現在の学園②終
九月一日。
総務委員会の総会が行われる。
総務委員会メンバーは紅橙霞、蒼青明、南炉炉、夕灼虎猫、白峰実花、和国十郎座衛門、夜語朧、玉染輪廻、最上劉全、早乙女女女の十人。
円卓に、十人は座る。
今、この学園の未来をかけた戦いが始まろうとしていた。
「ではこれより、会議を始める」
和国によって始まった総務委員会議。
この会議の本来の目的は、主に委員総会や部活動総会が暴走した時のために話し合い。それによって今後どうするかを決めるというもの。
「単刀直入に言う。生徒総会の創設を願いたい」
橙霞ははっきりと宣言した。
真っ先に先陣をきった彼女に、陰からその会議を見ている全知はつい爪を噛む。
(これほどまでに追い込まれたのは君たちが始めてだ。結城小袖、奴が裏切らなければ総務委員会には我々に荷担する者を五人忍ばせられた。だがそれは叶わず、か。
まあ良い。そのために第二の策は用意してある。それさえあればーー)
現在の行われているその会議は、学園中に生放送で放送されていた。
今後学園がどうなってしまうのか、その全ては今この会議に委ねられている。
「はっきりと言うのだな。だがこの会議でいきなりその話題を出すのはタブーじゃないか」
半ば詐欺師的な口調で言うのは夜語朧。
「放送委員会は喋りが上手いですね。洗脳されそうですよ」
すかさず言い返すは夕灼虎猫。
彼女はまだ小学六年生であるからこそ、この会議で物事をスバスバと切り裂いていく。
「まあまあ。では紅の述べた通り、生徒総会の創設について話し合いましょうか」
和国がいさめ、いよいよ生徒総会の話題に。
「生徒総会がなければ、この学園は崩壊します。国に国民がいなければ成り立たないように、この学園には生徒がいなければ成り立たない。現在この学園を支配している勢力によって一般生徒は泣いている。
ただ世界を支配しているという理由だけで委員総会や部活動総会に所属している生徒たちは何にも属さない一般生徒を下に見る構造。このままで良いはずがない」
橙霞の発言を聞き、大きな広間のような一室に集まる教師たちもわざついていた。
その場にいる理事長は歌舞伎に質問を投げる。
「歌舞伎、彼女の言うことについてどう思う?」
「この話題に口出しして良いものか分かりません」
「それもそうだ。我々は今支配されるかもしれないという危機に陥っている。下にいる者が上にいる者にどう言い聞かせようとも響かない。
しかし彼女の言っていることは正論だ。正論だけで世界が動くはずもない。なぜなら正論の前には必ず支配者という壁があり、その正論は叩き潰されるから。
支配というものがなぜあるか?」
理事長は笑みを浮かべ、そして言う。
「それは自分勝手に生きてきた者のためさ。自分が生きたいように生き、動かしたいように人を動かし、見下したいように見下す。支配者はね、ただ自分が絶対でありたいだけだ。故に、その絶対が崩れそうな時に彼らは泣きわめく」
理事長の言葉に、教師は皆黙り込んでいた。
「お前たち、この世界には絶対などない。たとえ何十年何百年何千年と安泰が続こうと、いつかは壊れる定めにある。その時がいつ訪れるか、支配者は知らない。見下ろすことしかできないから。だがそれが今だとしたら、私たちは奇跡的な瞬間に立ち会えるのかもな」
理事長はモニターに目を向ける。
円卓で行われる総務委員会議。それは円卓という皆が平等であるというものを掲げながら、話し合いの結果は多数決で決まる。
だからこの結末はどう転ぶかは分からない。
「ひとつ良いか?」
そう言ったのは、今まで口を閉じていた早乙女であった。
「何だ?」
「この話し合いに意味はあるのか?」
「今さら何を言っている?」
「わらわは決闘委員会の委員長をしている。だからこれまで多くの決闘の行く末を見てきて思ったのだが、この会議に支配者側のトップに君臨する男ーー全知を出さなくても良いのか?」
早乙女の言うことに、学園中が混乱する。
「なぜかな?」
「いや。少し彼ら支配者の話が聞いてみたいのじゃ。何ゆえこの学園を支配し、これから何を行おうとしているのか」
「ではお言葉にあまえて」
と言いながら、全知がそこに姿を現した。
「早乙女、ナイスパセンキュー」
全知は微笑みながら、そこへ姿を現した。
しかしその映像をモニター越しで見ている蓮華は思っていた。どうして"間違った情報が渡っているのか"と。
しかしそれには誰も気付かず、それを全知は嘲笑っていた。
「全知、そなたはこの学園を支配して何がしたい?」
「強いて挙げるとすれば、僕は逆らう者を誰一人として存在させたくないんだよ。だから僕は本音を言えば、君たちに生徒総会を創設されたくない。そんなことをされれば支配は崩れるから」
「随分と正直に話すんだな」
橙霞は怒りの目を全知に向けている。
「そう怒らないでくれよ。僕は真実を話しただけなんだから」
「真実ね。支配者が支配をするのはその支配が崩されるのが怖いから。その不安を隠すために嘘をつくのが支配者だと思っていたが、どうやらそれは違った。それともそなたはーー」
「では、生徒総会を創設するか否か、それを決めてくれ」
早乙女の言おうとしたことを遮り、和国は言う。
「和国、少し早すぎやしないか?」
「おいらは十分だと思うよ。これ以上の討論は無駄でござる」
「分かったよ」
橙霞は正気を取り戻し、深呼吸をして呼吸を整える。
「では生徒総会の創設を許可する者、挙手を」
橙霞、青明、炉炉、夕灼、白峰、早乙女が挙手をする。
「では生徒総会の創設を反対する者、挙手を」
和国、夜語、玉染、最上が挙手をする。
「賛成六、反対四。賛成多数。よって、ここに生徒総会の創設を許可する」
生徒総会の創設が決定した。
これにより、この学園は大きく動き始めようとしていた。
しかし全知は悔しげな表情は浮かべていなかった。むしろ嘲笑っているようにも思えた。
それを密かに感じている早乙女や橙霞も、何かがおかしいと思い始めていた。
そんなことを知るよしもなく、学園中の生徒は歓喜する。これまで委員総会や部活動総会の生徒たちに妨げられたこれまでの日常を破壊するため、そして元の学園を取り戻すため、そのための戦争が幕を開ける。
理事長もこの結果を予期していたのか、歓喜する生徒たちを高みから眺め、呟く。
「随分と面白いことになったじゃないか。しかしまあ、紅橙霞か、これから彼女が生徒総会を使って何をするか。私の創り上げた学園はこれからどうなるのだろうな。お前も気になるか?小唄」
理事長室の戸棚に飾られている写真、そこには理事長と一緒に映る幼い少女の姿があった。
しかし彼女はまだ、この物語では一度も姿を見せてはいない。
「橙霞、宣言するなら今だ」
青明に掻き立てられ、橙霞は叫ぶ。
「生徒総会の創設、それによってこの学園の勢力図は大きく塗り変わる。全知によって支配される者か、それとも真の学園を取り戻す者か。さあ今宵全てに終止符を刻む時。戦うぞ。生徒総会」
学園中に響き渡る声で、生徒らは高らかに叫ぶ。
「生徒総会、生徒総会、生徒総会、生徒総会ーー」
学園は二つに分断された。
叫び、歓喜する橙霞らを、ある者は心の底で嗤っていた。
ーーさあ来い。この支配を壊せるものならば。
さあ始めよう。
これより真の学園を取り戻すため、橙霞率いる生徒総会と全知率いる委員総会&部活動総会の決戦が始まる。