第八話 確率論
本日はこの小説をご観覧いただきありがとうございます。
12月22日恐らく敵が来るであろうと予想された日になった、指が悴み吐く息はまるで煙草を吸っているように白くなる、外には雪が積もり食料はまだかなりの備蓄があるがネット回線等そういう類のものには地球からの支援は止められてもう暫く立つ、幸い無線はまだ生きているので戦闘になったとしても心配する必要はないとの事が令華先輩によって知らされたが、この先どれ程敵襲が来たとしても私達全員が生き残る為には今日なんとか亀裂内の空間を破壊し、尚且つ北海道側の亀裂内の空間も破壊している事が前提という、まさに天文学的確率が噛み合わなければ私達の全滅は防げないしかし、私達は最後まで生き残り続けることを諦めない。
食料は賀水さんの提案で配給制にし、無駄に食料を使うことなく今日この作戦が失敗に終わったとしても長く生きれるようにできる限りの工夫を凝らしている。
そして今私は彼らと共に亀裂内部に居ると言っても亀裂が発生したわけでは無く、代弁者が希う事によってなんとか亀裂内部に侵入できるという言葉を先月頂いて今日がその実験日だったという訳だ。
「それにしても、扇と令華先輩はこんな綺麗な星空の下で戦っていたんですね」
「綺麗?これが?俺は逆に胡散臭いけどね、綺麗すぎて」
「天邪鬼だな君、君はあれかいプラネタリウムとかを楽しめない人なのかい?」
プラネタリウムなんて行った事ねーよ等と話していると扇が壁にぶつかった様に崩れ落ちる。
「んぎゃ」
「ふむ、君の仮説が当たっていたようだ良かったな扇」
令華先輩は何もない虚空をノックしてそういうがどういう事だろうと考えていると彼女が手招きして何もない場所に手を伸ばさせる。するとずうっと向こうまで続いているように見えた星空は壁に描かれた絵ではないが絵の様なモノだと理解できた。
「つまりここは箱庭と言う訳だ満天の星空の…ね…」
少し悲しそうな目をする令華先輩。
「どうかしたんですか?令華先輩」
「いや別に大したことじゃないんだ、これほどにまで綺麗な景色だったんだ本当にここが星空の上だったら、よかったのにと思ってしまっただけさ」
「意外と少女趣味みたいな所あるんだな、忍野って」
「そうかい?綺麗なモノを見て素直に綺麗と褒められるのは美徳だと思うがね」
すると証明が落ちたように暗くなる、恐らくこれが合図。私は跪き希う、元の場所に戻らせてくださいと。すぐにでも戻れるだろうが最後に一つだけ、彼らに伝えるべき事があった。
「もしこの空間を破壊できなくても、自分の所為だと責めないでください、元より天文学的確率を引き当てようとしている強欲な人間が私なので」
「安心してくれ心美君僕らはその確率を引くために今日この日まで戦ってきたんだ、だから君は役場で暖かいスープでも作って待っていてくれ」
「心美安心して俺も大丈夫だから、無理もしないよ」
彼らも各々言いたい事が言い終わると時間切れともいうべきか元居た役場前に戻され、賀水さんがこちらに歩いてくる。
「どうでした?亀裂内部は」
「言い表すのは難しいですがとても綺麗でしたよ」
「そうですか」
と短い会話をし役場内部に戻るこれ以上私にできる事は何もない、だから先輩の言った通り暖かいスープでも作って天文学的確率の一つめを引き当てれる事を祈るしかないのであった。
心美君が去り僕と扇の二人だけがこの暗い景色の中に残される。
「初めてだな、こうやって敵を迎え撃つのは」
「そうだね、手っ取り早く片付けて本題に当たるとしようか」
その時だった、巨大な熊のような外見を持ったバケモノが現れるのは、しかも今回はその熊一体しか居ないが、その熊のデカさが問題となる。
「巨大だな、いつもにもまして」
「凡そ30mと言った所かな?」
その巨体すぎる熊が動き出す前に人型等が来ることを予想して武装を構えるが、一行に人型どころか中型のバケモノすら来ない。
「これは?」
「恐らく、この熊のみが今回の相手なのだろうさ、その証拠にほら」
そう言い僕は顔を後ろに向ける、すると先ほどまでは無かった亀裂が発生している。
そうたった一瞬目を離した瞬間であった先ほどまで遠くに居たであろう熊のバケモノは僕達に最接近して既にこちらを木端微塵にするべくその脅威的な鋭利さを誇る爪を振り上げている。
「マズイ!」
彼を抱え急いで空中へと飛び立つが今度は左手が、懐に入ればその大きな口で喰らわんとするべく攻撃を休まず仕掛けてくる。
「一旦距離を取ってくれ」
「わかった」
彼の指示通りに距離を取るがその時熊は口を開け何かエネルギ―を溜めている。僕の予想が正しければこのままでは僕達二人は木端微塵どころか、灰すら残らずに消滅してしまうかもしれない。
「これは君の判断ミスだな」
「悪い」
彼は悔しそうな顔をするが、何も責めている訳ではない失敗なんてして当たり前なのだ、その失敗をしないよう僕から学び盗んだ敵をよく観察するという、行為を実行に移した結果が裏目に出ただけ僕一人で戦っていても恐らくこうなっただろう。
「君の解放は能力強化と言ったね?」
確認を取ると彼は頷く、僕の解放で自由に使える盾と光のエネルギー、彼の強化された地水火風を重ねて盾にくっつけ何とか防げるかの賭けだ。それしか今は道は無い。
アイコンタクトを取ると彼も理解したのか頷く。ならば言葉では語るまい、実効に移すとしよう。
「「解放」」
二人同時に解放をする、すると彼は自分の足元に岩石を発生させ、空中に立つ事ができるようになっていた、確かに前までの能力は無から生み出すことは出来ても空中浮遊などは出来なかったはずだ、それを自分の体限定なのか全てに対して付与可能なのかはわからないがこれならば更なる戦力アップと言えよう。
彼に気を取られている訳にもいかない僕も盾二枚を僕達二人の目の前に持ってきて緑の膜のようなものを張るこれでちょっとやそっとでは破られない盾が完成したはずだが、恐らくこれでも足りない。
「扇!頼んだ」
「応よ」
その言葉と同時に炎の壁、竜巻の起こした風の壁、岩石の壁そして僕の盾に張り付けるように大量の水の壁を張るさぁ手札は全て見せた。お前は何でくる?バケモノ!
瞬間一瞬輝いたかと思うと凄まじい衝撃が僕の体を襲う。
「くっ、マズイか?」
「まだだ!」
既に敵の攻撃を盾二枚で受けているがそこから再度の4重の壁を生成し一瞬僕にかかる負担が減るが、それでも一瞬だ。また盾を破壊打ち破るべく衝撃を一身に受ける、それでも彼は再度4重の壁を展開する、10秒だろうか?それとも1分経ってしまっているだろうかそれ程にまで長い攻撃が僕らの体を襲う。
しかし徐々に本当に徐々にではあるが少しだけ勢いが弱くなっている感じがある。
「扇!この攻撃が終わった時が最後のチャンスだ」
「わかってる、でもどうするんだ?」
どうするべきか考える、一秒も気を許せない状況でもなんとかリソースを作りどうする事が最善かを考える、扇の能力は範囲に及ぼす影響は凄いが一体に与える力は解放した今でも恐らく変わっていない、僕の能力は一体一には優れているが爆発力がある訳でもない、どうする、どうすればあの巨体を一撃で破壊できるかを考える。
ふとあの時の光景を思い出す、扇が僕を命がけで庇ってくれたあの時の光景を、彼は風の力を纏う事で加速してこちらに来ていた、試しても居ないし最悪爆発でも起きたら僕は死ぬかもしれないが、今ここで持てるカードの中では恐らく最強の選択肢だろう。
次の瞬間光が先ほどまで目の前を覆っていた光と衝撃が無くなり目の前には熊ただ一人となる。
僕は盾を再装着させ、刃をできる限り巨大にする。
「可能性が見つかった僕の刃に君の能力で最大火力炎を纏わせそして、僕がやれと頼んだら後ろからできる限り巨大な風をこちらに送り込んでくれ、わかったね」
「それが唯一の方法なんだな?」
「ああ、僕が考えうる一番強い攻撃手段だ」
それじゃあ行ってくる、最後に一言言わなくてはならないな。
「心美君を頼んだぞ、扇」
彼の反応を見る前に僕は一直線にバケモノの元へ飛び立つ、僕と君とで生み出す最大火力の攻撃だ、逃げてくれるなよ?そう思った瞬間に緑色のエネルギーでできた刀身が赤黒い色へと塗り替えられていく。
「くらえええええええええ」
叫びながら30mの巨体に突撃する、ダメージはくらっていそうだが消滅には至っていないだからこそもう一つの攻撃があるんだ!
「やれ!扇!」
彼女の合図を聞いて最大限の風を送り込む、それで彼女がどうなるか予想が付いても、そしてどれ程心美を悲しませるかを知ってなお俺は、忍野の覚悟を受け入れて最大の風を送りこむ。
刹那の30mのバケモノを囲うような大爆発が起き、そして空間には穴が開いていた。しかし前にはバケモノも忍野も居らず、ただ一人解放を解いた俺一人を残して辺りは静まりかえっていた。
もう居ないという可能性が高くても、それでも彼女の名前を叫ぶ。
「忍野―、返事をしてくれー!忍野―!」
返事は返ってこない、それでも叫び銃づける。
「忍野―!心美が待ってるんだぞー!」
俺の瞼から少しづつ涙が出てきて膝を付き頭を垂れる、守れなかったと後悔しながら、いつも自分に嫌味を言う彼女だが彼女の中でもそうであったように、俺の中でもこの三人というのはとても、とても大切な関係であったんだと。泣きじゃくりながら最後のお別れを口にするこれ以上は泣かないと心に決めて、誰も死なせず全員で生き残って皆守って見せると今は亡き彼女に誓う。
「だから見ていてくれ、ちんちくりん…………って痛ああい」
最後位は笑って許してくれるであろうと思いその言葉を発する、その言葉は彼女に問って禁句の言葉自分の唯一の欠点を侮辱されるという事は万死に値するのであろう。しかし俺は、それと同時に頭部に鈍痛を覚えた事で後ろを笑顔で振り返る。
そこには逆鱗に触れ完全にブチ切れている彼女が居た。
これが僕の人生の終焉だという自覚もあったし、覚悟もあった。僕が提案した戦術は謂わば、ただの自爆特攻。限界まで僕の刃という枠に彼の炎を閉じ込め、そこに彼が空気を送る事で起きる爆発、当然僕は生きて帰れることは無い。盾だけにやらせればよかったかもしれないと馬鹿にする人もいるかもしれないが、他人に合わせるという事をしてこなかった僕にとっては共同作業というものがとても大変なものであった、彼の出す炎というエネルギーが大きかったのもあるが、それ故に自分の近くで、自分がその光景を見ながらその精密な動作をする必要があった。
しかし二つ程誤算があった、一つ目は彼の炎と風が起こした爆破による熱が無かったこと、流石に衝撃でかなり高い場所まで飛ばされ、この満天の星空の天井部に当たる部分にめり込んだ、この状態ではこのまま解放が解けて僕の死因が爆破に巻き込まれた事による爆死から、落下死に変わるだけであったがこの時はまだ解放の時間制限が来ていなかったのか、地面に降りる事はできた、衝撃によって既に体はボロボロだが、何とか地面に着地し膝を付く。
すると彼が泣いている、君達を他人だと認識しつつある僕の為を想い彼は泣いてくれているのかと、もう彼らに対して動いてくれない自分の残り少ない感情が高ぶる。あぁ良かった僕が僕である感覚はまだ消えていない、そう思い嬉しくなる。
「………………ちんちくりん………」
その言葉が聞こえた瞬間僕は痛む体に鞭を打つ、例え今体がバラバラになってもいいそう本気で思いながら彼の元へ行きその、いつまでたっても人の嫌がる事を辞めない矮小な脳みそのある頭を全力で殴った。しかし彼は殴られた途端ハッとし笑顔になりこちらに抱き着いてくる。
「こら、やめてくれこれは心美君の役目だろうに」
「よかった、忍野が生きていて本当に良かったぁぁぁ」
男ともあろうに号泣している彼の顔を見て僕は笑いだす。
「なんだ…その…顔は…はは、あはははっはっはー」
「笑うことないだろぉー、こっちがどれだけ悔やんでいたか…」
彼の顔がどうしても間抜けに見えてしまい笑ってしまう、おかしいな?彼らはもう僕にとっての他人へとなったはずなのにどうしてか笑いが止まらない、今までの見てきた彼の顔の中で一番みっともない顔をしているからだろうか?僕の中にまだ僕が居るという証明が完了したのであろうか?一頻り彼は泣き、僕は笑う、そんな光景の中ゆっくりとこの偽りの星空の世界から元居た場所へ僕達は戻る、最高の仲間と最高の報告を持って帰って。
私がこの世界に戻されもう数十分経つだろうか、それともまだ数分だろうか?しかしそれでも私はいつも以上に落ち着いている事が出来た、何故かはわからないが彼らならば無事に切り抜けてくれるという根拠なき確信があったからだそんな時賀水さんが私の元へ訪れて暖かいコーヒーを持ってきてくれる。
「この状況が続き、貴方の言う通りに資源は間違いなく減り続けていて本当はこのような嗜好品、私風情が飲んでいい物ではありませんが、どうぞ」
「ありがとうございますでも、そんな謙遜をなさらないでください、賀水さん」
彼はこの状況下でも何とか皆が生きられるように必死に努力している、誰もが一度は結界を48%縮小した段階で誰もが人類の生存を一度は諦めたであろう、しかし彼だけは諦めずにどうにかして生き残れないか自分じゃなくてもいい、誰か一人だけでも生きながらえさせる事は出来ないモノかと、その身を削って動いてくれている彼に対して一つだけ疑問があった。
「失礼を承知で一つだけ質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?」」
「ええ、代弁者様からの質問であればなんなりと」
最初は自分が生き残る為ならば、どんなものでも全てを使おうとする人間に思えたが今はもうそのような印象はない、では何が彼を半年で変えたのかそれが気になった。
「賀水さんには失礼ですが私には最初、貴方は自分が生き残る為であればなんでも使って生き延びてやるという思想を持った男性と言う印象でした」
彼の方を見るとそれは真実だったのか目を逸らしながら、後頭部をポリポリと手で掻いている。
「ですがそれは過去の印象、今は全く違う印象を受けます貴方は誰か一人だけでもいいから生きていて欲しいそう願っているように思えるのです。その…思考というべきでしょうかそれとも感情というべきしょうか?なぜそう変われたのかを教えていただきたいのです」
彼は恥ずかしそうに口を開く。
「私事で申し訳ないのですが私には妻と3人の子供達が居ました」
そういい胸ポケットから、彼が何度も何度も見返したからだろうか?くしゃくしゃになった一枚の写真を見せてくる。優しく微笑んでいる女性と一人は扇の様に身長が高く、一人は令華先輩の様に背が低い、そしてもう一人はいかにも小学生だろうか?満面の笑みをその写真に向けている子供。
「少し私達みたいだなと思ってしまいした、ひょっとするとこの背の小さい方が一番年上ですか?」
何故その事を?と言った表情でこちらを見返す賀水さんの顔みて、クスクスと私は笑みを零す、優しく微笑む女性が賀水さん、それに令華先輩、扇そして、背の小さい子供が私。何故だかわからないがそう感じてしまう。
「よくわかりましたね、歳は長男と一つしか違わないんですが自分が良く年下だと思われると良く怒っていたのを今でも思い出します」
「やっぱり」
その言葉を聞くとやはり私達に似ていると思っていてしまう。もしかしたら彼の考え方が変わったのもこれが要因なのだろうか?
「その顔だと私が変わった理由も、大体の察しがついていそうですね」
相変わらず鋭い人だ、人の顔をよくみている。
「そうです私は、失礼な話ですが代弁者様、そして守護者様のお二方に自分の家族を重ねていまいした」
やはりそう言う事だったのか、しかし彼は申し訳なさそうな顔でこちらを見る、まるでその事がやってはいけない事だったかのように。
「赤の他人の子供にそんな感情抱く方が間違っているのかもしれません、ですが貴方が必死に戦い、祈る姿を見ているとどうしても私は娘たちを思い出してしまうのです」
話は続く、長女と長男は既に働いていて今はもうない社会の荒波に対してずっと戦っている、小学生の彼女はいつも自分が仕事に行くときに笑顔で送り出してくれた事。そしてあの日ここに居たのが、奥さんと娘さん達が必死に働き育ててくれた自分に対する誕生日プレゼントとして昔から見に行きたいといっていた忍野八海へ行くための飛行機のチケットとホテルを用意してくれたという事を彼は少し涙声にもなりながら話す。
「そしてあの日が来て私はこう思ったのです、なんとしても家族の元へと帰りたいと」
それはそうだろう、ここまで自分を想ってくれる家族の為に帰りたいと思うのはごく当然のことだ。
「しかし代弁者様たちを見ているとこうも思ってしまったのです、恐らく死んでしまっている、自分の行いを娘達に妻に私は誇る事ができるのかと考え、それからですね考え方を変えたのは…」
「そうだったんですか、すみません不躾な事を聞いてしまって」
「いえいいんです、誰かに言う事で私も少し楽になりますから、彼を騙してでもこの村の守護者にと言う大役を背負わせてしまいました…」
彼を騙したとはどういう事だろうか?まさか何か犯罪にかかわるような事をしてしまっているのだろうか不安になるが彼は、私の考えている事を見透かしたように真実を述べる。
「彼を騙したというのは、彼がこの村の守護者になるか外へでて行くかと言った時に私はこう述べたのです、私は自分だけが生き残りたいなどと思っていないと」
「成程、扇を納得させる為の方便と言う事ですか」
恐らく彼が聞いたら本気で怒るだろうが黙っておく、彼の心境を聞いた今それを態々と公表する必要性も感じないと考えたからだった、だが一言言わなくてはならない。
「一つ貸ですよ?」
「これは…痛い所を付かれましたな」
そう言いながら彼は笑う、彼の目には私が今どう映っているのかは分からないもしかしたらもう会えないと知ってしまった愛娘の顔を思い浮かべているのかもしれないと考えていた時に彼らは戻ってくる。
「扇に令華先輩!よかった無事?だったんですね」
見た目には傷跡は残っていなかったが令華先輩が彼におんぶされている事が気になる、もしかしたら下半身不随になってしまったのでは等と、自分の中のありとあらゆる最悪な答えが脳裏を支配するが彼女は否定する。
「決死の自爆特攻をしようとしたんだが、こうも無事に助かってしまってねけれども衝撃で体中が痛くて歩けないという有様さ」
「自爆特攻!?」
「心美怒るのは後にして、伝えないといけない事があるから」
彼が真剣な赴きでこちらをマジマジと見つめる、なにかあったのだろうか?
「それについては僕から説明する、その後の事は心美君と扇に任せるが…」
降ろしてくれと彼に合図し、私は椅子を持ってきて彼女を座らせる。そして彼女は語り出すあの場所で何があったのかを。
忍野は語り始めるあの場で起きた事を、心美が言っていた空間の破壊を見事成し遂げた事を語るが心美は自爆特攻を仕掛けた事を相当怒っているらしく、忍野からの言葉に少しそっぽを向く。
「心美君本当に悪いとは思っているんだ、でもあの時はあれ以外の選択肢は無くて仕方なく…」
「言い訳はそれだけですか?」
あぁ普段忍野に対してかわいそう等と言う感情を抱くことは無いが今この状況下だけは彼女がかわいそうに思える、なぜならば心美が完全に説教モードに入っているからだ。
「いやそれだけではないけれど、その…ごめんなさい」
「心からそう思っていますか?」
「はい…」
「本当に?」
「はぃ……」
どんどん声が小さくなっていくしかし、俺よりも付き合いが長い事もあってか、忍野は彼女の求めている事がわかっているのであろう。この場面で彼女が求めるのはそれしかなかった、仕方なかったという言い訳ではない、誠心誠意彼女に謝る事それが彼女の求める事だった。
「わかりました、そこまで反省しているのであれば許します」
「ただ次もう一度同じ事をやったら…わかっていますね?」
「ヒッィ、はい……」
忍野が本気でビビる所も初めて見たし何より、心美に怒られたことはあってもここまで本気で怒られた事はなかったから、心に決めておく彼女の事は怒らせないようにしようと心掛けるのであった。
「そ、それよりもだ心美君、もう一度扇と一緒に亀裂内に向かってくれないか?」
「令華先輩はどうするんですか?」
「僕はこの通り今は動けぬ身だ、こんな足手纏いと一緒に行くよりは頼りなくても彼と二人で行くことを推奨するよ」
説教が終わったと思ったら彼女はいつもの口調で俺の事を嘲笑うかのように小馬鹿にする、絶対いつか彼女を泣かせるそう心に決めた。
「わかりました、賀水さん令華先輩を任せても?」
近くに居た賀水が了承し忍野は医務室へと運ばれていく、恐らくは前俺が眠っていた部屋と同じ場所であろう、あとで二人でお見舞いに行くかとでも考えていると彼女は安心したのか俺に体重を寄せる。
「そんなに心配してくれたの?」
「当たり前じゃないですか、いつもいつも心配の連続です。今日だって帰ってきた令華先輩と貴方を見て倒れそうになりましたよ…」
「それはごめんね」
「こっちの身にもなってくださいね」
そういい頭チョコンと小突かれる。
「では行きましょうか、天文学的確率を引き当てる為に」
彼女が跪き希う、すると先ほどまで戦っていた場所へと戻ってくる、星空に似つかわしくない大穴を開けている空間へ。
「これが空間の破壊…」
彼女が思っていた破壊とは違ったのかそれとも、余りのスケール感に慄いているのかは、わからないが彼女抱きかかえその大穴へと跳躍する、この空間は俺達守護者にとっては広々として動きやすい空間であっても、決して普通の人間が端から端まで歩ける距離はしていない。
「扇は毎回このような景色の中戦っているんですね…」
「うらやましい?」
意地悪気に聞いてみるが彼女の答えは人であれば当たり前の返答が返ってくる。
「いえ怖いです正直、先ほど訪れた時は令華先輩が低空を運んでくれていたのでこんな感覚はなかったんですけど…」
そう言われ地面を蹴る力を弱め、ふんわりとした感覚で進むように心掛ける。
「これならどう?」
「これなら大丈夫そうです、まだ少し怖いですが…それでも優先しないといけない事がありますので」
やっぱり彼女は強い、俺達の様に戦う力は持っていないかもしれない、それでも進み続ける覚悟を持っている、下手に力を持っていれば先ほどの様に恐怖を感じるべき所で感じないようになってしまうだろう、だが彼女は違う人としての恐怖も持っているそれでもなお進む事を止めないのだ。
そう話している間に大穴の前に着き彼女を降ろすと、おもむろに大穴へ入って行こうとする彼女を必死に止める。
「心美!」
「なんですか?」
彼女は何を焦っているのかわからない様子でこちらを見る、既に覚悟は決まっている目をしている。
「せめて手を繋いでいこう、いつバケモノが現れてもいいように」
「そう…ですね、ありがとうございます」
一歩また一歩と進み大穴へ侵入する、すると外は少しくらい洞窟と思えるような風貌をしているのかそれとも無限に続くくらい宇宙なのかそれはわからないが暗いのは確かだけれどもだからといって数メートル先が見えないなんてことは無い。
そして後ろを見ると俺達が戦っていた空間は一つの箱のような形をしているだけだった。
「まるで一つの部屋みたいだ」
そういい彼女の方を見ると彼女は涙を流している、ただ一点だけを見て。止まる事の無い涙を、ただ事じゃないと思い彼女を抱きかかえ即座にその場から撤退する。大穴から出るまで彼女はずっと大穴の更に向こうを見て泣いていた。
泣き止むのを待ちハンカチを渡すとこちらに気づく。
「大丈夫?」
そう声を掛けるが彼女は信じられないモノを見たかのように自分の頬を引っ張る、それを止める為に片手を掴む、すると逆の手で頬を引っ張るのでその手も抑え実質押し倒した形になる、その時だった彼女にキスをされたのは。
「夢じゃ…ないん…ですね…」
止まる事の無い涙を流しながらそう答えるが、こちらとしては何が何の事だかわからないので説明を求める。
「心美落ち着いて?どういう事」
彼女の涙を拭いながら説明を求める。
「北海道にも大穴が開いています」
俺達が求めに求めた、開くはずのない扉、その扉が開く音がした。
第八話完
本文を読んでいただき誠に感謝します
ここまで読んでいただいた皆様、ここまで読まなくても本文は読んでくれた皆様、そして前書きで読むのを止めた方や途中でつまんないと思ってブラウザバックされた皆々様全てにこの作品を一度開いていただいた事を感謝します。




