第15話:賭ける_2
コイン五千枚。――現金に直せば低くても五千万円。場所と状態を選ばなければ、一軒家を建てた上にマンションの一室も買えるだろう。車だって一緒に買えるかもしれない。隼人から見れば……いや、隼人以外から見ても大金だ。
「驚かれるのも無理はありません。今のフロアでは、コイン一枚から賭けられますので、五千枚ともなれば非常に高額であると感じるでしょう。…………ですが、VIPフロアはこちらのフロアで言うコイン百枚から賭けるようになっております」
「さ、最低がコイン百枚ですか!?」
「左様でございます。ここでのコイン百枚を、VIPフロアでは専用コイン一枚として数えております。ですので、VIPフロアはデバイスの表示がまた少し変わりまして、専用の表示となります。カードキーと情報を紐づけて、部屋の出入りで表示が変わるように設定されますゆえ、お間違いなきよう皆様にはお願いしております」
「……間違えないんですか? 皆さんそれで」
「たまにいらっしゃいます。が、現状それで問題が起こったことはございません。画面上部に大きく【VIP】と表示されますので、常にそちらをご確認ください」
「VIPって表示されるの、なんかちょっとだせぇよな」
楓が口を挟む。
「……表示の評判は半々でございます」
「あ、あの、そのコイン五千枚って、今いるフロア基準、ですよね?」
「仰る通りでございます。つまりはそれだけこちらのゲームで稼ぐことができる、もしくは既存の資産があることを証明していただくためのデジポットとなっております」
「それは、納得しました」
隼人は自分のデバイスへ目をやった。そこに表示されているのは、白字の三千枚。それでも随分稼いだように見える。縁に直せば三千万円だ。たまに大きな勝負に出て、幸運に恵まれているのかここまで稼ぐことができた。少しずつ現金へ換金した分と、リコのアクセサリーや自分の時計コレクションへ変えた分を含めれば、五千枚へ届いていたかもしれない。既に換金した分をデバイスへ戻すつもりはなかった。つまり、今のままでは五千枚へは足りず、カードキーは作れないことになる。よって、行くつもりがあるなら残りを稼がなければVIPフロアへは入れない。
「ゲームは、このフロアと具体的にどう違うんですか?」
「このフロアは、普段皆さんが家庭や友人同士で行うゲームやゲームセンター、カジノで行うもゲームがございます。……少しお話を聞いてらっしゃると存じておりますが、そうですね。そのような無機質なものではなく、主に人間やそれに準ずるフルボディ、セミボディたちがあるゲームを行い、その結果に対して賭けていただきます」
「人間……本当なんだ」
「はい。行われるゲームは様々です。賭けるコインからおわかりになるとは存じますが……。ゲーム側の参加者にもある程度の報酬が支払われることと、その内容が外へ漏れた場合の危険性から、察していただけましたら幸いでございます」
「でも俺、枚数足りないですもんね?」
「コインに換えられるモノをご提示いただけましたら、融資することは可能です」
「うーん……それはできるだけしたくないんだよなぁ……」
コインの残り枚数を見ながら、隼人はうんうんと唸っていた。VIPフロアに興味はある。一回の掛け金は百倍。ただ一回一枚コインを賭けるだけで、百万円が動くのだ。たった一枚のコインで、万札が百枚も。負ければ確かに額がデカい。が、当たったらそれ以上だ。賭ける人数、倍率、たった二倍だって二百枚の万札。勝ち負けを繰り返しても、勝ちが一回でも負けの回数を上回れば大きなプラスだ。その魅力は大きい。
それに、隼人はこのコインの額よりも、VIPフロアで行われているゲームについて知りたくて仕方がなかった。どうして人間が賭けの対象になっているのか。具体的に、どんなゲームが行われているのか。どんな人たちが賭ける側で参加しているのか。どれくらいのコインが賭けられているのか。参加人数は。ゲームの種類は。ゲームの会場は。
感じるのは会場がVIPフロアにかける熱量と、対象が人間という血生臭さ。そして選ばれた人しか入れないという特別感。
――全てが一体、どうなっているのか。
「あの、話を聞いた今すぐにどうするか決めないといけないですか? コインは足りないけど、興味はあって……」
「今すぐでなくても問題ありません。ですが、現状こちらは情報をお渡ししましたが、大変申し上げにくいのですが、譲原様からの担保はない状態です。ですので『コインが貯まり次第VIPフロアへ参加する』ことを証明していただけますでしょうか?」
「どうすれば?」
「簡単でございます。先に追加情報のご記入をしていただければそれで良いのです。つまり、情報を担保として登録し、残るはコインのみとする」
「……詳しい個人情報なら、信用には十分、ですね」
「左様でございます。勿論、嘘偽りがないか、こちらでもある程度調べさせていただきます。ご了承ください。……以前、少々問題が起きましたゆえ」
「それは少しだけ、察しがつきます」
おおかた、金のないヤツが嘘を吐いてVIPフロアに入ったのだろう。もしくは、嘘の情報を書いて入り込み、内部の秘密を外部へ漏らしたか。どちらにしろ、この会場には大きな痛手だ。なんなら、今のフロアでそれだけの情報をもらってもいいくらいだろう。それとも、隠れ蓑として最悪切り落とすのか。
「さて、譲原様。こちらの案はいかがでしょうか?」
「……よろしくお願いします。先に登録を」
「かしこまりました! では、早速。こちらに一覧がございます。入力をお願いいたします。……今、コーヒーをお持ちしますので。飲みながら、ゆっくりと」
「あ、はい」
「よっしゃ! これ登録したら、あとはコインだけだよな。俺も手伝うから、さっさと稼いでVIPフロア一緒に行こうぜ!」
「まぁ待てよ。まだ一歩目だろ? これが」
この上なくご機嫌な楓を横目で見ながら、隼人は一覧に目を通した。三兼の言う通り、家族構成に現在の職場と副業の有無、そして収入について。それぞれ家族の名前に生年月日、血液型まで入力する欄がある。家は持ち家か、車はローンが残っているか、その他借金に病歴と言っていた通りオリジナルかどうかの入力欄もあった。
それ以外はまるで、子どもが友達にお願いするプロフィール帳のような、SNSで見かけるGOODの数でその数だけの質問に答えるような、個人的で具体的な内容が書かれていた。
はやる気持ちを抑えながら、一つひとつ丁寧に答えていく。間違いがないように、曖昧な表現がないように。
できあがった一覧の入力内容に不備がないことを確認し、早々に戻ってきてコーヒーを置いてくれた三兼へと渡した。
「入力がお早いですね」
「よくやるんです、こういうの」
「左様でございましたか。それでは、拝見させていただきます」
「お願いします」
一行一項目ずつ、三兼がしっかりと内容を確認していく。自分の目で何度も丁寧に確認したつもりであったが、試験を受けているような緊張感に隼人は襲われていた。
「……はい、ありがとうございます。こちらで登録いたします。……えぇ、やはり抜けも問題もございませんね。無事登録が終わりました。……登録作業自体はすぐに終わります。カードキーも、すぐできあがるでしょう。あとは、コインのみ、でございます」
心配そうな顔をする隼人へ、三兼は優しい笑みを浮かべた。『なにも心配要りません』とでも言うように。
「もうすぐにでも行こ! な? ホラ隼人早く!」
「待って待って楓」
「善は急げだろ? あ、三兼さん、コイン稼ぐ期限ってありましたっけ? 登録したら、いつまでに……みたいな」
「ございません。ただ、三ヶ月以上こちらの会場へお越しいただけない場合は、こちらから自宅や会社へ伺わせていただきますのでご了承ください。お約束、でございますから。勿論、一ヶ月おきに、二ヶ月おきにでもとにかくお顔を見せていただければ、そのようなことはいたしません」
それが意味するところを想像し、隼人は息を飲んだ。ハッキリとは言わないが、催促しに来ると言うことだろう。……そんなことは避けたいに決まっている。
「コインを稼がないといけないので、来れる日は来ます! うん、よし、よし……」
「良い? もう行って良い? な、行こうぜ隼人!」
「だから楓はいつも早いんだよ」
「そりゃそうなるだろ? 大事な友達がVIPフロアに入れるかどうかがかかってんだから! 三兼さんありがとー!」
「三兼さん、ありがとうございました!」
「当たり前のことです。五千枚用意できた際は、私にまたお声がけください。そのほうが、スムーズに作業を進めることができますので」
「はい!」
コイン稼ぎへ向かう隼人と楓を、和かな表情のまま三兼は見送った。




