文月を救い出せ、紅たちの恩返し②
十器聖の城へ、彼らは突撃を仕掛けた。
卓城、紅、蒼姉弟、霞ヶ崎、他にも多くの者が文月のために戦おうとしている。文月を救うために戦おうとしている。
「さあ俺たちの火花を散らそうぜ。これが虹彩学園の下克上だ」
城の前では、十器聖の青黒薔薇黒龍が百人ほどの生徒を率い、扉の前に立ち塞がっていた。
「お前ら、ここが十器聖の城だと分かっているのか」
「ああ。十器聖だからこそ、私たちはそこに行く」
霞ヶ崎小雪、彼女は竹刀を握り、青黒薔薇の前に立った。
「一代前の生徒会の会長、青黒薔薇黒龍先輩」
「よー、霞ヶ崎」
青黒薔薇は人一人分はあるほどの巨大な木製のハンマーを握り、霞ヶ崎に笑みを向けた。
「霞ヶ崎、戦おうぜ。俺たちこれまでの生徒会メンバー百人と」
「卓城、紅、蒼姉弟、ここは私たちが相手をする。だからとっとと文月を救ってこい」
霞ヶ崎は変わっていた。
そこにいたのはかつての暴走族時代の霞ヶ崎小雪だ。
「超暴走族時雨雪、先陣は三代目総長である霞ヶ崎小雪、私が承る。お前ら、びびってんじゃねーぞ。行くぞぉぉお」
霞ヶ崎は竹刀を片手に、青黒薔薇へと駆け抜けた。それに続き、時雨雪のメンバーは一斉に扉の前に立ち塞がる先代の生徒会メンバーへと突撃を仕掛けた。
「現生徒会メンバー、紅たちを護ってやれ。ここは私たちだけで十分だ」
今ここにいる時雨雪のメンバーは三十人にも満たない、それでも時雨雪のメンバーは一人も怖じ気づくことはなかった。誰もが真っ直ぐに敵へ立ち向かっている。
「これが……生徒会長!?」
「書記花札、立ち止まってんな。進むぞ」
生徒会メンバーを筆頭に、紅たちは十器聖の城へ入った。
それを確認すると、まだ戦いは始まったばかりだというのに霞ヶ崎は小さく声を出して笑った。
「どうした?頭おかしくなったのか」
巨大なハンマーを片手で振り回しながら言う青黒薔薇に、霞ヶ崎は見下ろすように視線を向けて言った。
「十器聖、お前たちは負ける」
「何を言っているかと思えば。そんなことは有り得ないんだよ。俺たち十器聖は絶対に負けねえ」
「負けるさ。だって相手は私たちだぜ」
「だから?」
「少なくとも、ここでお前は私に敗北する」
その発言の最中に笑っていた霞ヶ崎の表情は徐々に引き締まっていた。
竹刀を居合いの構えで持ち、先ほどとはうって変わって真剣な表情で青黒薔薇を見ていた。
「生徒会長霞ヶ崎小雪、私がお前を倒す。それが自ら先陣を引き受けた私の責任だ。"行動には責任を"、だから私には敗北は許されない」
「ちっ……」
「さあ始めようぜ。先代生徒会長と現生徒会長、どちらが強いかを」
「望むところだぜ。来いよ、ぶっ飛ばしてやるからよ」
青黒薔薇は巨大ハンマーを振り回す。それを霞ヶ崎は竹刀で受け止めた。
「女のくせに、そこそこ強いじゃねーか」
「ったりめえだろ。少女を舐めんなよ」
霞ヶ崎ら時雨雪が青黒薔薇たちを引き受けている間に、城に侵入した紅たち。そんな彼女らの前には十器聖の一人、梓沼計が立ち塞がっていた。
「待ってたよ」
「文月はどこだ」
「屋上、でもそこに行くためには十器聖が持っている鍵を取らなくちゃいけないんだよね。十器聖の誰か一人が屋上へ続く扉の鍵を持っている。残りは鍵を持っていない」
「ならまずはお前から」
卓城は梓沼へ走りかかる。
「まあ待て。俺たちから鍵を奪う方法はひとつ、決闘だ。それぞれの部屋に十器聖が一人いる。俺もどこかで待ってるよ」
梓沼は走ってどこかへと行ってしまった。
追いかけると、そこには部屋が三つあった。端には二階への階段がある。
真ん中にある部屋の前には梓沼が立っていた。
「それぞれの部屋に十器聖がいるよ。必ずひとつの部屋に一人だけ入ってね。二人いても余計時間がかかるだけだしね。特例として、俺から左にあるこの部屋だけは二人で入ってね。相手も二人だから。
じゃあ部屋の中でも待ってるよ。誰が来ても良いけどね」
余裕をかましている梓沼は部屋の中へと消えていく。
「さて、誰が行く?」
「左の二人専用の部屋には私たちが行く」
そう言ったのは蒼姉弟。蒼青明と蒼青太郎だ。
「なら右の部屋には俺が行く」
そう宣言したのは生徒会補佐員として当選した暁幹太だ。
「梓沼なら俺に任せろ」
卓城はそう宣言をした。
梓沼、十器聖の中でも策略には優れている。そんな彼に挑むということは危険であると卓城が最も分かっているはずだ。
「二階や三階にも十器聖の部屋があるはずだ。そこはお前たちに任せたぞ」
残るは紅と生徒会メンバー三人のみ。
「文月は絶対に救う。卓城、お前も勝てよ」
「ああ。勝つさ」
卓城、蒼姉弟、生徒会補佐員の暁幹太は扉を開き、部屋に入る。
蒼姉弟の部屋にいたのは南愛佳、南炉炉であった。
「おいおい、お前ら文月に救われたはずだろ。それがどうして敵対する?」
「たとえ恩人でも、私たちは戦う。それが十器聖としての責任だ」
生徒会補佐員の暁幹太が入った部屋にいたのは、未だ実力が未知数である十器聖、結城小袖。
彼女は未だ文月と決闘をしていない。学園にいる者も彼女の実力は誰も知らない。
「生徒会の余り物か」
「俺だって強いっすよ。戦ってから後悔しないでくださいよ」
そして、卓城が入った部屋にいたのは十器聖の中でも策略の天才ーー梓沼計。
「やはり君が来たか」
「梓沼、お前は強いよ。だから強い俺が相手をする。一応、俺も十器聖だからな」
「面白くなってきたな。じゃあ始めようか。理不尽なまでの決闘を」




