第九話 守護者対守人
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タイトル通りここからは北海道編見ていないと誰?となります
開くことのない扉が開いたその言葉まさしく正しいであろう。僕達にとっての唯一にして最後の希望であった北海道、どういう訳かあちらでもこの亀裂内に大穴を開けてこちらと繋がっているらしい、これで僕達は一つの天文学的確率を乗り越えた訳だが、現実は残酷な事にまだ試練を残している。それは北海道の代弁者が都合よく亀裂内に入り尚且つ、大穴に入る事。それを初めて僕達の生きていける道が首の皮一枚で繋がる。
「心美君もう行くのかい?」
「はい、彼らが何時大穴に入るかもわかりませんので」
「それもそうか、ならば行こうか」
昨日は動けない程の疲労感と全身の痛みに襲われていた僕だが次の日の朝になれば回復していたので朝昼晩の食料を詰め込み大穴へ向かう、今日の所は扇が休暇を要求してきたので彼は休みという事にし、僕ら二人で大穴内に籠る事が決定した。
「余り根を詰め過ぎないでくれよ?君が倒れてしまっては助かる者も助からなくなる」
「それでも私が頑張らないと…」
少し彼女が思い詰め過ぎている様な気がする、まぁそれも仕方ないそれ位の奇跡が今起こっているのだから、彼女が暴走するようであれば僕が止めてあげればいいだけだ。
彼女に導かれ亀裂内へと入って行く、相変わらずの景色でとても綺麗な景色だった、恐らく光害が無ければ、もっと言ってしまえば人と言う存在が居なければ、この美しい景色を地球上どこでも見られるのであろう等と考えてしまう。
「令華先輩?」
空を見て立ち止まっていたのが彼女を不安にさせてしまったのだろうか?こちらをマジマジと覗き見ている。
「すまない、相変わらずこの景色を美しいと思ってしまう僕がいるんだ、あのバケモノが現れる場所だって言うのにね」
「確かにこの景色は綺麗ですね、そうですね…まだ朝の5時で恐らく北海道の方々も大穴に向かう事も無いでしょうから、少しだけこの景色を楽しみつつ行きましょうか」
「ああ、君と一緒にこの景色を見られるだけでもやはりこの空間の価値はあったんだな」
図らずも彼女の気を休める事に成功したのは大きい、扇であればデートに誘うように彼女を誘導できたのだろうか?いやそれは無いな。名前を呼び合うのにもあんなに手間取っていた二人だしなと考える。
「令華先輩置いていきますよ?」
「ああ今行くよ」
令華先輩と二人でこの景色を見て歩く途中休みながらではあるが歩いてゆく、天成した彼女らであれば疲れる事などないのかもしれないが、生憎私は少しばかり人には聞こえない何かを聞けるだけの人、学校に通っていた時も体育の成績は下から数えた方が早かった位だ、少しの距離を走れば息をあげてしまうし、球技なんてしようものなら顔面にボールを当て鼻血を出すだろう、以前そう言う事があったなと思い少しだけ笑ってしまう。
「どうしたんだい?そんな笑顔で、いい事でもあったのかい?」
「いえ少し昔の事を思い出してしまって、覚えてますか?私が体育の授業で顔にボールをぶつけて鼻血を出した時の事」
彼女は少し顎に手を当て、すぐに思い出す。彼女との関係性は解放と言う行為の代償によって変わってしまったが、それでも彼女は私達には違和感を持たせないよう、いつも通りの忍野令華を演じてくれている。そして彼女はハッとした顔で思い出したと口に出す。
「あれは春の事だったかな?休憩時間君に会いに行ったら鼻血を出していて顔を腫らしている物だから本当に焦ったよ、僕を嫌う誰かにやられたんじゃないかってね」
「そうでしたね、違いますってまさか自分で投げたボールが自分に当たると思っていなくてそれを言うのも恥ずかしくて、説明するのに手間取った記憶を思い出して、少し笑ってしまったんです」
そう言うと彼女は手を伸ばし、私の顔に手を当てる。
「君の顔は美しいんだ、だから大切にするんだよ?」
そう言ってから彼女は自分のおでこに手をあて、髪をかき上げて私にその傷跡を見せてくれる。
「令華先輩それは?」
「バケモノとの戦いでこの傷跡が付けられた訳では無いよ、前に石が投げられた事があっただろう?その時に君が家をでて行ってから、また石を投げられてしまってね…この様だよ」
私が行った後にそんな事が…でもなぜ彼女はこんな隠しておきたいであろう傷を私に見せてくれたのだろうか?
「なぜ見せたのか、疑問に思っているね?」
「はい、どうしてわかったんですか?」
「君の顔に書いてあったからだよ、なんでかと言えば説明はできないな…君にはこういう傷を残してほしくないという願いからかな?」
そうだったのかとこんな話をしていると時間は一分また一分と進んでいる事に気づく、こんなに時間が経っているなんて気づきもしなかったのは、恐らく彼女は私が気を張り詰めすぎている事を察してリラックスさせていてくれたのであろう、本当に末恐ろしい位に優しい先輩だった。
「令華先輩、そろそろ大穴の方へ」
「わかったよ、少しは落ち着いたかい?」
やはり彼女はわかっていて私から大穴への意識を逸らしていたのだった、今はそのお陰で今朝まであった、焦燥感の様な物は消えている。
「ありがとうございます、令華先輩」
「何のことだい?」
知らぬ顔をして天成を始める令華先輩、この小さい体でどれ程の人を守ってきたのだろうか?この小さな背中にどれ程の人間が感謝しているのだろうか?少なくても感謝も碌にする事が出来ない存在が居る事を彼女は私に教えてくれた、これは彼女から警告だろうか?それとも私が思うように進めばいいという応援だろうか?それを知るのは本人だけでその本人が、言いたくないのであれば聞く必要も無い。
自分で考え自分で行動しろと言う事だ、そしてどうしても自分で出来ない事が出来たのであれば僕に頼れと、彼女はいつもそういい私を助けてくれた。
「心美君準備はいいかい?」
「はい、いつでも」
そう言うと彼女は私を抱きかかえる空へ飛び立つ。前々から疑問だったがこの光はなんなのであろうか?緑と言うには薄く、黄緑と言う色とも違うエメラルドグリーンの様な綺麗で落ち着く色。
「この星空も綺麗ですけど、この令華先輩の出す光の色も綺麗ですよ」
「なんだい?彼氏というものがありながら、僕を口説いているのかい?勿論君であれば喜んで受けさせてもらうとも」
「違いまーす、扇と別れる気も無いでーす」
「お熱い事で何よりだ、それにしてもこの光が綺麗か…考えた事も無かった、君に見せる事ができた、肌も顔も髪艶も全て無くなってしまったがまだ綺麗と言ってくれるのは…ありがたいよ」
そんなに自分の事を卑下しなくてもいいのにと私は思う、彼女の顔や肌が少し傷ついた所で私の彼女に対する認識は変わらない、誰よりも華奢に見えるが流麗で崇高な存在それが彼女忍野令華と言うべき存在であるのは誰が何と言おうと私の中にある真実だ。
「それにしても、この光はなんなんですかね?」
「さぁ?それは僕にもわからないな。それこそ代弁者である君が、地球そのものに聞いてくれとしか僕は言えないな」
「それもそうですね、聞ける日が来たら聞いておきます」
「そうしてくれるとありがたい」
そう話していると大穴へ辿り着く。大穴の中へ入り私は一人跪き希う、誰でもいい誰か聞こえないかと。1時間、2時間、3時間と経過していくなか一度肩を叩かれる。
「そろそろ、お昼ご飯の時間だよ」
令華先輩がそう教えてくれるが。
「すみません、もう少しだけこのままで…」
必死に訴えかけると彼女は、やれやれと言った表情で元居た位置へと戻りこう言う。
「あと一時間だ、それが終わったら一度昼食にしよう…ね?」
「ありがとうございます!」
そしてもう一度跪く。足も痛くなってきた、彼女が昼食にしようと言い出したのはそれも見越しての事なのだろうがどうしても、どうしてももう少しだけここでこうして居たかった。何かが近づいている気がする。そう思うとこの無意味と思える行為も続けることができる。
10分だろうか?30分だろうか?それとももう1時間経ってしまったのだろうか?一度休憩を挟もうとしたその時だった。誰か二人、私達以外の二名の気配を遠くに感じる事ができる。
念話のように代弁を受け渡す感覚で話しかける
『聞こえていますか?』と『どうかお願いだから聞こえていてください』と心の中で語り掛け続ける『誰かとお願いです』と何度も訴えかけるその時だった。その感じていた二名が段々離れていくように感じる。
『待ってください、聞こえますか?お願いです誰か……』そう訴えかけると。
『聞こえます、聞こえますよー』そう返事が返ってきた。
『聞こえるんですね?よかったぁ』
すると彼女は自己紹介をしてくる、こちらは北海道守護省所属の早雲理恵ですと。その言葉を聞いて自分も自己紹介をする。
『私は、山梨県忍野村の地球の代弁者富士心美と申します!』
その一言を言った時少しの間があったがそこからは話は円滑に進み、互いの状況を打ち明けこちらの願いを話す。どうか私達を保護してくれないかと。すると彼女は一日時間をくださいと本部と掛け合い明日もう一度この時間にお話ししましょうと、約束をし今日の所は一旦の別れを告げる。
先に食事を広げて待っていた彼女に向かって思い切り抱き着く。
「どうしたんだい?心美君?」
「天文学的確率を扉も開いてその中に入る事ができましたぁ」
もう自分でも笑っているのか泣いているのかは分からないがその真実を彼女に伝える。
「これで皆が生き残る道がまた一つ繋がったという訳か」
しかし何故だろうか、彼女はここまでの確率を潜りぬけてなお笑顔ではない、その彼女が抱いている感覚が恐らく危機感なのは聞くまでも無かった。
翌日約束通りに彼女はもう一度会議をしてまた翌日である25日に直接会ってお話をしたいというところまで話は進んだ。
おかしい。奇跡だとしても上手く行き過ぎている、心美君達に悪いが僕はこれを罠だと思って行動する事にした、敵が知性を持ち中身すら模倣できるのであれば、その可能性もあり得ないとは断言できない。
何はともあれ今日北海道の守人と言う人達に会う、その警護の為に僕はこの空間に入っていて。心美君は扇に任せて先行する、昨日の話ではこちらとあちらの大穴が交わる中間ポイントの様な物があり、そこで落ち合うという手筈であった。
恐らく数十キロと飛ばない内にその中間ポイントらしき場所に辿り着き僕は、彼女の斜め前、扇には彼女後ろを警護して貰っている。
「あの、令華先輩?ここまで厳重に警戒する必要あります?」
「心美君敢えて言うが僕はこれを敵の罠の可能性もあると思っている」
「どうしてですか?」
「なにもかもが上手く行き過ぎているからだよ」
「だからって!信じない訳にはいかないでしょ!それで北海道の皆さんに…」
その時であった一発の銃声が鳴り響いたのは。
守人side
あると言われている中間地点に向い進み続けるがそれらしきものは一行に見えてこない。
「白鳥先輩少しの間前線任せていいですか?」
「ああ、いいけどよ」
「気を付けてね、集中力を乱して死んだら承知しないから」
「わかってるって」
「瞬君大丈夫ですか、少し休んだ方がいいんじゃ?」
早雲さんにそう言われるが休んでいる暇は無い最悪これが俺達を殺す為にレイダーが仕組んだ巧妙な罠と言う可能性がある。
「大丈夫少し息を整えたら…」
そう言葉を発した瞬間一発の銃声がなり、嫌な予感がする。白鳥先輩が死んでしまうようなそんな予感がしてバーニアを全開にする。
「早雲さんごめん待ってて」
そう言い残して彼女の元へ急ぐ、その時であった。彼女に小柄な少女が、光の刃で斬りこもうとしていたのは。
それを見て彼女の首元引っ張り後ろへ投げ、少女の一撃を受け止める。
守人side end
危機一髪の所で彼女の目の前に盾を出し何とか銃弾を防ぐ。見えない銃弾しかし、それでも銃声と直撃した場所から位置は何処かわかる。
「扇、心美君を退避させろ!」
そう言いながら僕は飛び立ち銃声のなった方向へ向かう。そして目の前にはぽけらんと言う顔をした銃を構えた女性と、その後ろから近づく赤い影をこの目に捉える。
増援…でもここで心美君を殺そうとしたコイツだけは斬る!
振りかぶり最速で斬りこむが僕の刃は後ろに居た赤い影の少年の二刀一対の刀に阻まれる。
「邪魔をするな!」
連続攻撃を仕掛けるが、彼の二刀に全てをいなされる、しかし決して僕が彼に実力が負けている訳ではないこのまま続けて行けばこちらが押し切れるっ。
「何故彼女を殺そうとした?」
「殺そうとしていたのはそっちだろう?」
剣戟を繰り広げる中一問一答するが話にならないそして彼は、この連続攻撃を受け続けるとジリ貧になる事を悟ったのか空へと逃げるが、残念ながら空はお前のモノだけじゃない。
「そこだ!」
狙いを定めて斬り付けるがそこに彼は既に居らず、下から斬撃を加えようとしているが、こちらにはまだ奥の手が残されている。
「“動くな”」
そう言うと彼の動きが止まり、これで勝負は決まりだ例え君が人であったとしても心美君を殺そうとした人間を庇う人間を見逃す僕ではない。
一撃を入れようとしたその時であった、彼は信じられない行動を取る。
彼は自分自身では一切動かず、背中と腰に付いているバーニアだけで回避行動を取る。ある程度の知恵があれば抜け出せてしまうのがこの能力の欠点だがそれを初見で見破ると思ってはいなかった。
「だからといって」
彼の前に飛び一撃を浴びせる。
「僕が負けるとは言っていない」
「だから、なんなんだよ!」
そう彼は言いだすと斬られた傷口から飛び出した血を変形させこちらに飛ばしてくる。目で追うのも疲れる速度と剣術に飛び道具まで持っているとは、明らかに形勢が逆転する。「今度はこっちから行くぞ」
彼が言うと飛び出した血を一つに固めて細長い剣の様なものを作りだす、そしてそれを飛ばしてくる。解放は使えるがそれでもそれは、本当に奥の手中の奥の手だ、出したが最後時間を稼がれては確定で負けてしまう。
だが恐らくあの能力にも間違いなく弱点はある、それを確信させるのは先ほどから彼は血の剣で攻撃はすれど自分は攻撃に参加していない。第一に彼は明らかに貧血状態であるはずだ、そうでなくても彼のこの操作は自分が巻き込まれる可能性もあるのではないかと推測し彼に近づく。
「これでもまだ攻撃できるかい?」
「クッッ」
彼は血の剣の操作を一度止め、二刀で防御するしかなくなる、そしてやはり貧血状態なのかそれとも僕の攻撃に対してカウンターのチャンスを待っているのかわからないが、これならば行ける!
「「力を貸せ『解放』」」
彼も僕と同じ事を口走ると彼が正面から消え、視界のどこにも居ない。どういう事だ?と考えるが彼は考える暇を与えない。
「これでも防ぐかっ」
彼の声が聞こえるだけで姿は見えない、否、姿は見えている正確に言えば彼がどれだかわからない、彼の攻撃は僕の解放によって分離した盾で防いではくれているが、こちらの攻撃は一向に当たらない。斬った感覚もあるそれでも斬ったものは陽炎の様に消えていく。
「残像とは厄介だな」
少しの間防御に解放を振り切り彼の攻撃を防御し続ける、何か方法はないかと考える、この状況を打破するカギは無いかと、そして唯一思いついたのは、また心美君に怒られるであろう作戦、彼は全方向から絶え間無く隙を探して攻撃しているがこの防御の前では恐らく打ち破れないのは事実、だがだからと言って彼よりも僕の解放が先に解けた瞬間僕の負け、いや僕の死が確定するのも事実だ。ならば敢えて隙を生み出しそこを狙う幾ら質量を持つ残像をいくら出していても先頭に居る彼が本物なのは確実であるならばそこを狙うしかない。
「そこだ!」「ここだ!」
同時に刃がぶつかりかなりの衝撃が両者を襲うがこの衝撃によって被害を受けるのは僕ではない、無敵の残像をかき消された彼の方である。
前回で彼の元へ飛び一撃を入れ地面に叩きつける。
「いい加減に墜ちろ!」
「無理に決まっている!」
しかし彼は諦めない、また高速で動き出し、同じ術中に嵌る。それを何度も繰り返すが彼はそれを待っていたか如く一度距離を離しこちらに指を差す、その瞬間であった僕の横を一筋の針の様な物を素通りするしかし、目をやると剣であったはずの血が第二第三の針へと変形し次々と振ってくる。
「しまっ」
次の瞬間であった彼の一撃をまともに受けてしまう、解放の自動防御を最悪な形で使われていた。その瞬間を狙ってこちらに攻撃を合わせてくる、なんとか光の刃で防御したものの地面に叩きつけられるのは僕の方であった。
「まだだァァァ!」
僕は自分を振るい立たせ彼に突っ込む盾の自動防御もかなぐり捨てて、全てを攻撃に回すが、完全な接近戦である限り、絶対回避を彼の方が有利だ。
「“止まれ”」「“動くな”」ありとあらゆる命令を試すが、彼にはもう何も聞こえていないのか全て効力を発せず。僕の解放が先に終わり、僕は地面へと落下する。
「グハァッ」
高い所から落とされた衝撃で全身が痛い、というよりも彼の斬撃を致命傷は避けるよう最低限の防御はしたが、全身に受けた為そちらの痛みかもしれない。彼がこちらへと地面に広がった彼と僕の血を踏みしめ一歩また一歩と近づいてくる。
負けた完全に、負けないと決めた事では負けた事が無かったはずなのに、人生初めての敗北で、人生最初で最後の死を体験する為に現れた彼が一歩と踏みしめる。剣先が鼻につく、彼の血と僕の血が混ざりあった血の匂い。
確かに死ぬのは嫌だが、けれど僕を倒した彼ならば僕の命をくれてやる事もやぶさかでも無い、変な感情だ。
「さぁ、やれよ」
彼は剣を振り上げるその瞬間目を瞑る。
あぁ、すまない心美君、扇。僕が死んだとしても君達の願いが叶う事を祈っている。後ろから扇と心美くんの必死の叫びが聞こえるが。本当にすまない僕が認めてしまったんだ、彼に殺されるのであれば本望であると。
しかし一向に刀が振り下ろされる気配は無い、それとも僕の首はもう既に胴元から切り離されているのだろうか思い目を開けると彼に後ろから抱き着き彼を止める女性が居た。
「ダメです、瞬君」
そう言われると彼は刀を鞘に戻す。
「そうです、そうやって血も戻してあげてください彼女の分まで…」
すると地面でどうしようも無い程、混ざり合っていた僕と彼の血が分離していきそれぞれの傷口に戻っていく。
そして最後の一滴が戻った瞬間に彼はこちらへと倒れてき、僕は彼を受け止める。とても美しく慈愛の象徴とも言える彼女はそのまま「彼をよろしくお願いします」と言い僕の後ろへと進んでいく、心美君達が居る後ろに。
彼を退けて彼らの元へ戻ろうとするが、彼の体重が思った以上に重く押し倒される。なんとか彼から抜け出し彼の頭を膝に乗っける、僕は何をしているんだろうか?
令華先輩が初めて負ける所を見た、彼女は勝利主義と言う訳ではないが負けないと決めたら負けない、そういう女性であった、それ故に勉強でも運動でもずっと一位を死守してきた、勿論運動は女子のみで争った場合だが。
その令華先輩が負けてしまった、そこから考えだされる私の結論は一つ彼女が敗北を認め、そのまま自分の死を受け入れるのではないかと、そういう結論に至っただからこそ叫ぶ。
「ダメぇぇぇぇぇぇ!」
しかし彼女に勝った男はその刃を振り上げたまま振り下ろされる事は無く鞘へと戻る。その男の後ろからは女性が抱き着いていた。あの女性のお蔭で令華先輩は死ぬことは無くなった。それを見た瞬間体崩れ落ちそれを寸でで、扇に支えてもらう。
「心美大丈夫?」
「大丈夫…」
そして彼らがまき散らした血を彼らの中に戻し、彼は令華先輩に覆いかぶさるように崩れ落ちるが、それを気にしないといった姿でこちらへと女性は一歩また一歩と歩いてくる、
扇が私を守るように前に立つ。
「富士心美さんですね?私は早雲理恵と申します」
そう言うとペコリと頭を下げる。清廉潔白とは彼女の事を言うのであろうと思わず感心してしまうが、ハッと気づく。
「ご挨拶が遅れました、富士心美です。ずっと会いたかったです早雲理恵さん」
そうすると彼女は耳に繋いだ無線だろうか?それでツツミと言う人を呼び出す。誰かの苗字だろうかと思っていると義足と義手を嵌めた顔の厳つい女性が目の前に飛び出し、土下座をする。
「誠に申し訳ない、いきなり大きな音が聞こえたもんでアンタを撃っちまって、こんな事になってしまって…」
「ああ、それはこちらこそ申し訳ございません、こちらが言い争いをしてしまったという部分もあるので、どうかお顔をあげてください」
そう言うと彼女は顔をあげるが,気まずそうに後ろに下がる。
「ところで心美あれは?」
扇に肩をとんとんと叩かれ、指を差された方を向くそこには、先ほどまで殺し合っていた二人が何故か膝枕をしているという何とも摩訶不思議な光景が目に映るのであった、だからこそ私もこう答える。
「さぁ?何をしているんでしょうか、本当に」
いきなり銃弾が飛んできて、北海道の方と殺し合いをして今は膝枕をしている本当に、どういう事だかわからなかった。
さっきまで殺し合いをしていた彼の能力によって傷が治され、今は彼の枕となって膝を貸している、どういう状況なのだろうか?
自分でもよくわかっていない、何故僕が彼の枕になっているのかもわからないし、何故彼は他の人とは違い嫌悪感を抱かせないのかもわからない、わかる事があるとすれば今心美君と話しているあの女性に自分の命が救われたという事だけ、何故彼女は僕を救ったのだろうか?
「いい加減起きてくれ、名も知らぬ君…」
普段は赤の他人に触る事すら拒む僕が、何故か彼の事を指の先で突いている。そして突いていたのが効いたのか彼は迷惑そうに起き、逆さまに互いの目と目が合いおでことおでこがごっつんこなんてベタベタな事は起こらず、互いに避け見つめ合う、この場合僕はどうするべきなのだろうか?先ほどまで殺し合いをして君に今さっき助けられたものだ、よろしく。とでも言うべきなのだろうか?それすら分からずいると彼の方から話し始める。
「さっきはごめん、もう何もわかってなくて、早雲さんに止められなかったらきっと君を殺していたかもしれない」
「それは僕もだよ、よく見れば君達が同じ守護者なのは理解できたはずなのに彼女が撃たれた事によって気が動転してしまっていた」
互いに謝罪から始まる会話、なんだか殺し合いの次がその殺し合いの謝罪なんていうのは少し面白く笑ってしまう。どうしたの?という目をこちらに向けてくる。
「すまない、僕と君は似たものどうしなんだなと思ったんだよ、君も彼女を庇う為に僕の攻撃を受けたんだろう?」
「それは…確かにそうだけど…」
これはいい本当に僕と君は似ているだからこそ、僕は君という人間に嫌悪感を抱かないのだろうか?見つける事を既に諦めていた同胞に思わず僕はテンション高く話をしてしまう。
「僕は忍野令華、君は?」
「俺の名前は青池瞬、本当にさっきはごめん」
「瞬かいい名前だね、瞬と呼ばせてもらっても構わないかい?」
瞬と呼ばれた瞬間彼は少し体を震わせるが何事もなかったように笑顔で返す。
「じゃあ、俺は忍野さん?でいいのかな?」
この感覚は?もしかしてと彼に一つだけ質問をする。
「君一年生かい?」
「まぁそうですね、忍野さん達が二人とも二年生っていうのは早雲さんに聞いていたんですけど」
早雲さん?誰だろうか、まぁどうでもいい。
「いやさん付けでも苗字でも呼ばなくていいよ、令華とそう呼んでくれ敬語もいらない、それを誰であろう僕自身がそう望んでいる」
「わかったよ、令華」
なんだろうこの心の温かさは、自分の世界に色どりが付いたような感覚だ、これほど嬉しいという感情を得るのは久しぶりな気がしてならない。殺し合いした仲だが改めて、こう言おう。
「これから、よろしく瞬!」
第九話 完
本文を読んでいただき誠に感謝します
ここまで読んでいただいた皆様、ここまで読まなくても本文は読んでくれた皆様、そして前書きで読むのを止めた方や途中でつまんないと思ってブラウザバックされた皆々様全てにこの作品を一度開いていただいた事を感謝します。




