第四十七話 四月三十日(火)少女は体育祭の参加競技を決めた
一話三千文字を目安に書いていますが、書く内容が無い場合を想定していません。
更新頻度がまちまちな理由の一つです。
怒涛の勢いで鳴り響くスマホが少し恨めしく感じた翌日。
ユウはそっとスマホの壁紙にした写真を眺めて微笑みながらリヒトの家のリビングで待っていた。
「お待たせー。ごめん、遅れた」
「大丈夫だよ。まだ時間は余裕あるから」
「なら良かった。ちょっといいか?」
「ん?何でもどうぞ」
ユウは両手を広げて顔を赤くしながらリヒトの動きを待った。しかし、いつまで経ってもその様子がない事に首を傾げていると、突然抱き締められた。
「役得……じゃなくて、いきなりどうしたの?」
「いや、昨日あれからカズヤと少し電話してな。向こうの惚気聞いててユウが恋しくなった」
「ああ、あっちは通い妻してるもんね」
リヒトの言葉を聞いて納得したユウは、背中に手を回して優しく撫でた。
「……ありがとう。そんじゃ行くか」
「うん。今日も一日よろしくね」
そして二人仲良く登校していった。
いつものようにユウとリヒトは教室に入ると、既に来ていて談笑していたリサたちが声を掛けてきた。
「おはよー!」
「ユウ、おはよう」
「おはよう、ユウちゃんめっちゃご機嫌じゃん」
「……えへへ。朝にちょっとね」
「おい、皆して俺を見るな」
カナとリサに続いてクラスメイトの朝日カリンも挨拶を交わしてくると、ユウは笑顔で応えた。ユウが蕩けた顔をしたのを見た三人はリヒトの方を向いた。
心当たりしかないリヒトが答えに窮していると、朝日がユウとリヒトを行ったり来たりしていた。
「それにしても、ユウちゃんとリヒト君が一緒にいるところを見るとしっくりくるね」
「そうかな?」
「なんか夫婦みたい」
「ふ、ふうふ!?」
その言葉を聞いたユウの顔には驚愕の色が浮かび上がっていた。若干喜色な声だったのに対して指摘する者はいなかった。
「二人の距離感がね、恋人よりも深い仲みたいな」
「まぁ付き合い自体はそれこそ生まれてすぐからずっとだしな」
「うわー、それで今に至るまで離れなかったの?」
「そうだな。何だかんだでクラスもずっと一緒だしなぁ……帰宅時間が違ったくらい?」
「確かにそうだね。あの頃は生徒会で遅れたから一人で帰ってたね」
「……え?ああ、ユウちゃんはユウ君だったんだっけ」
カリンは思い出すような仕草をして、ユウの容姿から少年の時のユウを想像しようとしたが、上手くできなかった。
後ろからそっとリサがスマホの画面を見せた。ユウも覗けば、想像通り昔のユウが映っていた。想像と違ったのはそれが女装姿の写真だったことだろう。
「なにこれ可愛い!あ、メイクもしてる。ホントに男?」
「リサ!なんでその写真を見せるのさ!」
「あの頃も割と中性的だったのを知ってもらおうと思って」
「だからってわざわざ見せることないじゃないか……」
ユウは恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。興味を惹かれて集まってきた女子たちがそれを見て、ユウの可愛さに悶絶した。
「ユウちゃん、写真撮らせてもらってもいい?」
「もう好きにして……。それで、リヒトはどこ行ったの?」
「ああ、少し前に向こうに避難してるわよ」
クラスの男子と談笑しているリヒトを見ながら、ユウは小さくため息をついた。
***
昼休み、昼食を食べ終えたユウとリヒトは、教室で雑談をしていた。リヒトが少し席を外したのでユウはスマホを確認していると、そこにカナがやってきた。
「ユウ、ちょっといい?」
「どうしたの?」
「今日の六時限目って体育祭の種目決めじゃん?ユウはもう決めてたりする?」
「僕はまだ何も考えてないよ」
「じゃあさ、私と一緒にリレーに出ようよ。ほら、せっかくの学校行事なんだから楽しまないと!」
カナがユウの手を取りながら満面の笑みでそう言った。ユウは少し考える素振りをした。
「でも、足引っ張らないかな?」
「大丈夫だって。体育の動き見た限り、ユウの足は平均より速いよ!」
「そっか……。わかった、やってみる」
「よし、決まりだね。後は立候補するだけ!」
カナが意気揚々と自分の席に戻っていくと、入れ替わるようにリヒトがやって来た。
「随分と盛り上がってたけど、何かあったのか?」
「カナからリレーに誘われてね。ちょっと悩んだけど、やってみることにした」
「ユウなら大丈夫だよ。むしろ暑さで倒れないか心配だ」
「そこは気を付けるよ。あ、次の授業は視聴覚室だからそろそろ行こっか」
二人は立ち上がると、丁度予鈴が鳴り響いた。
何事もなく五時限目を終えたクラス一同は、ぞろぞろと教室に入っていく。一番後ろでのんびりしていたユウとリヒトが扉をくぐると、教壇に立つ担任の姿があった。教卓の上に乗っているプリントの山を見てユウは駆け寄った。
「矢吹先生。何か手伝うことあります?」
「ああ、佐倉さん。大丈夫よ。もう藤堂さんが手伝ってくれたから」
既にプリントは規則的に束になっており、整理された後だったと言われてから気付いたユウはお辞儀をして席に戻った。
六時限目が始まると、矢吹は初めにプリントを配った。
「これは体育祭の出場競技ごとの参加人数やルールが書かれているわ。十分ぐらい時間を取るから参加したい項目を決めてね」
そう言ってタイマーを取り出した矢吹は黒板の方を向き、出場項目と人数を書いていく。
ユウは配られたプリントに目を通した。『二人三脚』『綱引き』『騎馬戦』などの定番種目から、『障害物競走』『借り物競争』など、学校ごとに色がでるものまで様々だ。
ユウはこのプリントの作成に携わっていても、とりあえず一通り目を通していく。
(あれ?そういえば『借り物競争』の内容の連絡まだ来てないけど、決まってないのかな?)
先週の金曜に集会があったはずなのに、とユウは思い更けていた。そんな中矢吹のタイマーが時間を知らせた。
「それでは始めます。ここからは実行委員の二人、よろしくね」
その言葉に二人の生徒が教壇に上り、司会を受け継いだ。
「それじゃ早速だが、とりあえず参加したい競技を一通り聞いていくな」
「一人最低二種目は出ることになってるからよろしくね。あっ全員参加の大縄跳びはカウントしないから」
「まずはリレーから―――」
一通りの希望を聞いて黒板に名を書いた後、偏りが出なかったことに安堵した実行委員は唯一の悩みの種を指摘した。
「『応援合戦』なんだが、誰かやれる奴いないか?」
その問いに何人かの男子生徒は目を逸らした。女子は恥ずかしそうにしている者もいる。誰も答えられずに沈黙が流れる。
すると、ユウの隣にいたリヒトが挙手をした。
「なら、俺がやるよ」
「え?マジで?」
「ああ。連休明けからなら時間も調節できるしな」
リヒトの申し出に、男子から尊敬の視線が集中する。
「えっと、男子は決まったが女子は誰かいないか?」
矢吹が確認するように言うと、全員が期待するようにユウに視線を向けた。
「申し訳ないけど、生徒会の関係で出れないから無理だよ」
「まぁそうだよな……。他にやりたいって人はいないか?」
その言葉に一人の女生徒が手を挙げた。
「はい!私がやります!」
元気よく立候補したのはカナだった。
「じゃあ、これで決まりだな。ありがとな」
「ありがとう、カナ。助かったわ」
「いえ、どういたしまして。大変だろうけど、私もちょっとやってみたかったからさ」
カナの屈託のない笑顔を浮かべて明るく告げる。実行委員の二人はリヒトとカナに感謝して進行を続けた。
「じゃあ残るは人数が不足してる『二人三脚』だな。誰かいないか?」
「……佐倉さん。出れるなら海原君と組んで出てみない?」
女子の実行委員は少し考えるとユウに向けて提案した。
「えっ!?」
「確かに二人の仲の良さなら男女でも速そうだな」
「別に組み合わせに制限はないし、問題はないから」
「ユウ、どうする?俺は構わない」
目立ちそうなことを提案されて困っているユウをからかうように見てくるリヒトは決定権を委ねた。
「私はいいと思うわよ。佐倉さんは目立つことに慣れていかないと」
「わかりました。頑張ります……」
矢吹からも後押しされ、ユウは覚悟を決めた。
「よし、決まりだな。じゃあ、次は―――」
その後も話し合いは続き、全ての競技の参加人員が決まったところで六時限目は終わりを迎えた。
帰りのホームルームを簡潔に終えると、ユウとリヒトは荷物を持って教室を後にした。
その日、女バスの部活内でユウが珍しくシュートを大きく外したことで心配されたが、ユウは心当たりがなく不思議そうにしていた。その為周囲からの心配が増したのは言うまでもなかった。
やっと四月を書き終えた!!やっとだ!!!
よくよく思ったら夏休みとか一ヶ月も休みとか書く内容あるのかな?
まあ八十七日後の心配より目先の心配をしたほうがいいですよね!




