白熱の生徒会選挙②
生徒会長へ立候補していた者の内、また一人が生徒会長から辞退した。その事実に、生徒会選挙に何者かの陰謀が渦巻いているのを宿木や全知らは確信していた。そして文月も。
「ねえ文月、生徒会選挙、誰に投票するつもりなの?」
「今のところは誰にも投票する価値はない。誰が生徒会長になればこの学園に得があるのか、私たちに得があるのか、分からないからな」
私はふとカレンダーへと目を向ける。
「今日は六月十四日だったか」
「そういえば今日は中間発表が公表される日だよね。中間発表ならさっき貼り出されてたよ」
「では見に行こうか」
さあて、私の計画通りに進んでいるかな。
貼り出されていた中間結果を見て、私は笑みを浮かべる。
ーー全て、計算通りだ。
『一位、戸賀狂嫁
二位、霞ヶ崎小雪
三位、暁莉道
四位、五月蝿喜玲六』
票数が公表されていないのは残念だが、生徒数も少ない。予測すれば読み間違えることはそこまでないだろうな。
だが三名になったタイミングで、十器聖の一人、戸賀が立候補してきたのは予想できなかった。まあ途中で立候補すれば票数を獲得するのは難しい。しかし彼女は三日前に立候補し、票数を見事に獲得し、一位か。面白いな。
だが生徒会選挙は六月三十日まで。まだ時間はあるか。
「文月、何考えているの?」
「別になんでもない、ただの他愛もない話、愛無話さ」
「愛無話?」
「他愛もない、つまり取るに足らない、そんな話。略して無愛話」
「ふーん。なんか言葉って難しいね」
「自分で作った言葉だ、覚えないでくれると助かる。中二病時代に書いてしまった黒歴史ノートのように、後々恥ずかしくなるだろうから。
とはいえ言葉というものは難しい。だが人は理解しているふりをする生き物だ。だからこそ、言葉を上手く使えば意のままに人の心を操れる」
「操るって、少し恐いよ」
「言い方が悪かったな。言い換えるのなら、人を魅了できる。それはこの生徒会選挙において、最も重要な手札となる。それがなければ、この生徒会選挙に勝つことはできない。それも、生徒会長へ立候補するのならば」
「ねえ、なんで文月はそこまで……」
言い欠けた言葉を、彼女は飲み込んだ。
私はその言葉の続きが気になりつつも、訊くことはしなかった。きっとその続きにそれほど深い意味はなかっただろうから。
「文月、頑張ってね」
「ああ」
当たり前だ。
この生徒会選挙、私はある人物を生徒会長へしなくてはいけない。それが彼女との"決闘"だからな。
問題はここからだ。
この先の策は十分に用意してあったが、戸賀という人物の登場で幾つかの策が無意味と化した。さすがは十器聖といったところか。だがまだ緩いな。
今の彼女ならば、十分につけ入る隙はある。あとは彼女をどうやって生徒会長にさせるかだ。
考えていると、私の携帯の着信音が鳴る。
「すまんな紅、少し待っててくれ」
「うん」
私は人気のない場所へ行き、電話に出た。
「どうしましたか?宿木先生」
「一つ有益な情報を手にいれたぞ。生徒会長の座から辞退した者の一人から聞き出したのだが、脅迫されていたようだ」
「脅迫?誰に?どのように?」
「誰かまでは教えてくれなかった。脅迫材料も明確には教えてくれなかったが、人質を取られていたらしい」
「人質……」
どこかで聞き覚えがあるな。
まさか奴らか……いや、この学園にどうやって入れた?この学園には入学試験で満点を取った者しか入れないはずだ。
ーーまさか、満点を……。
「実際のところは分からない。ある者はそう言っていたが、他の者は決闘で負けたとも言っている。この生徒会選挙、一筋縄ではいかないかもな」
「随分と頭の良い人物ですね。だが、そう簡単に負けはしません。まだこちらには奥の手が残っていますから」
「奥の手だけは使ってほしくはないが、最終手段としては有効だ。ひとまず彼女へ接触する者を極力減らそう。でなければ、彼女が辞退するということにもなりかねませんし」
「ええ。もし決闘になったのなら、すぐに私を呼んでください。代打として出ますので」
「では引き続き任せたぞ」
「こちらこそ」
電話は切れた。
ひとまず、戦況に変化はなし。ただこの選挙を混乱させている者の正体は未だ掴めぬままだ。
では、こちらからも仕掛けるとしようか。
防御だけでは戦略が意味を成さない。時として攻めが重要だ。その一手が敵にとって致命的であればあるほどに、彼らに大きな一手を打てる。
私はその策を開始するため、ある場所へ向かう。
その頃、紅は……
「文月、まだかな」




