白熱の生徒会選挙③
六月十五日。
中間発表から一夜明けた日の正午、その日、五月蝿喜玲六は学園の広場にて演説をしていた。
その内容は実に薄く、風紀を整えましょうや、ポイ捨て禁止などと言った小さなことであった。実際、この学園でそのような行為はされていない。
中間発表で最下位だったのも頷ける。
次に暁莉道。
彼女に関しては目の付け所が優秀だ。
彼女は自らで命名した制度、通称『弱者救済制度』というものを公言しており、その制度の内容は成績の低い者へ、補習による不足点の加点、テスト内容をあらかじめ開示する制度などを上げている。
ここは優秀な者のみが入れるが、それが継続するわけではない。少なからず、皆成績という悪魔には脅えている。そういう面を冷静に理解しているということから、票数は恐らく二位と大差ないだろう。
次に霞ヶ崎小雪。
彼女は生徒会選挙において天才だ。
この学園に授業制度を作ろうとしている。この学園には授業がない。入れる者は優秀な者ばかりだから、後は自分で勉強しろというとだ。
しかし、この学園には明らかに授業が必要だ。テストの範囲も公表されていない、そんな状況下でどうすれば良い点を取れるだろうか。
授業制度の代わりに個別指導のようなものはあるが、それだけではテストへ何の対策もできないというのが大多数の意見だろう。
だがそんな彼女よりも上に位置する者、それは戸賀狂嫁、十器聖の一人だ。
彼女の発言全てには中身がない。だが十器聖というレッテルが貼られているためか、彼女へ感動しやすくなっている。
その証拠に、彼女は中身のない発言をしていても中間発表にて一位を取っている。確かに十器聖というレッテルのおかげでもあるが、それ以上に彼女は言葉選びが上手い。
国の指導者に向いているほどだ。
「この四人、次に落とされるのは恐らく彼女となるか」
選挙に立候補した者には選挙用の部屋が与えられる。
私が向かった場所、そこはーー
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そこは霞ヶ崎小雪に与えられた選挙用の部屋。
そこに腰かけ、書類の整理をしている霞ヶ崎小雪の前に、ノックもせずに一人の男が入ってきた。その男の手にはチェスの駒のひとつ、キングが握られている。
「君が噂の霞ヶ崎小雪かい?」
「そういうお前は、何様のつもりでこの部屋へ来た?」
「やはりあなたは懲りていないようですね」
「何のことだ?」
「とぼけないでくださいよ。あなたについてはちゃんと調べてあげたのですから。小学五年生になってからあなたは不登校となり、中学一年生であなたは暴走族の一員となり、中三で総長となった。それから数ヵ月後、あなたはこの学園へ転入してきた。さあ、その間に何があったのでしょうか」
「それ以上話せばーー」
「ーー立場を考えてください。今のあなたが私に命令できるとでも?もう少し状況を理解したらどうですか?」
「なるほど。では君の指示に従いたいところだが、肝心なのは君が私に何を望んでいるかだ。それ次第では十分に抵抗させてもらおうか」
少年は笑みを浮かべると、キングの駒を手の上で回しながら霞ヶ崎へ言った。
「あなたは現在進行形で生徒会長へ立候補している。ということで、君には生徒会長へ立候補している座から辞退してほしい」
「そういうことか。最近生徒会長立候補者が続々と辞めているのは君が原因か」
「大正解。で、答えは?」
「私が生徒会長に立候補したのは権力が欲しいからではない。かつての友との約束を果たすためだ。だからその要求については呑めないな」
霞ヶ崎は断った。
それに、少年はさほど動揺しているようではなかった。むしろ断ると理解しているようだった。
「仕方がないですね。決闘で決着をつけましょう。ここで私が勝てば、あなたには生徒会長の座から降りていただく。さあ、チェックメイト、敗北を刻んであげよう」
少年が霞ヶ崎へキングの駒を向けた。
だがその時、扉は開き、もう一人、その場へ新たな人物が介入することとなる。
「いいや。チェックメイトをかけられたのはあなたの方です」
「誰でしょうか……って、あなたでしたか。文月京」
私の名前を知っていたこの少年へ、私は疑問を抱く。
確かに私は十器聖を何人か倒し、有名にはなっている。だがそれはあくまでも噂としてであり、表向きには証拠はない偽りだ。それに誰が十器聖を倒したのか、名前も明かされていないはず。
「どこかでお会いしましたっけ」
「ゴリラの仮面、これで私が誰だか分かるだろ」
少年のもう一方の手にはゴリラの顔の仮面が握られている。それを見て、私は思い出した。
つい先日、紅を誘拐してチェスを挑ませた者の一人。
「ああ。罪人か」
「文月、私はチェスに関しては未経験だ。ルールなどひとつも知らないから、ルールブックの目次すらも何が書いているのか分からない。この決闘の代理人を頼めるか?」
「良いでしょう。今の私は騎士、戦いは全て私に任せてください。霞ヶ崎様」
私が守るべきは霞ヶ崎小雪、彼女だ。
宿木先生より託された使命とは、霞ヶ崎小雪を生徒会長にさせること。
その障壁となるのなら、誰であろうと私が倒す。
「さあ決闘を始めよう」