学園の残り火②
八月七日。
神条氏立天羽学園。
そこで身を潜めている紅橙霞たちの前に、ある女性が現れた。紅色の美しい髪をした色気の漂う女性。
「こんなところにいたのか。探すのに苦労したよ」
見つかった、紅たちは慌て、息をのむ。
しかし紅は彼女を見た途端、動揺から驚きへと変わり、
「お姉ちゃん!?」
「やっほー橙霞」
橙霞と謎の女性との関係に、蒼姉弟と南炉炉は呆気にとられていた。
それを見て、謎の女性は言う。
「私は中央委員会委員長、紅蓮華。紅橙霞のお姉ちゃんだよ」
「紅、お姉ちゃんがいたのか!?」
「言ってなかったけどね」
「世間話をしたいが、生憎そのような時間はない。今学園全域のほとんどが文月の支配下にある。私の率いる中央委員会も文月の手下となっている」
それを聞いた途端、橙霞たちは身構える。
その身構え様には、蓮華の方が驚いていた。蓮華は橙霞たちの警戒を解くため、すぐさま自身の状況を話し始める。
「一応文月の手下にはなったが、そんなのあくまでも表向き。私は文月には執着も恩もない。だからわざわざ彼女らの指示に従う理由はない」
「じゃあ、お姉ちゃんは敵じゃないんだね」
「敵ではない。だからといって堂々と裏切ることもできない。私は文月の従順なしもべとして情報を探る。そこで得た情報を橙霞らに流す。だからどうか、この壊れた学園を取り戻してほしい。君たちにしか頼れない」
「分かったよ。私がこの学園を取り戻す」
そう言った橙霞は、胸に文月への思いを秘める。
文月は絶対に取り戻す、と言わんばかりに強く拳を握り締め、真っ直ぐに蓮華を見る。
「私の妹は頼りがいがあるな。では任せたよ。橙霞」
「任せてくれ」
「私はこれ以上話している時間はない。これから情報は使者を使って伝える。それ以外の方法で情報が伝えられたのならば、それは全て嘘だと思え」
「分かった」
「それじゃまた、いつかこの学園が元通りになった時、ゆっくり話でもしような」
蓮華は気さくに微笑み、橙霞のもとから去っていく。
「紅、これからどうする?」
青明は不安を抱いていた。
学園の状況を詳しく知らない橙霞や青明たちですら、動くことすら危険であると、蓮華の行動から分かっていた。
長話をできない状況、それはつまりここ天羽学園ですらも文月の手が回っているということだ。
まるで牢獄だ。
「動かないのが最適だろう。だが、このまま動かなければ学園を取り戻すには我々は仲間が少なすぎる」
「仲間集めか。だがどうやってするつもりだ?」
「全学園の三分の一は文月のものだ。それに対抗できる勢力を作るためには方法はたったひとつ、"生徒総会"の創設だ」
「生徒総会!?」
「委員総会、部活動総会に並ぶ第三勢力、生徒総会。それが創設できるのならば、文月たちの勢力を越える勢力を作ることができる」
「だがそのためには、十器聖の選抜によって臨時で創設される"総務委員会"が必要。尚且つそのメンバーに選ばれなくてはいけない」
十器聖、総務委員会、生徒総会、その言葉を聞きつけ、丁度そこを通りかかった放送委員会委員長、夜語朧は橙霞たちの前に現れた。
「お前ら、反逆者か」
ボサボサの髪に気だるげな風貌、そんな容姿の夜語は、橙霞へ細い目で睨みつけている。
「委員総会、このタイミングで」
橙霞たちは逃げ場もなく、動揺する。
そんな橙霞らへ夜語は一歩一歩近づいていく。気だるげに歩いている彼から逃げることは容易いだろうが、行動する前にある者たちが夜語の背後から現れる。
「夜語君、やめておいた方が良いよ」
夜語の肩を叩き、一人の女性が呼び止めた。
彼女の声を聞いた途端、夜語は彼女の顔を凝視したまま呆然としていた。
彼女は、いや、彼女らは橙霞らの前に足を運ぶなり、言った。
「私たち十器聖はこれより、総務委員会を創設する」
そう言ったのは、十器聖ーー冬待来無であった。
さらに彼女の背後には全知を除く八人の十器聖がいる。
「ついて来てくれないか。君たちの力が必要だ」
橙霞たちが窮地の中、今まで行方をくらましていた十器聖が現れた。
しかしそこに、全知の姿はなかった。




