流鏑馬!起死回生の一矢③
馬探し。
といってもあまり馬の知識は豊富な方ではない。だからといって卓城や紅に聞いたところで、二人が分かるかどうか。
馬探しに時間をかけている場合ではない。まだやったことのない弓術、それを極めない限りは流鏑馬など到底できない。
(さあ文月、君はどの馬を選ぶ?)
卓城は楽しみで仕方がならないのか、期待の眼差しを私へと向けていた。それに気付かないほどに集中していた私は、何十匹もいる馬を眺めていた。
ある馬は足は太く、ある馬はたてがみが長い。
そういえばテレビで聞いたことがある。良い馬は……思い出せない。一度帰って調べることもできるが、今日中に選んで馬を乗りこなせるようにならないと、流鏑馬の練習ができなくなる。
どうすれば……。
悩む私のもとへ、白い毛の美しい馬が私のもとへ歩み寄ってきた。その馬は私の手元まで頭を下げた。
撫でてほしい、ということなのだろうか。
その真意は分からずとも、私はその馬の頭を撫でた。
「そうか。なあ卓城、私、この馬が良い」
「理由は?」
「なんとなく。それ以外に理由がいるか」
「いえ。ですがその子を選びましたか。なかなか、面白いことになりそうですね」
卓城は何かを知っているように不適な笑みを見せた。
「この子の名は?」
「ユニクォーン。ある人物がそう名付け、そして捨てられた馬だ」
「そうか。お前は捨てられたんだな」
馬は小さく鳴いて答えた。
「だが大丈夫。私が君を一流の馬にしてみせるから。私を背中に乗せてくれないか?」
ユニクォーンは前足を振り上げ、私へと視線を移した。ユニクォーンには既に手綱などがつけられており、私は馬の背中に乗り、手綱を掴む。
初めて馬の背中に乗った感想は、とにかく怖い。
もしかしたら落ちてしまうのではないか、だが一度馬を走らせてみればその感想はすぐに消えた。意外にも簡単だった。バランス能力は昔から高い方だった。
それに何といっても、ユニクォーンが私と息がピッタリであり、上手く乗れるのだ。
「ユニクォーン。お前を相棒にして良かったよ」
それに答えるように、ユニクォーンは一回小さく鳴いた。
何と言っているのかは分からないが、喜んでくれているらしい。
そういえば卓城がいないが、どこへ行ったのだろうか。
紅へ聞いてみたが、分からないらしい。
その内帰ってくるだろう、そう思いながら私は馬を走らせる。
その頃、卓城は馬を放牧している広場にあるカフェの中に座り、馬暗とともに文月を見ていた。
卓城はココアを飲み、馬暗はカフェラテを飲んでいる。
「卓城。あの女子、素人のわりになかなかやるじゃないか」
「油断していると負けるぞ」
「お前のようにか」
「ああ」
「大丈夫だって。そもそも流鏑馬っていうのは、十日そこらじゃそこまで上達することのない武術なんだぜ。それを本気でやれると思っている。あり得ぬ」
必死に練習する文月を嘲笑しながら、馬暗はカフェラテを口に含む。
「そんなことないんじゃないのか?才能があったりする者や、例えば空間把握能力なんかがある者なら矢を引く強さや角度を考え、正確に中心を射ぬけると思うが」
「理論上は可能でも、それを現実にすることができるわけない。あの女子が君へ勝ったのだってまぐれかもしれないだろ」
「あれはまぐれじゃない。戦った俺だからこそはっきりと分かった」
「ふーん。それで」
「文月にはコツを掴む才能がある。それ故、流鏑馬のコツすらもすぐに習得するだろう」
「君は本気で言っているのかい?だとしたら卓城、お前、十器聖によく選ばれたね」
馬暗は手を組み、卓城を威圧するようにして言う。
「かつての武士は馬に乗り、戦場で、矢が飛び交う中を勇敢にも進み続けた。ある者は天下を取り、またある者は三日天下と呼ばれ、歴史の波に飲まれた。
流鏑馬はな、いわば先人たちが戦場で培ってきた神聖な武術なんだよ。それを十日で習得しようだなど、傲慢にも程がある。
この決闘を受けるとは思っていなかったが、あの女子はそれを受けた。それだけでも十分に傲慢であるというのに、俺に勝とうとしている。それだけで十分我々へ対する侮辱へ値する。あの程度の女子にーー」
「ーー馬暗。それ以上はやめておけ。あいつはあいつなりに頑張ってるんだ」
ヒートアップしてきたところで話を遮られ、馬暗は冷たい視線を卓城へ送る。
「面白くなくなったな。お前も」
舌打ちをし、馬暗はまだ残っているカフェラテへ口をつけることはなく、立ち上がった。
「十日後、お前の仇は討ってやるよ」
そう言い残し、馬暗はカフェを後にする。
卓城は文月を見つめ、文月をかばうような発言をした自分自身に違和感を抱いていた。
「俺は何故あいつをかばった。別に味方でもないあいつのことを……」
文月、彼女が卓城の中で大きな存在へなっていることに、まだ彼は気付かない。




