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第四十四話 四月二十八日(日)少女は至福の朝を迎えた

作中時間も気が付けばひと月経とうとしていることに感慨深さを感じます。

逆にまだ一ヶ月なんですよね。投稿始めて一ヶ月過ぎてるのに…

微睡みから意識が浮上してくるのを感じる。心地よい匂いと至福の感覚に全身を包まれるような、抗いがたい魅惑の感覚に身を寄せる。


「ん~……えへへ……」


「おはよう、ユウ」


「んー……」


覚醒しきっていない頭はぼやっとしていて上手く働かない。けれど温かくて気持ちよくて離れたくない何かがあるのは確かだ。そこからする声は何よりも安心できるもの。もっと聞きたくて無意識のうちに頬を寄せる。


「ユウ、くすぐったい」


笑いを含んだ優しい声と共に背中をポンと叩かれる。それが心地良くてまた瞼が落ちていく。もう少しこのままで居たいのに……。


「ユウ?そろそろ起きな」


「ん……あとちょっと……」


「駄目だって。……仕方ないよな?強情なのがいけないんだからな」


「んん……んっ!?」


ユウはまだ起きる気になれず駄々をこねていると、突然呼吸が出来なくなった。驚いて目を開けると目の前にリヒトの顔があって、パニックに陥るユウを無視して彼女の中に舌が侵入してきた。


「んぅ……ふあっ……んんっ!!」


「……ぷはっ!はぁ……ようやく起きたか?」


「ちょっリヒト!何するのさ!」


ユウは顔を真っ赤にして抗議するが、リヒトはしれっとした態度で答える。


「お前が起きなかったからだ。ほら、今日は藤堂のとこ行くんだろう?」


「うぐっ……分かったよ。着替えるから出てって」


ユウは不機嫌そうな顔でリヒトを追い出すと、身なりを整えた。そして準備を終えてリビング向かうと、アイカに捕まった。


「ユウちゃん、おはよう。昨夜はどうだった?」


「おはようございます。ノーコメントでお願いします」


「あらつれないわね?それと、朝ごはんはどうする?昼前にはお友達と約束があるのよね?」


「はい、十時半に駅前集合になってます。朝食頂いてもいいですか?」


「分かったわ。今から作るから少し待っていて」


「はい」


ユウは返事をするとソファーに座っていたリヒトの横へと腰かけた。彼はしなだれかかるユウの姿を見ると苦笑しながら言った。


「荷物はどうする?サユリさんに届けとく?」


「流石に悪いから一度家に寄って行くよ」


「なら駅まで送るよ。ユウが誰かと合流するまでは一緒にいる」


「大丈夫だよ。人の流れには気を付けるし」


「ナンパ避けってことでいさせてくれ。俺がただ心配なだけだからさ」


「……わかった」


「朝ごはん出来たわよ!リヒトも食べちゃいなさいな」


「はーい」


二人は席に着くと手を合わせていただきますと言うと食事を始めた。そして食べ終わる頃に、リヒトは食器を流しに片付けると支度を済ませた。


「支度は済ませたが、まだ時間はあるんだよな」


「そうだね。でもあんまりゆっくりしてると遅くなるからそろそろ行こうかな」


「そうか。じゃあ駅まで送っていくよ」


リヒトは立ち上がるとユウの荷物を持って玄関に向かうのでユウも慌てて追いかける。靴を履いて外に出れば、爽やかな風が吹いていた。


「わあ、良い天気だね!」


「そだな。でも日差し強くなってきたから熱中症対策も取ってかないと」


「僕なんか体弱くなったしね。夏なんかどうなっちゃうんだろう」


「ま、運動出来てるからそこまで酷くはならないと思うぞ。対策さえしてればな」


リヒトはそう言うとユウの手を握る。その手を握り返すと、ユウはにっこりと微笑んだ。


「うん、ありがとう。それじゃあ行こっか」


「ああ」


二人並んで歩き始める。ユウが隣を見上げると、優しい瞳をしたリヒトと見つめ合う形になる。それだけで幸せを感じてしまう。そんな自分が単純だと思いながらも、ユウは嬉しくて仕方がないのだ。


(やっぱり好きだなぁ……)


そんな事を考えていると、いつの間にか家に着いていた。慌ててリヒトから荷物を受け取って置きに入ったユウを眺めていたリヒトの肩を叩く人物がいた。


「リヒトおはよう!」


「ん?ああ、リサか。おはよう」


「おはよー。……ところで、本当に泊ったんだ?」


「え?そうだな」


「ふ~ん……へぇ……」


リサは意味深な視線を向けてくるが、リヒトは何の事やらと首を傾げるばかりである。そしてしばらくすると、リサはニヤッと笑って言った。


「まあいいわ。ユウはどうしたの?忘れ物?」


「いや、お泊りセットを置きに行ってるだけ」


「ふむ……リヒトは見送り?駅にまで着いていく予定だった?」


「ナンパ避けで誰かと会うまではいるつもりだった。リサがこっちに来てるのは驚いたけど、後は任せてもいいか?」


「もちろん。ユウなら大歓迎よ」


「あれ?リサがいる」


ユウは家から出てきたら待ち人が二人になっていて驚いた。普段の待ち合わせでも家に来ることはなかった彼女の行動に首を傾げていると、リサが説明してくれた。


「実はユウがお泊りするって言ってたのが気になってね。どうなったのか聞こうかなって思って」


「そうなんだ?普通に泊まったよ」


「そうみたね。ユウの反応も気になるしリヒトも一緒に行けばいいじゃない。どうせなら三人で行きましょうよ」


「別に構わないけど、流石に藤堂と合流するまでな」


「それで十分よ」


こうしてユウ達は三人組になると、駅前へと向かっていった。そして合流場所につく頃には、真っ赤になって俯くユウが出来上がっていた。


「なにこれ可愛いんだけど」


「なんでこんな事に……。恥ずかしくて死にたい」


「気にすんなよ。俺は可愛かったから満足だ」


「僕が無事じゃないよ!」


「あはは、ごめんなさいユウ。まさかここまでおもし……可愛い反応をすると思わなかったからつい」


「もう!リサ!リヒト!」


「はいはい、悪かったって」

ぷいっとそっぽを向いてしまったユウだが、その表情はどこか楽しそうである。リヒトは苦笑しながらユウの頭を撫でると、優しく言った。


「ほら機嫌直してくれ。もうすぐ藤堂も来るだろ」


「うぅ、そうだけどさぁ……」


「じゃあ私が責任持って慰めておくわ」


「よろしく。てかリサが元凶だろうに」


リヒトは諦めてリサに任せる事にした。そしてそれからしばらくして、カレンがやってきた。


「こんにちは!あれ、海原さん?」


「こんちは藤堂。俺は待ち時間のナンパ避けだから気にすんな」


「カレン!こんにちは」


「こんにちは。カレンの私服姿可愛いね」


「あ、ありがとうございます!」


凛とした佇まいで微笑むユウに、カレンは思わずキュンとなって顔を赤くした。先程まで縮こまっていた姿を見ていた二人は、今のユウを見て笑いを堪えていた。


「どうしたんですか?」


「いや、なんでもないさ」


「そうそう。いつも通り二人とも可愛いねって話してただけ」


「そ、そうですか。リサも可愛いですよ!」


真っ直ぐな目でカレンに褒められたリサはうっすらと頬を赤らめた。


「ありがとう。ここで駄弁るのもいいけど、日差しもあるし場所を変えましょう」


「俺は見届けたし、そろそろ行くな」


「あ、リヒトありがとね!」


リヒトは手を振るとその場を離れていった。それを見送ったユウは、カレンに尋ねた。


「カレンの家って、ここから二駅だっけ?」


「そうですね。家の近所にスーパーもあるので、まずは家に来てもらおうかなと思ってます」


「分かったよ。リサも大丈夫?」


「問題ないわ。行きましょう」


そんな会話をしながら三人は歩き出した。休日の賑やかな電車に揺られること十分、降りた駅からカレンが先頭を歩いて先導する。しばらく歩くと、住宅街の中に大きな家が見えた。


「もしかして、この一際大きい家がそう?」


「はい。ここが私の家です」


「凄く立派ね。庭も綺麗で素敵」


「自慢の我が家です」


嬉しそうにして敷地内へ入っていくカレンを見て、ユウとリサは顔を見合わせてクスッと笑った後、カレンの後を追いかけた。

『読んでる人がいる』ことが励みになるのを実感しています。

読者の皆様には感謝申し上げます。

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