咲き誇る紅の思い、天才VS優等生⑦終
「では決闘を始める。両者、位置につけ」
決闘が始まる。
現在、競泳界でも屈指の実力を持つ蒼青明、
かつて競泳界の天才と呼ばれていた紅橙霞、
二人の戦いが始まる。
二人は今にもプールへ飛び込もうと構えている。紅の体にはまだかつての記憶が残されている。
競泳時の記憶がまだ、その体には残っている。
「バカ紅、久しぶりだね。こうやって戦うの」
「本当は全盛期の頃に戦いたかったけど、そういうわけにもいかないし」
「まさか負けた時の言い訳をしているんじゃないよな」
「まさか、勝つのは私だよ」
紅は自信満々に言ってみせた。
「あまり舐めないでくれ。今まで競泳をやってきた私がバカ紅に負けると思うか?」
「勝ったら?」
「私に勝ったら処刑、負けても処刑だ」
「どっちにしろ処刑じゃないか」
そう言い、紅は笑みを浮かべ、深呼吸をする。
その顔は以前蒼から逃げていた頃とは全く別のものであり、向き合った紅だからこそ彼女は真っ直ぐに前を見た。
「位置について、よーい」
紅と蒼は構えた。
決闘が始まる、その寸前まで、、、
二人の決闘は、今幕を開けるーー
「ーードン」
その声とともに紅と蒼は一斉に飛び込んだ。両者ほぼ同時に飛び込み、飛び込んだ瞬間だけではどちらが速いかは不明。
刹那の攻防が繰り広げられ、どちらも勝利を譲らない。激しく水しぶきが舞い、激しい闘志がぶつかり合う。
ーー約五十秒
その攻防の末、勝利したのはーー
どちらもほぼ同時に壁に手をつけたため、私からではどちらが勝利したのかは不明。だが二人はどっちが勝ったのかは分かっている様子だった。
二人だけではない。審判を努めていた歌舞伎も理解していた。
「勝者は、蒼青明」
どうやら紅は負けたらしい。
だが落ち込んでいる様子はなく、むしろ過去の因縁に決着をつけられてすっきりしている様子だった。
「どうだバカ紅。私、強くなっただろ」
「ええ。あなたにはかないませんね。先輩」
「なあ、私は私の実力でお前を越えたかった。なのにバカ紅は自分から競泳界から去った。正直その時は腹が立っていたのだろう。だから私は毎年ここの水泳大会に参加し、バカ紅を待っていた。それでもバカ紅は現れず、結局私から行くことになるとはな」
「はい……。毎年先輩の姿を見させてもらっていましたよ。あなたの背中は真っ直ぐで力強く、格好の良い競泳選手だと思いました」
「やはり見ていたのか」
「正直先輩を見ていた時はずっと戦いたくて仕方がなかったのです。でもやっぱり、都合良く勇気は得られないんですよね……」
「もう済んだことだ。気にしていないと言えば嘘になるが、気にしようとしていない、だな。きっとこの苦労は忘れてしまって、記憶の片隅に無数に存在する思い出せそうで思い出せない記憶になってしまうのだろうな」
「ええ。そうかもですね……」
「それでも私は何度でも紅と勝負を挑むよ。負けても勝っても、私は紅へ戦いを挑む。だからその時は、また戦おうな」
「はい。是非とも」
二人は互いの拳と拳をぶつけ合った。
「またな。紅」
蒼はどこかへと去っていく。
紅はしばらくプールサイドに座り込み、水面を眺めていた。
「競泳、負けちゃったな。私の得意分野だったはずなんだけどな……。これで良かったのかな。きっと良かった、だって私の心は、こんなにも晴れているのだから」
彼女の心を覆っていた暗雲は晴れた。今の彼女の心は清々しいまでに美しく、輝かしい光が照らしている。
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それら一連の決闘を、陰から一人の女性が見ていた。
彼女は先ほど紅に戦いを申し込んだ木栖美入中琥。彼女はその決闘を目の当たりにし、自分では力不足だと感じ、その足を紅とは逆の方向へと進めた。
だがその行く手には、歌舞伎祭が壁に背をつけてたたずんでいた。
「木栖美入、決闘は?」
「紅には勝てそうにないしね。それに考えてみれば、文月と戦う理由もない。正直、全知全夢の言うことにひとつひとつ従うのも面倒だしさ。今回は私は脇役で構わない」
「脇役か。お前らしくないな」
「良いんだよ。そういう日が一日くらいあっても。それに私はまだまだだ。だからこれから自主練をしようと思ってネ♡」
「そうか。それならば仕方がないな。お前の戦いを拝見するのは、まだ後になりそうだ」
「その時は、sexyな戦いを見せてあげますよ」
「それはありがたい。楽しみにしているぞ」
歌舞伎が去ったのを確認すると、木栖美入は自主練をするために誰も使っていないプールへと向かう。
熱い戦いを繰り広げた二人に熱を打たれて。




