学園の残り火①
風紀委員会をクビ、そう言われた神原は城から投げ出され、地面へと落ちる。落ちてきた神原を獅子堕がキャッチする。
「神原、お前の作戦は失敗に終わったな。これで委員総会は終わりだ」
氷上は狂喜的な笑みを浮かべ、神原へ視線を送る。
「神原、もうお前は私の奴隷だから、何一つ逆らうんじゃねえぞ」
途方に暮れている神原には、まるで氷上の声は聞こえていないようだ。無反応な神原に舌打ちし、氷上は神原の髪へ手を伸ばした。
だがその時、氷上と神原の間に、一台のバイクが通りかかった。
バイクは丁度二人の間で止まった。
「何だお前は」
バイクに乗るぴっちぴちのキャットスーツを着た女性はヘルメットではなく狐の仮面をつけ、氷上に顔を向けた。
「おい、黙ってないで何か言ったらどうだ」
氷上が狐仮面の女性へ触れようとした時、突如現れた一人の少年は氷上の腕を蹴り飛ばし、狐仮面の女性をかばうようにして立ち塞がる。
「何してくれちゃってんの?」
「我々の長に触れないで頂けますか」
少年もまた狐仮面をつけており、腰には尻尾をつけている。
「邪魔をするなよ。部外者が」
「それはできないお願いですね。僕たちは奪われた生徒会を取り戻すために戦っている。別に邪魔をしに来たわけではない。これは単なる、"宣戦布告"です」
「宣戦布告?誰への?」
「現在の生徒会を滅ぼす、その宣戦布告です」
そう言うと、少年はバイクの後ろに乗った。
「僕たちは"九尾の狐"。覚えておきなよ。いつか君たちを倒しに行くからさ」
「ちょ、待てよ」
バイクは走り出し、姿を眩ます。
氷上が蛇を出してバイクを追うも、そのスピードには逃げられた。気付けば神原もいない。
「神原を奪いやがったか。まあ良い。九尾の狐、学園を奪う道中でお前らは道を阻むのだろう。ならばかかってくれば良い。その時はーー」
文月が委員総会を手に入れたという情報はすぐに学園中に広まった。広報委員会が文月の命令によってその情報を広めさせたためだ。
学園の巨大な勢力を二つも手に入れたことで、月虹学園、附属の学園に通う生徒は皆文月に恐怖を抱き始めていた。
どれだけ支配しようとも、完全な支配とはいかなかった。学園にはまだ文月に支配されていない者たちがいた。
「氷上、未だに十器聖の所在は掴めないか?」
「ええ。委員総会や部活動総会を使って調べさせてはいるものの、未だに居場所は掴めぬままです」
「やはり十器聖は賢いな。必要最低限の人数であり、至高の頭脳や身体能力の持ち主の集まり。随分と恐ろしい」
「どうしますか?このままでは十器聖は見つからぬままです」
「無理に探すこともないだろう。この学園が全て支配されるとなる時までには、自ずと彼らから姿を現してくれる。それまで彼らに対抗できるように、この学園のあらゆるものを創り変えれば良い」
「さすがは支配者、文月っちだね」
氷上に言われ、文月は玉座で微笑む。
「まあしかしだ、十器聖よりも気がかりな組織がひとつある。九尾の狐だ」
「彼らに神原を奪われてしまいましたし。ですが委員総会が我々の支配下にある以上は、その委員総会に在籍するーー」
「いや、神原は風紀委員会を辞めた。おかげで神原が我々の言いなりになるという束縛には縛られないということだ」
神原を仲間にできなかったが、それほど悔しいというわけではないようだ。むしろ面白くなったと、そんな笑みを浮かべている。
「駒は多ければ多いほどに良いが、その分敵が紛れやすいから。神原は味方になるよりも、敵であった方がひと安心だ」
「では次は何を狙いますか?」
「校則を変えられれば良いが、それをするためには理事長を落とさなくてはいけない」
「では、」
「この学園の今の支配者は十器聖でも委員総会でもない。理事長、月宮詩歌だ。彼女を倒さない限り、私がこの学園の支配者になることはない」
「だから倒すのですか」
「ああ。それが私の王道だ」
文月はチェスのクイーンの駒を指で弾いた。
「さあ進もう。私だけの王道を」
次の狙いは理事長か!?
未だに行方をくらます十器聖はどこで何をしているのだろうか。
次回、紅橙霞の姉貴登場。