文月を救い出せ、紅たちの恩返し⑥
十器聖、馬暗疾颯VS生徒会書記、花札乙女
そこは室内弓道場と呼べば妥当な場所であった。
室内にある弓道場、そこで馬暗と花札は両者互いに的を狙い、弓を構えている。弓に交差している矢が百メートル離れた的の中心へ向けられている。
「花札、弓道はやったことはあるか?」
「さあどうだろうね。私が覚えている限りでは、私は弓道をしたことはない。だけどーー」
両者同時に矢を放つ。その矢は同時に的の中心を射抜いた。
「私はこの感覚を覚えている」
「だろうね。君は私と戦ったことがある。一度だけね」
「記憶にないですね。それともロリコンですか」
「なぜそうなる!?」
馬暗はツッコミ慣れたようにつっこんだ。
「馬暗先輩、それよりもこの決闘、いつまで続けるのですか?もう三千発以上は打っていると思いますけど」
「君と俺が行っている決闘は、先に的から矢を外した方の負け。完璧性と体力が求められる。だがもうすでび三千発も打っている」
「ぞんなわけないじゃないですか。まだ三十発ですよ。もしかして、ロリコンですか」
「だからなぜそうなる!?」
再び馬暗はツッコミ慣れたようにつっこんだ。
「三十一発目、行きますよ」
やはり二人は外さない。どちらの矢も的の中心を完璧に射抜いていた。
両者は互いにこの勝負の終わりが見えない状況にあった。だがその状況こそが馬暗の望んでいるシチュエーションであり、ロケーションであった。
一秒でも長くここに足止めすれば、彼女はここにとどまり続ける。
つまり、馬暗が外さない限り、この決闘は永遠と続く。もしくは、花札が負けを認めて矢を外すか。
「このラーメンの残り汁のようにどろどろとして粘りつく感じ、やはりあなたはロリコンですね」
「だから違うって」
馬暗疾颯と花札乙女との戦いは、未だ終わりそうにない。
十器聖、戸賀狂嫁VS生徒会副会長、黒影響
かれこれ十分、彼らは話し続けていた。
「ねえねえ黒影、君って生徒会副会長の選挙で断トツで一位だったっていう噂だけど、本当かな?」
「あのメンバーなら俺が一位で当たり前だよ」
「君って自意識過剰だね」
「自意識妥当の間違いだろ。俺は過剰評価はしない。妥当な評価をするだけだ」
「そう。じゃあ私にも勝てる?」
「戸賀、お前は弱い。だからとっとと決闘の内容を言え」
黒影は戸賀と話している最中、ずっと冷静沈着であった。
戸賀がどのように仕掛けているのか、探っているようにも思えるその振るまいに、戸賀は薄ら笑いを浮かべる。
「君とは戦いたくないな」
「ではこのまま延々と話し続けるつもりか?話すという行為だけをするつもりか」
「それも良いではないか」
「良くはない。少なくとも、決闘が行われると思ってこの部屋に来た俺の行く当てのないこの期待はどうすればいい」
「そうか。君は決闘をしたかったのか。だが残念、私はそこまで優しくないものでな、だから君との決闘を引き受けはしない。そんな面倒なことをするくらいなら、私はここで君と話している方がましだ」
「なら俺はこの部屋から出るぞ」
「私が鍵を持っていたらどうする」
「ではお前は鍵を持っているのか」
「持っていない。だが君は決闘をするために来たのだろう、だったらもう少しこの部屋で待っていた方がいいのではないか」
「良い、も、悪い、も、そのどちらもこの場には存在しない。だから俺はこれ以上お前と話すつもりはない」
黒影は扉の方へと向かっていた。
「つれないな。じゃあ最後に君に教えておくよ。十器聖VS君たちとの戦い、たとえこの戦いで君たちが全員十器聖を倒したところで、文月を救うことはできない」
扉を掴んでいた手を離し、振り向いて戸賀へ問う。
「なぜ言いきれる?」
「だって結局、全知全夢を倒さない限り、鍵を手にいれたところで意味がない。鍵を手にいれたところで、君たちは全知を倒さないといけない」
「俺たちには全知を倒すことはできないと?」
「そう言っている。君たちでは全知を倒すには力不足だ。そしてそれは十器聖である我々もだ。全知はね、十器聖すらも超越している存在だ。それに唯一敵う存在であった文月は今全知に囚われている。
では改めて訊こう。君たちに全知を倒せるか?」
黒影の口は閉じたまま開かない。
「それが君の答えだ。故に黒影、君たちでは文月を救えない。諦めなよ」
「諦める……ね。俺は一応生徒会副会長だ。だから生徒会長の言った通りに俺はするよ。生徒会長に託された。文月を救えと。だからたとえ負けるとしても、まあがむしゃらに戦ってみるよ。それでも無理なら仕方ないけどな」
黒影は扉を開け、部屋を去っていく。
「全く、勝てるわけないのに。全知全夢に」




