09
「いま大丈夫だった?」
「おう。ただ、いま親戚の子どもが家に来ているんだよな」
「そっか、そういえば去年もそうだったよね」
疲れたとか言いつつ声音からは凄く楽しめたことが伝わってきていたから今年もきっと多分同じだ。
私としてもただ声が聞きたくなっただけだから一緒に過ごせないようでがっかり、とはならない。
「電話をかけてきたってことは用があったんだよな?」
「ううん、ただ声が聞きたかっただけなの、だから気にしないでいいよ」
「いや、そんなことを言われたらこっちが気になるんだけど」
「はは、ちゃんと相手をしてあげてね、じゃあね」
両親はいないから早めのお昼ご飯でも作ってお昼寝でもしようか。
今日は元気組からも誘われたりはしていないし外に出ても寒いだけだからそれがいい。
命を預かるということだから気軽にはできないけどこういうときに猫ちゃんとか犬ちゃんとかがいてくれたらな、なんて一瞬考えたりもしたけどすぐに捨てた。
「よし」
手作りでもインスタントでもいいもののお味噌汁とかスープ系は絶対に存在していてほしい。
冬なら尚更のことだ、これがあるだけで本当に落ち着ける。
でも、今日はそのほっとしたときにインターホンが鳴ってすぐにいい状態が通常の状態に戻ってしまったことが残念だった。
「はい――もう、ちゃんと相手をしてあげてって言ったのに」
「いやいや、真白がすぐに切るのが悪いんだろ」
「すぐに人のせいにしない――と言いたいところだけどまだ白米もお味噌汁もあるから格君も食べてよ」
「おう、食べさせてもらうよ」
おかわり分はなくなったけど仕方がない。
「電話に反応してくれた時点で声は聞けていたから満足できていたんだけどね」
「あれならなにか用があると言われた方がマシだったな」
「用がないからこうしてお家にいて早めのお昼ご飯を作って食べていたんだよ?」
「それに会いたかったからな」
会いたい、会いたいねえ。
「私なんていつでも会えるでしょ、だけど親戚の子はそうじゃないよね? 大体は親に無理やり連れていかれているだけだとしてもその先で格君と話すことを楽しみにしていたかもしれないんだよ? これだと私が取り上げているみたいで気になるよ」
「それがさ、なんか去年と違ってゲームばっかりやっていて相手をしてくれなかったんだよ」
「え、そうなの?」
「おう、だからそういう点でも丁度よかったんだよな」
私も親戚が集まるときには寝てばかりいたから偉そうにも言えない。
それにいまも言ったように嫌でもいかなければいけないからそういう手段に頼るのだって悪いとは言えないわけで、寧ろ寝てばかりだったりの私より大人の対応ができている気がする。
「でも、仕方がないか。慣れない土地、家だと逃げ場もないからな」
「寝てばかりの私よりいいと思うよ」
「俺もやることがないし寝ようとしていたところであれだったから来たんだ」
「それだと私に影響力があるみたいだね」
「あるぞ」
よし、食べ終えたから洗い物でもしよう。
一応言っておくとそういう雰囲気になるのを避けているからではなくて放置しておくと大変になるからだ、だから決して逃げたわけではない。
「もう登校日までずっといていいか?」
「格君のご両親が大丈夫ならいいよ」
彼の場合は無理やり連れて来られているわけでもないから飽きたらすぐに帰れる環境なのも悪くないはずだった。
あと流石に六日までいてくれるとは考えていなかったため、緩い気持ちで受け入れたわけだけど……。
「まさか本当にずっといるとは思わなかった」
「悪い、真代さん達も普通に受け入れてくれたから甘えてしまった」
「謝る必要はないよ、私の想像が間違っていただけだからね」
飽きなかったことがすごい。
あとよかった点は私のことを放置することもなく両親とも仲良くできていたことだ。
「学校まで走るか」
「え、なんで?」
「なんか久しぶりで落ち着かないんだよ」
制服を着ている状態では走りたくなかったから断ったら一人で走っていってしまった。
彼でもお休みを求めたくなるときがあるということなのだろう。
ゆっくりと登校して教室でのんびりしていたら「おはよう」と遥がやって来たから挨拶をした。
「抱きしめてもいい?」
「いいよ、あ、いいわよ?」
髪の長さも似たようなものだから母を求めているということでいいだろう。
それにぎゅっとされて嫌ではないからなすがままとなっておけばいい。
「……実は朝から嫌なことがあってね、これは真白さんと話すことでなんとかしようとしていたんだけど見ていたら抱きしめたくなっちゃった」
「そういうなにかが出ているということ?」
「うん、多分英梨先輩的にも同じだと思う」
そんな能力が私にもあったのか。
なら興味を持ってくれているはずの格君がしてこないのは……我慢しているだけとか?
「少し落ち着けたよ、ありがとね」
「ええ、これからまた頑張っていきましょう?」
「うん、頑張ろうね」
英梨についてはこれまでと同じように来てくれたときに相手をすればいいかと決めた。
今日はすぐに終わるから終わった後のことを朝から考えていた。
「邪魔は入らなさそうだね、下ろすけど喋ったらどうなるのかわかっているよね?」
「お腹が空いたからなにか食べにいきましょう」
「いこういこうっ」
固まってしまっている犯罪者さんの手はこちらが掴んで連れていくことにした。
結局はお昼からヘビーな料理は微妙ということでファミレスとなったけど。
「食後はやっぱりパフェを食べなきゃね」
「今日だけで結構お金を使ってしまっているわね、大丈夫なの?」
「大丈夫っ、まだ一万円ぐらいは貯金があるから」
「偉いわ、私も見習わなきゃいけないわね」
私の方も同じぐらいか。
彼女達と過ごすようになってからちょくちょく使うようになったけど基本的には緩くお喋りをしているだけだからそこまでダメージにはならない。
そうやって過ごしている間にお小遣いの日がやってくるのがよかった。
「あの……」
「途中まで運んでくれたのは楽だったけどもっと普通にしてほしいわね」
「だって遥ちゃんとばっかり盛り上がっていて嫌だったから……」
「それは遥しか来なかったからよ」
落ち着かないとか言っていた格君も来なかったら遥に集中するに決まっている。
真白を英梨に置きかえたって同じようにするだろうから冷静に考えてみるといい。
「私、早い段階で気づいていたけど英梨先輩はどこか遠慮しがちなところがあるみたい、それなのに若尾先輩を抱きしめられたのはすごいことだと思うの」
「うっ……なんでこの後輩達は私を苛めてくるの……」
「ううん、本当にすごいことだよ、私だったらできないもん」
当然だけど私が好きなわけがないか。
勘違いしそうになるから今後ああいうことは止めるべきか。
それよりも、だ。
「あら、英梨に対して敬語をやめたの?」
これだ。
だけど仕方がないか、どう考えても私よりも英梨と仲良くした方がいい。
「うん、実は二日に集まっていてね」
「仲良くなれているようでよかったわ。でも、これ以上はあれだからお会計を済ませて退店しましょう」
「うん」
わがままなのはわかっているけど少し複雑だったりもする。
でも、邪魔をするのは違うからすぐのところで解散にして別れようとしたのにできなかった。
ただこれも英梨が掴んできているだけだけで必要とされている感じは出てこない。
「短い時間だったけど一緒にお昼ご飯が食べられてよかったわ、だけど用事を思い出したから帰るわね」
「それってどうしてもいますぐにやらなければいけないこと?」
「別にいますぐにやらなければいけないことではないけど」
「待った、真白ちゃんなにか勘違いしていない?」
「勘違いなんてしていないわ」
ただただ痛いだけで。
自分は格君と過ごしておきながらこっちも求めようとすることが間違っているのはわかっている。
だから今日は距離を置くことで無自覚に表に出して迷惑をかけるよりもいいと判断したのだ。
「あ、もしかしてこっそり二人で会ったから?」
「だからあなた達は関係ないわよ、用事を――」
「嘘だよね?」
「う、嘘ではないけど」
英梨は不安そうな顔で見てきているだけだけど今日は遥の方が同じようにはできないようだ。
このまま帰ることはできなさそうだから両手を上げると「それでいいんだよ」と二回頷いた彼女。
これでは構ってほしくてしているようにしか見えないから微妙だ。
「だけどちょっといまのは真白さん、わがままだよね」
「うっ……なんでこの子は苛めてくるの……」
「だって自分は私のことを放置して若尾先輩といちゃいちゃしているのに」
「た、ただ一緒に過ごしているだけよ? 抱きしめたりとかキスをしたりとかは一度もないから」
「当たり前だよ、もししていたら怒るよ私」
お、怒るのか……。
「こらこら、真白ちゃんを困らせないの」
「でも、真白さんが誘ってくれたからこうして出てきているのに勘違いをして帰ろうとする方が悪くない?」
いや、最初からこれが彼女の本当のところなのだろう。
これまでは抑えてくれただけ、うん、それならこうして爆発したってなにもおかしくはない。
どういうつもりで抑えていたのかはわからないけどね。
「私が言うのも変だけど急に敬語をやめるぐらい仲が深まっているようなら仲間外れ感が出てそうしたくなっちゃうんじゃない?」
「だけど英梨先輩がやめていいって言ってくれたからやめただけだよ?」
「だから私も真白ちゃんがいるところでやればよかったね」
「それは流石に真白さんのことを気にして行動しすぎだよ」
まあ、これまで本人がしていただけとはいえ我慢させてきてしまったわけだし言わせておこう。
強メンタルではないから言われる度になにかが抉れているけどスッキリできるならそれでいい。
あとは必要以上にサンドバッグにされないように正しい距離感に戻せば完璧だろう。
「ちょっと今日は不安定みたいだからこれで解散にしよっか」
「む、英梨先輩もなの?」
「楽しく過ごせるときにまた一緒に過ごそう」
次はあるのだろうか、あ、二人にとってはあるだろうけどね。
止めてくれたのが英梨でも終わらせてくれたのも英梨で結果的に助かった。
連絡先とかについては悩みに悩んだうえで残しておくことにしたのだった。
「お? 珍しいな」
「ちょっとお散歩をしていたんだ」
教室では過ごしづらくなったから仕方がない。
遥にどこかにいけなんて言える権利はないから嫌なら自分が逃げるしかないのだ。
「そうだ、今日の昼ご飯のときおかずを交換しようぜ、珍しく俺が作ったんだ」
「はは、自信があるんだね」
「おう、今日は過去一番でいい出来だからな」
それならお昼だけは緩くていい時間になりそうだ――と考えられていたのは四時間目まででお昼休みに突入したら微妙な時間の始まりになった。
この状態でも律儀に付いてくることは褒めるべきなのかもしれない?
「やっぱり弁当と言えば卵焼きだから卵焼きを交換しよう」
「うん、どうぞ」
「ありがとな、真白もこれを食べてくれ」
あ、だし巻き卵か、これはこれでいいな。
また不安になってほしくないからすぐに美味しいと伝えておいた。
「お、遅れたー……って、もう食べてるー!?」
「悪いな、早く真白に食べてもらいたかったからさ」
「私は待っていたよ」
「おおっ、遥ちゃん優しい!」
この二人の関係についてもいまので落ち着けたからもう逃げる必要もない。
仲良くできているなんていいことでしかなかったのになにをしていたのか。
「真白のもいいぞ」
「卵を焼けば誰でも美味しく作れるからいいよね」
「私は焦がしたことがあるけどね」
「大袈裟に言っているだけではなくて?」
自分で言うのもなんだけど切り替える能力が上手すぎる気がする。
それとも本能がこちらの喋り方を求めているのだろうか?
「うん、真剣に作っていたんだけどどこまで焼いていいのかわからなくて焦がしたことがあるよ。捨てるわけにもいかないから一生懸命食べたけど苦くて涙が出たよ」
「あ、私は玉ねぎを焦がしたことがあるから仲間みたいなものよ」
「目玉焼きを焦がしたことがある? カレーだって焦がしたことがあるぐらいだけど」
「きゅ、急にどうしたのよ?」
「ごめん、あ、昨日のことについてもだけどいま不安定なんだよ」
素直に吐いてくれるのはいいけどなにもしてあげられないのが微妙だ。
「落ち着いて」
「英梨先輩少し付き合ってほしい」
「わかった、じゃあちょっといってくるね」
そのまま戻ってこないと思っていたもののすぐに戻ってきて遥は食事を再開した。
ちらりと英梨を見てみると口パクで「大丈夫」と言ってくれたから少し安心する。
「よし、走るか」
「はは、格君はまたそれ?」
「走れば元気になる。放課後に高原も是恒も参加してくれ」
「いいよー」
「私も大丈夫です、確かにいまは留まっているよりも動いていた方がいいと思うので参加します」
あ、物凄く嬉しそうな顔をしている、そういえば仲間が欲しいって言っていたもんなあ。
それなのにたまに誘ってくることはあっても定期的に連れ出さなかったのは何故なのか?
やばい、考え出したら彼が私になにを求めているのかわからなくなってきてしまった。
だけどこういうときに走ればなんとかなりそうだったから私としても大歓迎だった。




