学園の残り火③
「ついて来てくれないか。君たちの力が必要だ」
十器聖、冬待来無のその言葉を信じ、橙霞、青明、青太郎、炉炉の四名は冬待に案内されるままにとある場所へ向かった。夜語は着いていくことなく、どこかへ消えた。
冬待に案内された場所は天羽学園の地下に極秘裏に存在する空間。
「こんなところに部屋があるなんて」
暗く、人が一人通れる程度の大きさしかない道を歩いている中、橙霞は呟いた。
「ここは本来、とある決闘のために設けられた施設でさ、それが今では一切利用していなかったことから現在この学園に通う大半の生徒は知らない場所」
「とある決闘とは、一体何なのですか?」
「それは……」
冬待は言葉に詰まった。
「もしかして、聞いてはいけないことだったのですか。すいません。気を遣えず」
「そんなことはない。ただ、ここで行われた決闘のせいで、全知は今のような性格になり、この学園で十器聖としての地位を確立しながら王者としての座を護り抜いた」
「昔の全知を知っているのですか?」
「知っているのは私ではなく私の従姉の冬無お姉ちゃんなんだけどさ」
「冬無って、俺と入れ違いに十器聖の座を降りた人ですか」
「ああ、そうだよ。そういえば、君は彼女のことをあまり知らなかったね」
現十器聖、青黒薔薇は冬無という人物を知っている。
青黒薔薇だけではない。青黒薔薇以外の十器聖は皆冬無を知っている。
「青黒薔薇が十器聖に入ったのは生徒会を辞した時。この学園では十器聖は生徒会にはなれず、また生徒会のは十器聖にはなれない。霞ヶ崎小雪、彼女が生徒会長となった時、青黒薔薇は生徒会を辞め、十器聖になった」
「生徒会選挙の裏側でそんなことが起きていたんですね。でもなぜ冬無という人は十器聖を辞めたのですか?」
「多分もう見たくなくなったんだろうな。十器聖になった時から変わってしまった、全知全夢という悪魔の皮を被っただけの幼い少年を」
そんな話をし、冬待は物思いにふけっていた。
幼い頃に話してくれた冬無のある思いのこと。
それを覚えているから、冬待は冬無がなぜ去ったのか、それを分かっていた。だから冬待は、冬無が去った後も全知の側で彼を見守り続けた。
「もうすぐ着くぞ。ここが私たち十器聖の隠れ家だ」
十五畳ほどの大きさの部屋、鉄の床と壁と天井に囲まれ、天井にはランプが吊るされている。テーブルや椅子など、必要最低限の家具が置かれている。
その部屋にはキッチンはあるも、冷蔵庫のようなものはどこにもなかった。
「食事はどうしているんですか?」
「ああ。この地下は迷宮のように入り組んだ構造をしていてな、この部屋から進める道が幾つかある。その内のひとつの道を通れば、食糧庫につく。そこにある食糧で暮らしているわけさ」
「そうなんですか」
「あの文月とかいう奴が現れなければ、私たちはもっと自由だったんだがな」
「ごめんなさい」
「紅が謝ることはないよ。それに一応文月の事情は聞いているから」
「でも、私がもう少し文月の気持ちに気づいてあげていたら、文月を救えたかもしれない」
「救えなかったことにいつまでも後悔ばかり抱くなよ。私も昔は後悔ばっかししてたけど、重要なのは後悔した後に何をするかなんだ。
紅、お前はなぜ後悔した?そしてこれからどうすればまた同じような後悔をしない?それを理解し、同じような過ちを繰り返さないように尽力する。そうやって行動をすれば、いつか後悔は消える。
だから笑えよ。今はそれが一番重要なことだ」
冬待もきっと後悔を抱えているはずだった。しかし彼女は悩んでいる表情など他人には見せなかった。
橙霞へ笑みを見せ、彼女を勇気づけた。
「それじゃ作戦会議を始めようか。文月を救い、学園を取り戻すための作戦会議を」
文月を救うための第一歩。
そのための作戦会議が始まる。
冬待の話す作戦とは!?