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第9章 幼なじみ





「いい加減にしなさいよっ!!」


「そっちこそ、さっさと謝りなさいっ!!」


 闘技場に響き渡る剣戟と

 それに負けないほど大きな舌戦。


 ・・・と言えば聞こえは良いのかもしれないが

 正直に言えば、うんざりとしていた。


「・・・どうしてこうなった?」


 ため息と共に出た言葉は、夕暮れの空へと消えていった。






第9章 幼なじみ






 それは、ある日の訓練での出来事だった。

 その日はとても不幸な巡り合わせとでもいうべきか。


「あら、誰かしら?

 こんな所で犬の散歩をしているのは?」


「・・・出会って早々、言ってくれるじゃない。

 遺言は、それでいいのかしら?」


「まあ、物騒。

 躾のなってないワンちゃんは、これだから困るわ」


「そっちこそ、毎回同じようなことしか言えないのかしら?」


「同じに聞こえるのなら、まずは医者に耳を診てもらう所から

 はじめてみてはどうかしら?」


「じゃあアンタは、その頭の中でも診てもらいなさいよっ!」


 ・・・とまあ、見て貰えば誰でも理解出来るだろう。

 今日の合同授業は、シルビアのクラスと一緒だったので

 学園名物と言われる二人のやり取りが盛大に行われていた。


 延々と続く下らないやり取りから逃げるように離れると

 何故かアリスがついてくる。


「あら、どうされました?」


「今日は、リシアさんに稽古を付き合ってもらおうと思ってね」


「それは構いませんが・・・良いのですか?」


 そう言って彼女の後ろに視線をやると

 こちらに声をかけたそうにしている集団があった。


「まあ、わかってはいるんだけどね。

 たまには私も全力で戦いたいじゃない?」


 彼女は、あの事件以来ずっと人気者であり続けた。

 相手の身分など気にせず、誰でも平等に扱うだけでなく

 困っている誰かを見過ごさずに手を差し伸べてくれる。


 元々あった彼女の魅力が、注目されたことによりハッキリと認識され

 それがより人気に火をつけた・・・と言った感じだ。


 だから合同授業では相手をして欲しいという生徒に毎回囲まれ

 今では、ある意味セレナやシルビア以上の人気となっている。


「・・・なるほど、そういうことですか。

 わかりました、お相手しましょう」


「ありがとう、リシアさん」


「でも、後で皆さんに羨ましがられないか

 少し心配でもありますね」


 そう言いながら想力武装を出すと

 アリスも想力武装を出してその場で構える。


 アリスが想力を解放したのか、彼女の剣の周囲に青白い光が見える。


 想力は、普段視覚的に捉えることが出来ないのだが

 一定以上の力になると薄く青白い光として見えるようになる。

 そしてその光が見えているという時点で

 彼女は、やる気になっているということだ。


「じゃあ、行くよ」


 その言葉と共にこちらに走り込んでくるアリス。



 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。



 しばらくして、授業終了の鐘が鳴る。


「あ~、やっぱり全然勝てないよ~」


「それでも前より動きは良くなってますよ。

 努力の成果は、十分に出ているかと」


 少し相手をするだけのつもりだったのだが

 予想外にアリスが『もう1回』と言い続けた結果

 ずっとアリスの相手をし続けた。


 前に比べれば動きも太刀筋も良くなってきている。

 それを見ているのが面白くて、ついこちらも真面目に

 相手をしてしまったというのもある。


 互いに感想を言いながら、更衣室に戻ろうとした時に

 ふと声が耳に入ってしまい、そちらを振り向く。


「アナタも学習しないわね。

 だから・・・って、そう言えば『ワンちゃん』だものね。

 人間と同じものを求めてはいけないわ。

 ごめんなさい・・・ふふふっ」


「むっき~っ!

 うるさ~いっ!!


 アンタみたいな性悪女に言われたくないわよっ!!」


 ・・・まだやっていたのか。


 これが正直な感想だった。


 周囲に居る少女達は、慣れた様子で無視して帰るか

 声をかけるにかけられず、戸惑っているかのどちらかだ。


 何とも馬鹿らしいと思えてくるが、放置して後で拗ねられても困る。


 そう思って仕方なく声をかけたのだが

 それがそもそもの間違いだった。


「そろそろ終わり、ということでどうでしょう?

 鐘の音も聞こえていることですから、ね」


 2人が同時にこちらを見ると

 数秒の沈黙の後に、シルビアが後ろに下がる。


「・・・そうね。

 こんなメス犬に構っていては、汗を流す時間が無くなってしまうわ」


「・・・確かに。

 こんなメス猫に構っていたら、お風呂にゆっくり入れないもの」


 そのセリフの後、互いに睨み合う。


「・・・」

「・・・」


 その目は『全然納得していない』という目だ。


「・・・放課後、ここに来なさいっ!」


 突然、そう言ってセレナが槍を地面に突き刺す。


「・・・どうしてそんなことをしなければならないのかしら?」


「あら、決着をつけるのが怖いのね?


 まあそうよね。

 口先だけのメス猫だもの。

 ニャーニャー叫ぶことしか出来ないものね」


「それは、アナタでしょう?

 ワンワンと煩く騒ぐしか能の無い癖に・・・」


「怖いのなら、そう言えばいいじゃない。

 ・・・ああ、猫語じゃないと通じないのかしら?


 ニャー、ニャー・・・ふふふっ」


「・・・そんなに無様を晒したいのなら、構わないわ。

 放課後、相手になってあげようじゃない」


「確かに今、聞いたわよ。

 放課後になって逃げださないといいのだけど」


「そうね、アナタが逃げ出すってこともあるかもしれないわね」


「逃げ出すのは、そっちでしょっ!」


「必死になって否定する方が怪しいわ。

 ・・・せっかくだから見届ける人を用意しましょう」


「は?

 何でよ?」


「何処かの誰かが負けたのに『負けてない』なんて

 言い張るかもしれないでしょう?


 第三者が公平に現実を突きつけてあげないと

 哀れ過ぎて話にならないじゃない」


「ああ、そうね・・・そうよね。

 誰かさんが負けを認めない可能性があったわよね。

 確かに、そんな哀れな女に現実を教えてあげる人は必要だわ」


「そうでしょう?

 だから・・・そうね。

 リシアさん、でどうかしら?」


「え? 私ですか?」


「ええ、いいわよっ!」


「いや、ちょっと2人とも―――」


「なら決まりね」


「精々、首を洗って待ってなさいっ!」


「そちらこそ、負けた時の言い訳でも考えておくのねっ!」


 互いに『ふんっ!』と顔を背けて更衣室へと歩いていった。


「・・・どうしてこうなった」


 巻き込まれてしまったリシアは、深いため息を吐くのだった。


 一応念のため、昼休みに学園長室に向かう。


「おや、どうされました?」


 面倒だが、事の説明と共に

 放課後、闘技場の全面貸し切りを申請する。


「・・それは災難でしたね、ふふふっ」


「まったく、面倒な話だよ」


 出された紅茶を飲みながら、ため息を吐く。


「それにしてもあの2人は、ずっとああなのか?」


「・・・そうですね。

 聞いた話では、子供の頃はもう少しマシだったと」


「やはり純粋で居られるのは、子供の特権のようだな」


「名のある家柄というものは、どうしても周囲が放っておかないものですから」


「どこも同じ・・・ということか」


 紅茶を飲み干すと立ち上がる。


「閣下なら、2人を何とか出来ると期待しております」


「私とて万能ではない。

 変な期待をされても困るのだがね」


 そう言ってさっさと部屋を出るリシア。


「・・・ですが私は、貴方なら何とかするのではないかと

 期待せずにはいられないのですよ」


 そう呟いた彼女の言葉は、誰に聞かれるでもなく宙に消えるのだった。



 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。



 そして放課後になり、2人は律儀に闘技場に現れた。


「(・・・来なくていいのに)」


 口には出せないが、そう思ってしまう。


「よく来たじゃない。

 逃げ出さなかっただけ褒めてあげるわ」


「アンタこそ、てっきり怖くなって

 逃げ出したかと思っていたわ」


「相変わらずよく吠える犬だこと」


「そっちこそ相変わらず遠くからニャーニャー言うだけの猫ね」


「まあいいわ。

 その減らず口、今日こそ縫い付けてあげましょう。


 ―――神剣よ、我が力となれ」


 その瞬間、シルビアの手には剣が握られていた。


 神剣 ティリュファー


 かつて女神アンナローズは、悪しき魔物を倒して

 人々を救ったとされている。


 その時に使われた剣の名が『神剣 ティリュファー』だ。


 教会が語る世界の成り立ちで登場する有名な神剣の名を

 そのまま冠する想力武装があるとは・・・。


「それは、こっちのセリフよ。

 今日こそ、その生意気な口を閉じさせてあげるわ。


 ―――伝説の龍よ、その力を我に」


 対するセレナも、想力武装を手にする。


 女神の剣に、国を守護した伝説の龍。

 それだけ聞けば豪華な話なのだが、対決する内容が微妙すぎる。


「それじゃ―――」

「―――行くわよ」


 武器を手にして互いに勢い良く交差し

 金属同士がぶつかり合う音が響く。


 ―――そして現在に至る・・・といった所か。


 あまりにもどうでもいい勝負だが念のために

 一応闘技場全てを立ち入り禁止にしておいた。


 それを今、心からやっておいてよかったと思う。


「―――それだってアナタのせいでしょっ!」


「私のせいにしないでくれるっ!?」


「だって昔からそうじゃない。

 『こっちの道に違いない』とか言って、結局迷子になってっ!」


「あの時は『街の外が見てみたい』なんてアンタが言い出したからでしょっ!」


「外までの道は、迷子にならなかったわ。

 だって私が先導していたのだから。


 ・・・でも帰りはアナタが迷ったのよね?」


「うっさいわねっ!

 怖くなって泣き出したアンタに言われたくないわよっ!」


 彼女の手に炎が集う。

 一瞬で巨大な炎となった塊が、シルビアに向かった飛んでいく。


「そっちこそ、一緒になって泣いていたと記憶しているけれど?」


 しかしシルビアの前に巨大な氷の壁が出現して

 その炎を受け止め、消してしまう。


 シルビアの『能力』は『凍結』というところか。

 周囲全てを凍らせるような冷気で、氷柱を相手に投げつけたり

 氷壁で防御をしたりと多彩である。


 ある意味、私の『能力』に似ている部分がある。


「・・・思い出した。

 確か橋の下で、アンタお漏らししてたわよね、ふふふっ」


「―――ッ!

 ア、アナタだって

 森で迷ってお漏らししたことあったじゃないのっ!」


 距離を詰めたシルビアによる一撃がセレナに迫る。


「そ、そんな話知らないわよっ!」


 冷静に受け止め、相手の一撃を利用して後ろに少しだけ下がると

 その場で槍を構えながら一回転して、横薙ぎで応戦する。


 遠心力がついた強力な一撃にシルビアが後ろに大きく跳躍して逃げる。

 流石にあの一撃を女性に受け止めろという方が無理だろう。


「誤魔化そうとしてもダメよっ!

 そんなことだから何をやってもダメなのよっ!」


 後ろに着地すると、巨大な氷柱を一瞬で作り出し

 セレナに向けて発射する。


 シルビアの想力も、戦場で見たどの水を司る想力者と比べても

 格段に強力だと言える力だ。


「アンタに言われたくないわよっ!

 初めて陛下主催の宴に行った時に

 踊れなくて誘いを断りまくったって聞いてるわよっ!」


 飛んできた氷柱に向かって

 セレナも巨大な炎弾を出現させてぶつける。


 空中で激突した両者は、共に爆発して消滅した。


「・・・あれは気が乗らないのに、それに気づかない

 馬鹿な男達が群がってきただけの話よ。


 それを言うならアナタなんて食べ過ぎでドレスが破れたって聞いたけど?」


「あれはドレスの裾が引っかかって少し破れただけで

 食べ過ぎとか、まったく関係ないわよっ!」


 2人とも白兵戦の技術力は、正直粗削り過ぎて

 このままではどうしようもないが、才能が無い訳でもない。

 想力に関しては、共に文句のつけようがないほど優秀である。


 もし部下に居たのなら、私自ら徹底的に訓練をして

 隊長格に育て上げているぐらいにだ。


 色々と勿体ないなと思いながら、ただ見ているしかない。

 こういうのは、下手に間に入ると余計に面倒なことになる。


「あとは確か、踊りが下手で踊った男全員の足を踏んだらしいわね?」


「あ、あれはちょっとした手違いよっ!

 今は、もうちゃんと踊れるものっ!!


 ・・・そう言えば確かアンタってやたらと最近、かなり年上から人気あるそうじゃない」


「・・・それがどうしたの?」


「何でも『貴女を一番愛している』って迫られまくってるんですって?


 倍近くも歳の差があるおじさま達から

 物凄く熱烈な求婚を受けてるのが気に入らないって

 そんなおじさまの奥さん達から、かなり嫌われてるんですってねっ!」


 どこの国でもそうだが、優れた人物ほど

 優秀な子孫を残してもらう必要がある。


 だから身分の高い者ほど、より多くの奥さんを貰う必要が出てくる。

 半分は、義務のようなものだ。

 なので一夫多妻は、珍しくもなんともない。


 しかし中には陛下のように1人の女性にのみ愛を捧げる者も

 少数ではあるが存在する。


「・・・確かにかなり年上の方から、そういったお話しもあるけど

 残念ながら一番多いのは、無難に年齢が近い方よ。

 それよりも何の教養も無い、身の程知らずの男達に

 求婚されて続けてるアナタに言われたくないわね」


「ど、どういう意味よっ!?」


「アナタに求婚してくる男って、確かに同じぐらいの歳ばかりだけど

 何の実績もない子爵とか、負け戦ばかりの癖にやたらと自慢してくる伯爵とか

 あとはアナタのお父様と繋がりを持っていたいと考える領主の息子ばかりじゃない」


「年上のおじさんに色目使って略奪愛やってるアンタに言われたくないわね」


「相手が勝手に寄ってくるだけだし

 全員丁重にお断りしているのだから略奪愛とは言わないわよ。


 それよりも、変なのばかり集まってくるそちらの方が酷いのではなくて?」


「私だって全員断ってるわよっ!」


 ・・・何だか聞いていて悲しくなってくる暴露大会と化している。


 ダムル・ジェイス両元帥は、これが学園中に伝わることを防いだ私に

 感謝の1つでもするべきなのではないだろうか?


「それに私にも選ぶ権利ぐらいあるわ」


「アンタみたいなメス猫を誰が貰ってくれるのかしら?」


「それは、そっくりそのままアナタに返すわ」


「残念ながら私ほどの美少女ともなれば、選び放題よ」


「美少女・・・ねぇ」


「その憐れむような目は、何よっ!?」


「いえ、別に。

 ・・・ふふふっ」


「絶対馬鹿にしてるでしょ!!

 アンタがビックリするような相手と結婚するんだから覚悟しておきなさいっ!」


「ええ、私がビックリするようなほどの男を期待しているわ」


「その発言の仕方は、私の思ってるものと違うでしょっ!?」


「私がビックリするほど愉快な男を連れてくるのでしょう?」


「だからそういう意味のビックリするじゃないわよっ!!


 そう・・・例えば、レナード元帥とかっ!!」


「・・・アナタの口から、その名が出るとは意外ね」


「わ、解らないじゃない?

 同じ大侯爵で、歳も近いらしいし?」


「いえ、残念ながらそれは無いわね。

 レナード元帥にも『選ぶ権利』ぐらいあるわ」


「ちょっとそれ、どういう意味よっ!?」


「いくらレナード元帥が変わり者だと言われていても

 アナタのようなワンワン吠えるだけで

 女の魅力もない娘を選ぶ訳ないじゃない」


「わ、私にだって魅力の1つや2つ・・・って胸を見るな~っ!!

 女の価値は、胸だけじゃないわよっ!!」


「まあ言いたいことも理解出来るけど、やっぱり殿方は

 大きい胸に興味があるものなのよ」


「うぐぐぐぐっ・・・!!!」


「それにレナード元帥の相手なら、私ほど器量がある娘でなければね」


「は?

 アンタのどこに器量なんてものがあるのよ?」


「残念ながらアナタの数倍はあるわよ。

 それにお父様は、ダムル元帥やロドル宰相ほど

 レナード元帥と仲が悪い訳じゃないもの。

 2人が手を取れば国の動かすのに十分な関係が出来るわ。


 そして私は、国の英雄と呼ばれる元帥の妻となる。

 陛下に子供が居ないことを考えると王妃になるのかしら」


「アンタが王妃とか意味わかんないわ。

 それに元帥だってアンタのその性格を知ったら

 私の方が良いって言ってくれるわよ」


「・・・ふふっ」


「あ~っ!

 鼻で笑ったわねっ!」


「アナタがあまりにも夢物語を語るものだから、つい笑ってしまったわ。


 ・・・そうね、うちの兄さんをあげるからそれで我慢しなさい」


「それこそ意味わかんないわよっ!」


「悪い人ではないのだけど、身の丈に合わない野心を抱く困った人なの。

 だけどまあ一応アレでも元帥の息子で大侯爵な訳だから

 アナタぐらいにピッタリでしょ?」


「・・・よく自分のお兄さんをそこまで言えるわね、アンタ」


「能力的に負けてるからって実の妹に嫉妬するような小者よ?

 今でも十分に最低限の敬意ぐらいは払ってるわ。


 私の相手って考えても、レナード元帥ぐらいしか居ないのよね。

 アナタの所のお兄さんも悪い人ではないのだけど

 社交界ではあまり良い噂を聞かないし、ロドル宰相のご子息も

 メビア会長ぐらい優秀なら良かったのだけど・・・。


 そうなるともう後は似たり寄ったりの人間ばかり。

 名前をあげるほどの人物は、レナード元帥ぐらいしか残らないわ」


「まあ言いたいことは解るけど・・・ってうちの兄さんの悪い噂って何よ?」


「あら知らないの?

 『女性は家で子育てしながら旦那を帰りを待つのが仕事だ』って

 彼、言い切ったそうね?


 女性を使用人か何かだと思っているみたいだって

 社交界では噂になってるのよ?」


「・・・もう、あの人はスグそういうこと言うんだから」


 思い当たることでもあるのか、ため息を吐くセレナ。


 突然自分の名前が出て少し驚きもしたが

 やはり年頃の娘ともなれば、結婚を考えるのだろう。

 今までそういう相手として見ていなかったが、そう言われてしまうと

 途端に彼女達を意識してしまうのは、私がまだまだ未熟だということか。


 陛下からも『早く嫁を貰え』と言われたこともあるし

 貴族達から『ぜひうちの娘を』と求婚があることも知っている。

 何故かテリア達が必死に求婚話を潰しているらしいが。


「(そう言えばラングベルズ家からもそんな話をされたことがあったな)」


 一瞬、リリスの顔を思い出して首を横に振る。

 色々と考えが末期だ。

 しばらく深呼吸でもしながら精神統一でもしておこう。


 それからも誰も止める者が居ない謎の戦いは

 互いに決め手を欠いた泥仕合となり、時間だけが過ぎていく。


 そして完全に日が落ちかけ、月が少し顔を出すぐらいになり

 2人は、体力的な限界となったのか睨み合って動かなくなる。


「はぁ・・・はぁ・・・。

 い、いい加減・・・に、しな・・・さいよ・・・ね」


「そ、そっち・・・こそ。

 さっさと、倒れ・・・なさいよ、ね」


 肩で息をしながらも、その闘志だけは衰えていないのだから

 呆れるのを通り越して感心してしまうぐらいだ。


「そろそろ夜になりますよ。

 そんな泥だらけで帰るつもりですか?」


 どうせこうなるだろうと用意しておいた

 タオルと水を2人に手渡す。


 少しの休憩を挟んで落ち着いた頃だった。


「・・・もうこんな時間だし、そろそろ帰らないと」


「さっさと犬小屋に帰らないと主人に叱られるわよ?」


「・・・まだ言うか。

 アンタが、さっさと負けを認めないからでしょ」


「それはこちらのセリフよ。

 アナタが無駄に負けてないって言い張るからこうなるのでしょう?」


「はいはい、そこまでです。

 今回は引き分けってことでいいじゃないですか。

 どうしてもやりたいのでしたら、また今度にして下さい」


 そう言って無理やり更衣室に2人を押し込める。

 こうでもしなければ、ずっと言い合いをしていそうだ。


 流石に一緒に入るのが躊躇われて、外で待つことにする。


「・・・ふふふっ」


「ちょっと、何笑ってるのよ」


「いえ、別に」


「明らかに私を見て笑ってたでしょうっ!?」


「いえいえ、そんなことは。

 ・・・ふふふっ」


「人の胸を見ながら笑うなぁ~!!!」


「だから気のせいだって言ってるでしょう?」


「何でも大きければ良いって訳でもないでしょ!

 大体何すれば、そんなに無駄に大きくなるのよっ!!」


「・・・私、どういう訳か食べれば食べただけ胸が大きくなってしまって」


「は?

 意味わかんないんですけど?

 はぁ?」


「あら、普通はそうなるのだと思っていたわ」


「そんな訳ないじゃないっ!

 普通は食べ過ぎたらお腹とかにつくから

 食べたくても我慢するものでしょ!?」


「我慢なんてしてるの、アナタ?

 食べたいものを食べたいだけ食べればいいじゃない。

 ・・・まあそれで食べたものが全て胸にいってしまうのだから困ったものだわ」


「は?

 意味わかんない。

 目の前の女が『お魚が空を飛んでるの』って言うぐらい

 意味解らないこと言ってるんですけど」


「確かに、みんな私と同じなら

 アナタみたいな残念なことになってないわよね」


「残念とか言うなぁぁぁぁっ!!!」


 ・・・やはり中でも喧嘩は継続中だった。


「・・・これは確実に夜になるな」


 どうしてこんなことに付き合わねばならんのかと

 またもため息が出る。


 結局、全てが終わったのは予想通りすっかり夜になった後だった。


 シルビアを迎えに来ていた馬車まで彼女を送り届けると


「・・・はぁ」


 ため息を吐くセレナと共に寮へと帰る。


「・・・リシアさんは、良いよね」


 何故かこちらを・・・というか、こちらの偽胸を見ながら呟くセレナ。


「まあ私は、どちらでもいいと思うのですが」


「それは『胸がある人』の意見なのよっ!」


 そう力説されても『男』である私には

 どうでも・・・というか理解出来ない話だ。


 寮の玄関扉を開けると、丁度目の前の廊下を歩くアリスに出会う。


「ああ、2人ともお帰り。

 あんまりにも遅いからみんな心配してたんだよ?」


「ア、アリスゥゥゥ~!!」


「ど、どうしたのよセレナ」


 突然泣きながら抱きつかれたら、誰だって困るだろう。


「アリスだけは、私の味方よねっ!?」


「えっ!?

 ・・・何の話なのって、突然胸を触らないでよっ!」


 アリスの胸を揉みながら満足そうにしているしているセレナ。


「・・・アナタ達は、一体何をしているのかしら?」


 その騒ぎを聞きつけて、食堂のある方角からフランとルナが顔を出す。


「ええ、実は・・・」


 2人に先ほどまでの一部始終を説明する。


「・・・それは、災難だったわね」


「気持ちは・・・解らなくもないですが・・・」


 フランは完全に呆れ顔で、ルナも苦笑いしている。


 本当に、こんな茶番に付き合わされた身にもなって欲しい所だ。


 その後も終始アリスに付きまとうセレナに苦笑しつつも

 自分の部屋へと戻ってくる。


 何だかいつも以上に疲れた気がする。


 部屋には定期報告のためにミーアが居た。


「お前は―――」


「何でしょう?」


 何となくセレナの話を振ろうかと思ったが

 彼女の胸を見て言葉が出なくなる。


「・・・いや、何でもない」


「は、はぁ・・・」


 ミーアも胸が大きいからだ。

 きっと彼女も『理解出来ない側』だろう。


「それよりも至急、ご報告したいことがあります」


 こちらが言うよりも先に話題を切り替えるミーア。

 いつも以上に真面目な彼女の表情に、こちらも気持ちを切り替える。


「何があった?」


「街で『赤色の想力者』を見かけたという情報が入りました。

 フォレスの学生服を着ていたそうですが、顔は暗くて見えなかったとのこと。

 長い髪をした女だそうです」


 以前、タナ=オルタムを相手にした時も

 彼女から赤い想力が出ていた。


 そしてメル=バトンの時もアリスが

 『そう言えば一瞬だったけど想力が赤かった気がする』と言っていた。


 どうやら『女神様』とやらに繋がるものとみて間違いないだろう。


「しかしフォレスの学生は、よく狙われるな。

 想力者を狙っていると見るべきか・・・」


「しかしタナ=オルタムは、想力者ではありませんでした」


 ミーアの言った通り、メル=バトンは想力者だったが

 タナ=オルタムは、そうではない。


 フォレスは、確かに想力者を集めている場所ではあるが

 普通のお嬢様や平民の娘もそれなりに多い。

 以前にも言ったが、大半の学生は

 この超がつく一流学園を卒業したという『箔』が欲しいのだろう。


「一応、その女学生を探し出せるように調査を開始してくれ」


「わかりました」


 ミーアが出て行ったのを確認すると、そのままベットに倒れ込む。


「・・・幼なじみ、ねぇ」


 私にもそういうのが居ない訳でもない。

 かつて私も騎士学校に通っていた時代がある。


 その時の同期達が、そうなるのだが・・・。


「・・・思い出しただけで疲れてくるな」


 その同期達が予想外に曲者揃いというか、馬鹿が多いというべきか。

 顔を思い出しただけでウンザリしてくる。


「はぁ、今日はもう寝るか」


 風呂の準備をしながら、明日こそまともな日になってくれと祈るリシアだった。






第9章 幼なじみ ~完~






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