文月を救い出せ、紅たちの恩返し⑧終
城の外では、霞ヶ崎小雪が青黒薔薇を戦闘不能にし、暴走族グループ時雨雪は先代生徒会メンバーとの抗争に勝利した。
霞ヶ崎は倒れる青黒薔薇の背中に座り、竹刀を肩に担いで城を見上げていた。
「紅たち、文月を救ってくれよ」
今、最上階では十器聖最強と称される天才児ーー全知全夢と紅たち六人が決闘を始めようとしていた。
「決闘の内容は、」
そう言って、全知はハチマキを頭に巻いた。
「僕のハチマキを取ってみろ。取れたら屋上に通してやる。かかってきなよ。六対一っていう圧倒的な勝負にしてやっている。残り三十分の間に取ってみな」
全知は余裕の笑みで紅たちへ言う。
「舐めんじゃねーぞ」
「六対一で勝てるわけーー」
蒼姉弟は全知のハチマキを取ろうと走りかかる。
「ーー勝つさ。これでも君たちに気を遣ってあげているんだけどな。六対一ではハンデにもならない」
蒼姉弟をギリギリでかわし、ハチマキを守った。
まだ時間はあるというのに、全知は余裕の姿勢を崩さない。それどころか、この状況を劣勢などと思っている素振りは見せていない。
「全知を囲むぞ、六人もいればいける」
「残り二十分、僕からハチマキを奪えるかな」
六人で全知を囲み、ハチマキ目掛けて手を伸ばす。だが全員の動きを先読みしているかのようにかわしていき、蒼姉弟の間を素通りした。
その大胆さに、紅たちは驚愕する。
「固まっている暇はない。とっとと来い」
蒼姉弟は再び全知へと駆ける。だが蒼青太郎は足を蹴られ派手に転び、蒼青命は背負い投げされて硬直する。
二人の動きを止めた全知は、逃げるのではなく十器聖卓城へと走りかかる。
「お前から来るとは、」
「卓城、お前じゃ僕には勝てないよ」
たった一瞬だった。
全知は卓城の首へ素早い蹴りを入れ、意識を朦朧とさせてふらつかせた。
次に彼女が目を向けたのは、生徒会メンバーの黒影響としいな菜の花。
二人は身構えるが、全知の速さにはついていけず、両者ともに額を指でひと突きされ、まるで脳内に巨大な揺れが発生したような感覚に陥っていた。
「さて、最後は君だ。紅橙霞」
「文月は、絶対に取り戻す」
紅は全知へと走る。しかしなぜか、全知は紅の背後にいた。
対応する間もなく、全知の指のひと突きが額に入る。紅は震え上がり、膝から崩れ落ちた。
「全滅かな」
「残念。まだ私たちがいる」
突如最上階に乱入した三十人ほどの大衆。その筆頭に立つは霞ヶ崎小雪。
彼女は竹刀を片手に、全知へと駆ける。
「そりゃ、そう簡単にはいかないよな。だが無駄だ」
霞ヶ崎の太刀を見極め、全てかわした上で竹刀をしらはどりし、その竹刀で時雨雪のメンバーを次々と倒していった。
「ちょろい。この程度か」
全知は三十人をいとも容易く戦闘不能にしてしまった。
「残り十分。霞ヶ崎、君一人ではもう無理だ」
呆然と立ち尽くす霞ヶ崎、だがまだ必死に立ち上がろうとする紅を見て、霞ヶ崎は唇を噛んだ。
「私は、戦う。全知、お前には負けないぞ」
霞ヶ崎は全知へと走る。
「現実を理解しろ」
全知は呆れ、向かってくる霞ヶ崎を寸前まで身動きひとつせず待ち構えていた。そして腕がハチマキへ伸びた瞬間、全知は霞ヶ崎へ体勢を傾け、額に指を当てる。
「眠れ」
指が霞ヶ崎の額へ触れ、霞ヶ崎は震える。
「僕の指神術からは逃れられない人指し指は震えを、親指は痺れを、中指は睡魔を。指神術だけじゃない。他にも声や目、僕の身体に備わっているあらゆるものを武器にし、君たちと戦える。つまりは君たちに勝ち目はないってことだよ」
全身に振動が走った霞ヶ崎であったが、彼女はゆっくりと立ち上がった。
「ん?どうしたのかな?」
「全知、お前は相変わらず傲慢だな。自分が強いと過信し、これほどの数相手にも正々堂々と挑む。それがお前の敗因だ」
「どういうことかな?」
「もうお前は動けない」
先ほどまで倒れていた紅やしいなたちは立ち上がり、全知の身動きを封じていた。
全知の右腕は紅に掴まれ、左腕は黒影に、右足はしいなに、左足は蒼青命に、腹は蒼青太郎に。
「ハチマキ、貰っていくぞ」
「なぜ動ける?」
「動ける、わけじゃない。生徒会長のようには立ち上がれない。立っているだけで膝が震えて、ハチマキには届かない。だけど、ここで動かないと負けなんだよ」
黒影に続き、しいなは叫ぶ。
「私は生徒会としての責任を果たさなきゃいけない。だから全知、私を止めるには振動だけじゃ足りねーさ」
しいなに続き、紅は叫ぶ。
「文月を救うために、私はもう負けないぞ。負けたりなんかしてあげない。だから霞ヶ崎先輩、ハチマキを」
「ああ。皆のために、ハチマキを……」
ハチマキへ手を伸ばす霞ヶ崎、だがその時、全知は紅たちを軽々と吹き飛ばした。
「残り一分、結局無駄だ」
「無駄にはさせない」
吹き飛ばされたはずの紅だが、懸命に全知の腕にしがみついていた。紅だけじゃない、黒影もしいなも蒼姉弟も、皆必死だ。
「残り三十秒だというのに……」
「行けえええええ。生徒会長」
今度こそ、霞ヶ崎は全知のハチマキに手を伸ばす。その手は確かにハチマキを掴んだ。
「させるか」
その腕を掴み、全知は霞ヶ崎を腕を軸に宙返りさせる。床に背をつけた霞ヶ崎、だがそれでもまた立ち上がる。
「残り十秒……」
「私は、皆の願いを背負った責任がある。だからこの手を……伸ばす」
残り五秒、霞ヶ崎は再びハチマキへ手を伸ばした。そして引っ張る、が、その腕を再び全知は掴む。
「負けて、たまるか」
残り三秒、
霞ヶ崎と全知の攻防は続く。
残り二秒、
全知は紅に腕を噛まれ、霞ヶ崎の腕から手を離す。
残り一秒、
そのままハチマキを引っ張るーーが、その時、霞ヶ崎は力尽き、気絶していた。
「生徒会長……」
時間終了。
この決闘に、紅たちは敗北した。
「さあ、Qが目覚める時だ」
屋上の扉は開く。そこから一人の女が現れた。
どこか怖い表情を浮かべ、全てを壊してしまいそうな恐ろしい面構え。
「文月……」
次章、十器聖編最終章




