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トゥエルブ・セレクション  作者: 上川央離
第2章 選抜始動編
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第37話 対抗心

 十二将学園、食堂。今は昼休み。

 俺は片手にサンドウィッチを持ちながら、俺の記憶を戻すのに協力してくれる、今日の当番について考えていた。


 相生相剋については、子音さんと丑理さんのおかげで、理解することはできた。ただ、疑問に思うことが浮上してきたのだ。


 寅琳さんの「まじないや呪い、五行は使える兆しが見えない」という言葉を思い出したのだ。


 子音さんと丑理さんを見るに、結局のところ、いつの間にやら、当たり前のように使えている。 


 まじないと呪いについては、言霊を用いて陰陽力を補強するとか言ってた気がするが、五行はどうなのだろう。

 使える兆しがあった、ということなのか。急にそのことが、なぜか気になって仕方がない。

 

「なあ、おばちゃん。その人間にモテる方法っていうんは、何なんや?」


 まあ、突然こういう会話が聞こえてきて、俺は頬張っていたサンドウィッチを吹き出した。


 寅琳さん、何をナチュラルに食堂のおばちゃんと会話しているんだ。しかも、モテる方法って何。


「そんでおばちゃん、人間にモテる部活動って何やと思う?」


「そうだねえ。やっぱり運動部はカッコいいねえ。おばちゃんが高校生の頃は、野球部のピッチャーとか、サッカー部のエースとか、バスケ部の主将とかに黄色い声援を送っていたよ」


(……移り気だ)


「やっぱり運動部やんなあ。せやけど、種類が多すぎる……ネコちゃんに襲われたネズミの動向も気になるしなあ」


「ネズミ!? ネズミが出たのかい?」


「あー、安心しいやおばちゃん。ネズミがネコに襲われてるとこ見ただけや。相変わらずの嫌われっぷりやねえ」


(寅琳さん……)


 取り乱すおばちゃんに、ニヤニヤする寅琳さん。料理を作る人にとって、ネズミは衛生面の観点から天敵だろう。


「おっ、セレンはんや。記憶の調子はどうや」


 おばちゃんとの話を切り上げ、食事を受け取った寅琳さんが俺を見つける。


 俺の記憶を気にかけてくれるのは、彼も同じようだ。


 記憶を戻してくれる分と同等、もしくはそれ以上を、俺は彼らに返したい。

 六神ドレンと会って、その思いは強まるばかり。

 

「一応、五行の相生相剋については理解したと思います」 


「へえ、良かったやんけ。五行は大事やからな。俺はな、部活動の兼部で迷っとるんよ。イノシシとかウマは、走るのが好きやから陸上部に入るんやて」


「陸上部ですか。似合いますね……」


 周りの人間を置き去りにしてグラウンドを爆走する2人を思い出して、笑ってしまう……いや。悪目立ちはよくないし、彼らの様子もいずれ見に行かなければ、だけど。


 丑理さんも園芸部に入ることに決めたようだし、十二支の兼部は順調に進んでいる。

 一方、目の前の寅琳さんは、難航しているみたいだ。


「兼部する部活動、迷ってる理由を聞いてもいいですか?」


「んー、色んな部活動見学しとると、全部おもろそうやなって。ひとつに決められへん。せやったら、人間に1番目立つ部活動にすればええって思ったんや」


「人間に1番目立つ、ですか?」


「人気を集めるんやから、人に注目されるんは大事やろ?」


 なるほど。だからおばちゃんにモテる部活動について聞いていたのか。ただ、疑問はある。


「あの、それは寅琳さん自身が注目されるということで、動物としての『トラ』の人気に影響はない気がするんですが……」


 選抜では、動物のトラの人気を集めなければならない。

 寅琳さんが注目されることと、トラが人気になること、これはイコールになるのだろうか。


 しかし俺の疑問に対し、寅琳さんは人差し指を左右に揺らして反論したのである。


「甘いでセレンはん。俺は知っとる。俺の教室で周りに好かれとる、球遊びが上手い人間。アイツがな、カバンにブタの人形みたいなんをぶら下げとったんや」


「は、はあ……それで……」


「イノシシが変な顔してておもろかったわあ……やなくて。そのブタの人形の話になったとき、ソイツはブタが『好き』やからカバンに付けとるって言うたんや」


「ま、まあ……そうでしょうね」


「そしたら、次の日どうなったと思う? 周りは、なぜかブタの話で盛り上がっとる! そんで、俺はわかったんや!」


 寅琳さんはポークソテーをフォークで刺して、身を乗り出して熱弁する。行儀が悪い。


「俺自身が周りから好かれとる状態で、『トラ』が好きやと言うたら、周りもトラが好きになるんやないか? ってな!」


「なるほど……」


 うーん。あながち、間違いではないのが何とも言えない。

 確かに、有名人は影響力が高い。有名人と接点があって、嬉しいと思う人間は多いだろう。


 その人に近づく、仲良くなるきっかけとして選ばれたものが「ブタ」だったわけだ。


 しかし、寅琳さんは周りをよく見ている。子音さんと同じく、十二支の首位を目指しているだけある。

 

「……寅琳さん。俺、あなたに協力できると思います」


「ホンマか!」


 俺は、記憶の人間のことを思う。特定の部活動に入らず、様々な部に助っ人として参加しては活躍し、周りから熱い信頼を得ていた。


 神様から賜った人間の記憶は、この選抜における、俺の唯一の生きた武器だ。


 寅琳さんの願いが変わらず「1位になる」ことだとすれば、彼に習い寅琳さんを人気者にすることは、有効打だと思う。


 寅琳さんは初めて出会ったとき、バッドで打たれたボールをしっかり手中に収めていた。


 彼はトラの化身でもあるから、身体能力は間違いなく高いはず。運動部の助っ人としては申し分ないだろう。


「あ……でも、協力するにしても、今日の当番が誰かわからないんでした……」


「昨日は誰やったん?」


「え、丑理さんでしたけど……」


「ああ、せやったら俺やな! 当番表もらったんやけど、どっかになくしてしもて。癪やけどだいたいウシの次は俺やから覚えとき」 


 当番表なんて俺が1番欲しい。とはいえ、確かに丑理さんの次は寅琳さんというイメージは強い。


 次は亥寧さんだろうか。順番でいえば李卯さんという可能性もあるし、彼らのことだから急に当番を変えるなんてこともありえる。


 まあ今は、目の前の口元をベタベタにしている寅琳さんだ。

 

「わ、わかりました。じゃあ、放課後に3組に迎えに行きます。ちなみにですが、寅琳さん……ポークソテーの食べ方、直した方が良いと思います」


「……正しい食べ方、わからへん」


「人気者になるには、食べ方も美しくした方が好感が持てます。俺が教えるので、一緒に頑張りましょう!」


「へえ。なんか頼もしくなったやんな、セレンはん」


「あはは……そう見えるなら嬉しいです」


 やはり、心持ちは態度に現れるのだろうか。


 自信を持てと2人に言われたから、なるべくマイナス思考はしないように心がけている。


 でも、俺が1番影響されているのはきっと、同じ精霊である六神ドレンだ。


 彼に負けたくないという気持ちは、寅琳さんが子音さんに抱く対抗心にも似ているかもしれないと思った。

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