絆の証明、夕焼けの約束③
私は霞ヶ崎先輩に絶景の夜に救いの手を差し伸べられた。
感動を抱いている中、彼女は現れた。
「ねえねえ、やっぱ決闘まで待てないよ。早く勝負しようよ」
私と霞ヶ崎を邪魔するように、十器聖の一人ーー南であった。彼女は黒色の特攻服を着た大勢の兵を率いていた。
「文月京、君に会いたがっている人がいるよ」
「南、決闘は十日経ってからだ。たとえ十器聖であーー」
「ーー黙れ霞ヶ崎。俺は十器聖じゃねーよ。俺は姉貴から頼まれてお前らを連れてこいと言われただけだっつーの」
口調が悪く、気性が荒い。
確かについ先日あったばかりの南と比べれば、似ても似つかない部分が多い。
「俺は十器聖、南愛佳の弟の南炉炉だ」
「なるほど。私を連れてこいと言ったのは誰だ?」
「この学園にいる者ならば誰もが知っている人物だ。特に霞ヶ崎、文月、生徒会選挙に参加していた君たちならばよく知っている人物だよ。かつてこの学園を支配しようとし、敗北した男」
南炉炉とともに車に乗り込み、ある場所へと向かった。
車が止まった場所は、月明かりすらも薄れてしまっているような真っ暗な世界。そこに住まう者は全て首輪をつけている。
「ここは……」
「ここは暗黒街。暗黒が支配する最凶の街。ここにいるのは皆暗黒の奴隷だ」
そこにいる全ての者の目は死んでいた。
まるで屍のように歩き回り、絶望を常に抱いているようであった。
「お前ら、速く行くぞ。暗黒が会いたがってるからな」
「やはり、暗黒……」
生徒会選挙は未だに覚えている。
暗黒の策は確かに厄介なものであった。だが生徒会選挙の数日前に転校してきたから故、彼は準備があまかった。
もしもっと早く転校してきていたのなら、勝てたかは分からないほどに強い相手であった。その者が今、私を呼んでいる。
「久しぶりだね。文月」
案内された部屋には、薄気味悪い笑みを浮かべた暗黒がチェスで使われるキングの駒を手の上で回していた。
「暗黒、私に何の用だ?」
「あの日のチェスを覚えているかい?生徒会選挙中にしたチェス、私がもう少しで勝てそうだったんだけどな。まあ良いけど」
「では今回はそのチェスのリベンジマッチでもしに来たのか」
「そうはしたいが、チェスはもう飽きただろ」
「違う決闘を用意しているのか」
「ああ。今度こそ決着をつけようか。文月京。まあ、本当の君と戦える日が来るかは分からないがな」
「ん?」
何か言っていたようであったが、聞き取れなかった。
「決闘内容はチャンバラだ」
「……チャンバラ?なるほど。チャンバラごっこか」
「ごっこ、などではない。本物の刀で斬り合う真剣のチャンバラだ」
「真剣!?」
「この暗黒街では命を懸けるのは当然のことだ。驚くことではない。それともやらないというのか?それならば策はできている。巫女、奴を連れてこい」
暗黒の隣に立つ首輪をつけていない女性はその場を後にすると、すぐにその場に戻ってきた。ある人物を連れて。
「南愛佳、彼女は私の奴隷だ」
首に『1』と書かれた巫女が連れてきたのは、首輪をつけた南愛佳であった。
奴隷となった愛佳を見て、弟の炉炉は暗黒を睨み付けていた。暗黒の顔を殴りたそうに拳を握っていた。
「炉炉、彼女は私に負けたんだ。生かしてあげてるだけで感謝するんだな」
「奴隷としてだろ」
「ああ。だがこの暗黒街では序列がある。一万以上いる奴隷の中から上位十名の中に入れば良いだけの話だ」
「ちっ……」
「相変わらず弱者はそうやって願う。だが願うことよりも、戦うことをしない。願っても現状は何一つ変わらないよ」
炉炉は何も言えず、拳を握っていた。拳からは血が流れているのが見えた。
それほどまでに炉炉は悔しいのだろう。
「炉炉、お前も奴隷にーー」
「ーー暗黒、お前の相手は私だろ」
「文月さん、真剣ですよ。死にますよ」
炉炉は言った。
だが、私はもう極めたんだ。それに、誰かが傷ついている姿は見たくない。
「なあ暗黒、この決闘で勝ったら何を得られる?」
「対等な条件だ。君が提示したものと対等なものを私は君からもらおう」
「そうか。なら暗黒街にいる全ての人間の解放。奴隷から解放しろ」
「文月!?」
「文月さん!?」
霞ヶ崎先輩も炉炉も愛佳も、皆驚いていた。
暗黒も私の提示したものには動揺しているように見えた。
「一万人という数の解放か。それがどういうことか分かっているのか?」
「私が提示したものに対等なものは何だ」
「お前には奴隷として永遠に働いてもらう。お前がいれば奴隷など無限に増やせる」
「良いだろう。では始めようか。真剣での決闘を。正々堂々、戦おうぜ」
「やっぱお前は面白いよ。昔とは全く違うな。だから、今のお前と戦えることを誇りに思うよ。まあ勝つのはーー」
「「私だ」」