流鏑馬!起死回生の一矢②
時計を見れば午後三時。
私と紅は勉強の手を休め、疲れていた体を刺激するために伸びをする。
体の一部にアドレナリンが分泌されているのを感じる。それが神経に快感を与えている。
「ここにいたんだね。文月」
聞き覚えのある声に、私は振り返る。
やはりそこには十器聖の一人ーー卓城晃太郎がいた。
「決闘か?」
「察しが良いね。これ、ある人物から手紙を受け取っているんだ」
「十器聖か?」
「ああ。それも今回の相手は少しクセが強くてね、馬術の天才であり、弓道の大会では百発百中、全てど真ん中に当てて優勝した実績もある」
「十器聖と呼ばれるだけはあるな」
「彼の名は馬暗疾風。彼が君へ挑む挑戦は察しがついただろ」
卓城晃太郎。
彼の得意文弥は卓球だ。そして彼が私へ勝負を挑んだ競技は卓球。
馬暗疾風。
彼の得意文弥は馬術と弓術。
前例の卓城から考察するに、馬暗は自身の得意種目で私に勝負を挑んでくる可能性が高い。
では馬術と弓術のどちらか?いや、答えはもっと簡単。
「なるほど。馬術と弓術を複合させた武術、流鏑馬か」
「正解」
「で、日付はいつだ?」
「それは分からない。多分手紙に書いていると思うよ。決闘の内容がこと細かく。それも尋常じゃないくらいね」
「?」
疑問を抱いたものの、その謎は手紙を見れば分かるだろうと、そんな気安い感情で封筒を開け、中に入っている四段折りにされた手紙を開き、中に書かれている内容を拝見した。それを見た途端、頭が痛くなる。
そこには一行も開けることなく、びっしりと文字で埋め尽くされた三十行にも渡る文であったからだ。
縦三十文字、横五十文字に及び、計千五百文字の内容の手紙。
どこの時代の謝罪文だ。今の時代でもこんな量の謝罪文はあり得ないだろ。
「確かにこれは、尋常じゃないね」
さすがに読む気が失せる内容ではあったものの、その一文字一文字に焦点を当て、読み進める。読み終えたと同時、疲労が込み上げてきたが、そんなのは慣れっこだ。
文を読み終え、今の内容を頭の中で整理することにした。
内容を要約するならば、五月十日、正午、その日に流鏑馬場で決闘を行おうというものだ。
決闘内容は流鏑馬、お互い一発ずつ撃ち合い、的の中心から先に外した方が負け。
「ねえねえ卓城。馬暗……だっけ。この男、随分とやらしいことしてくれるじゃないか」
「負けるのか?」
「私は敗北が大嫌いだ。だからこの決闘、負けはしない」
またしばらく、勉強はお預けだ。
すまないな、記憶の書庫よ。今はまだ、勉強する時ではないようだ。
「卓城。流鏑馬場というのはどこにある?」
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卓城に案内され、私と紅は流鏑馬場へ来ていた。
そこは屋外、森の中に真っ直ぐとした一本の土の道がある。その道を歩いて左右を見てみると、そのどちらにも的が幾つも木から下げられている。
相変わらずこの学園には何でも揃っているようだ。
「流鏑馬には馬と弓が必要だ。それに関しては卓城に聞けと書いてあったが、どこにある?」
「ではこちらに来てください。これからあなたの相棒となる馬を探してもらいますので」
そう言われ案内されたのは何匹もの馬が放し飼いされている広場。
「この中から探せと?」
「ああ。これから十日間、君の相棒となる馬をこの中から探してくれ。そしてその馬とともに是非とも馬暗を倒してくれ」
「十器聖の仲間だろ。なぜ私の味方を?」
「理由はない。ただ俺は、君に興味が湧いたのさ。絶望的状況下で尚自分自身を追い込む君の姿はカッコいい様であった。そもそも十器聖とは皆仲間というわけではない。ただ皆優秀であると、そういうくくりにされているだけ。
それに君は俺を倒したんだ。もし馬暗が勝てば、俺だけ弱かった、十器聖最弱などと言われかねない。それは嫌だからさ」
「君も意外と世間体を気にするのだな」
「当たり前さ。嫌われる勇気は、今の俺は持ち合わせていないから」
「そうか。勇気がないか」
「その言い方、ちょっとムカつく」
「良いだろ。事実なんだし」
「事実だけども、」
「二人とも。早く馬探し始めよ」
私と卓城の会話を見ていた紅は、私の顔を真っ直ぐに見ながら頬を膨らませてそう言った。
確かに少し話しすぎた。時間は必ずしも無限ではない。常に有限だ。
「そうだな。探すとするか。これから私の相棒となる、最高の馬を」




