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綺麗な星に還るまで  作者: 鈴川掌
山梨編
20/30

第七話 人嫌い

 本日はこの小説をご観覧いただきありがとうございます。

 実験的に昨日は夜投稿をしました、すみません。

 人々が僕をまるで人では無いかのような目でこちらを見てくる、何故どうして?僕は君達を守っているのに?どうしてそんな目で見るんだい?教えてくれよそこで佇んで居ないで、動いて見せろよ。僕の代わりに戦って見せろよ、その覚悟も無いから守られる存在になって妥協したんだろう?君達は。

「どうしたんだい?そんな目で僕を見て」

 心がぐちゃぐちゃになりそうだった、だから答えを求めたしかし答えは返ってこず、皆は必死に壊れた家からなにかを掘り起こそうとしている。逃げないのか?ならばいい僕は次の鳥の元へ向かう。

 天成出来ない間村が壊されて行く、足元には誰かのモノであっただろう腕や足が広がっている、あの時も思ったが地獄みたいな光景だ。できればもう見たくないと思っていたがもう一度見る羽目になってしまった。

「天成」

 天成ができるようになり天成をし瓦礫に挟まれている親子を見つけ助ける。

「ありがとうございます、ありがとうございます」そう繰り返しながら彼らは役場の方面へ逃げていくそこに鳥が鋭い爪を彼らに受けて突っ込もうとしている。

「解放」

 その言葉と同時に爪を寸での所で食い止める。

「早く逃げろ、もう時間が無い」

 彼らはまた感謝して走り去っていくそのまま、何事にも巻き込まれず去って行ってくれ彼らの様にここに佇んではダメだ、直に結界も縮まってしまうという情報は、この村に住んでいる人々に行き渡っているのだろうか?そんな事考えている余裕はない。

 相手は先ほどまで敵味方関係なしに暴れ回っていた怪物だ異常種だ、もともと通じない常識が更に通じない相手、いつ僕にそっぽ向いて心美君の元へ向かうかなんてわからない。だから僕は最初から全開で行く、今の僕は恐らくこの村で一番強い人間なのだから。

「死ね」

 そう言いながら羽に斬撃を入れていくが回復力が凄いのか、斬ってもすぐに斬った個所が再生している、ならば同時に切れ込みを入れ見てはどうか?

「これなら、どう?」

 次は羽と胴体と足に盾も使いながら斬撃を入れていく、すると足の回復だけが異様に遅い事が発見できた。

「弱点発けーん」

 盾で羽の動きを牽制しながら、両足を斬りおとすとその箇所は再生せず鳥は痛み、そしてもがき苦しんでいる。盾で羽を牽制しているからだろうか?それとも地面に立てたはずの足が無いからだろうか?それはわからないしどうでもいい。

「じゃあ、これで終わりだ」

 盾二枚で両羽を貫き釘の様に差し盾を返しとして、もう持ち上げられないよう抑える。そして両羽広げた鳥、まるで十字架に貼り付けにされたキリストを殺すが如く心臓部を貫いた。

 その後は単純作業の繰り返しだった。生き残っている住人をなんとか、安全な地域に運び届ける途中いくつかの罵詈雑言を吐かれた気がしたが僕にはなんのことだかわからない。どうせまた自分は何もできない癖に文句を垂れているのであろうと思いダンマリを決め込む、一々対応していたら心美君が求める、生きた人間が減って行ってしまう。

 ある程度運びこんだのち外にもう生存者はいないとして心美君が結界を縮め閉ざす、それを見届けてから僕は自分の家に戻る事にした、心美君は少なくても今日一日は扇の所で看病し続けるであろう、彼女が居なくても料理は自分でも作れるし、対して困りはしないのだが。僕の中で何か違和感がある、こんな感覚は初めてだ。元々一人であって、周りに居たのは心美君や賀水そして扇、彼女らの様な特定人物以外居なかったのはわかっているが、その特定人物も自分の中で消えかかっている?そんな違和感が体を覆った。

 シャワーを浴びて頭を乾かす、着替えながら外が騒がしい事に気づくがまた宴会でもやるのだろうが僕には関係ない事であろう、シャワーに入る前に用意して置いた夕食を頂く。

 今日は朝食しか食べられておらずその上、異常なほどの運動量をこなした為お腹がペコペコだったコーンスープを飲みながら電話がかかってきている事に気づき、受話器を取る。

「もしもし?」

 受話器を取ったもののツー、ツーという電話が切れた音がするのみで間違い電話であろうか?しかし電話はその後もなり続けた?どこまでの人が生き残っているかの確認をしているのであろうか?そうであれば出た瞬間に生存は確認できたとして、消しても違和感はない。

「ただ、煩いな」

 率直な感想が思わず口に出してしまう、今まであれば二人も話相手が居たためか、何かを口に出すのが癖になっているのかもしれない。

 二階に上がりまだ外が騒がしい事に気づく、浮かれるのもいい加減にしろよと言いたくなるところだが今日の所はしょうがないと考え心美君の部屋に入ろうとするが、なぜだろうか?扉を開く気になれない、というかドアノブに触れるのが億劫と感じているのか?そんな僕はどうしようもないダメ人間では無いと、頬二度程ペチペチと叩きドアを開ける。

 やっぱりなにも無いじゃないか、なんでこんな事を億劫になっていたのかもう一度自分を改めたくなるがそれも面倒くさいので彼女の部屋にあったCDプレイヤーと誰かも知らないアルバムを数枚取って心美君の部屋を出る。

「これじゃないな」

 別に音楽に拘りがある訳ではないがどうしても歌の入っているの曲を聞く気にはなれず結局彼女の部屋にあったアルバムを全部持ってきて、歌の入っていないCDを探し(ようや)く見つけた何かのドラマのサントラを見つけそれを流して今日は眠る事にした、騒がしい喧騒は僕が好みのCDを探している間もやむ事が無かった。

 次の日の朝僕は何か不快感を覚え、起きる。誰かに揺さぶられているように感じたのか、それともなにかが砕ける音を聞いて起きたのかはわからないが寒い、間違えて部屋の窓を開けていたままだったのだろうか?だからこそ昨日の喧騒が煩く感じたのかも知れないもしそうだったら、CDを掛けながら寝た僕もかなりの迷惑行為だろう、と反省するがその時だった肩に何かが当たる。

「いたっ」

 何が当たったのかと思い外を見ると住民達がこちらに向かって石を投げてくる瞬間であった。直後になんとか窓の下に屈むように隠れて万が一を避ける、暫くしたのちもう一度窓の外を覗くと先ほどまで居た人達は居なかった。先程まで居た人達は居なかったが僕の部屋に転がっている石ころ達が先ほどの事は真実だと知らせてくるのだった。


 彼が目を覚ました事を伝える為に令華先輩がいるであろう家に戻る、こういう時にスマホというか連絡手段を持たない彼女は大変不便に思えるが、それはそれでいい事もあった文通なんていう、現代っ子が余り経験していない事も沢山経験させてもらった。

 しかしながら我が家の方が少し騒がしい、なにかあったんだろうかと思ったその時一つの光景を見てしまった。

「なにやってるんですか?」

 そういうと集まっている人達は見つかってはいけない人に見つかってしまったと言わんばかりに顔を隠して立ち去る。

 私達が暮らしていた、正確には令華先輩と私が暮らしていた家が荒れていた。

 窓ガラスは割られ、壁にはスプレー缶だろうか?それで嘘つきと書かれている。

 そして何よりも異常なのは、張り紙の数だ「嘘つき」「人殺し」「役立たず」「守護者なんかいらない」「誰も守れない癖に」「クソ女」「見下し人間」そんな罵詈雑言の数々が至る所に張ってある。

 急いで家の中に入り確認するとそこは酷いとしか言い表せられない惨状となっていたたった一つの場所を除いて。それは彼女がご飯を食べている場所と調理したであろう場所だった。

「やぁ心美君昨日ぶりだね、その様子じゃ扇はちゃんと目を覚ましたかな?」

「令華先輩!」

 そう言い抱き着くが彼女はさっと回避する、何かがおかしい。

「やめてくれよ心美君、食事中だ」

 その言葉を最後に彼女は朝食に戻り、作ったサンドイッチだろうか?その最後の一欠片を口に放り込むとこちらに目を寄せる。

「それで扇は助かったのかい?」

「あ、はい…扇君は今朝目を覚ましました」

「そうかそれはよかった」

 と彼女は安堵した顔を見せるやはり勘違いだっただろうか?今の今まで別人と話しているような感覚を持っていたが、それはやはりこちらの考えすぎだろうと思った矢先彼女から信じられない言葉が口にでる。

「彼が居なくなったら、僕の手間が増える」

「なんですか?それ…」

「それって?行ったままの意味だが?彼が減れば戦力が無くなり僕に負担が増えやがてこの村は守れなくなる、まぁいまも守れているかは怪しいが」

 ハハハと笑って見せる彼女、私はこの令華先輩と扇君と私の生活をもう既に居ない家族との関わりに似たものを感じていた、それは彼女も同じだったはずなのにどうして彼女はこんなにも冷酷な事を言っているのか理解が追いつかない。

「令華先輩目を覚まして!」

 彼女の肩を掴み、体を揺さぶるしかし彼女は表情を変えず「グラグラさせないでくれよ」とこれを遊びかのように捉えている、どこかのパーツが無くなってしまった機械の様に、彼女の動きが話し方が壊れたロボットに見えた途端もの凄く彼女が怖くなる。

「令華先輩…すみません戻ります…」

 止めてくれると思った、彼女の事だからもう少しお話をしようじゃないかと言ってくれると思ったがそれは無かった、無かったのだ、彼女はただ一言。

「あぁいってらっしゃい」

 そう無表情で私を送り出しただけだった。


 彼女がおかしい事を言う目を覚ましてだのなんだのと、見ればわかる通り僕は起きているし、扇の看病のし過ぎでそっちこそ寝ていないんじゃないかとツッコミたくもあるが彼女の目がとてもこちらを不信顔で見ているのに気が付いてハッとするああ、おかしいのは僕の方なのかと。わからないが、今の僕は今までの僕とは少し違うらしい。そして彼女は扇の元へ帰るようだったから僕は送りだす不自然に感じないようにいつも通りの言葉見たく。

 着替えを済ませ外に出る準備をする生憎家がこの有様じゃ、今日からここで暮らすのは無理であろうから、賀水の所に行くか、そもそも役場で生活するか、どちらにせよ家からは出る必要があるが最後に一つだけ持っていきたいものがあったので二階に上り自室に入る、壁の傍に落ちているクロの首輪をどうしてだかこれだけ持っていきたくなったのだ。

 外に出ると家に大量の張り紙が張っており、その上にはスプレー缶で嘘つきと書かれているどういう事だろうか?

嘘つき?僕はそもそもここの住民とほぼ関係を持っていないし、話した人も殆ど居ないそんな人間がどうやって嘘を吐くのだろうか?

 役立たず?このまま亀裂が出来ても戦わなくてよいのであれば僕は喜んで職務を放棄するであろう、それが心美君の願いだから戦っているだけの話だ。そもそも戦えもしない人間が何をいうのであろうか?

 さぁて役場に行って賀水に現在の状況を聞こうと考えたその時だった石が飛んできて僕の額に直撃した。

「痛い」

 感想を述べる、流石に意識していなかった、心美君が来て捌けて行ったと思っていたがそうではないらしい。

 立ち上がる時に下を見ると血がひたひたと滴っている、顔には傷を残したくはなかったんだがな…まぁしょうがないか。

「そんな隠れて虐めなんてしないでどうどうと出てきなよ、話なら聞いてあげるから」

 するとぞろぞろと大の大人たちがのそのそと出てくる。これ予想外だったこんな幼稚な事を大の大人がやっているのかと、思わず笑みを浮かべしてまう、余りに滑稽で愚かだ。自分達は守られるべき存在と勘違いして、被害を受けたら被害者面とは本当に笑えない。

「で、なにか言いたい事でもあるのなら聞いてあげるよ?」

「うるさいわね人殺し!」

「人殺し?何のことだい?僕が何時殺したっていうんだい?少なくても僕は助けた覚えしか、ないんだが?」

「よくもそんな口を聞けるわね、貴方があのバケモノを落とした所には私の子供達が居たのよ責任を取りなさいよ!」

 責任?どうやって?そもそもその場合問題は貴方にあるのではないか?だって。

「子供達を救いたかったのなら亀裂が発生した時点で避難所まで逃げればよかっただけだろう?なんでそうしなかったんだ?」

 そういうと女は逆上するそれでも貴方が悪いどんな事も全て守るべきものが守れなかったお前が悪いと言ってくる、その答えは知っているはずだ子供じゃないんだから理解してほしい。

「悪いのは全てを怠った貴方達で、僕はわるくないよ。本当に…これだから人間は嫌いだ」

 この際だから言いたいことは一つも残さず言っておこう。

「天成」

 天成をすると、攻撃されるのかと思ったのかその場で足が竦んで動けなくなる有象無象ども。

「攻撃なんてしないよ、ただ僕と扇がこの姿になって傷つきながら、守り続けたのは貴方方を守る為なんかじゃない、心美君の願い通り人を生存させたいからに他ならない」

 冷酷だろうがそのまま話を続ける。

「貴方達を守りたいんじゃない彼女が望む人間を生き残らせたいんだよ、多分彼女の中に貴方達はもういないだろうけど。“反省するまで座っていろ”」

 扇の地水火風を操る能力同様、僕だけの能力、能力を意識して使うのは初めてだが上手くいったようだ模擬戦の中で無意識にと最初の戦闘でこれまた無意識に使っていた本来なら気づかなかったかもしれない能力だったが、模擬戦で不自然に勝利できる事がありそこから予測したが予測した通りの能力だったらしい。まぁだからといってバケモノ相手に使えないんじゃ意味はないが。よくもこんなに役に立たない能力を与えてくれたものだが今は少しだけスカッとしたことだしまぁ良いかと考え役場へ向かう。

 役場は慌ただしく人が出入りしている結界の縮小もあった事だししょうがない事だが少し人が邪魔だな、この小さい体では人を押して通る力は無いから天成し命令しようとも思ったが、そればかりはダメだと自分の少ない良心が咎める。

 なんとか人混みをくぐり抜けて賀水がいる部屋に入ると賀水も慌ただしくしていた。

「これはこれは、守護者様すいません今は色々と立て込んでおりまして、後程もう一度お伺いに来ていただけますかな?」

「あぁそれは、構わないよこちらこそすまないね、忙しい時に邪魔してしまって」

 いえいえと態々忙しい中、部屋の扉を開け玄関まで送迎してくるみたいだ。

「今答えれればでいいんだが一つだけ聞いていいかな?」

「既に分かっていることであれば大丈夫ですよ」

「死人は何人出た?」

 少し渋い顔をして彼は答える。

「三千人弱と言った所…ですね」

「そうか、すまない次は心美君を連れてもう一度来るよ」

「はいお待ちしております」

 三千人弱それが心美君に誓って守れなかった人間の数か、それだけわかれば僕はそれでも前に進んでいける、大丈夫だと心に言い聞かせる。


 歩いて彼の元へ行く今は、眠っているであろう彼の元でその瞬間、地球からの言葉が降ってくる12月下旬に襲撃の可能性ありと…次は12月下旬彼がそれまでに回復するかも疑問だがそもそも、令華先輩一人に任せるとこれ以上は恐らく彼女自身が耐えきれなくなるであろう。だから今は彼の回復を願うしかないと思いドアを開けるとそこに寝ている彼は居らず、元気に筋トレをしているが彼が居た。

「なにやってるんですか?扇…君?」

 少し怒りながら彼に話しかける、彼の傷は思った以上深くなかったというのもあるが令華先輩同様、驚異的回復力で傷を癒した彼だが、念の為に絶対安静を言い渡されていたはずだ。

「いや、なんか治ったんだったら、もう筋トレした方がいいかな?なーんて…」

「」

 無言のまま圧力をかけると彼はまるで萎れた花の様になっていきベッドへ戻り一言。

「ごめんね、心美ちゃん」

 わかればよろしいというが、この際だ彼に言いたい事は山ほどあるそれを消化しておこう。

「いいですか?扇君、そもそも私の事をちゃん付けで呼ばないで言ってるじゃないですか心美と呼び捨てで呼んでください!」

「えっとぉそれはぁ」

「それにです、キスするときも私に許可なくいきなりするのもやめてください、こちらもドキドキして気分は高揚しますけれど、けれども口臭の心配をしてしまったりして気が気ではないんです!」

「気分は高揚してくれてるんだ」

「そこ静かに」

「あ、はい」

 それからというもの彼に不満のある点を不本意ながら言語化していく、家に来た時に靴をテキトーに置きすぎや、私の自室に少しずつ自分のモノを増やさないでくださいなど言い出したらきりが無い。

「では最初から私の名前を呼んでください、どうぞ!」

「えっとぉ、心美………ちゃ」

「はいストップ、もう一度さんはい!」

「こ、こ、心美……」

 自分で言っておきながら物凄く心臓がどくどくと波打っているのがわかる、大好きな人に呼び捨てにされる事はここまで気持ちの良い事だったなんて知らなかった。

「も、もう一度…」

「こ、心美…」

 やはり凄い心臓がどきどきして胸が昂るこの感覚はいけないすぐになれなくてはならない、なれない内にいきなり背後から呼ばれようものなら心臓が逆に止まってしまうだろう。

 そんな事を繰り返しいるうちに彼からも提案があった「扇君」だとなんかこそばゆいから扇にして欲しいと言ってきたがそれな私にだってできると息巻いて、いたがその時初めて彼が私をちゃん付けで呼んでいた理由をしった。

 そして互いの呼び合いが慣れてきたころ彼から私が最初から相談したかった事を切り出してきた。

「それでこ、心美、忍野はどうだった?」

「それは……」

 思わず息詰まる、令華先輩の状況をそのまま伝えてもいいものかと、彼女にとってこれは知られたくない事なのではないのかと考えると扉が開く。

「その事なら心配する事はないよ、扇そして心美君も」

「令華先輩!?気にする事ないってそんな、自分だけで背負う気ですか?あの不満を」

 ダメだ彼女を一人にする事は彼女の唯一の友人だった私が許さない、彼女はただでさえ人に嫌われやすく、そして自分から人を切り離してしまうそれを出来てしまう人間なのだ。このまま彼女を一人にしていたらきっと彼女は壊れてしまう、だからこそ彼女に寄り添って上げなければならない。

「お前はそういうけど、心美の反応を見る限り大丈夫とは思えねーよ?」

「さっきまで名前も呼ぶのに、どもっていた癖に人の話になればすんなり呼べるのかい?」

 どどどどどどうして、令華先輩がその事を?聞かれたあの内容を?あぁ終わった、もう私から彼女に駆け寄る事は出来ないかもしれない。ずっとそのネタではぐらかされるだけであろうそしてそれを恥ずかしがり答えられない未来が今見えた。

「はぐらかすな、どうなんだって聞いてる」

「そんな怖い顔をするなよ、折角の良い顔が台無しだ」

「はぐらかすなと言っているんだ、俺達は仲間だろう?」

彼は机を叩きもう一度言う。そうだ恥ずかしがっている場合ではない、彼女を今より悪化させない為には真摯に聞いてあげる事が重要なはず。

「はぁーたった半年と言えど、家族同然の行動していた君達には通じないのか、わかった話すよ」

「私は、令華先輩に背負わせ過ぎています、それは自覚しています。だからどうかおっしゃってください、それがどんな内容でも受け入れる覚悟はあります」

 彼女は私と言う人間に魅力を感じたからこそ、全部応援するし、手助けが必要なら手伝うその為に僕の力が必要ならば力も貸すそんな私からは何一つ返せない契約を彼女は結んでくれたのだ。だからこそ今の彼女にどれ程酷く思われていようが、それは私の返すべき恩の一つなのであろうと考え彼女の話を聞く。

「これは自己分析から来た結論、だからこそ自分に都合よくできている、それでもいいかい?」

「応よ」「話してください」

 それから彼女は話した自分の事そして何より私達の事を。

「今の僕は君達を他の人と同様に見てしまっているかもしれない、君達が大切だったのは事実なんだと思う、だけど今の僕には君達が赤の他人に思えて気持ちが悪い、記憶は残っているからかな?」

 彼女の顔が少しづつ青ざめてゆく。

「僕の解放の証明は心美君の願いが人類を生かしたいという気持ちだったからこそ解放ができた、けれど解放の代償は恐らく嫌いな者を更に嫌いにする事。僕の嫌いなものは僕より弱い癖に厚顔無恥も甚だしい人間だ。君達がそうだ、という訳では無いだけれど人間と言う部分に引っかかっている所為か、少しづつ他の赤の他人よりは進行はゆっくりだが、確実に嫌いになってしまっているんだ、すまない」

 そう深々と頭を下げる令華先輩、彼女の本音を聞けたことも嬉しかったが私達が彼女の中でそこまで大切なものになっていたという所が本当に嬉しかった。

「君達との記憶が残り続けているからこそ、自分が自分で無くなっているようでどうしようもなく辛いんだ」

 彼女は本心を本音を打ち明けてくれたそれだけで、私達にとっては十分すぎるほど彼女がどれ程辛いかもわかるし、自分達をこうなってなお信頼を寄せてくれることを感謝したい。

「令華先輩、ありがとうございます、打ち明けてくれて」

「いや、君が気に病む事はない、僕はただまた一人に戻るだけだ、君と出会う前の僕にだけど君と扇は違う、僕を信用信頼してくれていたからこそ赤の他人と変わらなく対応してしまう事を申し訳なく思う」

「いいよ、忍野は忍野の思う通りに生きていい、だけど例えお前の中で俺達が赤の他人になったとしても、その記憶から俺達がお前からの頼みなら断らないって事を思い出してれよ」

「ああ、わかってるさ」


 彼らと面と向き合って話した事で僕のストレスは少しだけ緩和した、そういえば賀水と話した時に違和感がなかったのは彼との関係は利害関係と最初から割り振っていて更に彼もこちらにはそう接していた人間同士の対話と言うよりは機械の情報交換に近しい間柄だったからこそ、彼にはこの嫌悪感を抱いていないのかもしれない。

 それよりも今日ここに来たのはこの話をする為ではない。扇の解放についての話を死に来たのを忘れていた。

「話題をいきなり変えて悪いが扇、君は解放を使ったね代償はなにかわかるかな?」

「やっぱりその話の為に来たのか、代償についてはよくわからないけれど能力については忍野とは別物ってことがわかった」

「別物と言うと?」

「俺の解放の効果は自分だけの能力を更に強化する事、忍野みたいに武装を強化して立ち回る訳では無いんだと思う、まだ完全にわかっていないけれど」

「いやそれだけわかっていれば大丈夫だ」

 天成し彼の目の前に立つ、彼は恐らく自分が何をされるかは分かっているだろうだからこそ安心してこちらを見ている。

「”十分な体力回復が完了するまで寝ていろ“」

 その命令を下した瞬間彼は眠りに着く。

「心美君役場まで一緒に来てくれるかな」

「いいですけど、お、扇に何をしたんですか?」

 本当に君達は似たもの同士だな、どもり方まで同じとは恐れ入ったとクスクスの笑みが零れる、やはり先ほどより彼らに対する嫌悪感も無くなっているどうにかこれならこの症状からの一時的脱却方法もあるかもしれない。

「なに扇の天成時の能力が地水火風を操れるという事は知っているだろう?」

「はい、それは本人から聞きましたけど…」

「僕の天成時の能力は、人間に対して命令をし服従させることができるっていう全くバケモノ相手には使えない能力だったという訳さ」

 自分で言っていて悲しくなる彼ほど戦局に合わせて戦い方を変える事が出来ないだからこそ解放に頼らざるを得ないのが悲しい所だな。

「こういっちゃなんですけど令華先輩にお似合いの能力ですね」

 それは聞き捨てならない僕がそんな覇道を極めた暴君とでも彼女は言うのだろうか?いやでも今日詰めてきた彼女らにした事は暴君そのものであったか…。と我ながら嫌いな人間だけれどもまだ悪いと思う良心は残っている。

「上から目線をする事しかできない女にはお似合いと言う訳かい?」

 彼女は慌てて手を振り、違います違いますと連呼する。

「先輩が人嫌いなのもそれが悪化している事も聞きました、だけれど先輩はそれを使って悪用はしてないじゃないですか?だからさっき彼の休息を優先させるような使い方もしてましたし」

 彼女の言葉を聞いて少し目を逸らす、これじゃあ彼女に僕のしでかした所業は言えないな、これは心の中に留めておかなくては。そうこう雑談している間に少し人気の減った役場に顔出すこの位であれば賀水とも話をできるだろう。

 部屋に行きノックすると賀水は来ると分かっていたかのように紅茶を用意していた。

「君はどうしてそんなに気が利くんだい?まるでエスパーのようだよ」

「いえいえ、守護者様、そして代弁者様を想えばこその所業と言った所ですかな」

 ガッハッハと笑う彼を目にして心美君は少し引いているがそれは後で伝えるとして、本題に入ろう。

「今日二人に会話を申し出たのは理由が二つある」

 一つは住民の人数だがこれは先ほど聞いたので後にしていい。

「賀水、結界は元の生存圏の内、何%残っている?そして心美君僕らがあと生きていられるのはどのくらいだ?」

「それは…」

「ふぅむ、完全な測量は終わっていませんが、奪われた土地は最初比べて50%弱と言った所ですな」

 50%かよく粘っている方だが…。それよりも必要なのは彼女の情報。こほんと一度息を付き彼女は話始める。

「最近から発生していた訳ではありません、土地を奪われた時点から発生していた資源の供給が少しずつ減ってきている問題は改善の兆しは見えないです、そしてこのまま行くと持って来年の3月ですからその前に、最後の賭けとして一度北海道との交信を視野に入れておきたいです」

 北海道、僕達以外で心美君曰く、唯一生存を果たしている場所もし本当に北海道全域を守っているのであれば僕達を受け入れる余裕もあるかもしれない。

「でもどうやって交信を?」

 賀水が質問を問いかける結界によって無線等が効果をなしていない事はわかっている。

「12月下旬にもう一度襲撃が起こります、その時にあの亀裂内の空間を壊す事ができれば、亀裂内での代弁者同士の更新は可能かもしれません、北海道も亀裂内の空間を壊すことが最低条件に加わるとても苦しい賭けですがそれしかありません」

 それにと彼女は追加情報を提出する。

「亀裂無しでも守護者や住民を亀裂内に飛ばすことは可能です」



第七話完


 本文を読んでいただき誠に感謝します

 ここまで読んでいただいた皆様、ここまで読まなくても本文は読んでくれた皆様、そして前書きで読むのを止めた方や途中でつまんないと思ってブラウザバックされた皆々様全てにこの作品を一度開いていただいた事を感謝します。

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