白熱の生徒会選挙⑤終
全員の支持率が最低まで落ち込む中、生徒会長へ新たに立候補したのはそれを引き起こしたとされる暗黒であった。
彼の登場に会場はざわついた。
全知は彼が会場へ現れたのを見ても、慌てた様子はなかった。むしろ何をするのだろうと楽しみに見ていた。
「そういうことか。お前がしようとしていたこととは」
最終日、選挙へ何の表明も発表せず、彼は現れた。
彼の目的が何なのか、全知は既に予想はできていた。それに対抗すべく、彼は一手を打っていた。ステルスメイトなどという引き分けではなく、チェックメイトをかける一手を。
「今ここにいる四人の立候補者に託すか、それともこの私に託すか。さあ君たちはどうする」
これが狙いなのだろう。
四人の立候補者には疑惑や疑念がかけられている。そんな状況下で突如現れたその男ーー暗黒。
選択が迫られる中、生徒たちは誰へ投票するだろうか。
それを分かっているからこそ、暗黒は不敵にも笑みを浮かべる。
(これで生徒会は私のものだ。全知、この学園は私がもらうぞ)
「暗黒、君へは残念なお知らせがある」
宿木は言った。
その発言に、暗黒は首を傾げる。
「残念?それはどういう……」
会場へ上がる一人の生徒、彼女を見て暗黒は悟った。
暗黒が下したこの一手に対抗する策はたったひとつ、その策とはーー
「もう一人の生徒会長立候補者、文月京」
「何!?」
冷静沈着である暗黒は、彼女の登場に動揺していた。
「暗黒、残念ながらチェックメイトをかけられたのは君の方だ。さあ選挙を始めようか。愛しき生徒会選挙へ決着をつけよう」
私を見て、暗黒は強く拳を握りしめた。相当苛立っているのだろう。
私は不敵な笑みを返した。
「では生徒会選挙生徒会長の部を始めますので、立候補者は皆着席をお願います」
私たち立候補者は椅子に座る。
暗黒、彼の策略には大きな欠点がある。それが私という存在がこの選挙へ参加するということだ。
暗黒は疑惑がかけられた四人の立候補者よりも、素性の分からない自分の方へ票が集まると思っていたのだろうーーだがそれは間違いだ。
「では立候補者の皆さん、まずは公約を述べていただきたいと思います」
君は全知の盤上の上で踊らされていただけの、ただの駒に過ぎない。今君が立っているのは盤上だ、そしてチェックメイトをかけられた。
終止符を打とうか。
この忌まわしき生徒会選挙に。
「五月蝿喜さん、ありがとうございました。続きまして、暗黒さん、お願いします」
暗黒は考えながらも、大勢の前に立った。
「えー、皆さん。私は暗黒と申す者です。今の生徒会長立候補者に生徒会を任せても良いのですか?いいえ、それは間違っている。私はこの学園に来て思った。あなた方は切羽詰まっている状態なのだと。だから私があなた方を救済する救済制度をーー」
「ーーあのー、その制度なのですけど、私も既に同じようなことをやっています」
そう言ったのは暁莉道。
中間成績では三位だった立候補者だ。
「できれば違った内容で頼みたいのですが。その公約を宣言したのは私の方が先ですし」
「そ、そうか……」
暗黒のペースは乱された。
暗黒の策にはもうひとつ弱点があった。それは後から立候補したからこそ、先に立候補した者の公約と被ってしまう恐れがある、ということ。
だが事前に下調べでもしていると思ったが、余裕をひけらかしたのだろう。勝てると思っていたのだろう。
油断、軽率、それらが暗黒を処刑台へと送る。
「時間制限です。暗黒さん、どうぞご着席ください」
無慈悲にも放たれた宿木の一言に、暗黒は信頼を得ることはできなかった。
得たのはほんの一握りの希望、暗黒は枯れたのだ。
そして私はと言うと……
ーー使命を全うさせてもらう。今の私は、騎士なのだから
「では最後に文月さん」
宿木先生、なぜあなたが霞ヶ崎小雪という人物に固執しているのか分かりません。ですが彼女と話していく内に、私は彼女のことを好きになってしまった。
確かに彼女はかつて不良であった。暴走族のメンバーだった。
けれど、彼女は優しさを持っていた。人一倍優しい心を、悪を正し正義を行おうとする強い意思を。
だから私は彼女へ託したい。
この学園を背負うに相応しい生徒会長、それは私は一人しか知らない。
十器聖ーー戸賀狂嫁との決闘などはどうでも良い。
私はただ彼女を生徒会長にしたい。だがそれをあの暗黒などという輩に邪魔をされてなるものか。
選挙とは何か、答えは得た。
霞ヶ崎小雪、私は君を女王にする。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
七月一日。
投票結果が学園のいたるところに貼り出されていた。その前を、私は静かに通りすぎる。
『新生徒会
・生徒会長、霞ヶ崎小雪
・副会長、黒影響
・書記、花札乙女
・会計、しいな菜の花
・補佐員、暁幹太』
私の仕事は終了だ。
騎士としてやれるべきことは全てやった。私はこれ以上頑張る必要はない。
私が学園内にある家へ行くと、扉の前には宿木先生が立っていた。
「どうしたんですか?」
「文月、感謝を伝えておかなくてはと思ってな」
「別に、感謝されるようなことは何もしていませんよ。私はただ騎士として、女王の傍らに居続けただけ。ですので感謝など」
「私からの感謝は受け取らなくても構わんよ。ただ霞ヶ崎から伝言を預かっている」
「手紙、ですか」
「とりあえず受け取ってくれ。見るか見ないかは別として」
「とりあえず受け取っておきます」
私は手紙を受け取ると、玄関の扉を開ける。
「ありがとな。文月」
私は無言で扉を閉めた。
感謝を言われるだなんて、やはり嬉しくなってしまうものだ。
今まで報われなかったのだ。感謝を受け取るくらいのことは許されても良いだろう。
私は霞ヶ崎の手紙を眺め、その内容を拝見した。
読み終えると、私は手紙を机にしまう。そしてカーテンを開け、窓を開ける。
「頑張れよ。生徒会長」
次回『策の激突、戸賀狂嫁VS霞ヶ崎小雪①』




