者の癖に!」
「おいおい、成り上がり者はダメだろ。
事実であろうが、もう彼は元帥なんだから」
「・・・はぁ、何か用か?」
「元帥になった途端に、偉そうにしやがって。
僕は、お前と違って生粋の大侯爵だぞ」
「そんなに喧嘩腰じゃ失礼だよ。
せっかく騎士学校の同期が集まったんだ。
少しぐらい話をしてもいいんじゃないかな?」
さっきから身分を主張して偉そうなのが
宰相の息子である レバン=ハベルト だ。
首元ぐらいまである髪に、人を見下しているかのような瞳。
細身で小柄な体型は、どうみても武人には見えない。
無駄に豪華な装飾の服を着ており
その服の肩には、ハベルト家の家紋。
普段は、不気味な薄笑いを浮かべているが、意外と怒りっぽく
特に馬鹿にされると手が付けられないほど
暴れることもある子供のような奴だ。
そして一見、大人しそうに見えるのは
ジェイス元帥の息子である ディラン=ヴァルフォード。
少しウェーブのかかった短い髪に
見るからに人の好さそうな笑顔を浮かべている。
長身だが、こちらも細身で見るからに文官といった感じだ。
こちらは、一見地味に見えるが
かなり良い素材で出来た服を着ており
この服の肩にも家紋がある。
もちろん、ヴァルフォード家のものだ。
大人しそうにも見えるが、これはこれで相手に信用させたり
懐に入ろうとしているだけだ。
そうして相手を利用して、自身の利益を最大限に
引き出そうとしてくるので簡単に信じては痛い目に遭う。
「騎士学校の時から、対応を変えた覚えはないが?」
「まあ余裕でいられるのも今のうちさ。
僕は今では西側のセントクレスに睨みを利かせる
軍隊の司令官、つまり将軍だ。
スグに追い付いてやるさ」
「正式な将軍にはなっていなかったと記憶しているが?」
「そんなもの、スグに正式となるって。
そして次は、空位になってる近衛軍司令かな?」
軍を指揮する司令官は、将軍以上の人間からと決まっているため
宰相が自分の息子を出世させるために、無理やり司令官にしたのだ。
そのため臨時で将軍と同等の権利を有している。
このまま実績を作らせて、それを理由に正規の将軍として
認めさせる気だろう。
しかし残念ながら近衛軍司令に関しては
つい先ほど埋まったばかりだ。
お前が近衛軍司令になる日は、少なくともかなり遠のいた訳だ。
「私も2人に負けないように、頑張らないとね」
ディランに関しては、父親のジェイス元帥の元で
部隊運用の練習中だと聞いたことがある。
「まったく、どうしてお前が元帥なのか解らないぜ」
「まあまあ、彼は私達と違って実戦を何度も戦ってきたんだ。
活躍には、それに似合うだけの報酬があるということだよ」
本当にどうでもいい話に付き合わされ困っている所に
私と同じく通路を曲がってきた1人の騎士の姿をした男が
ため息を吐きながらこちらにやってくる。
「・・・どうしてお前らが居るんだ?」
「それはこっちのセリフだ、アレックス。
何でお前が王都に居るんだよ!」
騎士の名は アレックス=バルズウェルト。
ダムル元帥の息子だ。
鎧を着ているが、その上からでも解るほど
筋肉がついており、見るからに武官であると解る。
短めの髪に、整った顔立ち。
そして元帥の息子という申し分ない家柄で
女性人気が非常に高いらしい。
「父が王都に用があるっていうから、ついでに私も家に
顔を出してきただけだ」
「そう言えば、君の所は王都の屋敷の方が中心みたいだね」
本来、将軍や元帥は各地で内政に軍備などを行うため
王都に帰ってくることは少ない。
私もそうだが、それなりの身分の者は中央に屋敷を持ってはいるが
基本的には、王都に来た時ぐらいしか利用しない。
だから大半を過ごすことになる場所に本拠となる屋敷を
別に構えるのが普通だ。
しかしダムル元帥の奥さんが、王都を離れることを嫌がったらしく
王都の屋敷にも数多くの使用人が存在する。
「まあどっちも家だから、どうでもいい話だがな」
「おっや~?
騎士学校の同期が、揃いも揃って何してるんだい?」
このメンバーにこんな声のかけ方をしてくる奴は
1人しか知らないが、それでも皆一斉に声がした方を向く。
「久しぶりだねぇ。
元気してた?」
この何とも緊張感の無い騎士姿の男は
ダン=ベックラン
同じく騎士学校の同期だ。
肩ぐらいまである髪を後ろでまとめ
常に笑顔を浮かべている。
細い目が、笑顔のせいでより細くなっており
もはや線ではないのかと思わせるほどだ。
何事も適当を信条としているらしく
この男が努力している姿を見たことがないが
裏表が無く、誰に対しても態度を変えないあたりは好感が持てる。
そして、これでも騎士学校時代は
かなり上位の成績だったことを考えると
人知れず努力をしている可能性が高いだろう。
現在は近衛騎士の部隊長の1人となっている。
元々、こいつを探していたので手間が省けた。
「なんだ、お前か。
相変わらず、適当な奴だな」
「いいじゃないか。
変に気を張ってるよりは、気楽な方がね」
「はっはっは。
褒めたって何も出ないぞ?」
「誰も褒めてない!」
・・・何だか騎士学校時代に戻った気がする。
これがあの時代の日常だった。
大侯爵3人に近づくのは、繋がりを持っていたい
領主や貴族の子供たちばかりで、対等な言い合いが出来るのは
このメンバーだけだった。
まあ私は、一方的に巻き込まれていただけなのだが。
「せっかくだし、お茶でもどう?
詰所ので良ければ出すよ?」
「悪いけど、僕は忙しいんだ。
お前達と違ってね」
「私も悪いけど予定があってね。
また今度誘ってくれ」
レバンとディランは、言いたいことだけ言うと
さっさと何処かへ去っていった。
「おう、解った。
またな~」
「・・・声をかけるだけかけておいて、何がしたかったのやら」
レナードは盛大にため息を吐く。
「まあ、レバンの奴が自分勝手なのは
今に始まったことじゃないだろ?」
アレックスが呆れ顔で、そう言う。
「アイツは、昔から全然変わってないからな~」
「ダン、お前もな」
「ははっ、こりゃ失礼」
今残っている2人は、さっきの2人よりは
個人的に話が通じる分だけ、かなりマシである。
「しかしレナードが居るとなると
今日は、国政会議か?」
「・・・想像に任せる」
「おっと、すまない。
言えないのだったな」
国政会議は、重要な会議のため関係者以外には
開催したことすら秘密とされている。
でもまあ関係者は、どうしても何となく解ってしまうので
完全な秘密と言う訳でもなかったりするのは
ある意味仕方が無い部分だ。
「まあまあ。
立ち話も何だし、詰所でお茶でもどうだい?」
「そうだな。
せっかくだし色々と話も聞きたい」
「・・・せっかくだから、その詰所のお茶とやらに期待するか」
「あまり期待するなよ、普通のお茶だぞ?」
「そんなこと、いちいち言わなくても解ってる」
一応、この2人とは騎士学校時代
何度も戦闘訓練で対戦しているうちに
それなりの仲になったという経緯がある。
なので少なくともレバンやディランほど
仲が悪い訳でも、言葉を信用していない訳でもない。
詰所に行くと、近衛騎士達に驚かれはしたものの
色々と話をしているうちに、時間が過ぎていった。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
―――数日後。
「ただいまーってアレ?
すっごく良い匂いがする」
「あら、そうね。
これは台所からかしら?」
学園から寮に帰宅したアリスとフランは
匂いにつられて台所にやってくる。
「あら、おかえりなさい」
「ああ、リシアさん。
帰ってきてたんだね」
「ええ、つい先ほど帰ってきました」
アリスに返事をしながらも、食材を鍋に入れるリシア。
「それにしても、かなり色々作ってるみたいね?」
「ちょっと今日は、豪華にしようと思いましてね」
それから少しして、全員が帰ってくると食堂に集まる。
「これで、最後ですね」
そう言ってリシアが肉料理の盛り付けられた皿を配膳していく。
「今日は、凄く豪華ね」
「誰かの誕生日とかかしら?」
「何かのお祝いって感じですよね?」
誰もがいつもよりはるかに豪華な食事に
何かあったかなと首をかしげる。
「あら、もしかしてまだ知らなかったりします?」
「えっと、何かあったかしら?」
「ルナさんのお父様。
ライナス=フォルグ将軍が
王都防衛の近衛軍司令官になられたので
直接には関係ないですけど、お祝いをと思いまして」
「あら、そうだったのですか?」
「ええ。
その様子では、まだ知らせは届いてないみたいですね」
「そうだったのね。
ルナ、おめでとう」
「おめでとうございます、ルナさん」
「ルナ、おめでとう!」
「皆さん、ありがとうございます。
何だか私が司令官になったみたいな気分ですわね」
その言葉にみんなが一斉に笑い出す。
みんながそれぞれにルナを祝福しつつ料理を食べる。
久々に気合を入れた料理は、いつも以上に好評だった。
夜になり、お風呂も済ませてあとは寝るだけとなった頃。
寝る準備を整えたルナは、ベットに身を投げる。
「・・・近衛軍司令官、か」
現在、元帥の椅子が埋まっている以上
出世出来る最高地点まできてしまったことを意味する。
地方に居がちな元帥や、政策のために
定期的に各地を訪問する宰相と違い
常に王都、王宮に居て陛下をお守りするのが役目だ。
そのため王都の中のことでは
宰相や元帥でも簡単に口出しすることが出来ないほどの
権限を局地的にだが有している。
何より陛下の寝室に入ることを許されるなど
陛下に一番近い位置に居ることになる立場だ。
「・・・やった」
小さくガッツポーズをする。
これで更に距離が近くなったということだ。
「これで、レナード元帥に会えるチャンスが来るかもしれない」
ただの将軍では、なかなか難しかったが
近衛軍司令となった父なら、会う機会も増える。
必然的に会える機会が出てくるということだ。
出会う機会さえあれば、こちらのもの。
もし噂通りの相手なら、あとは積極的に押すだけだ。
私がその気になれば、どんな男でも落ちるだろう。
「・・・こうしちゃいられないわ」
さっそく机に座って手紙を書き始めるルナだった。
第10章 交錯する思惑 ~完~




