流鏑馬!起死回生の一矢④
一晩で馬を乗りこなせるようになった私は、次は弓術の練習へ励む。
弓術、これも馬術と同様に初体験ではあるものの、コツなら練習してから一時間で掴んだ。
弦をひく際、少しでもひく方向が歪んでしまえば、その影響は矢の飛距離だけ命中率に大きく反映される。つまり弓道とは、そこに立った瞬間から一矢は始まっている。
私は弓道の練習へ時間も忘れ、励んでいた。
既に千発は射っただろうか、それほどまでに矢が的のあちこちには刺さっている。最初から全て的に当てること自体、相当難しい。
だが失敗していく中で、徐々に私はコツを掴みつつあった。
馬暗、負けるわけにはいかないのだ。
私は敗北という文字が胸に刻まれるのが大嫌いだからな。白旗は燃やしてしまえ。私に必要なのは黒星のみ。
そんな彼女の練習風景を、窓越しに一人の女性が目を光らせていた。
(文月京。今年の入試のレベルは最難関と呼ばれる鬼問題を多く選出した。というのに、全教科満点。しかも今年の受験生は昨年に比べて10%多い百十二人。昨年は四人ほどが入学したのに比べ、今年は彼女のみ。
それもそのはず、今年の入試は昨年の十倍難しい。それを全問正解で入学。その上、十器聖の一人である卓上を倒し、今は馬暗に挑もうとしている。
これほどの逸材が、よくもまあこれまで何の功績も残さず、小学校の成績ではいたって平均的な3を連続して取ってこの学園に入れたものだ。
能ある鷹は爪を隠すというが、彼女にこそその言葉は相応しい。いや、それともーー)
「ーー宿木先生も見学ですか」
そう言って彼女の隣で文月を見学し始めたのは、彼女に敗北した卓城であった。
「卓城。お前も見学か」
「はい。彼女が馬暗を倒せるのか、気になっていますから」
「そうか」
そう一息つくと、宿木は卓城を横目に見ながら呟いた。
「なあ卓城、なぜ君は彼女に敗れた?普通に戦っていれば勝てたのではないか?」
「そうかもしれませんね。ですがどうであれ、俺の独壇場であったにも関わらず、負けたのです。恐らく普通に戦っていたとしても、彼女に勝てたかなんて分かりません」
「それほどまでの相手だったか。文月という者は」
「ええ。俺なんかでは到底及ばないレベルの超人。いえ、努力家と言った方が良いでしょう。人一倍観察力がある彼女だからこそそれぞれの競技のコツを掴める」
「文月なら馬暗に勝てると思うか?」
「今回は勝負内容が明らかに馬暗に有利にできている。もしこの決闘で彼女が勝ったとしたら、俺はこう思うでしょう。彼女の中には万人が潜んでいると」
「答えは?」
「勝つのは必ず、文月です」
確固たる自信を掲げ、卓城は宿木へそう真っ直ぐに告げた。
「なるほど。それが君の答えか」
「宿木先生はどちらが勝つと?」
「普通ならば、経験の浅い文月が馬暗へ勝つことはない。彼は自称、敗北や失敗を経験せず、ここまで上ってきたらしい。もしそれが本当なのだとしたら、文月が勝つことができるのはもはやひとつ、心、それがどれだけ強いかに限る」
「心、ですか」
「ああ。心だ。私が見ている限りでは、もう十時間は練習している」
「十時間も……。今は昼の十二時ですよ。ということは昨日の馬探しから一睡もせずに弓道の練習を……」
卓城は文月へ驚きながら視線を向ける。
一睡もしていないにも関わらず、彼女の命中精度は徐々に上がっていっている。
集中力、などでその域に達するはずもない。尋常な精神力をもっていたところで、これほどまでの命中精度を保ち、常に向上し続けられるはずもない。
彼女の中には万人が潜んでいる。卓城は確信した。
「ところで宿木先生、あなたは寝なくて良いのですか?」
「夜勤明けにコーヒーを飲んだら寝れなくなってな。もうしばらく見ているよ」
宿木は目の下にくまをつくりながらも、文月の練習へ見入っていた。
「ところで卓城、君も勉強をしなくて大丈夫か?前回の不定期試験、時間ギリギリだったらしいじゃないか」
「俺も生憎徹夜明けにコーヒー飲んだら寝れなくなったんですよ」
「十器聖ならもっとまともな嘘をつけ」
「あなたの方こそ」
そう会話を交わすと、二人はそっと文月の練習へ視線を戻した。
一発一発に集中し、彼女は的を狙う。その一発は、この上ないほどに完璧に、そして誰が見ても真ん中に刺さったというほどに美しく中心を貫いた。
「あと八日。楽しみだね。決闘の日が」




