委員会全面戦争⑨終
現在の時刻は午後十一時。
委員総会と文月らの決闘、それが終わるまであと一時間まで迫っていた。
そんな中、城のすぐ側にある池にある女性が現れていた。彼女は全身に包帯を巻き、ボロボロの状態であった。それでも池の側に刺さっている"風紀"と書かれた旗を目指していた。
「へっ。なんだ。和国のやつ、私の看病だけして旗も取らずに帰ったのか。意外と、あまいな、あいつ」
旗までたどり着いた彼女は、持ってきていたはしごを四つ屋根にかけ、そのはしごを上って屋根を上る。
二階の屋根にも同様にはしごをかけ、二階の屋根へ上る。その後、はしごをかけずに三階へ飛び上がると、正面部分の屋根まで歩くと、旗を勢い良く突き刺した、
瓦が砕け、旗が突き刺さる。
その音で、最上階の屋根に立っている文月らは彼女の気付いた。
「氷上、あいつは見覚えがあるが、誰だったか?」
「風紀委員会委員長、神原銀です」
「そうだ。思い出した。確か面白いやつだったな。あいつは」
「私が早々に倒しましょう」
氷上は屋根を飛び降り、そのまま神原へと飛び蹴りをくらわした。両腕でガードはしたものの、その威力に圧し負け、神原は三階屋根から地面へと落ちる。
幸いにも、地面には多くの委員総会と部活動総会メンバーが転がっていたため、彼らの上に落下した。
「神原か、和国が病院まで見送ったって聞いたけど、抜け出してきたのか。随分と必死だな」
「必死さ。ここで勝たないと、私たちはお前らの奴隷に成り下がる」
「良いじゃないか。奴隷でも。弱者にはその身分がお似合いだ」
「負けねえ、負けらんねえ。だから氷上、お前にはてこずってはいられねえんだよ。仲間のためにも、皆のためにも」
神原は転がっているバズーカを手にし、氷上へ向けた。
「弱者は自らの力の無さを理解しろ。手始めに、旗を落とそうか。この城にこんな旗はいらねえよ」
氷上は風紀を書かれた旗を蹴り飛ばした。その瞬間、引き金を引く。バズーカからは捕縛用の網が放たれ、氷上を襲う。だが、氷上の袖からは一匹の蛇が現れ、火を吐いて網を燃やした。
旗は屋根から落ち、地面に突き刺さる。
「神原、残り三十分だぜ。この三十分で何ができる」
「充分さ。充分すぎる。旗が私の希望になる。旗さえあれば、私は勇気を貰える」
神原は旗を振り回し、そして氷上へ向けた。
「どうした氷上、怖じ気づいたか」
「旗があれば勇気をもらえる。そんな戯れ言を言うのなら、旗さえ燃やしてしまえばお前はもう戦意を失うんだろ」
氷上は三階の屋根から地面へ向けて蛇を伸ばす。そして蛇の口から火を吐かせる。
「燃えろ」
蛇の火炎が目指した先は神原の持つ旗、その旗に見事火炎は直撃する。
「所詮口だけか。神原」
火炎が旗を覆い、煙が周囲へ立ち込めている。
旗が燃えつつある中、煙をかき分け、神原は蛇を掴んでそのまま自身の方へと勢いよく引っ張った。
「お前を一目見た時から、策は決めていたさ。あらかじめ幾つも策を忍ばせ、その内で使えそうな策を使う。それが私の戦い方さ。生憎この旗は燃えねえんだよ」
先ほどまで火炎を纏っていた旗は焦げ跡ひとつなく風に揺れていた。
神原は蛇を引っ張って氷上を落とそうとするも、氷上は必死に耐えていた。
「まだ私には蛇がいる。そいつらで噛んでお前を痺れさせれば……って!?」
氷上は、煙の中を見れなかった。
捕縛網が火炎で燃えることは、先ほど氷上が証明した。そして今、氷上は捕縛網で委員総会メンバーが転がる場所へ火炎を吹いた。
煙が晴れるとともに、神原とともに蛇を引っ張る者たちの姿が露となる。
「これもてめえの狙いか」
城の入り口付近で捕縛網に捕らわれていた委員総会メンバー、網が燃えたことにより復活した。
最高委員会副委員長の士道、体育委員会委員長の獅子堕、もれなく復活した。
「氷上、そこから落ちろ」
蛇を掴まれ、氷上は三階から地上へと落とされた。
(なんだこの女……私を地上に落としやがっただと!?)
「氷上、しばらく私たちと遊んでもらうぞ」
氷上の前には獅子堕と士道、その他委員総会メンバー数名が立ち塞がる。
神原はその間に屋根を上り、一階の屋根の上に立って旗を振り上げ叫んだ。
「風紀委員会、これが最後だ。今しかない。城の頂上に刺さっている旗を目指し、命をかけて飛びかかれ」
その声とともに、今までずっと城を囲んでいる森に潜んでいた風紀委員会メンバーは、飛び出して屋根にかけられていたはしごを駆け上がって頂上を目指す。
「神原、これが狙いだったか……」
「行くぞ。これが最後のチャンスだ」
神原率いる風紀委員会は頂上を目指す。だがそこには、文月が冷徹な表情で立ち塞がっている。
「この数なら、さすがのお前でも対応はできない」
一斉に飛びかかる五十を越える風紀委員、だが文月は俊敏な動きで、軽々と風紀委員を倒していった。
神原も旗を振るって果敢に攻めるも、軽々と背負い投げられ、屋根瓦に体を強く打ちつけた。
「無駄だ。残り十分、それでは十分じゃないだろ」
「負けてたまるか。負けて、たまるかぁぁぁああああああ」
神原は叫びながら、旗を屋根に突き刺した。
「この学園に生きる全ての者のために、風紀を乱す者は私が裁く」
何度倒されても、何度も蹴り飛ばされても、神原は何度も立ち上がった。
「いい加減諦めたらどうだ?」
元々ボロボロであった状態で来たにも関わらず、さらにボロボロにされている神原は、誰がどう見ても限界のはずだ。
神原は再び文月に倒され、屋根に転がる。
「残り一分、もう終わりか」
五十人相手に、文月は圧倒的力を見せつけてねじ伏せた。
強すぎる文月の力に、誰もが突っ伏していた。
だがその中で、神原は再び立ち上がる。
「神原さん、あんたもう死んじゃうよ」
「私は、責任を果たす。それが……」
諦めようとしない神原の前に、風紀委員会委員長、暁魔道が現れる。
「暁委員長……」
「神原、お前はよく頑張った」
「ですが……私は何もできなかった……」
「そんなことはない。俺はお前を誇りに思うさ。だから今を以て、神原銀、お前を風紀委員会からクビにする」
「……え!?」
驚きのあまり、神原は呆然とし、その場に崩れ落ちた。
背後に刺さっていた風紀と書かれた旗は屋根から落ち、風に流れて飛んでいく。
沈黙のメロディーが流れる中、文月は言う。
「現時刻、午前零時。タイムリミットだ。よって、この決闘は私たちの勝ちとする」
全面戦争終結。
勝利は文月に奪われた。
そして、委員総会も文月のものとなった。学園の二大戦力を手に入れた文月は微笑み、見下ろす。
ーー頂上から