序章
華佗、ここに筆を執る。
中華の歴史は古い。紀元のはるか前より、幾多の王が興り、滅んだ。乱れた七国を初めて一つに束ねたるは秦の始皇帝。されどその天下は長からず、これを討ちしは覇王・項羽。その項羽を破り、民を愛し太平を願ったのが漢の祖・劉邦である。ここに漢四百年のはじまりがあった。
されど漢もまた一度は簒奪者・王莽の手に落ち、のちに再び興った。後の世の人は、初めの漢を前漢、蘇りし漢を後漢と呼び分けた。その後漢もやがて衰え、黄巾の乱が起こり、群雄割拠——国が生まれては消え、消えては生まれる、そういう世となった。
これより語るは、そんな乱世の、一個人の話である。
単家——権勢なき寒門の家に生まれた者、ここにあり。姓は徐、名は庶、字は元直と申す。世の書物にはこの「単家」を読み違え、「単福」なる姓名の男と記したものすらあるが、なに、書物とはそういうものだ。正しきことも、誤りも、等しく後の世へ運んでゆく。ならば私が、この目で見たままを語り直そうではないか。
彼は知者であった。熱血漢であった。親に孝を尽くし、そして誰よりも、この乱れた世の行く末を憂う若者であった。
私は問いたい。もしも——もしも、この単家の坊やが、世の流れを変えていたとしたら。歴史がついに書かなかったもう一つの過去を、いま新たに生むとしたら。
これは、単家の坊やがいかに駆け、いかに戦い、いかに孝を貫いたか——それを天下に知らしめんがための書である。
しばし、お付き合いくだされ。




