最後の決闘、文月VS全知①
「さあ、Qが目覚める時だ」
屋上の扉は開き、そこから姿を現したのは、今までのような温厚な文月ではなかった。見るもの全てを傷つけてしまうような、そんな恐ろしい表情。
「全知、これはどういう状況だ?」
「決闘をしただけさ。そして僕が勝利した」
「なら次は私とするか?」
文月の目には、楽しさがなかった。
これまで文月は、全ての決闘において楽しいという感情を抱いていた。だけど今の文月は楽しいという感情は抱いてはいなかった。
それを紅は察していた。
「文月……」
「紅、すぐに終わらせるからそこで待っていろ。十器聖トップのお前を倒せば、十器聖と私との戦いの全てに決着はつくだろ」
「そうだね。じゃあ決闘を始めよう。決闘内容は何でもありの決闘。先に意識を失った方が負け」
「ただの殴り合いか。良いだろう」
怖い目をした文月は、全知へ勢い良く駆け抜ける。飛び上がって全知の側頭部へ蹴りをくらわす。それを紙一重で両腕で受け止めた。しかし威力が大きかったのか、腕でガードしてもふらついた。
これはまずいと冷や汗を流す。
「やっぱ手強いな」
「全知、お前の独壇場で戦ってあげているんだ。少しは手応えを感じさせろ。でないと私は君を殺してしまう」
と言いながら、文月は全知へ蹴りや打撃をいれていく。
先ほどまで紅たちを圧倒していたはずの全知であったが、文月に一方的に圧されていた。
「強いな。だが、」
蹴りを入れた文月の足を掴み、そのまま投げ飛ばした。
宙を舞う文月は宙で一回転し、きれいに着地した。
「化け物かよ」
あの全知ですら、今の文月相手では手強いらしい。
「やっぱお前強いよ。だけど僕だって」
全知と文月は激しくぶつかり合う。
そんな中、十器聖がその部屋に勢揃いした。
動けず倒れている紅たちは焦るが、十器聖たちは文月と全知との決闘に介入することなく、倒れている者たちを担いで部屋の端へ運んでいた。戦いに巻き込まれないようにだろう。
そして紅も、木栖美入に担がれ、運ばれていた。
「木栖美入、すまんな」
「別に。まあでも全知があそこまで圧されるなんてネ。私たちですら敵わないあの人を、文月って強いんだね」
「でも……今の文月は文月じゃないみたい」
「どういうこと?」
「今の文月はまるで別人だ。それもすごく怖い文月だ。もしかしたら文月は、全知を殺してしまうかもしれない……」
「殺す……って……」
困惑する木栖美入のもとへ、冬待としいなが歩み寄る。
「全知の狙いはそれだ」
「だが全知自身が死ぬというのに、奴は自分が死ぬ危険性を背負ってまで何をしたい?」
紅は首を傾げ、冬待へ問う。
「全知は傲慢だ。だから自分は死なないと思っているはずだ。だから全知は自分を文月に殺させようとしている。
そもそも全知は退屈を好む。だからその退屈を阻害するものをこの学園から排除する。かつて、その方法で全知は第三代生徒会を学園から追放している」
「では全知の狙いは……」
「文月を学園から追放しようとしている」
「文月を止めなきゃ」
紅は先走り、文月を止めようと走る。その前に紅の腕を掴み、しいなは紅を止めた。
「今の文月は文月じゃない。だからあいつは友の君ですら認識できない。できたとしても、もう感情の制御ができないだろう」
「それじゃ何もできない……」
「文月を信じるしかない。奴が己の中に眠るもうひとつの人格に勝つことができれば、きっと全知を殺さない。それほどまでのことはしない……はずだ」
冬待たちは冷や汗を流し、全知と文月の戦いを見守っていた。
激しい二人の戦いは、さらに激化する。




